農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ 食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在
第5回
卒業生でなければ1人前ではないといわれる学校に
社団法人 全国食肉学校 山中 暁 学校長(23期生)に聞く

 昨年10月に山中暁教務部長が、学校長に就任された。山中学校長は第23期の卒業生でもある。そこで今回は新学校長に、これからの抱負と全国食肉学校がめざしていく方向を聞いた。

◆ニーズに応え教育力を高めていく

山中暁学校長

 ――昨年10月に学校長に就任されて3か月近く経過しましたが、現在の心境をまずお聞かせください。
 山中 学校は教育訓練をする場ですが、一方では経営をしなければいけないわけで、そこが難しいところですね。学校経営のキーは何かといえば、学生が定員を満たしていることです。それを実現するためには、全国食肉学校がどれだけ皆さんに理解され必要とされているかを考え、学校の質を高めていかなければいけないと思います。それには自分たちの教育力を強化することと、社会がどういうことを求めているかを知り、それに応えていくことになるわけです。そう考えるとやることが一杯ありますね。

 ――教育訓練と経営の両方をやっていくわけですね。

 山中 経営をすることが即存在価値になってくる「成績表」のような感じがしますね。必要とされるならば学生は集まってくると思います。あるいは、学生の集まりが悪くても、研修事業のように食肉学校に期待するところから事業が生まれてくるのではないでしょうか。

 ――学校を取り巻く環境は大きく変化していますね。

 山中 昭和49年に開校してからの10年間くらいは、食肉処理技術者の育成が中心でした。そして私が在校していた当時は、ハム・ソーセージが中心で、生肉だけではなくもっと付加価値をつけるには、食肉の高度加工だということで、ハム・ソーセージをつくる小さな工房が各地にできていました。

 ――いまはそこからさらに変わってきていますか。

 山中 焼肉とかレストランとか飲食へ広がっていますし、学生の就職の要望としてもそうした分野が多くなってきています。それから比較的大規模な生産者の子弟が自分でつくった肉を自分で売りたい。つまり生産から販売までのすべてを自分で見えるような形でやりたいということと、それは消費者が望んでいることではないかという流れになってきていますね。

◆基礎知識から専門技術までを体系的に教育

 ――そうしたニーズに応えていくためにはカリキュラムやさまざまなコースとか講座を企画されていますね。

 山中 3つの柱があります。1つは本校での教育、2つ目が研修、そして通信教育です。本校教育には総合養成科と食肉販売科の2科があり、総合養成科には1年コースと半年コースがあります。研修には学校で行うオープン講座と企業と提携する研修があります。企業と提携する研修では、その企業に出向いて研修を行うこともあります。通信教育には、食肉流通実践コースと食肉の原価計数管理コースの2つがあります。この3つの柱をキチンと立つようにしていくのが、私の役目だと思っています。

 ――卒業生に聞くと、精肉店の子弟でも商品化の知識や技術を学ぶことができたと答える人が多いですね。

 山中 精肉店では体験した部位、部分について習熟できると思いますが、体系的に学ぶことは全国食肉学校でなければできないと思います。1つの流れとして基礎知識・専門知識や技術を学べることが、この学校の大きな特色ですね。
 さらにいま偽装問題などが社会的な問題になっていますが、食肉に関わる関連法規とか周辺の知識を学ぶこと、少なくともそういう法規があるということだけでも知っていることはプラスになると思います。
 社会に出たときに、基礎知識・専門知識とそれに裏付けられた技術をどう活かすかがポイントになります。そしてそのときに力強い味方・仲間の存在が大切だと思いますね。寮生活で一緒に寝食をともにした仲間からの情報は、大きな力になると思いますね。

◆実践重視のカリキュラム校外授業が約500時間

 ――卒業生がオープン講座の講師をされたりしていますね。

 山中 学校の理念として「豊かな人間形成」と「産学共同による実践教育」の2つがありますが、実践的なものをどう取り込んで教えていくかは大事な課題で、例えば現役の卒業生が講師になって教えることは教わる学生にとってもプラスになると思います。今後も卒業生に助力いただく時間を増やしていきたいと考えています。

 ――実践ということでは、実習の時間が多いですね。

 山中 繰り返すことで技術が身につくことから、実習時間が全体の7割くらいを占めています。

 ――校外実習も多いですね。

 山中 総合養成科の1年コースで3か月間・496時間とっています。実習生を受け入れてくれている教育指定店でも、いろいろ考えて課題を与え指導していただいているので、これも大きな成果になっていますね。
 先日、校外実習の体験発表会を行いましたが、みな一回り大きくなっていますね。例えば、マスコミでも話題になった専門店で売り方として実習してきた学生は、顔がにこやかになって帰ってきました。最初は笑顔をつくることもできなかったのが、3か月でそうなったのは立派ですよね。

 ――商品化する技術だけではなく売ることが大事ですね。

 山中 技術に裏づけられた商品を売るためにどうするかを、ここ2〜3年強化してきましたし、これからも強化していきたいと考えています。実習先の教育指定店では「売る事」の大切さを徹底的に指導してくれていました。学校もマーケティングに力を入れたいと思っています。
 一方、マネジメントも重要なファクターで、経営者として後継者を育てること、あるいは経営者的な見方、視点を養うことに何か学校としてできることはないかと思っています。自分で財務諸表が読めるようになるとかですね。

 ――原価計算の仕方を教わったことが大きいとも、卒業生の方はいわれますね。

 山中 原価計算は大切です。多くの学生が苦手としていますが、原価計算から学ぶ事は非常に沢山あります。本校では「1頭売り」を基本に教えています。原価を下げるためには手間をかけなければいい。手間をかけないようにするためには技術と知識が前提になります。技術と知識で手間がかからないようにすれば、原価は下がってくるわけです。1頭仕入れて全てを使いきる技術と知識があれば、原価は下がります。それができないと部分肉で仕入れることに留まってしまうわけです。

◆中核となる人材を育成し存在価値を高める

 ――全国食肉学校の最大の使命は食肉流通業界の人材の育成だと思いますが、業界が厳しい状況にありますから大変ではありますね。

 山中 「人への投資は最大の利子を生む」という言葉を読んだことがあります。施設に投資しても減価償却され最後はゼロですが、人に投資したときは、その人自身が大きくなり、最終的には事業の生き残りにつながってくると思います。人的投資が企業の生き残りに大きな影響を与えると考えています。教育についてほとんどの企業は総論では賛成しますが、具体的な話になると、この職場から一時的でも人が抜けたらやりくりに困るというような話になります。それをどうするかは、生意気のようですが、トップの教育に対する考え方とマネジメント力だと思います。
 学校での子弟、従業員への教育訓練は、投資効果が充分あると言えるように存在価値を高めたいと思っています。全国食肉学校は間違いなく人材を育ててくれ、企業にとって役に立つということになれば、継続して学生を送り込んでくれると思います。さらに食肉流通業界にとってコアになる人材を育て、そのコアになる人たちが学校に来て後輩たちを教えるようなサイクルをつくり出したいですね。

 ――最近、食育ということが盛んにいわれますが、食肉では何が必要だと思いますか。

 山中 食肉で食育というと生産(飼養)の現場と最終的な肉になった消費の場だけになっていると思います。その間にある肉をカットしたりする加工が忘れられています。加工の技術をおろそかにすると肉の価値が下がるということが一般的には知られていないと思います。そういうことを発信していくのも私たちの大事な役割だと思いますし、そのことで食肉流通に携わる人たちへの社会的な評価も変わるのではないかと思いますね。

◆食肉処理製造資格制度もスタート

 ――そういう意味も込めて今年から新たな資格試験制度を導入されましたね。

 山中 技術を伝えること、つまり指導者をつくることと、技術をもつ人への認知度を上げることを目的に、当局、関係団体と協議して「食肉処理製造資格」という資格制度をつくりました。その第1弾として「豚部分肉製造マイスター」の資格認定試験を3月に実施します。続けて牛肉でも実施したいと考えています。食肉の処理加工をしている事業で、マイスター資格を持った人たちが加工し、あるいは指導を行い、そのことを消費者にも発信し認知してもらうような広がりをもたせたいと考えています。
 ――最後にこれからの学校について一言でいうと…
 山中 全国食肉学校の卒業生でないと1人前ではないね、と食肉流通業界でいわれるような魅力ある学校にしたいですね。
 ――ありがとうございました。

(2008.2.5)


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