農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ 食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在
第3回
生き物の生命のうえに成立っていることの理解から
(株)モリタ屋 吉岡浩人社長(18期生)に聞く

◆全国の多くの人と交流できた食肉学校

吉岡浩人社長
吉岡浩人社長

 京都で生まれ育ち、そして地元の立命館大学経営学部を卒業。商社入社を希望するが家業の食肉店後継者としてどうするかと思ったときに、食肉の学校があるということを知る。すぐに店に入るよりは1年間専門の学校で学んでみようと、群馬県にある全国食肉学校に入学する。
 いまは学校の周囲に住宅も建ち多少はにぎやかになっているが、25年前は何もなく「週1回、農協のおばちゃんが食品・身の回り品を売りに来るのが楽しみだった」という。
 京都育ちの吉岡さんには食文化がまったく違う群馬での寮生活はキツイことも多かったが、高卒の人から企業派遣の人まで幅広い人がいて、しかも全国各地から集まってくるという多様性もあり、そういう人たちと寮生活をしながら交流できたことは「得がたい良い経験」だったという。

◆牧場も経営し生産から消費まで責任を持つ

モリタ屋京都本店
モリタ屋京都本店

 吉岡さんの名刺に「伝統と文化の味 京都肉」と書かれているように、モリタ屋の創業は明治維新まもない明治2年に遡る。牛肉屋「盛牛舎森田屋」として森田伊三郎氏によって開業された当時は卸売が主で、陸軍省などに牛肉を納入するのが商売の中心だったという。戦後、森田家から親交のあった吉岡宇佐美氏(故人)に経営が譲渡され今日に至っている。
 吉岡さんのお父さんである先代社長・吉岡幸人さん(故人)が、「自分たちが売るものは、肥育から食べてもらうところまで責任をもってやりたい」と、昭和50年に直営牧場を設立し、和牛の特別多頭飼育を始める(後に農事法人となる)。
 (株)モリタ屋の事業は、黒毛和牛の子牛生産、京都肉牛の肥育、卸売、小売業としてのクォリティフードマーケット、そしてすき焼きやしゃぶしゃぶなどを提供する飲食店部門まで、生産から消費までが一貫して事業となっている。直営牧場だけでなく全国の提携産地からも仕入てはいるが、直営店では最高級のA4・A5ランク以外は扱わないというのが、モリタ屋のポリシーとなっている。
 吉岡さんは大学で経営学を学んだが、全国食肉学校へ入るまでは、それは食肉販売とは無縁なものだと思っていたという。全国食肉学校で原価計算をはじめ経営に関する数字をキチンと把握しなければ営業マンにも店長にもなれないことを知り「大学で学んだことと仕事がつながった」。
 モリタ屋では昔自家と畜をしていたこともあって、内臓や枝肉の扱いには慣れていたが、カットの仕方など基本的なことを学校で幅広く教えてもらうことができたと当時を振り返る。
 吉岡さんが幸人さんから社長業を引き継いだのは平成13年の9月。BSEが日本中を揺るがしている最中のことだった。「これ以上は悪くなりようがないからと先代が考えたんじゃないでしょうか」という。
 それから6年。先代が築いた「生産から食べる人たちまでに責任を持つ」というモリタ屋の精神を守りながら、東京に出店するなど着々と事業を伸展させてきている。

◆社会と業界の常識を一致させたBSE

精肉を中心に鮮魚、青果まで厳選した食材を販売するクォリティフードマーケット
精肉を中心に鮮魚、
青果まで厳選した食材を
販売するクォリティフード
マーケット

 BSEからの6年間を振り返ると食肉業界は大きく変わったという。吉岡さんがこの業界に入った25年前には、普通では理解できないことがたくさんあった。そして「怖いことに」学校を出たての頃に「何でこんなんがまかり通るの?」と疑問に思っていたことが、5年、10年経つと、おかしいと思ったことが麻痺してくる。
 だがBSE以降は、「人間として正しいことをして商売を貫いていけば生き残れるんやということが、やっと、自分の中でストンと落ちた」。つまり、業界の常識と社会の常識が一緒になったということだ。
 いまは「確実に良い方向に業界は向いているから、この流れを逆流させてはいけない」。
 これからも「良い素材を使って手間暇かけて、心のこもった良い接客をする」。これは「飲食に限らず商売の基本」であり、「今までもやってきたし、これからもずっとその気持ちを持って続けていく」と考えている。

◆“ 美味しかったよ”の笑顔が一番嬉しい

 全国食肉学校の後輩たちへのメッセージをと聞くと、「食肉は奥が深く、やればやるほどおもしろい業界ですから、基本をシッカリ学んできて欲しいですね。とくに生き物の生命を犠牲にして商売が成立っていることを理解して食肉の業界に入ってきて欲しい。そうすれば偽装とか表示をごまかそうとか思わないでしょう」と語ってくれた。
 モリタ屋は全国食肉学校の教育指定店でもあり、いつも数名の研修生がいるだけではなく、社員として常に数名は卒業生がいるという。「彼らは家業の後継者が多いのでずっとはいないかもしれないけれど、前向きに何かを吸収しようとがんばっていて、いいムードメーカーになってくれています」というように、後輩への評価も高いようだ。
 学校を出てから25年。辛いこともあったけれど「やりがいがあり後悔する間もなっかた」という。そしてお客さんから「“美味しかったよ”と笑顔を返してもらうときが商売をやっていて一番嬉しいとき」。だからこれからも美味しいと喜んでもらえるような仕事をしていきたいと結んだ。

(2007.12.5)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。