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シリーズ 消費最前線 ―― 全農直販グループの販売戦略 ―― 2

売れる環境を考えた商品提案で信頼獲得
―― 厳しいコメ流通業界での生き残りをかけて

全農パールライス東日本(株)
全農パールライス西日本(株)

 コメの消費量がわずかだが増えてきているという。自主流通米の入札価格も回復してきた。しかし、入札価格をそのまま反映することができないコメ流通業界は厳しい状況にある。そうしたなかで、全国のJA卸が生き残っていくために広域卸会社として全農パールライス東日本と同西日本が誕生した。「消費最前線」第2回はこの両社に、これからの販売戦略を聞いた。

入札価格が上がっても小売価格には反映できない

全農パールライス東日本(株)
東京支店八王子工場正面
 
 6月22日、12年産自主流通米の第12回入札が行われ、新潟・魚沼コシヒカリ、同・佐渡コシヒカリ、同・一般コシヒカリ以外の銘柄は前回入札価格を1000円前後上回って入札された。このことは生産者にとっては喜ばしいことだが、この価格上昇をそのまま小売価格に反映させると、今まで売れていた銘柄でも売れなくなるものが出てくるのではないかと危惧する人。「入札でこれだけ上がりましたから卸値はいくらになります」ということでは通用しない。入札で上がっても安いままで売らなければならない、と指摘する卸関係者もいる。
 なぜか? 産地間競争もあって、最近のコメの品質は向上しどこの産地、どの銘柄をとってもコメとしてのうまさ・食味に大きな違いがなくなってきている。このため消費者は自らの「値ごろ感」にあったコメを産地・銘柄にこだわらずに購入する傾向が強くなっている。首都圏など大消費地の量販店などで売られているコメの中心価格帯は、1980〜1880円/5kgだ。周囲に競合店が多いため極端な商売をしなければならない店では、1580円とか1680円を中心価格にしているところもある。この価格帯が消費者の「値ごろ感」だといえる。
 いままで食べていたコメであっても、この価格帯からはずれ高くなれば、この「値ごろ感」にあった他の産地・銘柄米に消費者がシフトしてしまう可能性はかなり高い。
 また、量販店や生協の企画は、それが実施される2ヶ月前には決定されるが、チラシなどの印刷の関係もあり価格が最終的に決められるのは1ヶ月前だ。そのため、入札価格が上がったからといって即それを小売価格に反映することはできない。ましてや、量販店、生協の収益率は低下しており、「顧客離れ」につながりかねない値上げをしにくい事情もあり、小売サイドには入札結果を直接小売価格に反映できると考えている人は少ないといえる。
 政府米と自主流通米の合計は400万t強。取扱量10万tクラスの卸が40もあれば足りる規模だが、卸売会社は全国に390くらいもあり、文字通りしのぎを削る過当競争の渦中にあるというのが実態だ。
新たに導入された話題の無洗米製造装置NTWPは7月中旬に特許登録される
 

精米流通がコメ流通の主流に

 この過当競争にJA卸が生き残っていくために広域卸会社として、全農パールライス東日本(株)(パール東日本)と全農パールライス西日本(株)(パール西日本)が、この4月に9県(東7、西2)の参加をえて誕生した。いずれはこの2社を核にして全国46のJA卸を統合していこうという構想もある。
 この2社に期待されているのは「産地をバックにした卸として、コメの生産から販売までの仕事を大事にし、産地の情報を消費者に伝え、消費者のニーズを的確に産地に伝える」(渡辺徳義パール西日本社長)ことと、「生産者が再生産でき、将来も安心してコメを作り流通に乗せられるその代理店として、系統の仲間である東西のパールライスがあるという安心感をもってもらえる」(福島豊純パール東日本取締役営業部長)ようにすることだ。
 そのためにどのような販売戦略をとっていくのか。現在のコメ流通は、原料である玄米流通が減少し、精米流通が主体となっている。家庭用はかつての精米機をもった米穀専門店から量販店や生協が主体だし、業務用の大手はおにぎりや弁当などをコンビニに供給するベンダーに様替りしている。そしてそこに卸が直接取引きをする時代になっている。そうでなければコストが合わないからだ。

コスト低減、統一した高い品質管理で

 この精米流通で成功する基本は、コストの低減、品質管理、新たなコメ商品の提案の3つで信頼を得ることだと福島部長。
 いま無洗米が生協を中心に急速に伸長し量販店での取扱も増えている。従来であれば各県に無洗米工場が必要だったが、1つの会社になれば拠点ごとに施設が共有できる。こうした施設の合理的な利用、配置、重複する施設の統廃合などによって物流の合理化を含めてコストの低減をはかることができる。低減されたコストは、消費サイドに還元したり、新たな設備に投資することで品質を向上に使うこともできる。
 品質管理については、従来、各県卸の生い立ちや地域性もあって考え方に若干の違いがあった。しかし、これが統合し1つの会社となったわけだから、どの時点でも、どこの工場から出荷されたものでも「パールライス」の商標をつけた商品は、品質がまったく変わらないというのが理想だ。
 そのため、東西両パールライスでは、品質管理研究会を社内に設置するなどして、各工場の品質レベルを高い水準で統一する努力をしている。
いま、続々と米の新顔が登場している。全農パールライス 東日本(株)の無洗米を取り扱っている(株)いなげや・昭島北中神店では米売場の1/4が無洗米。
 

隠し事のないオープンをセールスポイントに

 いま消費地では発芽玄米や新形質米が、消費者の健康志向とマスコミに取り上げられる機会が多いこともあって、一定の地位を安定的に確保してきている。
 また、消費者の簡便性ニーズに応えた無洗米は、ある生協担当者によれば「確実に50%は超え60%近くになっている。100%になることはないだろうが、80〜90%はいくのではないか」という。関東の生協から始まった無洗米の普及は、関西の生協にもおよび、東西のパールライスの無洗米工場はフル稼働の状況だという。
 こうした健康志向や簡便性ニーズに応えた品揃えをどう提案していくかも大きな課題だ。しかし、ただ商品を出すだけではダメだという。例えば無洗米でも、包材にピンホールがあってもクレームになるので、どういう包材を使うのか。量目は5kgがいいのか、お試しできる3kgとか2kgを考えなければいけない。そして量販店や生協の店舗は対面販売ではないので、商品の内容や良さをどう告知するのか。そうしたことを折り込んで、商品が売れる環境を考え、商品づくりと同時に進行させて、提案していく必要があるという。
 こうしたことを通じて「よそにはないものを出し、隠し事のないオープンをセールスポイントに、信頼・信用をえることが一番の戦略」だと西山茂パール西日本取締役営業部長。


 両社とも誕生してまだ3ヶ月。まだまだやるべき課題はたくさんあるが、「こういう局面でシッカリした提案ができないと、生産者の負託にも応えられないし、消費サイドの信頼もえられない」と考えて、コメ消費の最前線で奮闘している。広域卸である両社の事業展開が拡大することで、JAグループのパールライス事業は確実に質的な転換を遂げることができるのではないだろうか。
 (次回は、全農越谷青果と全農クロップス)

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