農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために

座談会 農業新世紀をつくる女性たち
ネットワークづくりと情報発信で農村を元気にしよう
堀  周子さん(山形県酒田市)
今井 延子さん(新潟県新発田市)
井上 幸枝さん(広島県世羅町)
(司会)今村奈良臣氏 東京大学名誉教授

 本号の特集「農業新世紀をつくる女性たち」は各地で地域を変えるエネルギーを発揮している女性農業者たちをとりあげその姿から21世紀の日本の農業、農村の展望を考えるために企画した。座談会では8面からの現地レポートで取り上げた女性たちに集まってもらい女性参画と地域農業の抱える課題、消費者との交流のあり方、農協への提言などさまざまなテーマで話しあってもらった。座談会で示されたキーワードは「ネットワーク」。自立した個人のつながりが地域社会を変えていく可能性が現場の実践に基づく話から示された。司会は今村奈良臣東大名誉教授。

 

◆「名刺」は自分の旗印 主張の場に女性はもっと参加を

堀 周子さん
堀 周子さん
 今村 本紙編集部によるみなさんの活動レポート(現地レポート)をふまえて今日の座談会のテーマを私は「地域に活路を拓く女性群像」としたいと思いました。レポートを読んで改めて思うのは、ひとつは3人とも自立する精神に充ちているということです。別の観点から言うと、農家という「イエ」からの自立と協調ということでもあります。それから異業種や異分野との交流、情報の受発信に積極的ですね。これらをまとめると3人ともネットワークづくりに力を入れてきたということが特徴でしょう。
 今井さんは地元での活動はもとより「全国女性農業経営者会議会長」として全国的なネットワークづくりをしていますし、井上さんは「せら夢高原6次産業ネットワーク」の主要な一員農産加工グループ「かめりあ」の会長として活躍しています。また、堀さんは酒田市で立ち上げた女性農業者の組織、「きらきらネットワーク倶楽部」の初代会長を務め若い人たちが熱心に活動する基盤をつくった。ついでながら私が常々主張してきた地域農業の6次産業化にも取り組んでいるという共通項もあると思います。
 ところで、今日、お会いしますとみなさん名刺を差し出してくれましたね。
 私は、名刺を作れないような農業者ではだめだと言ってきた。というのも農産物を売りにいったり、さまざまな人と情報交換したりというときに、名刺がなければ相手だってどういう人か分からないでしょう。つまり、自分で旗印を掲げること、が大事だということです。その点で名刺とは自分がどういうことを考えているのか社会に知らせる重要な手段です。名刺を持つことは自立する精神ということでもあるわけです。

 井上 私たちのグループも全員に名刺を持たせるように一応したのですが、まだまだ使うことをしませんね。それは社会に出ていくという癖がついていないから。たとえば、地域の会合に出ても黙って聞くだけ。男の人が話していることを、あれは違ってるよね、と思いながらも意見を出さない。そういう公的な場で自分の意見を言うという癖がついていないんです。
 そこでその癖をつけようということから、私たちのグループでは毎月の全体会の司会と議事録を順番に担当することにしたんです。そうすると徐々にものが言えるようになってきた。

  私たちの「きらきらネット」でも10年前に同じことをしましたね。
 私たちの活動を視察に来られる方が多いんですが、そのときも会長の私がすべての質問に答えるのではなく、最初にあいさつするだけでした。活動の役割分担をし話をするという形式をとりました。話す場を与えられるとどんどんうまくなっていくんですね。書くことも同じで、先日、酒田市の農業賞受賞記念の冊子をまとめながら一人ひとりの思いを書いたのですが、みな自分の言葉で素敵に書いていたのに感動しました。やはり話す場、書く場を与えられると確実に輝いていくなと思いました。
 また、女性の代表として出ていったときに、その体験を投げかえす場がないと力がなかなかつかないなと思っています。私も県の農政審議会などに出させてもらったんですが、たくさんの仲間に意見を聞いてその声をメモしていって自分の頭で組み立てて話すようにしました。そして会議の内容を仲間に伝えて意見を聞くという活動を繰り返していると、みんながいるから自分もできるんだという意識とその委員や会議がとても身近に思えるようです。

 

◆お互いを認め合い力をつけることを大切に

今井 延子さん
今井 延子さん

 今井 私は仲間と「ピンクのつなぎ」を着て農作業をするという活動を10年ほど前に始めましたが、これがマスコミに注目されたんですね。取材を受けたり発表の機会が増えたものですから、たとえば写真に撮られるときのポーズづくり(笑)に始まって、自分の意見をきちんと発表しなければならない訓練の機会になりました。寸劇ミュージカル活動もやっていますが、何を表現したいのか、自分たちの考えをどう表せば伝えられるのかという点で非常に勉強になっています。自分の意見をきちんと言うことは女性が社会参画するうえでとても大事なことだなと思いますね。

 今村 自立した個性がつながっていることが、ネットワークですからね。ただ単に人と人がつながっていることとは違うわけです。

  その基本にはお互いがお互いを認め合うことがないといけないと思いますね。この人はちょっとおかしい、ではなくて、こういうところがいい、自分にはない部分だな、と考える。自分に返しながら活動を続けられるかどうか。女の人ってとかく男性よりも足の引っ張り合いをすると思うんですよ。ですからリーダーになったときにどう関わるかがすごく大切だなと思いますね。

 

◆食文化、農の心も視野に農村からの発信を続けよう

 今村 さて、女性は食べ物の安全・安心や、環境に対しても関心が高いですね。それには子を育てるということもあって、食の安全・安心などと難しいことを言わなくても、自分の子どもに変なものは食べさせられないという根本的なものがあるからでしょう。その気持ちがもっと食の安全・安心に向けた社会的な広がりにつながっていくはずですね。みなさんの活動を見ているとたとえば特別養護老人ホームや学校給食などへ地域の農産物を供給したり、また、今井さんのようにミュージカルなどを通じた心のつながりというものを広げていく取り組みもあります。
 今後ももっとネットワークを広げるようなシステムができればいいと思っていますが、みなさんの夢を聞かせてください。

 井上 私は自分たち作っている「大豆テンペ」がすごくいい食品ですからそれを広げていきたいと考えています。地味な食品かもわかりませんが栄養成分は高いんです。それをもっと食べてもらいたい。
 大豆テンペは大豆の発酵食品でもともとインドネシアで4、500年前から食べられていた食品です。納豆のように粘ってもいないし臭いもありません。
 実は世羅町は広島県のなかでも大豆生産量がいちばんですが、味噌や豆腐だけではなくもっとほかの加工食品がないかと考えてきました。それがなかなか見つからなかったんですが、大豆テンペは紫斑病になった大豆でも原料になりますし、子どもから高齢者の食事にまでなんでも使える食品です。豆腐や味噌と同じような感覚で食べてもらえるようにすることが夢ですね。地域の大豆生産者も元気になると思うんです。

 今村 私が世羅を訪ねたときには大豆テンペを使った料理コンクールが行われていましたね。応募されたメニューは、スープやコロッケ、餃子から菓子に至るまで幅広いもので料理の基礎材料だと分かりました。栄養価も高いわけですから子どもが大好きなハンバーグなどにも使えばいいと思いますね。
 大豆をそのまま売ったらとても安いわけですが、加工して、いわゆる6次産業化していけば手取りも何倍かになります。

 井上 そうですね。大豆生産者が誇りをもってつくってもらえるようにしたいですね。

 今村 転作としていやいや作るのではなくてこの大豆は米を作るよりも最終的にははるかに儲かるんだという方向にもっていくことが大事で、それには井上さんたちのように最終消費の姿まで考えている女性の力が非常に大事になるわけです。

 

◆地域の埋もれた資源に光当て活性化めざす

井上 幸枝さん
井上 幸枝さん
  酒田にも最近、枝豆を作っている若者の生産者たちがいますが、こんなにおいしいものを作っている彼らに光を当てようと私たちは、消費者を集めて豆三昧の料理で旬のおいしさをアピールして農業青年の熱い思いを伝える活動や、食生活について話し合いをしたり、親子を対象にして子どもも含めて食への意識を高める活動もしています。ただ、まだ地域の中で発掘されていない活動しているグループもいっぱいあるんですね。 たとえば、昔からがんばってきた私たちの先輩ですごい技を持っている女性たちもたくさんいます。保存食などの伝統料理を伝えたり伝統行事を守っていたりするわけですが、そういう人たちに私たちが光を当てながら地域の活性化につなげていく活動も考えたいと思いますね。

 今村 消費者との交流には今井さんも力をいれていますね。

 今井 私たちは不登校の子どもたちを対象に寸劇ミュージカルのグループで農業体験をしてもらう活動をしています。
 メンバーのなかに酪農家がいるので牛舎に来てもらって搾乳してその場で牛乳を飲んでもらったり昼食を一緒に食べるといった活動をして4年になります。
 BSEが発生したのは活動をはじめて2年めのことですが、そのころ農業体験した後に絵を描こうと企画しました。そうしたらある男の子が牛の絵を描いて、みんな牛の肉を食べようよ、というキャッチフレーズを書き入れたんです。BSEの発生で牛肉が売れなくなったことを子どもなりに分かったんだなと思いました。牛舎に行って牛を触ることで、農家は今大変だと子どもなりに察知したんだ、とすごい感動的な場面だった。こういう取り組みから安全・安心と農業の大切さを伝えられればと思いますね。

 

◆機能集団としての農業者ネットワークに期待する

今村奈良臣 東京大学名誉教授
今村奈良臣 東京大学名誉教授

 今村 ここで私の持論を聞いていただいてみなさんの考えを伺いたいのですが、それは日本の農村は長男集団だということです。講演などに行って出席者に聞いてみてもまず次男、三男はいない。農協の役員、職員もそうです。もちろん女性理事もほとんどいない。
 それは制度からして農家というのは、長男が家督と田畑という家産、そして農業という家業を継ぐということになっていたし、戦後も慣習としてそのままだったからですね。そして次男、三男は外に出されるわけですから都市、企業は次男、三男社会ということになった。これが日本の社会構造の大きな特徴だったわけです。1950年代の後半からますます農村は長男集団、都市・企業は次男、三男集団という関係ができあがっていった。
 そして80年代の日本では農業、農村叩きがたくさん出てきましたね。これは次男、三男集団からのバッシングです。農村はおかしい、けしからんと。そのころ私は欧米に何度も足を運んでいましたが、農業の就業人口比率は日本以上に低い国なのに都市住民で農業、農村の悪口を言う人には一人として出会いませんでした。少なくとも先進国では日本だけなんです。
 それがさらにどういう現象になってきたかというと最近の若い女性には、親の故郷ではなくて私の故郷がほしいという人が出てきた。私が女子大で教えていたころのことですが、お父さんやお母さんの故郷には行きたくない、という。お分かりでしょうが、彼女たちは次男、三男の子どもで農村の実家からすれば外孫になる。ところが、おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなるとおじさん、おばさんの家になってしまうからもう行ってもおもしろくないということになる。なぜかといえば、やはりよそよそしい感じになってしまうからでしょう。
 しかし、故郷はほしいと思っている。つまり新しい意味での親せきづきあいをしたいと考えているわけですね。これは自分で親せきをつくろうということですが、都市・農村交流といってもこのように人の新しいつながりをどう求めるかという時代になってきていると思います。しかし、農村側はまだまだ長男社会。私は長男が悪いといっているのではなくて長男は家を守るという意識から改革に一歩踏み出すことをためらってしまう人が多いということです。これは長男の個性というよりもそういう仕組みになっているからですね。
 もう新しい時代になりつつあって長男対次男、三男という図式は崩れつつあるわけですが、それでもまだ農村の主要な組織はみな長男集団です。これは急に変えられませんが、地縁集団をどう改革するかが課題です。
 そのためには地縁集団に留まるのではなく地域農業をマネージするという機能集団としての力をこの市場経済のなかでどう発揮するか、です。みなさんの女性ネットワークとは地縁、すなわち地域に根を張りながらも新時代にふさわしい機能集団を作っているわけです。その意味で農業のあり方も、生産だけでなく加工、販売までやっていくことが大事ですし、そのためには女性が代表になって農業をやっていっていい。
 農村女性の皆さんに申し上げたいのは、出る杭は打たれると言いますが、それならいっそ出過ぎてしまえ、ということです。出過ぎてしまった杭はもうどうしようもなくて打たれないのだと(笑)。それが農業生産の法人化が必要とされる理由のひとつでもあると考えています。みなさんの実践もそこまではいっていないかもしれませんが、新しい農村社会をつくりあげるというエネルギーが女性のなかから出てくることが期待されていると思います。

 

◆大切な男性への理解促進 語り合い、ともに考えること

 井上 今村先生が地元に視察に来られたときに講演をされるというので初めて主人に参加したらと呼びかけました。絶対、いい話だからと。それで今のようなお話を聞いてから、それまでは米を一生懸命作っているだけだったのですが、最近は少し変わってきて自分が作った米を私たちの店で直売できないかと言い出したり、減反の田んぼにレンゲを植えて観光農園にできないかといった考えを話すようになりましたね。ちょっと考え方が変わってきてよかったなと思いますね。男性も楽しみを覚えれば変わるのでは。

  酒田市の農業賞受賞の祝賀会を開いたのですが、メンバーの夫も招待しようということにしてそれぞれが夫の名前を書いて招待状を出したんです。24名中、仕事の都合でどうしても来られないという人を除いて20名が参加してくれました。男性に知ってもらうということもやはり大切ですね。

 今村 それは酒田では革命だね(笑)。

  祝賀会では家族に感謝の花束を贈ったり。参加した夫たちは本当に私たちがいいことをしたな、と再確認した人もいました。ずっとバックアップしてくれている人もいますが、初めて自分の奥さんがこういう活動をしていたんだと知った人もいましたね。私たちも夫に感謝しましたし、みんなで「よかったの」と喜び合う場にすることができました。

 今井 全国女性農業経営者会議では、毎年、ベストパートナー賞を選んでいます。会員のみなさんから家族協定は結んでいるかなどの項目に答えてもらって応募してもらっているんです。そのなかから毎年、2組を選んでその方たちには夫婦で全国大会に出席してもらうようにしています。女性の側はこういうかたちで男性側を受け入れていく努力をしていますが、やはり男性が自分の奥さんがこういう活動をしているんだと認識してもらえるようになったと思います。
 この賞を受賞される方はさすがだなと思う方ばかりですね。たとえば奥さんが町会議員になっていたりなど、ご主人や家族の協力がなければそこまではできませんからね。

 今村 そういう意味では地域を元から変えるエネルギーが女性のネットワークから生まれているということでしょう。少し遅まきながらも今後急速に変わっていく可能性が見えてきたということだと思いますね。

 

◆グリーン・ツーリズム グループの持ち味生かして役割分担を

 今村 ネットワークという点ではグリーン・ツーリズムのあり方も今後の課題になると思っています。
 私が最近思うのは、都会から訪れた人に一軒の農家で何から何までサービスを提供することはないのではないかということです。農村には立派な家があって広いわけですから、たとえば、朝食は自分たちで作ってもらう、材料は畑で自分たちで獲ってもらう。そして昼食や夕食は村内の農家レストランや町で食べてもらうようにするなどですね。すべてをやろうとするから農家のお母さんたちが苦労してそのうち農家民宿はだめになってしまう。つまり、農家だけですべてを担おうとしないで町の人とも連携すればいい。村も起こし町も起こすという視点ですね。
 都会から訪れた人は都会とは違う生活をしたいと考えているのでしょうし、どうがんばっても農村では都会のような便利さは実現できませんよね。夏でもクーラーなんか入れないでかやを吊って寝てもらう。そこをもっと理解したほうがいい。

 井上 確かに自分の家ですべてお世話をしなければならないという意識があって昨年も韓国から10家族の視察がありましたが受け入れ体制を整えるのに苦労しました。料理も出さなければいけない、言葉も勉強しなけば、どこかに連れていかなくてはと、みな考えてしまうんですね。

 今井 日本人はお客さんを招くとき失礼になってはいけないととても気を遣いますからね。

 今村 お客さんという意識が強すぎるのではないかということです。

  私たちの地域にはグリーンツーリズム庄内というネットワークがあって、それぞれの持ち場を生かしながら訪れる人を受け入れることを考えています。泊まるところはだれそれの家、ランチはここ、そして農業体験は私たちが受け入れますよというネットワークをつくりながら庄内のよさを発信していく。宿泊も食事も農業体験もというとやはり疲れてしまってとてもできない、長続きしないということになると考えています。お互いのいいところを出し合いながら受け入れのネットワークをつくっていこうということであれば負担も少なく、自分たちも地域のいろいろなグループと交流ができると思います。

 

◆農業の後継者をどう育てるか 体験を増やし心を育てる

  それから農業研修生の受け入れも農家に求められることですね。わが家にも学生さんや海外からも来ますが、こんなに楽しいのになぜ受け入れるところが少ないのかなと思います。研修生を受け入れたことによって家族も自分たちの経営の見直しもできるし、家族のあり方も考えられるし生活の組み立て方も話し合うきっかけにもなります。
 また、長男には研修生の受け入れが自信にもなっているようです。自分がリーダーシップをとって研修生に教えることや話すことで自分の農業に対する意識を高め自信になるんですね。
 生活のなかで農家のよさが伝わるような交流がもっと広がればいいなと思っています。

 今井 地元の農業高校でインターンシップ制度を導入していて、夏休み中の2泊3日、農家が受け入れることにしているんですが、受け入れる農家はもう決まっていますね。一般的に農家は研修生と寝泊まりまでいっしょにして来てもらうことに気疲れしてしまっています。その一方で後継者がいないと嘆く。農家自身がいろんな人を受け入れるような体制をつくらないと。

 今村 いわゆる後継者の問題では、私はもう中学のときから関心を持たせるべきだと思いますね。農家の後継者というのではなくて地域の農業の後継者と考えるべきなんです。

 今井 私も農家の出身ではなく農業をやりたいと思ったのは中学のときの田植え体験がきっかけです。そういう意味では中学生ぐらいの体験が大事だなと思いますね。
 田植え時期の忙しいときには高校生に声をかえて苗出しなどを手伝ってもらったこともあります。こういうことで地域の農業を子どもたちにつないでいけないかなと思います。

 今村 後継者はもう男の子と考える必要はないんです。女の子を育てる。女の子を育てさえすれば放っておいても男はついてくる(笑)。

 今井 確かに研修でも女の子はまじめですね。男の子はどうもすぐにさぼろうとする(笑)。今の時代は何でもできる時代でもあるわけですから農業でがんばろうという女の子たちが農業をやることになるかもしれない。そのために法人化を進めようということでもあると思いますね。

 

◆女性参画と家族の支え 家庭でのコミュニケーションが基本

 今井 ただ、今の問題としては社会参画という点でも女性がもっと出ていかなければいけないと思います。
 自分の経験でも義父や夫の代わりに会合に出てくれといわれて出席してみると、地域のことを本当に何も知らないなと思って、これはもっとどんどん外に出て知らなきゃだめだとなった。それでわが家の場合は義父や夫が出ていた会合に私も出席するというかたちにしてもらったんです。なるべく共通した場に出るようにしてきたんですが、同じ話を聞いてきても義父や夫と私とでは全然捉え方が違ったりして、それだけでも同じ話題で話し合うことが大事だなと思いましたね。

  その話を聞いて思うのは、私たちが活動しているときに、ご主人が、今日はうちのかあちゃんどこさいったんだ? というような活動の仕方をしている女性がいることです。そうではなくてやはり今日はこんな活動をしてきた、こんな話を聞いてきたときちんと家族に伝えられることが必要だと思います。家族に自分の体験を返していく、そのなかでいろいろな話をすることが大事だと思うんですね。
 基本は自分の活動を支えるのは家族ですから、きちんと家族に返していく、そのなかで家族全員がレベルアップしていくということではないでしょうか。女性が社会参画していくことは重要ですが、やはり家族の支えがあってこそですから。
 一方で男性が外に出ていくのも実際はむずかしいのではないかとも思います。夫が市会議員に立つといったとき実は私は反対したんです。夫は、これだけ外に出ている私にまさか反対されるとは思わなかった、他の家なら分かるが、やっぱり女だなと言われて(笑)。でも、ここで夫に忙しくされたら家の農業はどうなってしまうのかという不安があったんですよ。女性が外に出るには家族の支えが必要だと言いながら矛盾しているようですが、このときは自分が夫を引き留めたんです。議員になっている今でも悩むこともありますが、こういうことを繰り返して本当の男女共同参画が進んでいくんだろうなと思いますね。
 ただ、政治の場などいろいろな場で男性と一緒に考えていかないと本当にいい世の中はこないだろうと思っています。

 

◆地方分権の時代 男女ともに問われる地域の力の発揮への関わり

 今井 地方分権が叫ばれるなか交付金の使い方にしても、地元のことは地元で決める、という流れのなかで考えてみると農協の理事さんの質も問われてくると思います。そういう体制のなかで女性がどんどん出ていける状況ではないので女性側の意見を伝える男性もいてくれなくては困る。堀さんのご主人のように農業や女性の側に立つ人がいないと、本当にこれからいい地域なるところとそうでない地域の2極化が進むと思います。
 農協の理事であっても同じだと思いますね。必ず女性が出ないといけないということでもなく、どういう理事を選んでどういうことを伝えてもらうかという面も大事だと思います。

  農協について言えば、先日、農協のトップの方と話をしたときに農協の理事のほとんどは後継者がいなくて未来を語れないという話を聞きました。こんな農業にしようということを言葉で言えない人が理事になっている…。だから、これをやろうといっても、よしっ、て受けてくれる人がいない、そこがネックだと言ってました。

 今井 私も地元で同じことを聞きました。農業を捨ててしまった人が職場として農協に勤めているから未来が語れないと。だから、農家をよくしようというより農協をよくしようということになってしまうのかもしれませんが。

 井上 やはり私たちの農協への働きかけも大事です。いろいろ問題はあるとはいえ、やる気があって必死にがんばっている職員もたくさんいます。その人を元気づけて応援するということも大切だと思います。

 今井 今日話題になったさまざまな分野との交流、ネットワークづくりは農協にも求められているしそのことに気づく人がいてくれたら変わると私は期待したいですね。

 今村 女性参画の問題から地方分権、さらにそういう時代なかで求められている農協の役割まで現場の実感をこめて示唆に富むことをたくさん語ってもらいました。みなさんの今後の活躍を期待します。ありがとうございました。

座談会を終えて

名刺を持つ女性になろう

 農村の女性の皆さん、皆さん方一人一人がそれぞれ自分の名刺を作ってみませんか――井上幸枝さん、今井延子さん、堀周子さんの素敵な三人の女性の皆さんとの座談会の司会をしていて、それぞれがこのように呼びかけていることを痛感しました。三人の方々については、私はもちろん以前から存じ上げていましたが、改めて名刺を頂いてみて、名刺を見ただけで、それぞれの方々が、いま何をしているか、何をしようとしているかということが瞬時に判りました。名刺は自立した個性と精神を表現しているだけでなく、それぞれの三人の方々が活動されているネットワークの存在と役割をも表現しています。つまり、いろいろな情報の発信のもっとも初歩的な手段であるととともに、広い世間からの情報の受信の拠り所でもあります。たかが名刺、されど名刺です。座談会での一人ひとりの発言はまさにキラリと光るものがありました。皆さんも三人の方々のような活動に一歩踏み出して下さい。今年こそ自分の名刺を作ろうと。
(今村)

(2005.1.24)


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