農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》 今野 聰 (財)協同組合経営研究所元研究員
  『現代生協論の探求』
現代生協論編集委員会・編
  定 価:2000円+税
発行所:コープ出版 tel 03-3497-9198
発行日:2005年6月30日
現代生協論の探求

 日本生協連のシンクタンクに(財)生協総合研究所がある。この組織の中期計画に「生協学」の確立がある。今回は中間報告として<現状分析編>が上梓された。実に16名の執筆陣。7部15章は多彩であるが、まず基本構成を紹介しておこう。
第1部:日本型生協の特質と制度、第2部:生協の組織、第3部:生協の経営、第4部:生協の事業、第5部:生協の多様な広がり、第6部:現代社会と生協、第7部:現代社会と生協
 これを通読すると、おのずから焦点が定まる。ここでは3論考を取り上げたい。先ず第1部第1章「日本型生協の特質と現状、変化のトレンド」(栗本昭)。総論とも言うべき位置にある。戦後の生協の成長を社会的経済的要因と制度的要因で分析した。主婦が主体で、班共同購入が伸長の中心。さらに西欧と違い、社会運動的側面を常に重視してきたという。こうして丁寧にいわゆる「日本型生協モデル」(川口清史氏ら)を再評価した。その上で「成熟期に入り、新たな方向を模索している」と、なんとも将来展望が不安である。
 次は、鮮明な事業方向を素材にした第4部10章「生協の事業連帯」(田代洋一)。田代氏はすでに本紙上でも、生協の事業連帯を西欧と比較して、多く紹介してきている。改めて本書から引用すれば、現にある事業連合は(1)「統合型」(ユーコープ、コープネットなど)、(2)「部分機能連帯型」(大半がこの型)、(3)「共同仕入型」(コープこうべ中心のKネット)と類型化している。判りやすい。しかもどれが主流かに甲乙をつけない。問題は「組合員参加をどう保証するか」。これが「グローバリゼーション時代の課題」だとする。
 もう一つ、第5部第13章「女性と高齢者が担う『働く人びとの協同組合』」(天野正子)を取り上げる。素材は生活クラブ生協グループに特徴的な働き方問題である。組合員が単に生協運営に参加するだけではなくて、自身が専業主婦から変身して、生協の下請けとして働く。そこまでなら「下請け労働」で終わり。そうではない。働いて自主運営するから雇用・被効用の関係ではない。これが「ワーカーズコレクティブ」である。つまり新しい組合員の働き方の創造である。天野氏自身が女性の働き方の戦後史研究の専門家だからこそ深く分析した。そこに希望がある。だが副題にあるように「その可能性と困難」である。協同労働として、法制化が必要だがそれ以上のなにかが求められる。そうなって初めて「生協パート」でない労働の実存(サブシステンス労働)になるのだと。他に医療生協、共済、福祉など興味深い現状分析があるが触れない。
 さて戦後60年。農協運動とか協同組合運動にきびしい意見が集中している。だから本書の分析は意義深い。食品小売市場の5.2%という生協シェアとの協同だけで見ない、農協生活事業復活の視点が第一である。さらに、生協事業連帯からは、全農―県本部という統合機能のガバナンスと原則ある柔軟性づくりの視点があろう。そして結(ユ)いなど伝統的な労働を担いながら先に進めない苦闘を強いられている農協女性組織には、真の意味で働き方再発見のヒントになろう。ついでに次回発刊の<理論編>が「生協学」に向って前進するか楽しみである。

(2005.9.16)

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