農業協同組合新聞 JACOM
   


自著を語る  福間莞爾 (財)協同組合経営研究所理事長
転機に立つJA改革
『転機に立つJA改革』
財団法人 協同組合経営研究所発行、
2006年1月1日、B6
1,800円(本体+税)

福間莞爾 (財)協同組合経営研究所理事長 


◆総合JAを維持・発展させる条件は

 年末の規制改革・民間開放推進会議での最終答申で、株式会社の農地取得やJA事業分割は見送りになったが、同会議は引き続き農地問題やJAについて検討していく方針と伝えられる。小さな政府を目指す小泉政権としては、さらに構造改革を進めようということであろうが、総合JAについて「会議」が云々するというのはそもそもおかしな話である。JAはもともと民間団体であり、規制改革・民間開放推進会議の議論に馴染まない。信用・共済事業の分社化の議論にもみられるように改革会議での議論の本質は、会社にして効率を上げるべきだという一般論ではなく、目的はJAの事業分割そのものにある。そして、その根底にあるのは、財界の農村市場進出にあるといっていい。総合JAの可否については、JAの組合員自らが決めることであって役所からとやかく言われる筋合いはない。
 他方、際限のない競争社会の中で株式会社と行政の間に立つ非営利組織としての協同組合の役割発揮が求められている。公的機関である行政のサービスを株式会社に移行するといってもその弊害が出てくる。マンション等の耐震強度偽装問題は、役所の検査でも同じことが起こったという意見もあるが、熾烈な競争社会での過度の合理化の結果という面があることは否めない。いずれにしても、勝ちか負けか、損か得か、というモノレール型経済だけでは世の中はおさまらない。そこに非営利組織としての協同組合の果たす役割がある。
 それでは、協同組合の中で重要な役割を担っているJAの役割とは何か。協同組合として役割を果たすと言った場合、JAが総合事業を営んでいるということは決定的に重要である。協同組合原則にいう「地域への貢献」は、具体的には地域の農業振興にしろ、高齢者対策にしろ、JAが総合事業体であるからできるのだといえる。JAの分離・分割により地域の協同活動の場は失われることになるし、地域における非営利の協同組合の役割がなくなれば国民経済にとってもいい結果をもたらすとは考えにくい。JA改革も煎じ詰めれば総合JAの限りない発展を目指すものであるといってよく、このために、組織整備、すなわち、JA合併と連合組織の効率的事業運営・事業機能の強化が求められている。
 それでは、このように重要な意味を持つ総合JAを維持・発展させる条件・方策とは何か。それは大きく分けて、三つある。一つは、総合経営を破綻させないこと、それには、(1)信用事業の信頼維持・破綻防止と(2)経済事業の経営的確立、そして、三つ目には、総合事業を積極的に発展させる方策の推進である。(1)については、JAバンクの適切な運用、(2)については、第23回JA全国大会議案によって示された経済事業改革を着実かつ、速やかに実践に移すことが求められる。さらに、総合事業の展開については、事業・経営面でほとんどがJA任せになっている現状を、何とか変えていく必要がある。事業については、総合的事業展開ができる方策、例えば、組合員まるごとニーズ・願いの把握・発見、各事業連携商品の開発、各事業共通カードの開発・活用等、さらに、経営的には他に類例を見ない非営利の大規模総合事業体の経営学の研究・確立が求められる。
 また、官民あげて取り組まれようとしている担い手問題については、水田農業のもつ社会的役割の評価、総合JAのもとでの官民の適切な役割分担の視点が欠かせない。

(2006.1.11)



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