農業協同組合新聞 JACOM
   


自著を語る 福間莞爾
自著・なぜ総合JAでなければならないか

「なぜ総合JAでなければならないか」
(全国協同出版、2007年5月)

福間莞爾


―課題の大きさに比べて議論が少ない総合JA―

 本書は、総合JAについて正面から取り上げた書です。学識者等によってこれまでに述べられた内容は、そのほとんどが単にJAということでありJAグループ組織内の議論においても同様です。いま、批判・問題とされているのは総合JAです。その意味では、本書が発行され、総合JAについて問題提起した意義は大きいと思われます。筆者の認識によれば総合JAが解体されれば、とくに、農村地域においては、協同組合活動は姿を消し、地域社会の崩壊が決定的になります。総合JAは、単に各種事業の兼営体ではなく、組合員経済に一体的に対応する、地域における非営利の経済・社会システムだからです。
 その総合JAは、(1)総合JA批判―総合JA脅威論と企業的農家育成妨害論、(2)農業政策の転換と官から民へのサービスの移行を背景とする農水省の職能組合強化の指導、(3)信用(JAバンクシステム)・共済事業における事業縦割りの深化、(4)総合JAに対する認識の不統一など、環境の不確実性(総合JAの危機)に直面しています。
 このような事態に、そもそも総合JAとは何かを、トンプソン・モデルによって説明しました。このなかで、総合JAとは、組織のテクニカル・コア(中心軸)として協同(組合)活動を行い、そのテクニカル・コアを防衛するものとしてのドメイン(事業・活動領域)を農業振興と総合事業として位置づけました。総合JAとは何かを一言で説明することは難解で、人によって解釈は、さまざまです。総合JA批判には、統一的な理解が必要です。このことによって、総合JAの戦略展開の方向と総合事業解体論への反論の糸口がつかめると考えます。
 また、総合事業の意味、総合JAの意義について解説しました。総合事業の意味については、組合員のニーズ・願いを事業別に分離・分断せず、組合員経済に一体的に対応すること、総合JAの意義については、組合員の組織活動と事業活動を分離・分断しないことをあげました。
 10月1日から郵政の民営化がスタートしました。これにより、郵政事業は、持ち株会社の下、(1)郵便事業、(2)郵便局、(3)郵貯銀行、(4)簡保生命保険の4社の事業に分割されました。郵政事業は、JAで言えば経済事業に相当する郵便配達業務を中心として貯金や保健業務を兼営していました。これを分割してしまえば、郵政事業はその最大の強みを失うことになります。現に、地方では、採算の合わない郵便局の廃止が現実のものになっています。JAも他山の石として、このことをよく考えておくことが重要でしょう。
 さらに、今後の方向について、JAの自己責任経営体制の確立として、(1)組合員主体のボトムアップの事業システムの確立、(2)農業政策についてのJAと行政との役割分担の明確化を指摘しています。同時に、これまでの総合JAの発展経緯、特質・論点等についてもふれています。
 本書は、総合JA解体論への理論武装を意図した書であり、今後のJA論の教材(議論の素材)ともなりうるものだと考えます。総合JAの意義、21世紀「新総合JA論」への展開、ひいては、現代の協同組合のあり方全般について、関係者の議論が深まることを期待します。

(2007.10.19)



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