農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》 (財)協同組合経営研究所・元研究員 今野 聰
西井賢悟 著
『信頼型マネジメントによる農協生産部会の革新』

価格:2,940円(税込)
発行所:大学教育出版
tel:086-244-1268
発行日:2006年10月10日

西井賢悟 著 『信頼型マネジメントによる農協生産部会の革新』

 著者は、1978年生まれ。長野県農協地域開発機構研究員である。農協の存在価値そのものである生産部会運営とその飛躍の条件を探るテーマに挑んだのが本書である。読後感がそっくり小田切徳美・明治大学教授の報告「農山村の現状と地域再生の課題」(本紙5月20日付け)に重なる。
 去る4月21日開催の農業協同組合研究会第5回シンポジウムで、小田切氏は農山村の陥っている苦悩について、5つの新展開として報告した。特に結論として農協が「新たな公」にどうかかわるかを問うた。大型合併農協がそれだけでは、地域の「公」を担っているとは言えない。単に営農生産活動だけではない。崩壊寸前の山村をどう支えられるかだからである。当日の問題提起がどれほど深まったか、やや心持たなかった。そうであれば、ますますそっくり本書でいう農協生産部会を、営農販売活動としてだけでなく、農協の存在そのものの核心として、深く掘り下げるべきだ。本書の構成にふれる。
 
 序章:課題と方法
 第I 章:農協生産部会の存在形態に関する組織論的考察
 第II 章:農協生産部会の展開過程と組織再編の今日的特徴
 第III 章:農協生産部会の統治機構と部会員のロイヤルティ
 第IV 章:農協生産部会における協同とソーシャルキャピタル
 第V 章:農協生産部会における協働運営の構造と運営者の育成方策
 第VI 章:農協生産部会における法人化の意義と農協事業改革の課題
 以下、結論と、補論:共同利用施設における赤字構造の解明と対応策。
 
  各章のタイトルが長く難しいのは元々が学位論文だからである。難解は、各章の図式にも見られる。資料編に英文の要約もある。読者サービスとしてはどうか。そこは飛ばして読めば良い。
 さて、本書の最大の特徴は研究対象を農協組織全体ではなく、部会組織にまで深く立ち入ったところにある。更に深入りすれば、生産者個々人の営農存在理由になる他ない。そこでも共同(協働、協同)は成り立つ。だが、その微妙な関係を、あえて生産部会に留めたところだ。そして農協は協同組織だから「最も変わるべきは組合員である」という著者の信念である。しかも表題の通り「信頼型マネジメント」としてである。さもなければ、生産部会が崩壊しかねない。ここでは、なぜ「安心」ではなくて「信頼」か、その構造をマネジメントとして統治機構、運営機構、事業・活動の構造を図式化する。それが農協との新たな関係を作り上げ、外部主体と繋がるという図式である。
 ここで取り上げられた部会を紹介しておこう。岡山県北部のダイコン産地、同県南部のモモ産地、神奈川県JAはだのイチゴ部会、JAふくおか八女なし部会、JA北信州リンゴ部会、千葉県農事組合法人さんぶ野菜ネットワークなどである。特にさんぶ野菜ネットワークは法人として、2005年2月農協から自立したから、研究対象としては斬新である。
 要は、生産活動を通して、農協は「公」活動を全面的に担う他ない。そこに経済的損得以外の「信頼」をどう築くかである。小田切氏の問題提起に迫る回答になりそうだ。

(2007.6.27)

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