農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために

農業との両立が課題 農村の「資源」生かした子育てを
―農村の子育て期にある女性の実態と支援策を考える
加藤 美紀 (社)地域社会計画センター 副主任研究員

 少子化の進行は都市部にくらべ農村で著しい。農村の持続的な発展のために対策が急がれる。ここでは(社)地域社会計画センターが実施したアンケート『子育てと農業経営の両立に関する調査』について加藤美紀副主任研究員に紹介してもらうとともに、少子化問題解決につながる子育て支援策について解説してもらった。農村には子育てによい環境があるなど「資源」を発見することに気づくことが課題だという。

 

加藤 美紀氏
かとう・みき 
昭和44年生まれ。千葉工業大学工学部工業化学科卒。おもな研究分野は土地の最有効利用と戦略。これまでのおもな担当業務は「三河安城駅周辺地区土地利用推進事業」(JAあいち中央)、「JA女性組織に関する調査」(JA全中)、「FP研修会支援業務」(JA全中)など。
  少子化は確実に日本社会に進行しつつある。その傾向は他産業・都市に比べ農業・農村で特に著しい。農林漁業分野の平均出生児数を見ると昭和30年代に5人程度であったのが近年は2〜3人程度まで減少している。働き手が高齢化し、子どもの数が減少し続けると農業・農村の活力は弱り衰退の危機にさらされる。農業・農村が持続的に発展していくために、少子化問題は緊急の課題である。
 国は2005年から5年間の施策「子ども・子育て応援プラン」を発表した。少子化対策の取組みは、もう何年もなされているのに合計特殊出生率は毎年過去最低を更新し続けている。子どもを安心して育てられる環境づくりのために、当事者である女性の実態と課題を把握する必要がある。
 本稿では、小学生以下の子どもを持つ農家の女性3000人を対象に実施したアンケート『子育てと農業経営の両立に関する調査』を中心に農村部における子育て女性の実態と支援策を考えてみたい(平成13年11月実施 回収率41%)。

◆子育て期にある農村女性の実態

 農村に住む子育て女性の7割以上が同居家族6人以上の大家族で、約8割が義父母と同居(または近居)している。農村でも核家族化が進んでいるというもののやはり多世代同居が大部分である。子どもの数は2人、3人が各4割、4人以上は1割に満たない。約9割が何らかの仕事を持っていて、仕事を持たない専業主婦は1割を占める程度。過半数の女性が農業に携わっている。

◆子育て期の農業に難しさ

 子育て中の女性が職業として農業をどう思っているか。農業のみに従事している女性が他の仕事をしない理由を聞いたところ、「時間的余裕がない」の次に「農業以外は両立が難しい」や「農業に魅力を感じている」との回答が多かった。一方、子育て中に農業以外の仕事に就く女性に農業をしない理由を聞いたところ「時間的余裕がない」の次に「入り込む余地がない」との回答が多く、農業に興味を持っているもののきっかけがなく農業に関わることができない女性がいることがわかった。
 子育てを犠牲にしてまで農業に就業する女性の視線は厳しい。「収入が労働にあわない」などの意見や「がんばっても自分の収入にならない」などシャドーワークへの不満を抱える女性は多い。自己実現の為の女性起業など未来に希望が持てる農業への支援も農業に就く育児中の女性の支援といえるだろう。

 

◆農村での子育ての評価と課題

 農村に住む多くの女性は「のびのびとした環境」、「豊かな自然」、「思いやりの気持ちを育む環境」と農村で子育てすることに対し高い評価をしているものの「同年代の友達と遊ぶ機会が少ない」ことや「近所の干渉が窮屈」との意見も多い。
 「同世代の子どもとの交流が少ない」理由として、「近所に子どもが少ないばかりか公園など気楽に集う場も少ない」という意見や「同居家族が多く、親子で気兼ねなく家を行き来することが難しい」であった。子どもの交流を通じた母親同士の交流も少なく孤独に過ごす女性の存在がうかがえる。子どもを大人の世界だけで育てるのではなく同世代の子ども同士の交流を通して社会性を身につけて欲しいと願う親は少なくない。加えて、子育てという生命を育てる喜び、大変さを共有できる仲間づくりも必要だ。広い庭や田んぼ、畑は公園の代わりにはならない。気楽に親子で集まれる場の整備が求められている。
 「近所の干渉」を詳しく見てみると「子育てに専念したいが、働かないと地域の目が気になる」や「若い人は働き、子どもは年寄りが見るという地域性が未だに残っている」という意見、「女性が家事・育児・農作業をこなすのが当たり前。男尊女卑が根強い」という農村の地域性に対するしんどさを口にする女性も多い。

 

◆家族、夫に求める意識改革

 家族や夫に対する要望のなかでは「義父母の干渉」を問題にする女性が多い。休みなく農業する義父母への遠慮や、外出に理解がないという理由から「外出しずらい」との意見が寄せられている。「昔はもっと大変だったというけれど……。リフレッシュできたらもっといい育児が出来るのに」と女性達は口をそろえる。世代間ギャップによる問題も大きい。「昔と今は時代が違うことをわかって欲しい」「お風呂の順番、食事のことなど生活リズムがあわない」といった考え方や生活習慣の違いに対する悩みや「子育ての考えが古い」「子育てに干渉しすぎる」など、自分の理想とする育児が出来ないことへ不満をもつ女性が少なくない。同居家族がいることは心強い反面、精神的な負担になっている状況が伺える。昔は多産が当然で、育児は経験に頼ったもの。現代は農村といえども少子化だし育児の情報は豊富でマニュアル化されている。このような違いを埋めるには当事者同士の歩み寄りしかないがそのための研修会等の開催も必要だ。
 一方、パートナーである夫に対しては「父親としての意識をもっともって欲しい」という要望であった。育児に対する父親不在が言われて久しい。育児の責任は母親と同じくらい父親にもあるはずだ。農業に就いていれば雇用者と異なり長時間労働を強いられることもない。家族のやりくりで育児時間は作れるはず。育児に積極的にかかわるよう意識改革が求められている。
 農村・農業の女性がよく口にするのが「嫁の立場」。義父母や夫に意見することが難しく、どこで折り合いをつけるのか悩む女性。農業の場合、一日中一緒にいることが多いため、生活リズムや考え方などの細かいズレでも苦痛に感じる女性も多い。
 子どもが地域で集い遊ぶ姿は農村においても急速に減ってきている。また、地域内に安心して遊べる場も失われつつある。地域社会で育まれた部分を家族が担っていかなければならない状況なのだ。そしてその責任を母親だけが抱え込むには限界があるのではないか。

 

◆育児と農業の両立で悩む

 農業に携わる女性に子育てと仕事の両立の方法を聞いたところ、最も多い回答は「保育園・幼稚園などを利用」で約4割であった。次いで「同居家族で子育てを役割分担」「仕事をしながら世話をする」であった。また、子育てと仕事の両立で困っていることについては、「子どもの世話が十分にできない」が約6割、「子どもと一緒に過ごす時間が短い」、「自分だけの時間がもてない」との回答が多い。
 要望としては、「農業にも決まった休みが欲しい」との意見が多い。「母親の代わりに農業を手伝ってくれるヘルパーの派遣」や、「家族経営協定で育児も労働と認めること」など、産前産後休暇の確保とともに育児中の女性が休みを取りやすい環境整備が求められている。
 また、どうしても母親が休めないときの支援も整備し安心して働ける環境づくりが必要だ。地域に求められている支援策を具体的に見てみると、保育園の新設や増設、定員拡大に対する需要は低く、農村部において保育サービスが充実してきていることが伺える。しかし、保育園の延長保育や保育後、放課後、有料で預かってもらえるサービスに対する需要は高い。同世代の母親の情報交換の場や相談できる窓口設置に対する需要も高く、子育て中に孤立しがちな農村女性の多いことが伺える。

 

◆農村だからこそできる支援を

 農村では、農業、家事・育児、介護もこなして当たり前という固定観念の中、不満も言わず農業・農村の担い手として育児との両立に奮闘する女性が多い。しかし、農業・農村における女性の位置づけは低く、経済的、精神的な自立を困難にしている。農業の多くが家族経営体なので、女性は労働に見合った収入を得られない。閉鎖的な地域性や嫁の立場に縛られ、不満をもっているもののそれを変えていこうと行動する女性は少数に限られている。
 一方で、家族や地域の人々の理解に支えられて、農業経営に参画しながら自然のなかでの子育てに生きがいと喜びを感じている女性もたくさんいる。育児中の女性といっても、保育園の母親同士の交流でさえ窮屈と感じる女性もいれば、情報交換できて助かったという女性もいる。温かい人間関係を育児環境に良いと感じる女性もいれば一方で窮屈さを訴える女性もいる。同じ環境でも幸せを感じられる人、そうでない人がいるのは家族構成、就業状況、性格などが違えば当然のことである。また、「隣は何をする人ぞ」で、ご近所づきあいの少ないなか、過密する都市の状況と同じレベルの子育て支援では、濃厚な人間関係の地域の中で点在する農村の子育て中の女性を助けることはできない。地域で子育てするという視点に立ち、農村だから出来る子育て支援を考える必要がある。農村には子育てに良いたくさんの資源があることに気づく、発見するきっかけづくりができれば農村での子育てを楽しむ女性も増えるのではないか。

 

農村の良さへの声

 「地域の人達がみんなで子供達を育てるという雰囲気がある」
 「子供達に家の仕事を手伝わせるとことで成長にも繋がる」
 「子育てしていくうちに仲良い家族になっていくのがわかった。思い通りにならない子供達にイライラするけれど、畑でボ〜ッとしてホッとするとまたニコニコできる」
 「農家は時間が不規則、干渉されやすい、お金が自由にならないとマイナスに考えがち。でも、時間は自由になる、相談できる人が家庭内にいる、お金は必要な分はある。いざとなれば畑があるので心強い。本当は良いことばかり」
 「家庭という仕事場だけにとじこまらずに、もっと外に目を向けられるよう、子育てという大きな仕事をしながら色々な事に挑戦していきたい」
 「自然の中、その恵みで生活できることが幸せと農業が教えてくれた。健康で老いても続けていき、子供に伝えていきたい」
 「季節とともに稲作の変化や野菜の収穫時期などが毎日の生活のなかで感じられることはすばらしい。生き生きとのびのび育っていけるような人間性が身につけられるようにしたい」

(2005.1.24)


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