農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JA全農畜産事業特集 国産畜産物の生産基盤と販売事業の強化

安全対策強化し需給調整機能高める

酪農部 松尾要治部長


 安全・安心を消費者に届ける施策では、何かコトがあった場合、生乳を出荷した酪農家までさかのぼれるというトレーサビリティの体制は構築されている。今年度は引き続き、これが確実に機能するように取り組むという。余乳処理では東日本で、これをより効率化する体制を整えた。今年は西日本でも体制整備を進めるとともに、指定生乳生産者団体との機能分担をはかって需給調整機能を高めていくとのことだ。
一方、液状乳製品の販売拡大では脱脂濃縮乳の取り扱いを大きく伸ばした。

酪農部 松尾要治部長
◆目標達成を続ける

 ――16年度は畜産事業本部全体の取扱高実績が計画対比で103となりましたが、酪農部門としてはいかがでしたか。

 松尾 事業分量で101、粗収益で103となって計画を達成しました。生乳では前年度と同じく165万トンの取り扱いを目指し、実績は167万トンとなりました。

 ――国内の生乳生産量約830万トンの中で目標達成をずっと続けている全農の比重は大きいですね。需給の特徴としてはどんなことが挙げられますか。

 松尾 例年なら夏場の牛乳消費が増えるのですが、昨年夏は記録的な猛暑にもかかわらず、通例とパターンが違い、飲用需要が伸び悩みました。暑すぎたのも一因ですが、競合商品であるお茶や豆乳などの消費が伸びました。
 缶コーヒーや缶紅茶の原料となる業務用牛乳の伸び、構造的に牛乳消費が減少しています。

 ――生乳生産面のほうの状況はどうですか。

 松尾 全農(全国本部・都府県本部)は、北海道から買い付けた乳用牛を、経済連・農協を通じて酪農家に供給しています。この事業の16年度実績は頭数で計画未達となりましたが、事業分量と粗収益では達成しました。
 取扱頭数が未達となった要因は、昨年秋からの価格高騰で買い控えがあったためです。しかし、ここにきて価格は下がっているので、今後の導入に期待しています。

◆サンプルを検査

 ――酪農家と飼養頭数の減少率は、北海道に比べ都府県のほうが高いだけに、この事業は大切だと思います。さて、今年度施策の重点には、まず安全・安心対策があります。中期3か年計画(15〜17年度)に沿うものですが、取り組みの現状はいかがですか。

 松尾 もし何らかの事故が起きた場合、生産者段階まで円滑にフィードバックできるシステムはできあがっています。生乳は、個々の酪農家から集めて、大型ローリーやクーラーステーションでまとめた上で、乳業工場に送るという流れが一般的で、出荷した酪農家を特定できなくなるため、集乳段階で酪農家個別のサンプルを採って、検査しています。送乳時には、合乳したもののサンプル検査を行い、各段階ごとの安全確認をし、サンプルも保管しています。

 ――コトがあれば製品の素性を追跡できるのですから、それはトレーサビリティシステムのことですね。

 松尾 そうです。今年度は引き続き、安全管理について各段階の役割分担を明確にし、その体制が確実に機能を発揮できるように進めていきます。

◆脱脂濃縮乳伸ばす

 ――次ぎに、生乳需要には波がありますが、生産が需要を上回った場合、余乳を乳製品にする余乳処理体制の整備はどうですか。3か年計画は、同処理施設の確保による需給調整機能の発揮を掲げています。

 松尾 東日本では、余乳を取り扱う体制と、その運用方法つまりシステムが16年度に、ある程度できました。指定生乳生産者団体と乳業メーカーの協力で、よりいっそう効率よく処理できるようになります。処理施設を持った関東から南東北の乳業工場に余乳を分散し、一時期に特定の工場に集中しないような仕組みをつくったわけです。今年度は西日本で、そうした体制を整備して、さらに需給調整機能を高めていきます。

 ――3か年計画は「安価な海外乳製品に対抗できるフレッシュな液状乳製品の販売拡大」も重点としています。16年度の液状乳製品取り扱いはどうでしたか。

 松尾 液状乳製品には生クリーム、脱脂濃縮乳、殺菌乳などがありますが、脱脂濃縮乳の取り扱いは計画対比106で目標達成です。

◆輸入品に対抗して

 ――脱脂濃縮乳は、どんな製品になるのですか。

 松尾 ヨーグルト、乳飲料などです。ちょっと説明しますと、生乳から脱脂乳をつくり、脱脂乳を濃縮すれば脱脂濃縮乳となり、さらに水分を除去して粉状にすれば脱脂粉乳となります。

 ――とすると、脱脂濃縮乳と、液状乳製品の生産を拡大することは、脱脂粉乳の過剰在庫対策になるわけですね。

 松尾 そうです。それから、液状乳製品は、脱脂粉乳やバターと違ってフレッシュな品目なので、輸入が難しく、海外乳製品に対抗できる国産品です。しかしWTO農業交渉で関税引き下げが争点となり、またEPA(経済連携協定)交渉の進展もあって先行き楽観は許されません。
 国内の生乳生産の基盤を守るためにも、引き続き需要拡大をはかっていきます。

 ――生クリームの取り扱いはどうでしたか。

 松尾 これは目標対比91で苦戦です。やはり暑すぎたのですね。生クリームを使う菓子・ケーキ類の消費が落ち込みました。

◆脱脂粉乳やや減少

 ――脱脂粉乳の適正在庫は平均消費量の2ヶ月分とされているのに昨年度当初は五ヶ月分ほどの9万トン以上にのぼりました。この過剰在庫対策についてはどんな状況ですか。

 松尾 国の方針もあり、16年度は約2万トンを解消しました。今年度は2万5000トンを解消する計画です。ホクレンが2万1000トン、都府県が4000トンという内訳です。その過剰解消策は脱脂粉乳を輸入粉乳調製品と置き換えたり、飼料原料としての外国産脱脂粉乳を国産に置き換えて消化をはかります。

 ――バターの過剰在庫も問題です。前年度から4%弱減って、今は2万6000トン弱ですか。これと関連して全農には業務用乳製品の販売力強化という施策がありますが、品目としては、どんなものがありますか。

 松尾 ポンドバター、バラバター、脱脂粉乳などです。これについては大口取引先への計画的販売にも努めています。大口先との商談で需要がほぼわかり、計画的な販売ができます。

◆集送乳コスト削減

 ――経済事業改革の中で物流コストの低減は大きな課題ですが、その取り組みはどうですか。

 松尾 指定生乳生産者団体が集送乳の物流合理化を進めていますから、取り組みに当たっては、JAグループの総合物流会社である(株)エーコープラインの活用を提言して、より効率的な集送乳の実現をはかっていきます。

 ――具体的には、どう合理化するのですか。3か年計画には「クーラーステーション(CS)を核とした集荷・販売機能の発揮」などとありますが。

 松尾 例えば、錯綜した集乳路線をより効果的に再編したり、CSへ生乳を運ぶローリー車を10トン車から15トン車とか20トン車へと輸送単位を大きくするなどしてコストを削減していきます。

 ――県ごとの指定生乳生産者団体が8つの広域指定団体になって5年経ちましたが、全農との機能分担は進んでいますか。

 松尾 全農の経済事業改革では、県本部・経済連からの機能移管を進めることとしていますが、広域指定団体が機能強化を進めている状況で、機能移管にはまだ時間が必要です。

◆機能移管を進める

 ――どんな機能を移管するのか改めて少し説明して下さい。

 松尾 どの産地から、どの乳業メーカーに、いつ、どれだけの生乳を搬入するか、という配乳計画を作り、それに従って手配をすることなどは本来、指定団体が分担すべき機能ですが、まだ十分な分担には至っていません。
 そこで各指定団体は今年2月までに機能強化をはかる中期3か年計画をそれぞれ策定し、取り組んでいます。その中には、まだ十分でなかった乳価のプール化や集送乳コストの削減なども盛り込まれています。今年度は全農として指定団体との情報交換をさらに密にして、その推進を支援していきます。

 ――牛乳の消費量が減少し、回復は厳しい見通しですが、最後に17年度の行動計画は取り扱い目標をどう打ち出しているのか品目別に少し紹介してください。

 松尾 殺菌乳、クリーム、脱脂濃縮乳は前年を上回る目標を掲げましたが、生乳、脱脂粉乳、バターは情勢の厳しさなどから、目標を引き下げました。

(2005.8.26)



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