農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
砂時計
“農政改革”

 “食料・農業・農村基本計画”の“見直し”が本格化します。農業改革のためには、“農政改革”は不可欠です。ただし、そのためには、まず、従来の農政をしっかりと“総括”をしてから農政改革を進めて欲しい。
 過年度につぎ込んだ“費用”は分かっているのだから、それで所期の効果があがったのかどうか再評価することを出発点にするべきです。
 過去の農政について、客観的に評価することは、行政の得意とするところではないかもしれないが、責任を“政治”や“農業界”に転嫁したり、総括をあいまいにしたまま安易に新しい計画に移行すれば、やがてまた絵に描いたもちとなり、更なる“見直し”が必要になるだけです。そして、その間にわが国の農業は一層弱体化してしまうのです。
 国会の党首討論で、菅直人民主党代表が冒頭で小泉首相に対し、農業問題を取り上げ、わが国の食料自給率について質問していたが、質問者・答弁者双方いずれからも筆者には真剣味も、危機感も感じることができなかった。単に、農業問題も忘れていませんよというパフォーマンスにしか受け取れませんでした。
 わが国の食料自給率はカロリー換算で現在40%と先進国中最も低いが、これを増やすべきか、減らすべきか、と聞かれれば余程の変人・奇人でも答えは決まっています。表面的なこういうレベルの質疑応答は、テレビのクイズ番組程度の意味しかない。

◆関心低い食料危機論

 食料に対する国民の関心は、“美味しさと価格”のほかに、昨今では“安心・安全”です。要するに、良い品質とそれに見合う価格なのであり、“数量の確保”ではありません。今は昔と違い、量的問題を心配する人はいません。終戦後、エンゲル係数(家計における食料品支出の割合)は高い関心を集めましたが、生活が豊かになるにつれて忘れられました。これと同様に、食料を“量的に”とらえて危機感を訴えても、国民の共感は得られないし関心も呼ばない。昨年は、わが国のコメだけでなく、世界的にも大豆やトウモロコシが大減産となり在庫が激減しています。しかしながら、そんなことはどこ吹く風とばかりに、わが同胞はかつてのローマ帝国の市民以上に“飽食”を楽しんでいるのが現実です。

◆本当の食育とは?

 日本人の食生活における悩みは、老若男女を問わず、カロリーの過剰摂取であり、残さ処理なのです。肥満を始め、生活習慣病に悩み、カロリーカットを必死で努力している人々を前にして、“ご飯”をあと一膳余分にたべてくれればコメの生産過剰が解決しますと“国民運動”をおこしたり、学校などで“食育”したところで効果は期待できないし、逆効果さえあると思います。カロリーだけなら酒や焼酎からでも取れることは誰でも知っていますが、カロリーだけでは十分な栄養がとれずに栄養失調になってしまいます。そういうことを教えるのが本来の食育のはずです。
 もうすぐ、わが国の人口減少が始まるし、高齢化はすでに進行中です。これはいずれも食料需要の縮小を意味する訳ですから、現在の農業生産を維持できれば、計算上はやがて自給率は向上するはずと言えないこともない。しかし、仮に10年後に、自給率が40%から45%に増えたとしても、一体それにどんな意味があるというのでしょうか。今回の見直しでは、わが国の農業の構造改革に本当に役立つ実効性の有る現実的な目標と、そこにいたる施策を示して欲しいものです。(譲二) (2004.3.11)

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