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自著を語る  北海道大学大学院農学研究科長、農学部長 太田原高昭
リポート・中国の農協

 現地調査8年間の記録  本邦初公開の事例も豊富

 『リポート・中国の農協』

      太田原高昭・朴紅 共著  197頁、\1,890、家の光協会

(おおたはら・たかあき) 1939年福島県生まれ。63年北海道大学農学部卒業。68年同大学大学院農学研究科単位取得。同年北星学園大学経済学部、71年北海道大学農学部に勤務。77年同大学助教授、90年教授。95年日本協同組合学会会長。98年日本農業経済学会会長、99年より北海道大学大学院農学研究科長、農学部長。農学博士。著書に『明日の農協』(農文協)など。


 いま中国の農村に大きな地殻変動が起きている。長いあいだ政治の激動にほんろうされ、都市や商工業の発展の犠牲にされてきた農民たちが、ようやく自分たちの知恵と力で農業と農村の状態を改善するために立ち上がり始めたのだ。
 この動きは「農協ブーム」の現象をもたらしている。中国にはすでに登録されただけでも14万もの農協が生まれており、未登録のものを含めるとその10倍はあるだろうと言われている。日本の農協は合併で1000を割ろうとしているから、これは驚くべき数だ。
 農協といっても初歩的な販売組合や購買組合が多く、規模も小さい。しかしその多くが「日本型農協」をモデルとし、日本の農協に追いつき追い越すことを目標にしている。最初はためらっていた政府や党組織もこの動きを推進する姿勢に転じたようだ。

 私たちが中国の農協とつきあうようになったのは1993年だからもう8年になる。それまで黒竜江省の人たちが農協視察のために何度も北海道を訪れており、彼らが実験的につくった農協を見に行ったのが始まりである。
 この本は、それ以来すっかり中国の農協づくりにのめりこんだ私たちの、8年にわたる調査の記録である。日本にはほとんど知られていないこの重要な動きを、出来るだけ現場感覚で伝えるために、学術書としてではなく、旅行記ふうにつづってみた。
 8年の間に、中国の農協自体も大きな進歩があり、官主導的なものから農民主導のほんものの協同組合に発展していく歩みをたどることがわくわくするほど楽しかった。地域により作目によって「農協」の種類はさまざまであったが、こうした基本的筋道が一本貫いていることを確認出来たことがなによりの収穫だったと思っている。

 共著者の朴紅さんは、中国ハルビン生まれで留学生として来日した人である。彼女の留学のきっかけをつくったのは北海道農協中央会の参事をしていた中谷亮さんで、中国の農協づくりのために日本の農協を研究する人材としてスカウトしてきたのである。
 朴さんが最初から明確な研究テーマをもって私たちの研究室に入ったために、私たちも研究指導の関係上、このテーマにかかわらざるをえなかったのであるが、このことが私たちの農協問題研究にとって、どんなに有り難かったかわからない。
 日本でも中国農業の研究者が増えているが、その研究の多くは政府が公式に発表した資料と文献に頼っているために、次の時代につながる大きな流れを見落としていることが多い。私たちは朴さんのおかげで、中国側の全面的協力を得てひろい中国農村を自由に駆けめぐり、実態調査でしかえられない貴重な発見をすることが出来た。
 この本で紹介しているのは黒竜江省、山東省、山西省など4つの省での取り組みであり、ほとんど本邦初公開の事例である。中国農村のありのままの姿とそこに息づく協同の営みを通して、中国がどこに向かおうとしているのかを感じ取ってほしい。

 この仕事を通じてあらためて痛感したことは、どこの国の農民にとっても協同組合というものは本当に必要なものだということである。そして中国の農民が真剣に学ぼうとしている日本の農協について、私たち自身がどう考えるのかが深く問われていると思った。この本が日本の農協を見直すきっかけにもなればと願っている。
 そうした意味で、この本を読んでいただきたいのは誰よりも農協の組合員と職員の方々である。隣の国で深く静かに進行している協同化の動きに接することで、協同組合の価値を再認識し、国際的に誇れる組合づくりの参考にしていただくことを願っている。



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