農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JA共済事業のめざすもの

インタビュー

時代にあった商品開発で組合員との信頼関係を深める

健全な商品を健全に推進することが健全な経営を支える

野村 弘 JA共済連経営管理委員会会長
聞き手:梶井 功 東京農工大名誉教授


 今年7月の総代会で、新井前会長の後を受けて、JA共済連会長に野村弘副会長が就任した。野村会長の座右の銘は「要は只誠意にあり」だ。まさに協同組合人らしい言葉だといえる。そこで、厳しい環境下にあるJA共済事業がこれからめざすものについて、新会長に忌憚なくお話いただいた。聞き手は梶井功東京農工大名誉教授。

◆誠意で紡いだ人と人のつながり ――協同の原点

野村 弘 JA共済連経営管理委員会会長

のむら・ひろし

昭和11年生れ。平成5年岡崎市農協組合長、11年あいち三河農協組合長、愛知県農協各連合会会長、12年愛知県本部運営委員会会長、14年愛知県各連合会経営管理委員会会長、17年JA共済連会長。

 ――会長に就任された抱負をまずお聞かせ下さい。

 野村 JA共済が社会的に評価をいただく組織となり、高い保有高と資金を持っています。私は学校を卒業して農協に入組し、以後、農協以外は知りませんので、こうした大きな組織の長に就任することになって、緊張しましたね。
 しかし、そうはいっても半世紀の間にJA共済事業をこれだけ成長させたのは、JAやJA共済連の役職員のご苦労があったことと、その時代のお客さんのニーズに合った商品がタイミングよく開発されたことがあると思います。とくに建物更生共済が、他に類がなかったこともあって伸び、それに生命共済も引っ張られてきたのではないかという気がします。最近は建更が長期共済に占める割合を大きくしてきていますが、やはり生命共済が基本でなければいけないと思います。利用していただく農家組合員に満足していただける、JA共済と契約してよかったなと思っていただけるような仕組み・商品であって欲しいと思います。そして、JA職員が農家組合員と心の通ったお付合いができ、人間的な信頼関係ができることが基本だと思います。
 そうしたことを通して、安定的に持続的に事業が発展するために努力しなければいけないと思っています。

 ――「要は只誠意にあり」という会長の言葉はいい言葉ですね。

 野村 母校である安城農林高校の校訓ですが、「重要であり大切なことは、何事においても誠意をもってあたるべし」という意味です。

 ――この言葉は、ある意味では協同組合の原点ですよね。

 野村 誠心誠意の取り組みを通じて、組合員・利用者の信頼を得、「人と人とのつながり」によって共済事業は発展してきました。ご指摘の通りですね。

◆史上最高の共済金支払いで全国的に存在をアピール

梶井名誉教授
梶井名誉教授

 ――大正10年ころに当時の産業組合の参事だった佐藤寛次先生らが欧州を視察して帰ってきて、共済を欧州ではみんなやっているから日本でも、といったのが共済を問題にし始めた最初だと思います。それが戦後になってようやく実現したわけですが、戦後の事業であるにもかかわらず、ずいぶん急成長しましたね。

 野村 一番最初に共済事業が始まったときには担当者がいませんでした。当時は1口1万円とか5万円という話でした。

 ――最初から共済を担当されていたんですか。

 野村 入会以来ずっと共済の担当です。

 ――昨年度は自然災害続きで、共済金支払が史上最高でしたね。

 野村 史上最高の共済金支払をしたことで、JA共済は全国的に認められたと思っています。災い転じて福となるですよ。
 それと損保会社は政府に再保険していますが、JA共済は税金を払って責任準備金を積んでいるわけです。これを取り崩して支払ったわけです。
 しかし、災害が起きたときには、もっと迅速に支払わなければいけないとも思っています。それは自動車共済も同じで、JA共済なら迅速かつ確実にやってくれるといわれるようにしたいですね。それがサービスだと思います。例えば家が倒れているのを見たら、いずれ払うのだから、半金でも8割でもすぐに払えればいいなと気持ちのうえでは思いますね。

 ――共済事業の進め方について、説明責任などが農協法が改正され明記されました。推進のしかたがこれまでと変わりましたか。

 野村 農協法改正で推進形態が変わるということはありません。ただ、利用者の方々には、十分説明し納得いただいたうえでご加入いただかなければなりませんので、LAによる推進体制をさらに強化していく必要はありますし、順次増やしていく方針です。

 ――代理店制度もできましたね。

 野村 いままでは県段階が共栄火災の代理店でしたが、こんどはJAが代理店になれることになりました。JA共済の弱いところを共栄火災が持っていますから、弱いところを補うという意味ですね。だから、どこの損保会社の代理店にもなれることにはなっていますが、共栄火災以外は一切考えていません。

◆営農指導・経済事業が農協事業の原点

 ――日本の農協の特徴は総合性にあると思いますが、そのなかで共済事業はJA経営に占める役割が大きい。それをこわすような信用、共済分離が農協改革案として出てきています。どうお考えですか。

 野村 JA経営の柱になっていますから、共済事業が安定的に発展していかないと、JAの経営に大変な影響をおよぼすことになると思いますね。
 現場で仕事をしていると、金融や共済を組合員が利用してくれる原点は、営農指導や経済事業をちゃんとやっているからなんだと実感します。しかし、ここが採算ベースに合わないような経営をしていることも事実です。営農指導など、農協法でいえば賦課金をとれることになっていますが、いまの社会で、いくら組合員とJAといっても賦課金をくださいといってもムリです。だから、愛知県のJAを例にとれば、賦課金を貰えるとことろは貰うけれども、少ないです。
 そのかわりにJAが事業利益を上げたときには内部留保させてもらい、JAの経営基盤を確立しようということをやってきました。
 そういうなかでJA事業を分割すると、金融・共済は収益があがりますから「利用者に配当しろ」という論理になります。そうなったらJAはどこにいくのかと思いますね。
 歴史的に総合農協できたから、金融も共済も原点は営農事業なんです。そこを分離すれば、金融も共済も成り立ちません。

 ――販売代金もJAに入ってくるわけですしね。

 野村 営農指導された野菜を共同出荷する。そのときに、生産履歴についてもJAで指導されたとおりにすれば安心ですしね。営農指導によって、地域毎に特色ある産地も形成され、販売高も増えます。日本農業の原点は米ですが、北海道から沖縄まで同じ政策というのではなく、地域に合った生産体制が必要だと思いますね。

「ひと・いえ・くるま」のすべての保障を利用してもらうことが理想

◆保有契約の保全こそが組合員との信頼を深める

 ――これからのJA共済の課題はどういうことですか。

 野村 ニューパートナーといっていますが、若い人に利用してもらうことですね。そのためには、多少の経費と労力がかかっても頑張らなければいけないと思いますね。

 ――フォルダー登録して「ひと・いえ・くるま」の3分野を利用してもらおうとやっていますが、これはどうですか。

 野村 JAは一定のエリアが決まっていますから、他のエリアに推進にいくわけにはいきません。だから、エリア内の人にはすべての分野で利用してもらいたいわけです。しかし、私どもの調査では3分野すべてを利用している人は、全体の2割程度です。まだ、目の前に開拓すべき市場があるわけです。

 ――最後にこれからのJA共済事業としてここに力をいれていきたいと考えておられることはなんですか。

 野村 共済事業がJA経営の大きな柱となっていますから、継続・永続的にこれを発展させるには、時代にあった新しい商品をタイムリーに開発・提供していくことが重要です。
 それから、保有契約高が減少しています。これでは新契約をいくら増やしても意味がないわけです。だから、JAは現在ある契約を保全することに努力すべきですね。現在、契約してもらっているものを存続・継続してもらう努力をしないで、ただ、数字さえ上がればとやっていたのでは、いずれ破綻するだろうし、契約者の信頼を勝ち取ることはできないと思いますね。
 満期とか事故とかの自然減は仕方がありませんが、減少傾向にあるとはいえ早期解約がまだまだあることが問題だと考えています。つまり、本当に契約者に理解・納得してもらったうえで、ご契約いただいているのかという疑問がありますね。
 これからの時代、健全な経営をしようとするなら、健全な商品を、組合員に健全に推進することが原点にならないといけない思います。組合員と長く付き合おうと思えば、共済事業が最も有効なんです。3分野ともご利用いただき、それをJA共済としてもしっかり管理していくことが理想ですし、やらなければと考えています。JAの職員でもJAの自動車共済に加入していない人がいます。まず足下から固めていくことも大事だと思っています。

 ――今日はお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。


インタビューを終えて

 新会長が、会長就任にあたって新聞に掲載されたメッセージのなかに“私の人生観に大きく影響している言葉に「要は只誠意にあり」という母校の教訓があります”という一節があった。
 お聞きしたら、母校は安城農林学校とのこと。安城農林といえば長く同校の校長を務められた山崎延吉先生の名が農業関係者ならすぐに頭に浮かぶだろう。が、私には、山崎先生の著書もさることながら、20年ほど前に復刻刊行された同校同窓会誌「流芳」が印象深く想い出される。
 同窓会誌とはいえ、立派な月刊農業雑誌でもあった。そういう雑誌を刊行し続けたこと自体、この学校の教育の質の高さを示すと今も考えているが、野村会長はその学校を卒業するとすぐに地元の農協に就職、最初から共済事業に取り組まれたという。共済事業については、むろん農協諸事業についてもだが、筋金入りなわけである。農協批判が急な昨今、しっかりした舵取りを新会長に期待しよう。(梶井)

(2005.9.30)



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