農業協同組合新聞 JACOM
 
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《書評》 今野 聰(財)協同組合経営研究所元研究員
  『生協との半世紀』
田中尚四著
  定 価:1200円+税
発行所:コープ出版
発行日:2005年6月30日
『生協との半世紀』

 のっけから私的体験に触れる。全農現役時代、30年を超えるコープとうきょうとの交流で、田中尚四氏(1935年生まれ)の名前を知っていたが、直接会うことは無かった。その後日本農業新聞記者時代、日本生協連副会長になった氏にインタビューした。その印象は慎重な指導者という感じだった。この本は、田中思想・生協運動観の集大成である。
 本書の第1の特徴は、大学生協運動がどういう戦略で地域生協づくりに入ったかの歴史的証言になっていることだ。1950年代半ば、東京では東大生協が氷川下生協(その後文京区勤労者生協からコープとうきょうに合流)を支援。また北海道では北大生協の大学村での売店設置などを挙げられる。なるほど、大学生協から地域生協に出て行く50年代風景がある。だが明らかに少数派だった。そこから一般企業ではなく、大学生協への就職希望、さらに地域生協への転出があったことは驚きである。勿論そのころ、灘、神戸生協、横浜生協などはあった。ダイエーだってあった。だが生協への就職は圧倒的に少なかったからだ。こうして少ない人材による地域生協支援、新たな地域生協づくりがあった。それらの中心に東大生協があり、田中氏はその中核メンバーだった。
 第2の特徴は、「首都東京に社会的存在たる地域生協をつくろう」という願望をようやっと1990年代から実現しつつあるという戦略観だ。少数者運動に留まらないで、いわゆる多数者生協論を継続的に展開したことだ。東京にいくつかの有力地域生協が現にある以上、ここはおそらく異論のあるところだろう。
 著者の経歴をみると、1976年都民生協常務理事就任。78年専務。この間、実質的創業者・桐原良彰理事長が88年、60歳で急逝した。この人の豪放磊落ぶりは忘れがたい。92年、都内全域の生協「コープとうきょう」になった機会に副理事長。95年から2002年まで理事長になる。そうした経験の総決算があっての感想である。だからこうした生協観が、都内の別の地域生協に共有されているとは思えない。
 第3は日本生協連トップ層になってからのこと。いわば現代史である。とくに97年に始まった北海道3生協の経営破綻・再生対策に多くのページを費やしている。100万人組合員、1万人職員雇用、2000億円事業の崩壊危機である。「多年の粉飾の積み重ねの中で、正しい経理状況が把握できな」い。だから「抜本的な<手術>を断行する以外に生きる道はないという覚悟」を担当委員長としてまとめた経過は、断腸の思いの決断の重さを教えてくれる。ここでも、おそらくコープさっぽろ経営破綻の原因と対策という歴史的証言になっている。かくて「21世紀生協ビジョン」策定(1996年)から、05総会の新ビジョン「2010年の生協」に繋がる。そこでは一貫して「ふだんの生活に役立つ」総路線を前面化しているからである。
 そもそも流通業は、業態間競争が激烈で、社会的拮抗力がないと歴史的に埋没するといわれる。再生機構下のダイエー。ウオルマートとの提携下の西友。最近のコンビニ業態革命などその典型である。とりわけ生協は、戦後60年、一般流通業界の中で、敢えて消費者運動の旗を掲げ、その社会的拮抗力を最も主張してきた。それが、今後どうなっていくのか。本書の批判的検証は欠かせない。なお巻末に国際交流での英語版演説原稿が載っていて、参考になる。
(2005.8.5)

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