農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JA米事業改革の現場から06年版(5)

生産基準の統一化で「JA米」をグレードアップ

現地レポート JAいしのまき(宮城県)


 JAグループの米穀事業は「販売を起点にした生産」をめざしてさまざまな改革を実践してきた。「JA米」の生産、販売はその基盤となる取り組みだが、実需者からの評価をさらに高めるため、生産基準の統一化や高食味生産など水準の高い米づくりも求められている。宮城県のJAいしのまきでは、生産者にこうした生産基準の統一化への理解を進め、「JAいしのまきのJA米」へとグレードアップする取り組みを進めている。

管内にはカントリーエレベーターが3機ある。稼働率は全国有数で、大量で均質な米の製造・販売拠点となっている
管内にはカントリーエレベーターが3機ある。
稼働率は全国有数で、大量で均質な米の製造・販売拠点となっている

「種籾温湯処理センター」で種子の一元供給と環境保全米づくり目指す

◆需要に応じた作付けへ誘導

宮城県 JAいしのまき

 JAいしのまきは石巻地方の1市9町の10JAが平成13年に合併して誕生した。管内は宮城県の北東部地域で平坦な水田が広がる県内有数の穀倉地帯である。
 水田面積1万2000haのうちおよそ8700haが米作付け面積となっている。主力品種は「ひとめぼれ」と「ササニシキ」で、なかでもササニシキは1JAの生産量としては全国一を誇る。
 この2品種を柱に、最近では需要に応じた売れる米づくりを目指し適地適品種への作付け誘導を進めている。
 作付け誘導は17年産から取り組んでおり、JAの計画ではササニシキは従来どおり3000haの作付け面積を維持、ひとめぼれはやや生産抑制して5000ha前後とし、新たに「まなむすめ」の500ha作付けを目標にしている。
 ササニシキは全国一の生産量を維持する計画だが、作付け地域は内陸部へとシフトさせていく方針だ。東北の太平洋側沿岸部は、ヤマセが襲い冷害を受けやすい。冷害に弱いササニシキの安定生産には必ずしも適地ではないとの判断に加え、今後求められる一層の食味向上が実現できる土壌条件などからも、内陸部での生産へと誘導することにした。
 一方、沿岸部で新たに作付けするまなむすめは、多収量で冷害やいもち病にも強いという特性があり、大粒で食味はひとめぼれに準じるとの評価を受けている。こうした地帯別、品種別の作付け誘導は、品種固有の特性を生かした米づくり構造へと地域農業を転換させていくことでもある。
 18年産米のJAの集荷、販売計画ではこの主力3品種を中心に合計で約56万俵(1俵60kg)となっている。

CEからの出荷を待つフレコン
CEからの出荷を待つフレコン

◆「JA米生産資材リスト」を生産者に提示

営農経済部米穀課 酒井秀悦課長
営農経済部米穀課
酒井秀悦課長

 宮城県では県全体で平成15年から「生産履歴記帳運動」に取り組んだ。そのうえで16年産米から全国的にスタートしたJA米への取り組みを進めてきた。
 16年産では銘柄が確認された更新種子の供給量が不足したことから、一部であらかじめ一般米扱いとせざるを得なかったが、17年産からは銘柄が確認できた種子は全生産者に供給することができた。その結果、JA米の要件をクリアした米は99.7%となった。一般米となったのは栽培履歴記帳に不備があったごく一部の出荷者の米にとどまった。15年産から取り組んだ「安全・安心」な米づくりへの必要性が生産者に広く浸透した成果が現れた。
 ところが、18年産米ではJA米の比率が98.6%とごくわずかだが前年より低下した。これには理由がある。同JAでは18年産からはJA米のグレードアップを目指して、種子更新率100%に加えて生産資材の統一化を図ったためである。
 具体的には使用する農薬や肥料について、一定の選択幅は持たせるものの、指定されたリストにある生産資材から選択することをJA米の要件としたのである。
 営農経済部米穀課の酒井秀悦課長は「『JA米は生産基準が統一されている』を目標にしたい。この地域のJA米は、この生産資材を使って栽培されたという生産の中身まで示すことがより安全性のPRにつながると考えています」と語る。
 米の出荷者は約8000名にものぼり、地域による自然条件の差もあることから、リスト化した生産資材には幅を持たせて生産者が取り組みやすいようにしてスタートしたが、段階を踏んで絞り込んでいく方針だ。18年産はこの取り組みの初年度だったため、一部は生産資材面でJA米基準を満たさず17年産にくらべてJA米の比率が低下したのだという。
 すでに19年産の米づくりに向けてJAは生産者に説明パンフレットを配付しているが、JA米として扱われる要件として「JA米生産資材リスト」に掲載された肥料・農薬を使った栽培であることも説明し理解を求めている。もっともリストに掲載されていない肥料・農薬の在庫がある場合は、在庫肥料・農薬使用計画書をJAに提出することでJA米として扱う。
 生産資材の統一化については、実需者からより高い信頼を得るための「JAいしのまきのJA米」づくりであることを管内200か所で開かれた座談会や生産部会会合で理解を求めた。生産者からは、資材の統一化がコスト低減につながるようなJAの取り組みを求める声とともに、個々の生産者それぞれの考えでの米生産では「売れる米づくりはなかなか実現しない」という意見も出されて理解が進んだという。

◆種子の管理にも責任を持つ

種籾温湯処理センターの内部
種籾温湯処理センターの内部

 JA米の要件のひとつ、「銘柄確認された種子による生産」は「JAいしのまき 種籾温湯処理センター」からの一元的な供給で実現している。
 同JAでは16年度から試験的に種子の温湯消毒に取り組み、発芽、生育にも問題がないことから18年産から全面的に温湯消毒に切り替える方針を生産者に示し、JAとしてプラント建設を進めることを決めた。
 17年産はメーカーから機械を借り入れて特別栽培米分の種子温湯消毒を実施するなどの取り組みを経て、18年1月に処理センターが完成、18年産からの全面切り替えを実現した。
 処理センターにある温湯消毒機は10機。2月中旬から3月中旬までの20日間ほどで380トンの種子を温湯消毒できる。面積にして約9000ha分と管内の水稲作付け面積をカバーできる処理量だ。
 種子の温湯消毒処理はより安全・安心な米づくりのための取り組みで、この処理によって慣行栽培にくらべて農薬成分を3成分削減することができる。
 そのため、温湯消毒した種子を供給すれば、生協などと栽培方法を合意して契約栽培する特別栽培米づくりや、産地全体としての減農薬・減化学肥料栽培への取り組みも推進しやすくなる。
 また、JAが処理センターを設置して一元的に種子を供給することでJA米の要件のひとつ種子更新100%を実現することにもつながっているのである。
 さらに注目されるのが、生産者に配送された種子は、温湯消毒した日時、処理中の水温変化、処理した機械番号などのデータが記録されており、いわば種籾の履歴も把握できるようになっていることだ。たとえば複数の生産者が同じ履歴の種子で育苗した場合に、かりにどの生産者にも共通のトラブルが発生したとすれば、種子の処理に何らかの問題があったのではないかと原因を検討することもできる。JAが責任を持って種子を供給するという体制も作り上げたといえる。
 また、育苗期間中には、集落単位で生産者とJA職員で育苗検討会を開催、品質の高いJA米の安定生産を目指した技術交流に取り組んでいるが、こうした機会も異品種混入などがないかどうかの点検の場としている。さらに田植え後は営農経済渉外員がほ場を巡回して異品種混入についてもチェックすることにしている。

◆担当者全員で集中チェック

検査証明とともにJA米のシールが貼られる
検査証明とともにJA米のシールが貼られる

 栽培履歴記録簿の点検は、18年産からはJA本店に営農担当者と営農経済渉外員が全員集合して集中的に点検する体制とした。
 1回めは除草剤やいもち病防除剤の散布後の6月末。2回めは刈り取り直前の8月下旬から9月上旬に実施する。本店の会議室に担当者22〜24人が集まり1週間で7900枚の記録簿を点検する。担当者は2班に分かれて相互にチェックすることで万全を期している。
 記録簿に疑問点や不備があればその場から生産者に電話で確認。期間中に確認できなければ担当者が点検期間後に訪問する。集中的な点検体制によって、職員には担当以外の地域の栽培法も知るというメリットもあるという。
 酒井課長は「担当者が日常業務をこなしながら点検するのでは結局時間がかかることが分かった。販売と同時に栽培履歴が開示されることが信頼を高めるうえで大切」と話す。
 JA全農宮城県本部のホームページではJA米として出荷した生産者の栽培履歴記録簿が掲載されているが、迅速な点検体制をとることによって新米の出荷時にはすみやかに生産情報の開示ができるようになった。
 もちろん出荷に際しては、最終的な品質検査も欠かさない。JAグループ宮城はJA米として出荷できるものは、DNA鑑定によって品種が確認され、残留農薬検査も実施されたものという条件をつけてきた。
 これらの検査は県本部が実施するが、同JAではほ場での生育状態や生産者からの申し出があった場合など、必要性が認められるケースにはDNA鑑定と残留農薬検査を独自に実施することにしている。その経費や高品質生産、作付け誘導対策経費などをまかなうため生産者からも一定額の拠出をしてもらい「売れる米づくり推進基金」も設けている。

◆機動力を発揮できる米産地へ

石巻市ゆかりの石ノ森章太郎作の人気アニメキャラクターを使った100%JAいしのまき産米を管内の直売所などで販売している
石巻市ゆかりの石ノ森章太郎作の人気アニメキャラクターを使った100%JAいしのまき産米を管内の直売所などで販売している

 同JAではササニシキの特別栽培米で生協との契約栽培が定着しているが、酒井課長によると今後はこれら特栽米の生産拡大と、JA米要件としている使用生産資材基準の一層の絞り込みが目標だという。
 また、稲作の中核的な担い手約540人で構成する稲作部会や、法人、集落営農組織などと連携して需要変化に応じられる生産体制づくりも課題だという。需給情勢によっては、求められる銘柄や品質が大きく変化することも考えられる。たとえば新品種だけなく、水分やタンパク含量指定など細かいニーズが求められることも考えられることから、中核的な担い手組織にそうした新たな生産へのチャレンジを働きかけていく方針。そこを起爆剤として地域全体に浸透させていく。
 「米産地として機動力を備えることもテーマ」と酒井課長は話している。

(2007.3.28)


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