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自著を語る 明治大学農学部教授  北出 俊昭
日本農政の50年――食料政策の検証――

  『日本農政の50年――食料政策の検証――』

      北出俊昭 著  日本経済評論社、294ページ、
      定価\2800

 (きたで としあき)昭和9年生まれ。京都大学農学部卒。昭和32年全中入会、昭和58年退職、同年石川県農業短期大学教授、昭和61年より現職。農学博士。主な著書に「農畜産物の価格−軌跡と展望」(富民協会)、「食管制度と米価」(農林統計協会)など。


 21世紀となり、とくに農業政策ではWTO次期交渉の本格的展開を控えているため、世界各国・地域では今後の農業政策について活発な検討が行われ、対策が講じられている。わが国でも戦後農政を支えてきた食糧管理法、農業基本法が廃止され、食糧法、新基本法が制定された。また、価格・所得政策の根本的転換が図られ、農業生産法人の要件緩和など、農地法によるこれまでの厳格な土地政策も見直されつつある。
 一方、農業の実体はどうか。従来からたびたび指摘されていたように、一部大規模農家が増加しているとはいうものの、依然として農家数と農業従事者数の減少が続いているが、最近では2000年世界農業センサスでも明らかにしたように、副業的農家より主業的農家の減少率が高くなっているのである。このように将来育成すべき農家が多く減少しているため、耕作放棄地はこれまで以上に増加しているが、これは国内農業の食料供給力の低下を意味することはいうまでもないことである。
 こうした状況にあるだけに、現在重要なことは、今日転換されつつある農業政策は最近低下している国内農業の食料供給力を高める方向なのかどうかを明らかにすると同時に、基本計画で決定されている食料自給率目標を期限までに達成するにはどうするか、を究明することである。
 なぜなら、新基本法では「食料の安定供給」を基本原則の第1に掲げており、基本計画に基づく食料自給率目標の達成は、新基本法が掲げた最初の目標で、これを達成するためにどのような政策が実行されるかは、まさに新基本法が本当に国民の食料を安定的に確保する上で有効な役割を果たすのかどうかをみきわめる試金石ともなるからである。
 このような意味で転換期における農業政策の特徴を明らかにし、将来の農業政策についての方向を示すことが当面する重要課題のあのである。そのためには多様な方策が考えられるが、戦後の農業政策の展開をたどりながら一定の検証を行うことも重要なことと思える。本書はこうした意図のもとで執筆したものである。
 ここで本書をよく理解していただくためにも、次の点についてあらかじめ明らかにしていきたい。
 第1は戦後農政の展開を跡づけ、検証するといっても多様な政策についてすべて検討することは不可能である。そこで本書では「食料の需給問題」を中心に検討していることである。これは「国民食料を安定的に供給すること」が21世紀におけるわが国の最重要な国民的課題の1つと思うからである。これはすでに述べたことでもある。
 第2は「食料の安定供給」の考え方についてである。新基本法でも明らかなように、普通「食料の安定供給」というと「国内生産」、「輸入」、「備蓄」の3つの要素が指摘されるが、本書ではこのうち「国内生産」をもっとも重視していることである。その理由は、国民の間に強まっている食品の非価格的要因である安全・安心、新鮮さ、美味しさなどが最も期待されるのは国内生産物だからである。また、環境・景観の保全、災害防止、教育・文化など多様な機能の発揮は、健全な農業生産が国内に存在してはじめて可能となる。
 第3は、各政策についてそれが策定された経過だけでなく内容についても可能な限り明らかにするとともに、検証する場合は生産者・国民の視点から行うようにつとめたことである。
 と同時にあわせて強調したいことは、1つの政策がその目的を達成できなかった要因には、政策内容自体が不適切で国民の支持を得られなかったことと同時に、政策の実施主体の問題も重要なことである。これは実施主体がおかれた政治的、経済的条件ということもできる。政策の検証にはこの2つの側面からの究明が必要なのである。
 いずれにしても類書が多い中で、本書がどのような位置を占めるのか、それは読者ご自身が判断されることである。忌憚のないご批判をいただければ幸いである。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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