農業協同組合新聞 JACOM
 
過去の記事検索

Powered by google

シリーズ 「農薬の安全性を考える」
無農薬栽培農産物は本当に健康に良いのか?

 このシリーズの第1回で梶井功東京農工大名誉教授と本山直樹千葉大教授に農薬が果たしている役割などについて総括的に話してもらった。今回以降は、そこで提起された問題について具体的に検証していくことにする。第2回の今回は、無農薬栽培のリンゴはアレルゲンを増大させることを科学的に証明した森山達哉近畿大学農学部講師に取材し、健康に良い農産物とは何かを考えてみた。

◆増えている野菜・果物アレルギー

 最近、食品によるアレルギーが話題になることが多い。ソバや米によるアレルギーはよく知られているが、野菜や果物アレルギーに罹る人が増えているという。「野菜嫌いの人」を野菜アレルギーということもあるようだが、それとは異なりある野菜を食べるとアレルギー症状をおこす人のことをいう。
 原因となる食品としては、野菜では、キュウリ・トマト・ナス・ニンニク・ピーマン・シシトウなど、果実ではリンゴ・メロン・モモ・イチゴなどと、いずれもお馴染みなものばかりがあげられる。
 私たちの体には、体外から異物(抗原)が入ってくると、これに対抗する物質(抗体)をつくって、抗原を体外に排除しようとするシステムがある。この抗原を体外に排除しようとする反応を抗原抗体反応とか免疫反応というが、この反応によって細菌とかウイルスなどの異物から私たちの体は守られている。この免疫反応を利用して、はしか、風疹、インフルエンザなどの予防接種がなりたっているわけだ。
 アレルギーは、この自然な免疫反応が異常に過敏に反応して、生体防御の範囲を逸脱した場合のことをさしている。食物アレルギーの多くは、初めのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)の侵入によって多量につくりだされるグロブリンというたんぱく質できている抗体(IgE抗体)が、再侵入したアレルゲンに反応して、ヒスタミンとかロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されることで発症するのだという。
 そしてその感染経路から食物アレルギーは二つに分類されているが、とくに最近問題となっているのが、花粉症のIgE抗体が花粉などの抗原と構造的に類似している食物抗原を摂取したときにアレルギー反応を発生するというものだ。これが野菜・果物アレルギーというわけだ。

◆病害虫の攻撃から防御するタンパク質が抗原になる

 そしてその原因となるアレルゲンのほとんどは、植物が害虫による被害や感染微生物病害を受けたときなど、ストレスが大きくなったときにつくられる防御タンパク質である「感染特異的タンパク質」(PR−P:Pathogenesis−related protein)だという。表は分かっているPR−Pのリストで16に分類されている。これらのPR−Pは普遍的にどんな植物にも存在しているものが多く、表記されている植物以外にも存在しアレルゲンとなる可能性が高い。むしろこうしたアレルゲンを持たない植物の方が少ないという。
 こうしたPR−Pは最近になって出てきたものではない。それなのに最近になって野菜・果物アレルギー患者が増えているのは、現代人の免疫バランスが変わり、花粉症罹患者が増えてきているからではないかと森山講師はみている。

表 アレルゲン

 

◆無農薬栽培リンゴでアレルゲンが増大

 森山講師は、「作物は、病害に感染したり害虫に食害されるとアレルゲンとなりうるPR−Pの発現を誘導させることから、その結果としてアレルゲン性が増大すると考えられる。であれば、農薬を適正に使用するなどの方法で病害虫による被害から守ってやればその作物のアレルゲン性の増大を妨げることができるのではないか」という仮説をたて、それを実証するためにリンゴで実験を行った。
 それは、リンゴ(王林)を(1)慣行防除、(2)一部省略防除、(3)防除なし(無農薬栽培)という3通りの栽培方法で栽培し、それぞれから得られたリンゴのアレルゲン性を、3名のリンゴアレルギー患者(花粉症も併発)の血清を使って調べた。
 栽培されたリンゴは、慣行防除では感染などの被害がまったくみられずきれいなリンゴが収穫できた。一部省略防除では、一部に少量の感染被害があったが概ね良好な状態だった。無農薬栽培では、黒星病やすす斑病などの病害被害を強く受けた(図1参照)。

図1
図2

 これらのリンゴからタンパク質を抽出してウエスタンブロッティングという方法で患者血清IgEが結合するタンパク質(アレルゲンの候補となる)を検出し、その反応を調べた。その結果、図2のように農薬によって適正に防除したリンゴに比べて、無農薬栽培のリンゴではアレルゲン性が増大することが分かった。
 つまり、無農薬栽培されたリンゴは、多くの病害による被害を受け、その結果、植物が病害に抵抗する目的で多くのPR−Pを発現、そのPR−P類が野菜・果物アレルゲンとなり、患者血清による反応が増加したと考えられるという。
 森山講師は、リンゴの果皮にすす斑病菌を接種して人工的に軽微な被害を与えアレルゲン性が増大するかどうかという実験も行った。その結果でもアレルゲン性が増大することが確認され、「改めて防除の重要性が認識された」という。

◆安全で健康にもよい適正に防除された農産物

 このことから分かることは、無農薬で栽培され病害虫から何らかの攻撃を受けた野菜や果物は、自らを守るための防御物質(PR−P)をたくさん作り出す。個人差はあるが、それを食べた人が野菜・果物アレルギーを発症する危険性は大きい。とくに花粉症に罹っている人が有機栽培など無農薬栽培の野菜・果物を食べるとアレルギー症状になる可能性は大きいといえる。
 よく無農薬栽培で虫が食べているから安全で健康によいという人がいる。それは感情的な問題で、科学的に調べてみるとむしろアレルギー反応を起こすなどリスクが大きいことを森山講師は証明したことになる。いずれこのシリーズで取り上げるが、病害虫からの攻撃から守るために、毒性のある防御物質を作り出す植物もある。
 植物も生きものである以上、攻撃されれば自らを守るために防御物質を作り出し、その物質が人間の健康を損なうこともある。そうであれば、登録された農薬を適正に使用して病害虫から守ってやる慣行の生産こそが、その農作物を安全で健康にもよい美味しい食料とする方法なのではないか。

(2007.11.22)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。