農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために

現地レポート 農業新世紀をつくる女性たち 仲間を信じ、大切にし、ともに歩む

注文販売やネット活用で全国区へ
家族への理解も広げて――
特産品センター・かめりあ会長 井上幸枝さん(広島県世羅町)

◆生活近代化グループの1グループ1産品がルーツ

井上幸枝さん
井上幸枝さん

 井上幸枝さんは、広島県の『せら夢高原6次産業ネットワーク』会員である「せらにし特産品センター“かめりあ”」の会長を務めている。“かめりあ”とは旧世羅西町の花であった椿の意味。平成5年4月に発足した。『せらにしふれいあいの会』が、運営母体となっている。
 旧世羅西町では農家の主婦を中心とした生活近代化グループが、各地区で農産物の加工など農家の生活改善をめざして活動を行っていた。昭和58年に「広島県ふるさと一品運動」が始まり、生活近代化グループも1グループ1産品づくりに取り組んだ。その中で、はとむぎ健康茶やみそ等が商品化された。また、新四季の味づくりセミナー等を開催し、郷土料理に工夫を重ねた「いわし漬け、山菜ちまき、こば団子汁」が、新商品として誕生している。
 昭和60年、それら生活近代化グループや婦人会など町内15団体が集まり『せらにしふれいあの会』を設立した。会では、個々のグループが生産していた商品を町の特産品として、“ふるさと小包”の形で全国に向け発送するようになった。
 平成2年、町の活性化のために生き生きと活動している様子が評価され、生活改善全国表彰で農林水産大臣賞を受賞した。受賞がきっかけとなり、会員が希望していた農産物の加工所が、町の施設として建設されることになり、会がそれを管理・運営する形で平成5年4月、“特産品センターかめりあ”がオープンした。

◆12名の会員で運営、65商品を販売

青少年旅行村入口に立つ“かめりあ”
青少年旅行村入口に立つ“かめりあ”

 かめりあは、全員参加の運営委員会のもとに、加工部門と販売部門が設置されている。加工部門は惣菜部、菓子部、みそ部、もち部に分かれており、それぞれの責任者が人の手配を行い、イベントや注文などを考慮しながら、品切れにならないように生産している。販売部門では店舗、ふるさと便、イベント、市場・商品卸、インターネットに分けて提供している。ふるさと便は、春ふるさと便、かしわ餅セット、敬老の日セットなど季節に合わせた商品を、年7回全国に向け発送している。
 かめりあでは、井上幸枝さん始め12名が働いている。毎日2名が当番制で店舗の管理等を行うが、他の人は原則として各自都合の良い時間に合わせて働き、家庭生活と両立し易いように配慮されている。
 扱い商品は、もちの部でよもぎあん餅など14品、お茶の部ではとむぎ健康茶など6品、菓子の部でアップルパイなど11品、みその部で米味噌など9品、漬物の部でいわし漬けなど10品、惣菜の部で弁当など15品、計65品と多岐にわたっている。
 また、出張販売をして、毎月4日に「四日市」として西条の酒蔵通りで朝市を開いて野菜加工品等を直販したり、町内の「花夢の里ロクタン」で軽食提供と直販を行うなど、幅広く活動している。
 また、平成11年に町内の事業者が集まって立ち上げた『せら夢高原6次産業ネットワーク』に参加し、ネットワーク会員と協力しながら、せら高原の活性化に一役買っている。

◆売上は10年で約2倍、在庫管理に注意

かめりあの内部
かめりあの内部

 「設立から10年以上経って、売上は約2倍です。ゆっくりではありますが、業績は着実に伸びていると評価しています。設立当初に比べ、取り扱い商品がかなり増えているので、在庫管理に気をつけています。商売としては、ある程度の量が確保されてないと、お客さんを逃がすことになります。店舗はここだけなので、ふるさと便や出張販売などの売上が、経営に直接影響します。そのため、全国のみなさんにかめりあの存在を知ってもらい、いかに商品をPRするかがとても重要です。あらゆる機会を捉えて、知名度を上げたいと考えています。全国に向けて情報を発信するには、インターネットは重要な手段だと捉えています」と井上幸枝さんは語る。今後の事業展開でインターネットの活用が欠かせないとの認識だ。
 かめりあは旧世羅西町の中心部から離れた青少年旅行村の敷地内にあり、シーズンや曜日による売上の変動が大きいと同時に、扱い商品が旅行村の客である若者の嗜好にあまり合っていないため、店舗での販売に苦戦している。店舗での安定した売上を確保するため、国道沿いなど人の集まる場所に店舗展開することも考えているが、人や経費をどうするかという問題がクリアできず、今のところ具体的な計画はない。店舗の売上の伸びがあまり見込めない現状では、リピーターが多い注文販売や、インターネットなどによりいかに売上を伸ばすことができるかが、今後の事業展開上大きなポイントになるだろう。

◆「テンペ」で恩返しを、周りの理解が大切

かめりあの内部
かめりあの内部

 「かめりあの活動では、家族、私の場合ですと夫の理解が欠かせないと思います。私が一生懸命働いている姿を近くで見ていて、多少は理解してくれたのではないかと思っています。夫が周りの人に、かめりあの商品を進めてくれるなどサポーターになってくれているのです。身近なところで理解を得る、これはとても大切です。一緒に働いているのは農家の主婦なので、そのような理解が得られず、活動から離れていった人もいます」と、自分の身近な周りの人の理解が、いかに大切かを語ってくれた。
 また、これから実現させたいことを聞くと、「私個人の夢としては、大豆の発酵食品“テンペ”の知名度を全国区にしたいと思っています。大豆の生産地であるせらの活性化を図り、町を元気にしたいですね。それは、今までお世話になった地域への恩返しの意味もあります」と答えてくれた。

◆活動で知り合った人々が私の財産

 高校を卒業して、19歳で隣町から旧世羅西町にお嫁に来て以来、農業一筋で野菜やイチゴなどを作ってきた。「私自身も農家の生まれで、農業、もの作りが根っから好きなんです。もし、かめりあを始めていなければ、今でも農業中心の生活だったと思います。しかし、かめりあを始めたり、ネットワークの活動をするようになって、かなり生活は変わりました。当初は、農業とかめりあの活動を両立させようと苦労しましたが無理でした。家庭内の必要なことは行うが、農業との両立はやめてかめりあ中心の生活をすると決心してからは、気持ちがとても楽になったことを覚えています。今は、そう決心して良かったと思います。農業だけでは知り合えないような人と知り合えたことと、少しは広く世の中を見ることができるようになったこと、それが、自分の財産だと思っています」。
 かめりあの活動を始めて、家族、親戚、知人など町内の中だけで完結していた生活が、一気に広がった。もともと積極的な性格ではあったと思うが、多くの人と交流することで刺激され、自分を変えることができたという。人に会うことが好きで、他人から学ぼうとする姿勢には、頭が下がる。

(2005.1.21)


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