農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 売れる米づくり戦略とJA全農の米事業改革

「JAの米事業改革と売れる米づくりに向けた戦略」(2)

安全防除の実践と環境にやさしい防除暦の作成を

―安全・安心な農産物の生産を目指して― JA全農 肥料農薬部


  農産物の安全・安心が問われているが、そもそも安全・安心とは何だろう。農産物の安全性を証明するためにトレーサビリティが導入されて久しいが、適正な防除で安全を確保し、トレーサビリティにより安心を確立しているのがJA米だと思える。『農薬の適正使用で安全安心な農作物を』をテーマにJA全農肥料農薬部にご寄稿頂いた。同部では農産物の安全性に関して「生産者、消費者双方のコミュニケーションと相互理解が重要」だという。
◆農薬をめぐる情勢の変化

 平成14年夏の無登録農薬使用問題、平成15年3月の改正農薬取締法施行以降、かつてないほど農産物の安全性に注目が集まり、特に改正法により農薬使用基準の遵守が義務化されたことから、農薬の使用を監視する目が一層厳しくなっている。
 これに加え、平成17年6月には改正種苗法が施行され、種子や苗(特に購入種苗)に使用された農薬を確実に把握し、本圃における防除で農薬使用回数違反などがないように注意しなければならなくなった。
 さらに、平成15年5月30日に食品衛生法が改正され、生物農薬等を除くすべての農薬について作物ごとに残留基準を設定し、それを超える農薬が含まれる農産物の流通を原則として禁止するポジティブリスト制が導入されることになった。これは、本年11月に厚生労働省が基準を告示し、平成18年5月に施行される予定となっている。
 この制度が導入されると、現在国内において136作物に残留基準が設定されている249農薬成分と、国際基準等を参考に暫定基準が設定される農薬以外については一律基準が適用され、食品衛生法の適用範囲になることになった。食品衛生法は、規制物質の残留基準を超えた食品の流通を禁止し、回収義務を負わせている。このため、農薬の使用にあたっては十分に注意を払い、従来より確実に農薬の使用状況を把握しなければならなくなる。

◆農薬の安全使用と農薬の残留実態

 現行の農薬登録制度における収穫前使用日数や使用回数などといった農薬使用基準は、厳密な作物残留試験データを元にして、収穫物に基準値を超えて農薬が残留することがないよう慎重に決定されている。つまり、登録認可された農薬をその使用基準を守って使用すれば、作物中の農薬残留量が定められた農薬残留基準値を超えることはなく、問題のない農産物を生産できるのである。
 このことを実証するために、全農では、安全防除全農家実践運動の1つとして、昭和60年から防除日誌記帳運動を展開し、平成元年からは、防除日誌のチェックと使用された農薬の残留分析を行うことで農産物の安全性を証明する「防除日誌パイロットJA」の取り組みを始めた。同年に49JAでスタートして以来、平成9年までに延べ410JAの参加が得られ、対象作物数計23作物、農家数延べ2470名、分析した農薬数は1万8480に上った。
 その分析結果は、検出されなかった農薬が約95%、検出はしたものの基準値以下であった農薬が約5%であった。このうち、水稲除草剤が収穫物から検出されたことは1度もなかった。
 次に運動の仕組みを少し変えて同様の取り組みを継続し、3年間で得られた延べ1992農薬の分析結果を(図―1) に示す。防除日誌に記載のある薬剤を水稲除草剤を除いて全て分析したところ、使用した農薬のうち91%は検出されず、検出された9%の農薬も基準値をはるかに下回る残留量であった。
 これらの結果から、使用基準を守って使用された農薬が収穫物へ残留することは少なく、その大部分が分解・消失していること、そして、「農薬を適正に使用すれば問題のない農産物を生産できる」ことが現場レベルで実証されたといえるのである。

安全防除優良JAにおける農薬残留分析結果

 

◆農薬使用基準遵守の証明

 前述のように農薬の安全使用により問題のない農産物が生産できることは分かったが、どのようにしてそのことを証明すればよいのであろうか。そのことを実現する仕組みとして注目されているのがトレーサビリティシステムである。システムの導入により農産物の生産履歴を消費者がいつでも確認できるようになっていれば、仮に問題が発生した場合でも、どこで間違いがあったかを遡って正すことができるばかりでなく、生産や流通状況がオープンになることで、各段階における誤った行為に対する抑止力が働くようになる。
 例えば、平成13年8月に農林漁業金融公庫が実施した「消費者動向等に関する調査」結果(図―2)によると「トレーサビリティシステムの導入によって食品の安全性に対する信頼度は高まると思うか」の質問に対し、相当高まるが26%、多少は高まるが52%と、計78%の人が信頼度は高まると考えていることが分かった。このように、トレーサビリティシステムは、消費者の信頼を回復する有効な手段として期待されているのである。
 このトレーサビリティシステムには、記帳の仕方やデータ活用の仕方などにより、多種多様なシステムが開発され運用されている。JA米の仕組みもトレーサビリティを実現するものであり、使用基準順守の証明に有効な仕組みといえる。

トレーサビリティシステムの信頼度

◆環境影響の少ない農薬とその活用

 以上のような農薬の使用基準を順守することが問題のない農産物の生産に最も重要なことであるが、一方で、防除作業に際しては、できるだけ環境への影響を少なくするように注意しなければならない。
 農薬の使用方法には、水和剤やフロアブルなどを水に希釈して噴霧する方法や、粉剤を動力散粉機を用いて散布する方法、粒剤を手や散粒機などを用いて散布する方法、箱粒剤を育苗箱に処理する方法など多くの方法がある。これらの防除方法のうち、水に希釈して噴霧する方法や粉剤などは、防除作業中に霧状の薬液や粉剤が風などでほ場外に飛びやすく、散布作業には十分な飛散防止措置などが必要になる。一方、粒剤の場合は、風で飛ぶようなことはなく、水稲の場合、水を止めた状態で散布すれば、水田の外に農薬の成分が流出することはほとんどない。さらに、箱処理粒剤の場合、育苗箱に処理され、田植えにより水田土中に入ることになるので、水田水を通じて河川へ流れ出すことは非常に少ないのである。また、技術の進歩により、1回の処理で効果が長く持続する長期持続型箱処理剤が開発され、安定した効果が長く続くために従来の地上散布回数を削減できるなど防除労力の軽減にも役立っている。
 このように、環境影響の少ない優れた薬剤も多く登場しているので、防除暦の作成の際には、こういった薬剤を積極的に活用するなど、環境にやさしい「暦」を目指してはどうであろうか。

◆生産者と消費者との相互理解を深めたい

 そもそも安全な農産物とは何であろうか。イメージとしては、食べても腹を壊すなどの異常がなく、食べ続けてもガンなどにもならないなど、人体に全く影響のない農産物のことを指すように思う。しかし、一般の農産物には、植物本来が持つ毒性物質も含まれているし、気象や病害虫によるストレスに対する植物の抵抗反応によって生産される未知の有害物質が含まれている。これら毒性物質に対し、人間は自身が持つ解毒能力によって生きてきたし、農作物に残留した農薬による健康被害が問題となった例はないように思える。
 現在、「安全な農産物」とは「残留農薬の無い農産物や無農薬栽培作物である」というのが一般的な認識となっているため、安全性を評価する指標として農薬の使用回数や成分数が使われていると思うが、過去のデータ等から使用回数と安全性との間にはあまり関係がないようである。逆に、無理をして回数を制限したがために、結果として不十分な防除となり、かえって病害虫のストレスに起因する天然毒を増やしてしまっているといったこともあるのではないだろうか。
 いずれにしろ、農産物の安全性に関しては生産側、消費側双方のコミュニケーションをはかり、双方納得できる認識のもと、相互理解を深めなければならない時期に来ているのではないだろうか。

参考 主要育苗箱処理剤の処理方法一覧(.xls)

(2005.7.19)



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