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コラム
砂時計

改革は一日にして成らず

 塩野七生氏の“ローマ人の物語”第11巻が先月発売になりました。タイトルは、“終わりの始まり”です。1年に1作ずつ書き下し、全部で15巻で完結の予定らしい。何故か分からないのですが、ともかく、すごい女(ヒト)がいるもんだと前から敬服しています。初刊から購入しているので、今回で11冊目になりますが、目次を見たり、中身もぱらぱら見る程度でいままでのところ実は、一冊も精読どころか通読もしていません。積読(ツンドク)です。それは、面白くないからでは決してありません。もっとも、読んでいないのですから、面白いかどうかも言えないのですが、これは、“面白い本”以上の本であることを直感しているからこそなのです。この本を、閑のあるときに寝そべって片手間に読むような失礼なことはしたくない。体力・気力が充実している時に、時間を十分とって朝日の中で正面から向かい合いたいと思っていたのです。
 そう思って、すでに10年たってしまいました。でも、ローマの歴史にくらべればどうということはないと思っています。ローマの建国は、今から2756年前の紀元前753年といわれ、終わりは、西ローマ帝国が滅亡した紀元476年とされます。わが国の奈良時代は、それから200年以上経ってから始まるのですから、ローマは随分と遠いはるか昔の国ということになります。
 さらに、現代の超大国アメリカが、建国から今日まででたった200年あまりしかたっていない、言ってみれば、まだ青二才のような国であることにも驚きますが、ローマは営々と1200年間も続いたのです。アメリカが世界の超大国としてこれから1000年間君臨し続ける可能性はどの位あるでしょうか。ローマも、当然のことながら初めから超大国であったわけではありません。塩野先生によれば、ローマ史を知れば知るほど、その歴史は、失敗と蹉跌の連続であったといえるそうです。但し、ローマ人は、自らの失敗を認めたとき、改革を行う勇気を失わなかった。改革の努力を放棄しなかった。“ローマ人は、失敗はしても、それを必ず次の成功につなげようとする性癖があった。失敗の原因を他者のせいにせず、自分達自身に責任があったことを直視した上で改革を断行した。 これが、ローマを1200年続く超大国にした。”のだそうです。ここまで言われると、ローマに住んで執筆活動をされている塩野先生は、ローマ帝国にぞっこんになりすぎたか、それともわが国の現状を批判するために遠い昔の国を引き合いに出しているのではないかと一瞬かんぐってしまいましたが、これがいわゆるゲスのかんぐりというものなのでしょう。先生、御免なさい。でも、ついでに言わせてもらうと、筆者は、ローマに対抗した通商国家のカルタゴにも惹かれるのです。時々、日本の運命にも擬せられることのあるカルタゴは、地中海貿易で繁栄した経済大国でした。3世紀の初めには、勇将ハンニバルの下で、ローマを追い詰めたことでも有名ですが、結局は、ローマに負けて滅ぼされてしまいました。新年を、“終わりの始まり”にしてはならないと思います。
 私たちは、今、21世紀の世界に通じる長いトンネルを通過中なのだと信じます。情報技術の発達などに伴う新世界を切り開くためには“産みの苦しみ”を避けては通れない。改革を断行する勇気を失わず、1200年もの間、不断の努力を続けたローマ人から、私達現代の日本人も学ぶ点があるのではないかと思います。本年もよろしくお願いします。 (ジョージ)


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