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シリーズ 食糧法改正とJAグループの米改革
主役となる責任と自覚を持とう
16年度からの着実な実践を


冨士重夫 JA全中食料農業対策部長

 3月7日、食糧法改正案が閣議決定され、今通常国会に上程されることとなった。併せて今回の米政策改革の全体像や、現段階での具体的内容・考え方を盛り込んだ「基本要綱」も決定し、公表された。
 昨年12月の米政策改革大綱決定以降、農水省と全中・全農でワーキングチームを設置し検討を重ね、2月20日、28日における自民党基本政策小委員会、農林部会、総合農政調査会合同会議での協議等を経て、取りまとめられたものである。

1)食糧法改正案と基本要綱

 今般、なぜ改正法案と米政策改革基本要綱を併せ同時決定したのか。このことについては大きく分けて2つの理由・背景があった。
 第1点は食糧法そのものの限界からである。食糧法は、米穀の価格の安定、適正な流通を確保するために設けられたものであり、言わば米粒に関する条文であり、今回の米政策改革大綱に基づく構造政策や経営政策、水田における米以外の作目振興に関することは規定できないということがあった。
 第2点は、生産調整を規定するとしても、生産者・団体が主役となるシステムなり、それに向けての条件整備や円滑な移行への具体的内容や、国及び地方公共団体の役割についても総論として記述できても、具体的な内容までを条文化するにも限界があった。
 こうした食糧法の限界から、単に改正法案だけでは大綱の意味内容が伝わらない、具体的内容やイメージが解らなければ現場も混乱するだけで、誤解やまちがった情報が伝達されることも想定された。したがって大綱に基づく、現段階で整理できる考え方や、具体的内容を、構造政策、経営政策、生産政策も含めて取りまとめた「基本要綱」が必要であったし、逆に法律ではないけれど、現段階での全体像を分かりやすくしたものとしては、この基本要綱の方が極めて重要なものと言える。

1.食糧法改正案の内容

(1)基本指針の策定
 農水大臣が現行の基本計画に代えて、米の需給と価格の安定をはかるため、需給見通し、備蓄運営の方針等を内容とする基本指針を定める。そしてこの基本指針の策定にあたって審議会の意見を聴くとともに、需給見通しに関し知事の協力を求めることができることとした。
(2)生産調整の円滑な推進
 1)政府の生産調整施策の基本的な方針として、生産者の自主的努力を支援するとともに、水田における米以外の作物の生産振興に関する施策とその他の関連施策との連携をはかり、地域の特性に応じて行うこととした。
 2)生産出荷団体等が主体的に生産調整を推進するための手法として、団体等が生産数量の目標の設定方針等を内容とする米の生産調整に関する方針を定め、これを国が認定する制度を設けることとした。
 3)国及び地方公共団体は、こうした生産調整の方針の作成や、その適切な運用のために必要な助言・指導を行う旨を規定することとした。
 4)こうした生産調整に参加する生産者が、豊作分等を区分出荷し、過剰米処理する場合は、これに係る無利子資金の貸付けを受けられる旨を規定することとした。
(3)適正かつ円滑な流通の確保
 現在の計画流通制度やその関連制度を廃止し、新たな安定供給体制を整備することとし、
 1)過剰米処理に係る無利子資金の貸付け、安定供給の確保に資する売買取引に係る債務保証等の業務を行う指定法人制度を設ける。
 2)現在の価格形成センターを、米穀価格形成センターに改称し、取引方法の拡充、売買資格者の規定の整備等を行う。
 3)米穀の出荷又は販売の事業を行うものについて氏名・住所等の届出と帳簿の備付けを義務付ける。
 4)緊急時における政府の対応を再編し、米全体を対象として必要な規制を行うことができることとした。
 なお、19年産までの米穀の基本指針については、地域別の生産の目標数量を定めることを経過措置として規定し、19年産までの国の配分を盛り込むこととした。

2.米政策改革基本要綱の内容

(1)米政策改革の全体像

 

 米政策の改革は、単に生産調整の達成を主目的とした対策から、米づくりの本来あるべき姿に向けた地域農業の構造改革を地域で統一的・総合的に実践する取り組みに転換し、この一環として生産調整を推進する。
 このため、地域水田農業ビジョンを策定・実践し、このような取り組みをすすめる中で農業者・団体が主役となるシステムを構築する。こうした生産調整と地域農業の構造改革とが有機的に連携するという思想を食糧法に位置づけ、この方針の下に具体的措置や産地づくり推進交付金等の施策を講ずる。
(2)地域水田農業ビジョン
 今後の米・水田農業政策は生産調整のみ切り離して展開するのではなく、地域の作物戦略・販売、水田の利活用、担い手の育成等の将来方向を明確にした地域の水田農業全体のビジョンを、都道府県等と連携し、市町村、農協、共済組合、担い手等地域の実情に応じて構成する協議会で作成・実践し、定期的に実施状況の点検評価・見直しを実施する。
(3)主役となるシステムと国・地方公共団体の役割
 農業者・団体が主役となるシステムとは、平成16年産米から数年間の新たな生産調整システムの経験を踏まえ、在庫状況等の客観的な需要予測に基づき、農業者・団体が主体的に地域の販売戦略により需要に応じた生産を行う姿。
 国の役割は 1)基本指針による客観的な需給見通しの策定 2)生産調整方針に関する認定ならびに助言・指導など自主的取組みの支援 3)地域水田農業ビジョンの実現が図れるよう構造政策・経営政策・生産政策を総合的かつ有機的に連携をはかり実施4)各種情報提供。
 地方公共団体の役割は 1)国の需給見通し作成に対する情報提供 2)地域水田農業ビジョンを生産出荷団体と一体となり作成 3)生産調整方針が地域農業振興に資するものとなるようその作成・運用に際し、その着実な推進、ビジョンとの整合性確保、関係団体との調整などに関する助言・指導 4)ビジョン実現に向けた農業者への支援 5)各種団体組織との間の連携に関する調整など。
(4)経営政策・構造政策
 認定農業者制度の見直し、改善を行い集落段階での話し合いを通じ地域ごとに担い手を明確化する。その際、集落営農のうち一元的に経理を行い、一定の期間内に法人化する等の要件を満たす「集落型経営体」を担い手として位置づける。産地づくり推進交付金の米価下落影響緩和対策に上乗せし、稲作収入の安定を図る「担い手経営安定対策」を実施する。農地の利用集積促進が可能となるような制度面の措置を強化する。水田整備の事業体系を利用集積、経営体の育成等への整備に転換する。
(5)農業生産対策
 田畑輪換を中心とした持続的な輪作体系に基づく水田営農の展開によって多面的機能の発揮を図る。また地域実情に応じた畑地化等の推進をはかる。
 需要に価格面で対応するため、省力化、低コストの推進、需要拡大に資する開発の推進、安全・安心に応える環境保全型農業の拡大を推進する。麦・大豆・飼料作物に関する施策については、ミスマッチの解消に資する対策や耕畜連携推進のための対策を実施する。

2)JAグループの今後の米政策改革への取り組み

 JAグループは4月以降、産地づくり交付金や担い手経営安定対策などの 1)メリット対策に関する具体的な要求の考え方と、 2)JAグループ自らの今後の取り組み課題を整理した「JA米改革戦略」の二つのテーマについて組織討議を実施する。 1)については、7月に具体的な要求として決定し、16年度予算の概算要求決定の7〜8月に特別運動を展開する。 2)についてはJA全国大会の議案として6〜7月にまとめ10月の大会で決定し、その着実な実践に取り組んで行く。

(1)生産調整メリット対策の具体策
 大綱や基本要綱によって、その基本的考え方や枠組みについては明らかになっているが、その財源や単価・交付基準、要件などについて組織討議を踏まえ具体的な要求を固めなければならない。その項目は大きく分けて 1)産地づくり対策の具体的仕組みとその交付基準・水準の考え方 2)米価下落影響緩和対策の補てん水準と政府助成の水準など 3)担い手経営安定対策の対象者の要件と補てん水準など 4)過剰米短期融資制度の融資単価と生産者手取り水準などであるが、いずれも財源、水準がキチンと確保されてこそ、米政策改革の円滑な実施が図られるのであり、現場の理解と納得も得られるものである。
(2)JAグループ米改革戦略
 JAグループ自ら、水田農業の構造改革と米事業の改革について具体的に今後どう取り組んで実施して行くのか。その中長期事業計画の策定・実践である。
 その項目は 1)「地域水田農業ビジョン」の策定・実践を通じた地域の創意工夫ある取り組み 2)水田農業の構造改革の実践を核とした「水田営農実践組合」 3)地域の特色ある農業の展開、生産者手取りの確保による農業経営の安定 4)JAの取り組みを基礎とした「米事業システムへの改革」 5)水田農業の発展と活性化に向けた「協同」と「競争」の展開 6)安全・安心な米の消費者への提供に向けた取り組み 7)瑞穂の国として日本の米を世界に輸出する取り組みを柱として現在、検討をすすめている。
 米政策の改革は平成20年産からの主役となるシステムへの移行を目指して16年度から着実な取り組みを実施していかなければならない。
 まさに主役となる責任、自覚を持って自らのために、自ら実践していく取り組み事項をグループの共通認識として確立していかなければならない。 (2003.3.10)




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