農業協同組合新聞 JACOM
   

米流通最前線
「絶対過剰」のなかで下落続く米価格
荒田農産物流通システム研究所 代表 荒田盈一

 米価の下落が続いている。コメ価格センターの入札取引結果では昨年同時期にくらべて8%程度低い1万4000円台前半の水準となっている。作況は平年並みだが、過剰作付けに加え想定以上の消費減などが背景にある。産地では不安が高まっており政府も緊急に米価下落対策を検討することにした。今回は卸業界の受け止め方を中心に関係者が米の需給環境をどう見ているのか、荒田盈一氏に解説してもらった。

業界にも衝撃大きい異常な価格形成

◆過剰は40万トン超と覚悟する業界

 9月の作況99、これによって07年産の作柄は平年作でほぼ決定した。予想される収穫量が873万t、生産目標数量は845万tだから単純計算で28万tの過剰と計算される。主食用仕向け数量は加工用の17万tを差し引いた856万tと見込まれ、需要見込み数量の833万tとの関係では23万tの過剰と見込まれている。
 しかし、主食用米穀の関係者や販売業者は主食用に転用が可能な加工用を主食用数量として組み込んで需給環境を捉える傾向にあり、07年産で発生する過剰数量は40万t〜45万tと覚悟する。
 さらに、77万tの政府備蓄米、189万tのMA(ミニマム・アクセス)米の在庫を背景に、国民一人当たりの消費量が減少を続けていることも、需給環境の過剰感をバックアップする。そもそも04年にスタートした米改革によって、需給調整が面積配分から販売実績を条件にする数量配分に転換、さらに計画流通制度の廃止に伴い水田農業ビジョンを策定すれば生産者の作付は実質的に自由という状況に突入、政府は役割を計画数量の指針策定と輸出入、備蓄の管理に限定、実質的な需給管理を放棄した。
 そのため基本的な需給環境は「全国的に米の過剰作付が続いており、全国で40万t以上の大幅な供給過剰が想定されています」と生産者団体がチラシで懸念する事態を迎えている。
 昨年の端境期も過剰在庫を指摘されていたが、06年産米が作況96の不作と出荷が遅れたことで前年産(05年産)の過剰米は自然体で消化することができた。そのため課題は地下に沈んだままで移行したが、潜在的な過剰感を払拭することはできず、価格は軟調気味で推移した。

◆売れ残り防ぐための値引き販売の衝撃

 つまり、平年作で過剰が発生する「絶対過剰」の生産構造が解消されていないのである。また、売れ残りが発生して古米が発生した場合は大幅な値引きでの対応が必要とされ、06年産米は大量の値引販売が実施されることになった。その数量は10万t以上とされ、なかでも新潟コシヒカリが4万t以上、秋田あきたこまちが2万t以上値引き販売の対象になったことから米穀関係者に衝撃を与えた。値引価格も60kg2000円以上とされ、卸売業者によってはそれ以上の値引きをされたとの噂も飛んでいる。
 本来、値引きは06年産の受け渡しが完了する11月以降に実施されることになっていたが前倒し販売も可能とされ、9月に入って実施された。そのため相対取引の通常販売価格に対する影響も指摘され、実質的な値引の範囲が拡大している可能性も捨て切れていない。「売れ残りに価値なし」と標榜された米政策改革は「絶対過剰」の下では「価格引下げシステム」でもある。
 その上、07年産からは需給に関する情報や市場シグナルを基に、農業者・農業者団体が主体的に需給調整を行うシステムに移行するとされた。公権力と公的資金を使っても成功しなかった需給調整を民間である農業者・農業者団体が主体的に行うシステムに移行することで成功するとは米関係者の誰も信用せず、「過剰の拡大と価格低下のスパイラル」が懸念されている。

取引状況・表

◆概算金への誤解が波紋

 厳しい販売環境に晒されるなかで8月、全農は生産者に支払う概算金を従来の「仮渡金+精算金」から「内金+追加払い+精算金」の内金方式へ変更すると宣言した。従来の仮渡金方式でも精算金を複数回数で支払った経緯もあり支払い回数の増加は問題ないとされたが内金の価格水準が7000円と判明、過剰米対策で設定された8000円を下回る価格に対して生産者だけでなく業界関係者は驚天動地した。価格の居所が全く分からなくなった。価格の根拠を失ったからだ。
 関係者の間では「ここまで低価格の内金では生産者が反発し、集荷数量が減少する」に対し、民間集荷業者の価格提示が不可能になることで取引が成立せずに逆に「系統組織に集まる」と評価は正反対に分かれた。
 それは全農が提示した内金7000円を現実的な取引価格として誰も信用していないことに起因する。さらに「全農は米の集荷・販売から手を引いた」との極端な反応も出たが、生産者のみならず米穀関係者に米を巡る厳しい現状に対して警鐘を乱打したと一定の評価を受けることにもなっている。

◆価格の逆転現象で混乱する流通

それでも、直接現物を取引する関係者にとっては晴天の霹靂が続く。原因は価格下落の水準だけでなく価格が親不孝(逆転)になっていることだ。生産者に近い場所が最も高く、消費者に近い場所が最も安い流通価格はどのように考えても異常だ。価格は「生産者<単協(集荷)<県本部(流通)<全国段階(販売)」とアップするのが当たり前であり、価格形成の常識に逆行する「>」の価格体系は絶対的な矛盾だ。全農が集荷減少を懸念する県本部対応で上乗せを認めたことや単協が独自に上乗せしたため表面的な価格は百花繚乱の様相を見せ、価格の逆転現象が生まれた。
 都内の卸売業者は「昨年までの単協や県本部との価格交渉は全農の相対価格を基準にして来た。交渉は相対価格から値引金額の交渉で臨めば良かった。しかし、今年の交渉は単協の内金価格を考慮し、県本部や単協との価格交渉では上乗せの額や幅を交渉することになる」と戸惑う。
 たとえば、新潟一般コシヒカリの具体的な価格は全農の内金が7000円、県本部内金は全農が設定した価格に3000円を加算して1万円、単協によってはさらに3000円を加算した1万3000円と並ぶ。その上、全農の相対価格は1万6100円と設定されている。07年産の取引価格はこれ等の要素を取り込んで設定されるが関係者にとってはいずれも初体験であり、全農と交渉する卸売業者は「言わば、仕入価格が7000円で販売価格が1万6000円は想定できない」と成り行きを懸念する。
 生産者から直接仕入れる小売業者も「単協内金にどの程度上乗せするかだが、需給過剰の環境で上乗せ提案など経験したことがない。今日までの価格形成でいかに商品価値を積み上げて決めていなかったかが身に沁みた」と戸惑う。
 「上乗せ交渉」でも生産者にとって価格に燭光が見えているわけではない。県段階で比較すれば06年産の仮渡金が1万5000円だったから1万円の内金では5000円、3割以上の値下げだ。相対価格の1万6100円は06年産の1万7800円に対して10%下げた。交渉は「下げられてスタート」しているのである。

◆新潟コシヒカリ5kg2000円の意味するもの

 全農にいがたは「全量販売をめざして店頭価格を5kgで2000円を切る水準」での販売に追い込まれている。
 量販店における新潟一般コシヒカリの06年産の通常販売価格は5kg2200円〜2300円で推移した。地域や生産手法の違いを表示で謳えば2500円前後で販売されている。一方、関東や北陸の他県産のコシヒカリは1680円〜1880円で設定され、この価格差が売れ行き不振を反映した。しかし、最大の原因は他産地の品質が向上し、品質格差が急速に縮まっているのに新潟コシヒカリのブランドが値引きを許さなかった販売関係者の悪しき慣習と指摘されている。
 この状態が一変したのが06年産過剰米の値引き販売である。量販店は一斉に値引きを開始。値引きされた主力商品は新潟一般コシヒカリと秋田県産あきたこまちである。9月末、全てのコシヒカリ・あきたこまちを5kg1880円で販売した複数の量販店が出た。同一価格は末端の販売業者、つまり消費者は新潟コシヒカリの優位性を否定した。5kgで500円の値引販売が関係方面に衝撃を与えた。10kgで1000円の引下げ、60kgでは5000円以上の引下げを意味したからだ。
 消費者は業界事情とは関係無しに5kg1880円を知った。07年産米の価格は1980円で販売されている。米関係者はこの価格を出来秋の最高価格と認識している。全農にいがたの相対価格水準で止まる(1700円前後のダウン)か内金の価格水準で止まる(5000円前後のダウン)か、全く不透明であり、いずれの水準に落ち着くにしても「絶対過剰」によって今後もそれぞれの価格からの下落は避けられない。さらに、この事態が値引き販売を先取りした新潟こしひかりに限定される現象なのか、他の銘柄にも波及するかが明確になるまで取引価格は空中戦(地に足がつかない、不安定な価格)で推移する。

月別平均価格の推移

(2006.10.25)

 

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