農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》 今野 聰(財)協同組合経営研究所元研究員
『食と農を結ぶ協同組合』
吉田寛一・渡辺基・大木れい子・西山泰男編

定  価:2300円+税
発行所:筑波書房
tel 03-3267-8599
発行日:2006年6月10日

吉田寛一・渡辺基・大木れい子・西山泰男編『食と農を結ぶ協同組合』

 協同組合が主題だが「食と農を結ぶ」に絞る。当然のようであり、だがその内容規定は実は厄介でもある。そこで渡辺基・編者の「まえがき」を引用しておこう。
 「資本主義大企業による生産・流通の支配は危険であり、自給を本質とする家族農業や地域住民に生産物を供給する中小規模の農産物加工や商業を維持してゆくことが必要であり、小規模経営の生産・販売をまとめて消費につなぐ農漁協と生協の役割がますます重要になってきている」
 古典的すぎるとは思わない方が良い。また総論「実践的協同組合」で、吉田寛一・元東北大学教授は世界の協同組合原則の変遷に触れた上でいう。
 「要するに協同組合は資本主義商品経済社会に於ける批判的事業体であり運動体である。資本主義経済社会に於ける非資本家階級にとって不可欠の存在である」これまた古典的すぎるとは思わない方が良い。そういう協同組合の事例報告で構成されたのが本書である。目次にそって組織と筆者と所属を念のため、列挙する。
 「JAみやぎ登米」(阿部長壽・同農協組合長)、「青森県野辺地町農協」(神田健策・弘前大学教授)、「岩手県西和賀農協」(細川春雄・前専務理事)、「静岡県三ケ日町農協」(西山泰男・生協コープあいず副理事長)、「三重県大内山酪農協」(小林宏至・大阪府立大学教授)、「和歌山県紀ノ川農協」(宇田篤弘・同農協組合長)、「三陸沿岸各漁協」(渡辺基・元岩手大学教授、荒屋勝太郎・元岩手県漁連専務)、「みやぎ生協」(渋谷長生・弘前大学助教授、大木れい子・元宮城学院女子大学教授)、「生協共立社」(大高研道・聖学院大学助教授)
 こうして見ると、有名無名の事例が入り乱れ、それ自体が実に興味津々である。たとえば三ケ日農協は年明けみかんの銘柄産地として全国的である。この産地が、どうして浜松市または浜名湖周辺の農協合併準備作業から離脱したかを、戦後農協経営の苦闘に照らして興味深く読むことができる。
 たとえば、三陸沿岸漁協にとって、沖合漁業から沿岸漁業に転換して生き残りを策してきたこと。環境保護対策で差し止め訴訟という困難にまで上り詰めて、戦ってきたことを学べるのは良い。
 または、岩手県西和賀、三重県大内山には総合と酪農専門農協の違いがあっても、今日まで生協との産直事業がある。原乳生産から市乳共同購入までの総合システムにいたる協同事業で、あらゆる危機をのりきってきたことを見れる。
 また、みやぎ生協とJAみやぎ登米の米100万俵環境運動はそれ自体の事業構造を検討すれば、他事例と同様、問題提起の意味は尽きまい。
 こうして市場経済圧倒の大勢から、農協運動は「構造改革」なしには生き残れないという風潮に抗する農協運動があっても良い。そこに産直、営農、地域とのかかわり、生協運動自身の1980年代的成長があった。この時代は不幸にも産直は農協共販事業から逸脱するから採らないとする対立的時代もあった。私もまた全農の販売事業の現役としてその現場で苦闘した。だから多く反省材料になる。
 その上で、産直主体農協にも今日的困難があるのは自明である。事業は不変ではないし、不断の自己変革こそ重要なのだ。そのことの証左もこの書のもうひとつの教訓でもある。

(2006.7.19)

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