農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》 (財)協同組合経営研究所元研究員 今野 聰
楠本雅弘著 『集落営農』

定価1,800円+税
発行所:農山漁村文化協会 tel03-3585-1141
発行日:2006年3月10日

楠本雅弘『集落営農』

 副題は「地域の多様性を生かす」と「つくり方・運営・経営管理の実際」。著者は山形大学農学部教授だが、如何にも副題が相応しくないように思える。実際読めば、この謎はたちどころに解ける。そもそも戦前を含め、どれだけ集落営農が論議されてきたか。この頃のはやり「集落営農」論にうんざり感を持つ者に、担い手論とは全く別の確信を与えてくれるから不思議である。ともかく目次を追う。
 はじめに 「持続的地域社会」をめざして
 第1章/地域の条件に即して多様な集落営農がつくれる
 第2章/集落営農をどう組織するか
 第3章/「二階建方式」集落営農の提案
 第4章/集落営農法人の経営管理
 補章/「NPO型地域活性化法人」の構想
 私は宮城県の稲作単作地帯に生まれた所為か、戦後相当期まで「部落実行組合」とか「契約講」は自明であった。そういう組織は、言葉でいう組織ではない。自明にあるものだった。それが農業機械の普及、農薬施用の慣行化、そして農村人口の急速な減少の中、個別耕作反別の増加ではなく、稲作そのものの衰退危機の日常化に出くわす。それだから、個別組合の自助努力は当然にある。つまり戦前からあった論議がここでは大事なのである。
 さて本書の特徴の第1は、全国各地事例を文字通りくまなく調べ、その中から北陸平野型、中国山地型、東北型と地域的特質類型化をし、さらに機能的分類も試みたことだ。その結論「長い時間をかけてさまざまに変遷・進化をとげてきた」のだという指摘が深い。天から線を引くような話ではない。
 第2は、「2階建方式」集落営農の提案である。農家・農地・水・地域資源の土台があって、その上に作業委託・農機具・利用調整などの2階建部分を柔軟に構築しようという提案である。著者だけの独自性でないが、「自明」だと居直るだけでは済まない現状にそれなりに応えている。
 第3は、ともあれ、法人化するなら、法人経理らしい理屈をそれなりにマスターしよう、その手ほどきをしていることだ。『現代農業』誌上の5年の長期連載中に質問応答した成果がふんだんに盛り込められ、ともかく「複式簿記」アレルギーを除こうという意図と見た。
 以上の特徴を基底で支える著者の問題意識に戦前期農政の大物・石黒忠篤が説く「山奥の一軒家論」がある。要するに地域が廃れるのは山奥の最劣等生産力のところからだ。そこを意識した農政こそ本義だという。現農業構造改革派に味わってもらいたい真理である。

(2006.8.9)

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