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コラム
砂時計

コンプライアンス

 最近、はやりだした‘コンプライアンス’という英語は、狭義では‘法令を遵守する’という意味に使われるようですが、何故こんな簡単なことを、英語で言い直さなければならないのでしょうか。日本人は、狭義だろうが、広義だろうが、遵法精神も倫理感も強く持つ国民であったし、現在でもそう大きくは変わってはいないと思うのです。
 それでも、牛肉をはじめ、鶏肉や野菜/果実などの安全性に対する消費者の信頼を回復することが急務であり、そのためには、猫の手だろうが、カタカナ語の応援だろうが使えるものは使って関係者の意識改革をすることも必要でしょう。また、これに違反した場合の罰則も、従来のような名目的、形式的なものですまさずに実質的に強化することは適当だと思います。わが国では、従来、特に、経済法の下では、法律上の罰則よりも、マスコミなどで公表しさらし者にした後の社会的制裁の方が極端に重いことが多いが、これは、一種のリンチによる縛り首のようなものであり法治国家としては、好ましいこととは思えません。 
 他方で、法律や規則自身も、遵守されるに値する納得性のあるものを構築する責任とそれを説明する義務が行政当局には、あるはずだと思います。たとえば、食品添加物は種類も多く、専門家以外には、安全性について判断のしようもありませんが、厚生労働省は、日本では、従来、使用を認めていなかったが、国際的には安全と認められているフェロシアン化物のような食品添加物の使用を認め始めました。
 その背景として、違反があまりに多いので基準を緩めたとも報じられました。それが事実としたら、そんなことが、理由になるのでしょうか。せめて、遅ればせながら、安全が確認できたので日本でも使用を認めることにしたと説明していただきたいものです。そうでないと、無責任のそしりを免れないだけでなく、システムそのものに対する不信感が生じ、そこから、‘コンプライアンス’軽視の風潮をまねきかねないからです。 
 だいたい、日本では、新しい食品添加物を申請し承認されるまでに手間と時間を含めコストが大きすぎるために、承認が申請ベースでは経済性が成立しない。結果として、国際水準に乗り遅れていたとすれば、これはわが国特有の一種のシステム障害としかいいようがないし、この改革こそが必要でしょう。
農薬についても同じです。仰々しい名前の“農薬取締法”を改正する動きが進んでいます。
 特別に指定された‘特定農薬’以外の無登録農薬は、販売はもちろん輸入や農家の使用を禁止して罰則が強化されることになるらしい。無登録農薬を使用すると最高で3年の懲役だという。この罰則が適当かどうかの議論は別にしても、現在、さまざまな形で使われている農薬効果をもつものをどうやって‘特定’するのか。新しい混乱の原因にならないか心配ですが、いずれにしても、まったく安全な農薬などは考えにくい。要は、使い方次第、残留次第でもありましょう。
 従って、食品としての安全性は、最終的には、収穫された生産物で確認するしかない。コンプライアンスの前提には、生産者から消費者まで一貫して納得性のある、現実的なシステムが不可欠です。関係当局には、罰則を強化して、それを官報で公表して一件落着とするのではなく末端まで浸透するような啓蒙活動や説明責任を十分に果たして頂きたいと思います。 (ジョージ)


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