農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 売れる米づくり戦略とJA全農の米事業改革

本紙アンケート「JAの米事業改革と売れる米づくりに向けた戦略」(2)
「農薬に関する集計結果」から

消費者ニーズとの狭間で苦悩する姿が浮き彫りに


 消費者から必ずといっていいほどクレームになる斑点米の原因となるカメムシ防除を必ず実施するJAが8割を占めた。また、販売先との関係から減農薬米に取り組んでいるが、農薬を適正に使用すれば安全性と使用回数は関係ないと、安全性の判断基準に疑問を持つ回答が7割近くを占めるなど、生産現場での農薬使用実態と、消費者ニーズとの狭間で苦悩する現場の営農指導員の実態が浮き彫りにされた。

アンケートの実施概要と集計分類

●調査対象JA数/410
●実施方法と時期/調査票を郵送。17年4月〜5月にかけて回収。
●アンケート回収数/350
●回収率/85.4%

○アンケート集計分類
【東西別】
(東日本)北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、三重
(西日本)
滋賀、京都、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島
【ブロック別】
(北海道)北海道
(東北)青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島
(関東)茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉
(甲信越)新潟、長野(※山梨を除く)
(北陸)富山、石川、福井
(東海)岐阜、静岡、愛知、三重
(近畿)滋賀、京都、兵庫、和歌山
(中国)鳥取、島根、岡山、広島、山口
(四国)愛媛、高知
(九州)福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島

消費者ニーズに応える安全・安心な米づくりのために
防除回数の削減などに積極的に取り組む現場

◆JA管内の種子更新率は80%

 このアンケート調査は、都道府県ごとに米の生産量の多いJAを選定、合計410JAを対象に4月初めに調査票を郵送し米穀事業担当者に回答を依頼したもの。回答JA数は350で回収率は85.4%となった。調査結果のうち、JA米への取り組みや販売関係については既に本紙1947号に掲載。今回は「消費者ニーズに応えるための安心で安全な米づくりのための農薬等の採用について」の結果概要を紹介する。なお、各設問で回答合計が100%を超えるものは複数回答のため。
 農薬についての調査結果を見る前に回答JAの概要をみると、水稲作付面積は全国平均で3252ha(表1)。JA管内における種子更新率は約80%で、北海道・東北・甲信越・北陸で80%を超え、関東・近畿が67%前後とやや低くなっている(表2)。また、16年産JA米集荷量は約138万トンで、JA集荷量に占める割合は64.7%だった(表3)

◆斑点米の原因となるカメムシを必ず防除するが80%

 図1は稲作で必ず防除する病害を聞いたものだが、全国平均でもっとも多かったのはいもち病で、次いで種子病害であった。この傾向は全国的なものだが、甲信越、東海では種子病害がいもち病を上回った。
 図2は同じく必ず防除する害虫について、全国ではカメムシがもっとも多く8割のJAで必ず防除する害虫にあげている。斑点米が混入していると消費者から必ずといっていいほどクレームが出るといわれており、米の品質保持のためには欠かせない防除対策となっていることがうかがえる。
 次いでイネミズゾウムシ、ウンカ・ヨコバイ、イネドロオイムシ、イネシンガレセンチュウの順となっているが、東日本では3番目がイネドロオイムシ、次いでウンカ・ヨコバイ、ニカメイチュウの順となっている。また、西日本ではカメムシに次いで2番目がウンカ・ヨコバイで、次にコブノメイガ、イネミズゾウムシ、イネシンガレセンチュウとなっており、地域によって害虫相に違いがあることがはっきり出ている。
 図3は必ず防除する雑草について聞いたもので、ほとんどのJAがノビエをあげ、半数のJAがホタルイと回答している。ホタルイについては、北海道、近畿、四国で高く九州で低くなっている。

◆防除暦採用基準は「効果」、種子消毒は96%のJAで実施

 農薬の防除暦への採用基準を聞いたのが図4だが、採用基準を「効果」にしているJAがもっとも多く全国で96%という高率だった。次いで「価格」で選ぶJAが全国で34%となっているが、地区別でみると中国や九州など、西日本に「価格」で選ぶJAが多い傾向がみられた。
 種子消毒はほとんどのJA(96%)で実施されている。しかし、JA取り扱い種子は消毒済みというJAは全国で48%。東北、関東、北陸、東海で高く、甲信越、四国、九州で低い傾向がみられた(図5)
 近年、特別栽培米の生産が増えるのに伴い、温湯消毒に対する関心が高まっているが、管内で温湯消毒を実施しているJAは全国で17.8%に上り、東北や近畿、北陸、東海での利用が多かった(図6)

◆7割のJAで育苗箱処理剤を利用、除草剤散布では人力が半数

 水稲病害虫防除において、育苗箱処理剤の登場は約30年前に遡る。単剤、殺虫殺菌混合剤、長期持続型と変遷を重ね、省力化はもとより結果的に低コストをも実現した。図7のように、何らかの育苗箱処理剤を使用しているJAは、全国で70%近くにおよぶ。地区別でみると四国、北海道、九州での利用率が高かった。
 一方、箱処理剤の処理時期では、田植え当日〜3日前が72%ともっとも多く、播種時同時処理、床土混和、緑化期処理といった育苗初期に使用する割合はまだ3割弱であった(図8)。また、100%田植え当日〜3日前に処理すると回答したJAが、回答JAのほぼ半数を占める49%あった。
 除草方法では、ほとんどのJAが除草剤を使用しており、除草剤以外ではアイガモの利用が多く全国で9%あり、西日本での利用が多かった(図9)。一方、除草剤の散布方法では、図10のように田植同時機械散布、背負動散、散粒器、手散布がほぼ同じような率となった。約半数が何らかの動力機械を使った散布、約半数が人力による散布となり、依然として経験がものをいう人力散布が多いことが分かった。

◆使用回数は7.5回、現行回数では苦労するが17%

 図11は、減農薬に取り組んでいる場合の農薬の使用回数と慣行回数との比較を聞いたものだが、減農薬に取り組んでいる場合の総使用回数は全国平均で7.5回で慣行回数と比べると48%減だった。
 使用した農薬の成分数は全国平均で、除草剤が2.7、殺菌剤が3.4、殺虫剤が2.2となった(図12)。除草剤、殺菌剤の使用成分数は全国的に大きく変わらないが、殺虫剤の場合には地域差があった。これは、害虫の発生様相の違いが地域差として現れたものといえよう。
 農薬の使用回数制限について聞いたところ、「現在の総使用回数で十分防除できている」との回答は、全国で68%と高率だった(表4)。地域別に見ると西日本で高い傾向にあり、東北や北陸といった米地帯で低くなっている。
 これに対し「使用できる回数が少なく品質を保つのに苦労する」との回答は全国で17%近くあり、東北の28%(「あと×回多ければ十分」を加えると38.7%)がもっとも多く、次いで北陸22.7%、東海20%となっている。
 もちろん、病害虫発生量の年次変動などに左右されると思われるが、現行の回数では防除に苦労する例が少なからずあり、あと何回多ければ良いかの問いには全国平均で1.7回、最大で3回との回答だった。

◆使用回数と安全性は「関係ない」が7割近く

 また、農産物の安全性を農薬の使用回数で表そうという動きについて、「適正に使えば米の安全性と回数(成分数)は関係ない」との回答がもっとも多く、全国平均で68.8%に上った。これに対して「回数が少ないほど安全である」という回答は全国で26.1%にとどまり、販売先との関係などから、減農薬に取り組んでいる構図が明らかになった(図13)
 農産物の安全性について「農薬を使っているのかどうか、どれだけ使っているのか」が判断基準とされることが多いが、日本の農薬登録などの実情からみれば「適正に使われているかどうか」を判断基準にすべきであり、農薬の安全性について消費者に対して、もっともっとアピールする必要性があることが、この調査から浮かび上がってくるのではないだろうか。

消費者ニーズに応えるための安全で安心な米づくりのために

現場からの声(自由記入欄より)

【防除に関して思うこと】

●気象条件によって病害虫の発生が異なってくるので、その対応が難しい。
●カメムシなどの防除をやらないと収量、等級のリスクが生じるので、それらを含んだ買い取り価格、売価の設定がむずかしい。
●県の特別栽培農産物にとりくんでいるが、農薬の総使用回数にはかなり問題があると思う。検討を。
●使用回数を削減すれば混合剤の使用頻度が高くなり成分数が増える。また単剤を使えば使用回数が増え労力、経費ともに増えるので、見極めが難しい。
●高齢化、兼業化の中で今後も防除請負が進むものと思われるが、実施主体である組織を強化する必要がある。
●非農家からの苦情で、適期に全面積への散布ができない。
●生産者の高齢化がすすむ中ではヘリなどによる一斉防除が必要不可欠だが、地域住民の反発が強く廃止に追い込まれそうである。
●高齢化により個人防除が困難になっており、全体の防除体系として苗箱粒剤、パック剤での防除体系が確立できないか。
●農薬は収穫何日前まで使用となることから天候不順の折は防除ができず品質低下を招いている。
●共同防除を推進してきたが、農薬のドリフト(飛散)など他作物との関連で推進がむずかしくなっている。
●老齢化で機械もなくなかなか防除してもらえない。
●殺菌・殺虫については耕種的防除による効果は期待できるが、除草剤の成分限定は非常に厳しい。
●苗箱施薬を基礎とし本田防除を止めたい。

【農薬の総使用回数制限について思うこと】

●立地条件により防除必要回数は変わる。回数や成分数で慣行対比何%減という比較が現実的か疑わしい。
●農薬安全使用基準を守っている栽培方法で問題ないことをもっとアピールする必要がある。
●農薬の回数ではなく成分の使用量だと思う。
●残留農薬検査の結果では、ほとんど検出されないことから、適正に使用すれば問題ないのでは。
●病害虫の発生は、年により変動があり、それぞれの対応が必要。
●消費者側からは回数が少ないほど安全と思われているが、生産者としては一方で品質面が問われるため、回数を少なくすると問題が出てくる。また、外国産に対する規制が不明確であるため生産者としては不満。
●農薬が適正に使われていれば、安全な農産物であることをもっと理解してもらう運動が必要。
●安全性を高めるには、使用基準が守られていれば良いと思う。回数、成分を少なくすることは大きなリスクを負う。農薬を少なくして病害虫が発生した場合、何も保障がないから。
●回数を減らすことは消費者からみて安心感を得られると思うが安全性が高まるとは思えない。
●商品性および収量の面からある程度は農薬、化学肥料に頼らなければならないのが現状。したがって回数を減らすことよりも適正に使用し安全性を高めることが必要だと思う。
●実質的に残留農薬が問題とすれば、成分にかかわらず回数制限をするのは意味がない。
●使用回数を減らすため残効の長い薬剤を使う傾向にある。回数のみで安全性を云々することには限界がでてくると思う。
●農薬の使用回数は把握できるが、成分分析となると時間的に無理。
●適期の散布を指導することにより、回数、量とも減ると思う。残留農薬の問題もクリアできる。
●適期適正に使用すれば安全ではないか? 農薬の成分数を減らしても使用時期を間違えば安全ではない。
●輸入農産物のポストハーベストのほうが大きな問題。消費者が正しい判断をするための意識向上の情報伝達と相互理解が重要。
●良質米生産のためにも、ある程度しっかりした薬剤散布の必要があると思う。
●人体などへの影響を含めた回数制限であり、守らなければならない。
●生産地区によって使用回数に違いがあることに疑問を感じる。生産者および消費者に混乱を招き、指導販売していくのに苦労する。
●玄米に残留する農薬が問題であるため、出穂から収穫までに使用する農薬を規制すればよい。
●一般消費者の農薬に対する知識が低い。農薬を使用すると残留が起こりやすいと判断されやすく、低農薬・無農薬などに誘導されやすい。問題はいかに安全に使用量が守られ、残留がないかをトレーサビリティでチェックするかが大事。
●栽培後期の農薬使用は安全性を重視するが、初期防除については、土壌残留性が低ければ問題はないのではないか。

(2005.7.20)



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