農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JA米事業改革の現場から07年度版(1)

基本技術への取り組みで実需者にJA米をアピール
現地レポート JA鹿本(熊本県)


 JAグループ米穀事業改革の柱である「JA米」の取り組みは19年産で4年目を迎える。今年度の課題のひとつがJA米の精米販売の拡大だ。そのためにはより一層の品質向上に向け、生産履歴記帳と点検などに生産者とJAが一体となって取り組みを進めることが大切になる。今回は県産米ブランド「森のくまさん」を核に系統を通じて販売拡大を進めてきたJA鹿本を訪ねた。
 生協など実需者のニーズに応える米づくりを進めるなか、JA米の基本要件に上乗せした特別栽培米の生産量が増えているほか、新年度からスタートする農地・水・環境保全向上対策に合わせ、集落単位での先進的な営農活動への取り組みをも今後の米づくりのステップアップのきっかけにしようとしている。

集落営農の組織化で環境保全型米づくりも進む

◆「出どころのはっきした米」を

JA鹿本 地図

 熊本県北部のJA鹿本管内は、南部の準平坦地域(山鹿市、鹿本町、鹿央町、植木町)と北部の中山間地域(鹿北町、菊鹿町)に大きく分けられる。
 南部地域は日本有数のスイカ、メロンの産地として知られるが、管内全体で果樹のほか、米麦、野菜、畜産も盛んな地域だ。
 18年産米の作付け面積は約3090haだった。JAへの出荷者は約2500名、18年産は作柄不良で4200トン(7万俵)の集荷量にとどまったが、17年産は9万俵を超えたという。
 品種は「森のくまさん」が6割を超え「ヒノヒカリ」が約4割となっている。
 JA米には16年産から取り組んできた。地域内には以前から取引先と栽培基準を決めた特別栽培米をつくる生産者もいて、生産履歴記帳とその内容点検などの経験を持つ人もいたが、ほとんどの生産者にとっては新たな取り組みとなった。

JA鹿本の本所
JA鹿本の本所

 JAでは2月の集落座談会、5月の基準説明会、さらに田植え後の現地検討会などの機会を利用して、JA米の基準を満たすために生産者に求められることを繰り返し説明しているとのこと。JAとして強調したいのは「これからは出どころのはっきりした米が求められる」だった。
 出どころのはっきりした、ということのなかには、JA米の要件のひとつである「品種が確認された種子による栽培」がある。JA米のスタートにあたって多くのJAで難しい課題だと聞かれたのはこの要件だったが、JA鹿本でも初年度は種子の供給不足からJA米となったのは集荷量の6割だったという。
 ただし、JA管内は県を代表する種籾の産地であり、長年、県からの委託事業で種籾の生産、供給を行ってきていた。そこでこうした産地としての有利性も活用して、翌年産からは種子の供給を確保したという。18年産では9割以上がJA米の扱いとなった。

◆地域で品種を誘導、サテライト方式の集荷体制

営農部農産課 小原課長
営農部農産課 小原課長

 出どころのはっきりしている米づくりと同時に、売れる米づくりに向けては、品質が均一な米として実需者の評価を得ることも課題とした。そのための武器となっているのが集荷施設の整備だ。
 JAでは平成4年に中核的なカントリーエレベーターと地域にあるカントリーエレベーターを連携させるサテライト方式の集出荷体制を整備した。
 鹿央には4700トンの荷受け能力を持つ鹿本広域中央カントリーエレベーター(CE)がある(写真)。ここでは鹿北町、山鹿市、鹿央町の生産者の米を受け入れている。
 もっとも3地域の生産者が直接搬入するわけではない。それぞれの地域にある小規模なサブセンターで荷受けをして半乾燥させ、そこから中央CEに搬入、「本格乾燥調製し、地域ごとにサイロを区分して保管する。」(営農部・小原誠農産課長)サブセンターをサテライト(衛星)として機能させるという方式である。
 このサブセンターを組合員自らが運営することによって、低料金化と利用率の向上につながるし、中央CEへの一元的な出荷でコストダウンが図られ、また、米の均質化も実現できる。
 そのほかの地域もCE(植木町)とRC(鹿本町、菊鹿町)を整備、全域を施設集荷でカバーできる体制にしている。
 こうした体制づくりの一方、作付け品種の誘導も大きなテーマでJAでは「森のくまさん」を核にする方向だ。
 ただし、ヒノヒカリへの県内ニーズも高く生産者の意欲も強い。もっともヒノヒカリの生産は隣県でも盛んで競争が厳しいため、19年産からは比較的ヒノヒカリの適地とされる菊鹿町に限定した作付けとすることにしている。しかも減農薬減化学肥料栽培など特別栽培とし、さらに菊鹿町のライスセンターへ出荷するもののみを取り扱いの対象とすることにしている。この取り組みも集荷体制を活用した産地づくりといえるだろう。

鹿本広域中央カントリーエレベーター
鹿本広域中央カントリーエレベーター。鹿北、山鹿、鹿央の3地区のサブセンターと連携して運営している

◆バイオマスセンターとの連携も

JA鹿本 鹿本の米

 「JA米」の取り組みを進めるなかで特別栽培米に取り組む生産者も増えている。当初は100人程度だったが、現在は160人を超えた。
 特別栽培の基準も有機質肥料使用による栽培、減農薬無化学肥料栽培という従来からの取り組みに加えて、液肥栽培とサンゴ化石米も新たに加わっている。
 サンゴ化石米は、与那国島から直送されるサンゴを土壌改良剤として活用したもの。もうひとつの液肥栽培は鹿本町で動き出したバイオマスタウン構想、「環の地域づくり」の一環から取り組みが始まった米づくりである。
 環の地域づくりは、畜産の家畜ふん尿や地域内で出される生ゴミなどをバイオマスセンターに集約し、肥料や飼料などに再生、野菜や米づくりに活用する地域内循環をめざすものである。そこで、このバイオマスセンターから作られる液肥を農場に散布する米づくりも特別栽培米の基準のひとつとし、環境にできるだけ負荷をかけないかたちで安心・安全な農産物の提供をめざすことにした。
 このほか今後、大きな動きになりそうなのが、集落営農の組織化と農地・水・環境保全向上対策を活用したJA米のレベルアップである。
 集落営農の組織化は農政転換に対応した担い手づくりとしてJAグループが推進してきた課題だが、JA鹿本管内では米づくりを主体とした集落営農組織が20ほど立ち上がった。このうち鹿本町では11組織ができあがっている。
 組織のとりまとめに中心的な役割を果たしたのが特別栽培米づくりに取り組んでいる生産者たちだ。彼らがリーダーとなって面的に集積した農地利用などを進めていくが、これによって品種の統一や、JA米を基盤に上乗せ要件を加えた特別栽培米づくりが集落全員へ拡大することが期待されている。
 その弾みとしても活用しようと地域で考えられているのが、新年度から本格スタートする農地・水・環境保全向上対策である。同対策では、集落など一定のまとまりをもった地域での農業資源保全・改善への共同活動に対する支援と、環境負荷低減などの営農活動への支援がある。
 同町では町が主導して資源保全のための共同活動を行う組織化が集落を中心に進められおり、今後はこの1階部分の支援に加え、2階部分である営農基礎活動支援、さらに化学肥料や農薬の削減などの先進的営農活動に対する支援の対象にもなることを目標にしている。
 JAが進める特別栽培による売れる米づくりを集落営農組織で推進するための「仕掛け」として今回の新たな政策を活用していく考えだ。

◆基礎技術の励行も課題

営農指導部農産指導課 池田課長
営農指導部農産指導課
池田課長

 JA米やあるいはそれを基盤にしたさまざまな特別栽培米についても、生産履歴記帳とその点検が求められるが、同JAでは営農指導部門だけでなく販売部門の職員とも連携して記帳内容のチェックにあたっている。生産者には集荷前に生産履歴記録簿を提出してもらい、JAでは内容を点検後に出荷を受け付けている。
 集落営農組織にはJAからの種子の供給が行われているが、一部では自家育苗も行われているため、購買部門からの種子供給量と作付け面積などのつき合わせで栽培に使用された種子の出どころを確認している。
 また、生産者への負担を少しでも減らすためにJAでは当初からできるだけ簡潔な記録簿の様式とすることに。使用する生産資材名などは印刷し、生産者は資材使用の有無のチェック欄の記入と、使用日、使用量などを書き込むだけで済む形式を工夫してきた。
 こうした取り組みを進めることによって安全・安心で実需者、消費者から支持される米づくりをめざしている。ただし、同JA営農指導部農産課の池田末敏課長は「ここ数年は安定した生産が大きな課題になっている」と話す。
 周知のように九州地方は米の作柄が平年作を下回る年が続いている。熊本県では平成14年の103以降、平年並みの年はなく16年は77、18年は85という記録となった。
 池田課長によると「森のくまさん」を主力品種に米づくりを転換したものの、作柄は安定せず「手探り状態」での生産が続いているという。

生産履歴記録簿
生産者の負担をできるだけ減らすため分かりやすく
簡潔な記録簿とする工夫をしている

 こうしたことから、基本技術の励行を大きな課題とし、まずは出穂後の高温障害を避けるために田植えを2週間遅らせ6月下旬とすることを呼びかけてきている。
 また、地力増進にも改めて力を入れ珪酸の補給なども促進している。さらに最近の県内の研究では、通常より深い25センチ以上耕した水田での作柄が安定していることも分かった。
 こうした事例も参考にしながら「天候に左右されない生産技術を改めて確立することが大事だと考えている」と池田課長は話す。
 また、16年から航空機による空からの画像分析で、稲の葉色からタンパク含有量をほ場ごとに見分ける技術も試験的に導入した。19年産も葉色からタンパク含有量によって区分集荷して、タンパク含有量によるニーズを探り販売先をきめ細かく分けて提案していくことも検討しているという。
 栽培技術の確立と合わせ、集荷体制、販売の工夫までの総合的な取り組みが期待されている。

(2007.5.9)


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