農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》 (財)協同組合経営研究所元研究員 今野 聰 
  『講談 日本通史』
  大濱徹也著
定 価:2800円+税
発行所:同成社 03−3239−1467
発行日:2005年2月25日
『講談 日本通史』

 今年は戦後60年。加えて日露戦争講和条約100年。という訳で歴史ブームである。日本農業・農協運動にとっても新基本法による基本計画の見直しと新計画策定の年でもある。なるほど、なんとなく区切りの年だ。その所為か、WTO交渉のゴールがありそうで、一方攻めの農産物輸出計画がうたわれる。一方、韓国と竹島帰属問題で煙り立つ。国内では、憲法改正と女性天皇制論議が妙に絡み合って本格化しつつある。
 長い前置きになったが、この本は歴史専門出版社からのタイムリーな企画である。この際稲作を始め、日本農業が古代からどう現在に至ったか、通史から学ぶのに絶好の本だ。とかく日本通史は戦前なら皇国史観、戦後長くは唯物論に影響された人民史観が両翼だった。そこに農業史も埋め込まれ、天皇家に深い関係をもつ稲作とか農民の貧困だけがクローズアップされてきた。
 本書の特徴の第1は、島国として世界に開かれたこの国のかたちである。稲作が中国・朝鮮半島を経由して、日本に瑞穂の国を齎した経過も、天皇家の成立と伊勢神宮の関係も、果ては仏教・キリスト教の伝来も、冷めて記述される。江戸期のお伊勢講も80%は遊びだったと清々しい。
 第2は、長期間に渡って日本は東洋1の金生産とそれを交易の手段化した過程の記述だ。卑弥呼の古代から、中国・朝鮮との交易は継続され、その影響を大きく受けた。遣隋使・遣唐使、宋・明貿易は勿論。江戸期の鎖国制度さえ長崎など特定港限定によった、徳川大権益貿易だったとするイメージ転換である。
 第3は、近代日本が天皇神格化を通じて形成され、その上で日清・日露・第1次大戦・第2次大戦と10年ごとに戦争が行なわれた。そうしたアジア進出を支える大東亜共栄圏構想が築かれた。そこに「靖国の母」になって普通の母親が根こそぎ動員されという記述である。
 こうして著者の歴史観は、「自分の母文化をどうみるか、勝手口から世界をどう読むか」(あとがき)である。ここには、一般通史的空洞をこえた面白さ、「身の回りから日本、そして世界を読み解く作業」(あとがき)に相当程度成功しているなと思う。
 不満もある。現在の食料自給率40%が大問題だから、これを歴史的形成に戻す作業である。小作人平準化という戦前構想が、戦後農地解放の基だというのは良い。それなら、戦前の朝鮮・台湾の植民地経営によった米移入(実は収奪だが)、その上での旧満州での興農計画と日本からの分村参入(侵略)はカットできない歴史的事実であろう。今日、基本食料の自給が心もとないのに、不安をもたない国民意識は正に「勝手口」から問題なのだ。東アジア共同体がまたぞろ言われる。どうも危ういと思う。
 著者は1937年生まれ。2000年、筑波大学在職ラストの記念に連続講義した。それがこの本の成り立ちである。だから「講談」だとわかる。

(2005.5.13)

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