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シリーズ 消費最前線 ―― 全農直販グループの販売戦略 ―― 1

生産志向からマーケティング志向へ
―― 顧客満足度を向上させるために

 消費者は安心で安全な国産農畜産物を求める一方で、長期化する景気低迷も影響し、輸入品など低価格志向を強めている。また、高齢化・少子化の進展や生活様式の変化が、家庭食標準サイズの少量化、食の外部化など食の簡便化をもたらし、若い人たちを中心に食生活そのものが大きく変化してきている。
 そうしたなか、食料品マーケットで主導的な立場にあったスーパーは、オーバーストアと価格競争、CVSの巨大化と多機能化などによって厳しい経営状況に追い込まれ、中には経営危機に陥るなど淘汰と再編の時代を向かえている。
 このようにマーケットや流通業界が大きく変化するなかで、消費者ニーズに応えて国産農畜産物の需要を拡大するために、消費者の「もっと近くに。日本の新鮮をお届けします」というメッセージをJA全農は掲げた。そこで、川下に向かって積極的に事業展開をしているJA全農直販グループ各社が、どのような商品戦略・販売戦略を展開していくのかを取材した。第1回は、畜産販売グループである、全農ミート(株)、全農チキンフーズ(株)、全農鶏卵(株)。

倹約と節約の食生活時代
鶏料理「べにばな銀座賓館」では作り置きでなく、産地直送の熟成した姿蔵王べにばな鶏を捌いて見せてくれる。「自信をもって鮮度のいいものをお客様に提供しています」と飯高店長。女性に人気抜群の店。
 

 「バブル崩壊」以降、景気は一向に回復する兆しをみせない。昨年のいまごろ「自律的回復に向けた動きが徐々に強まっている」といっていた政府も、「景気は悪化しつつある」と6月の月例経済報告で認めざるをえなくなった。こうした景気低迷による厳しい所得環境を反映して、食料品など生活費需品を切り詰めたり、低価格品を求める傾向は強まってきている。反面で、携帯電話やなどの通信費の伸長、自動車購入の堅調など、消費構造そのものが従来に比べて大きく変化してきている。
 食料品についてみれば「ユニクロ現象にみられるように、単価の安いものは伸び、高いものは落ちるという顕著な傾向が見られたのが12年度の特徴」だと石田泰則全農ミート加工食品部長。さらに、社会の高齢化・少子化の進展、高齢者夫婦のみ世帯の増加など家族構成の変化。女性の社会進出による共稼ぎ世帯の増加(40〜50歳代主婦の60%以上が有職)など、消費者の生活環境が変化し、それが食のマーケットに大きな影響を与えている。
 それを列挙すれば、家庭食標準サイズの少量化、外食・中食・調理食品など食の外部化と簡便食品の伸長、家族の生活サイクルや嗜好の違いから個食(孤食)対応の進展、生活習慣病人口の増加による和食・健康志向の強まりなどがある。要約すれば、大量生産・大量消費を背景とする「グルメブーム・飽食の時代」から、少量多品目・低価格志向による「倹約と節約の食生活」の時代になったといえる。

安心できる食生活がこれからのニーズ
焼き肉レストラン「ぴゅあ新橋店」では、おいしさにこだわった国産和牛を使用。ランチタイムには店の外まで行列が。良質の食材と、素材の味を生かしたタレとの絶妙のバランスは若者にも好評。
 

 一方で、遺伝子組換え食品などにみられる安心・安全志向や環境問題への意識も高まってきており、今後の食に対するニーズは、安全・安心・美味・健康、簡便・利便性、年齢階層別・嗜好などカテゴリー別個食化を背景とする「安心できる食生活」ではないだろうか。
 田村和人全農チキンフーズ企画部長も「いままでは国産でキチンとしたものを作っていれば消費者の支持を確実に得られたが、今後はユーザーの値ごろ感、安全性、利便性・簡便性に応えられる新たな事業構築を迫られている」のが現実だという。
 さらに個人消費が減退するなかで「売れないから安くする、安くなければ売れない」という「負の連鎖」によって経営を悪化させている量販店など小売業界の状況も低価格志向を後押ししているといえる。量販店は30%オーバーストアになっていると指摘するエコノミストもいるように過当競争にあり、淘汰・再編を迫られており、店の収益を上げるために「いままでのような穏やかな値下げ要請ではなく、有無を言わせぬ要求が各取引先より相次いできている」(加藤訓康全農鶏卵営業本部長)。この対応に苦慮している状況となっている。

顧客満足度は個人満足度

 ある生協のマーチャンダイジング(MD)の基本視点には、1.「全ての世帯」の消費者が利用できる「商品構成」、2.世代・家族構成などライフスタイルの変化に対応し「商品の選択幅を拡大」、3.「より安さ」の実現、よりよい「品質(食味・安全・健康への配慮)」の追求(主力商品の品質・価格・量目で選べる品揃えも)などがあげられている。つまり、個々の消費者のライフスタイルにあわせたきめ細かいマーケティングにもとづいたクオリティーの高い商品を低価格で、という相反するものをメーカーや生産者は求められているわけだ。
 実際にはそこまですることはできないが「顧客満足度を個人満足度のレベルまで降りて考えなければいけない」「そういう気持ちになって商品開発をしないと難しい」状況にあると石田部長はいう。田村部長は加工品分野では安い輸入品原料とバッティングするので「なぜ国産品なのかを、安心・安全・利便性、きめ細かなサービスをキーワードに明快に説明」し、支持者を増やしていかなければいけないともいう。

安全・安心をキーワードに
「水餃子」 季節感のない加工食品のなかで、春夏の冷やし水餃子、秋冬の鍋物に適したスープ餃子と季節感を出し、食材宅配事業でも好評。
 
「ぴゅあ唐揚げ」 日本一の唐揚げの町・大分県中津の味、おふくろの味を再現した和風、ピリッとした辛味と甘さの韓国味と品揃えも豊富。
 
「しんたまご」 商品のライフサイクルが短くなるなか発売10年を超えたいまも「生でおいしい卵」と固定客が増えている。
 

 ブロイラー需要のうち、家庭で消費されるのは30%程度で後の70%は業務用・加工用だ。この業務用・加工用で支持されなければ国産のシェアを確保することはできない。そのため、全農チキンでは、長期無薬飼料飼育の「ぴゅあ鶏」を通常商品として供給し、これをベースにPHF・NON-GMOコーンを使用しさらに安全性にこだわった「安心咲鶏」も開発。さらに佐賀経済連では、カルシウムたっぷりな有明海産のカキガラを入れた「骨太安心咲鶏」をオリジナル商品として開発している。
 「物価の優等生」といわれている卵では、発売10周年を向かえた「しんたまご」など特徴卵が、レギュラーに比べて価格は高いが大都市圏で定着し全国の生産ベースで30%程度のシェアも占めている。「しんたまご」は「生でおいしい卵」が支持されている理由ではとあるスーパーのバイヤーはいう。スーパーでは店の収益性を高めるために特徴卵の取扱いを増やす傾向にあるという。卵の場合には安い価格が定着しているので、消費者から安くという声は少ないが、それには生産に関わる各分野での努力があると加藤本部長。生産者は16〜17年前には約14万戸だったが現在は約4700戸にまで減った。「これらの生き残りをかけた生産者の中には価格はあまり高くならなくていい。あまり高くなると外国から入ってくるから…」という。すでにアメリカ・中国から殻付卵が少量ながら入ってきており、「スキをみせればそれが増える」からだ。
 全農鶏卵では、今年、品質管理課を設け、いままで以上に品質管理・衛生管理に力を入れ、安全・安心ニーズに応えることで、競争力を強化していくことともに、4個入りなど少量パックなど「小刻みな対応」をしていくことを考えている。

消費者と直接接することで

 すでにみてきたような消費動向のなかでは、ナショナルブランド商品を開発することは難しい状況にある。きめ細かく消費者ニーズに応えた商品開発を行うために、各社とも生協や量販店とチームMDによるPB商品の開発に力をいれていく。そのためには、メニュー提案力・商品提案力を強めていかなければならない。
 全農ミートでは「顧客の顔の見える商品開発」を商品政策の基本にすえているが、売場へ行く、生協などのカタログを見る、居酒屋、ホテル、高級レストランなどを「食べ歩く」ことで、商品開発のアイデアを探すという。石田部長は「現場に行き、消費者と直接接し」「作る人と食べる人が一致すれば相思相愛の商品ができる」。そして「作る人も消費者だという気持ちをもたなければ、いい商品はできない」とも。
 全農チキンでは、加工品としての唐揚げ(冷凍)などを開発するとともに、鶏料理店「べにばな」や「町のからあげやさん 旨味」、コンビニとタイアップした唐揚店の「鶏鶏番番(チキチキバンバン)」などの店舗を展開し、「おいしい状態で消費者に直接食べてもらう」ことや、インターネットでのギフト商品の販売も手がけるなど、消費者への働きかけも行っている。
 長い間、厳しい「風にさらされてきた」畜産関係各社は、コストを積み上げ価格を設定する「生産志向」から、きめ細かなマーケティングによる商品開発へ戦略を転換し、消費者の「もっと近くに」を具体的に展開することで、生産者の付託に応えようとしている。(次回は、東・西パールライスの販売戦略を探る)


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