農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋を築くために

シリーズ どっこい生きてる日本の農人(4)−2

座談会
交流によって生まれた誇り、自信、そして責任

渡邉均 JAささかみ専務
石塚美津夫 JAささかみ販売交流課長
今村奈良臣 東大名誉教授



 生協グループとの交流活動を柱に農協の事業を展開してきたJAささかみ。「これからの農業には現場からのボトムアップが重要」と提唱する今村奈良臣東大名誉教授と、同JAのこれまでの取り組みと今後の課題などについて渡邉均専務と石塚美津夫販売交流課長に話し合ってもらった。

◆環境保全型農業を消費者がバックアップ

渡邉専務
渡邉専務

 今村 現場では5年先、10年先を見据えてまさにボトムアップで新しい路線をつくっていくことが大切だと私は思っています。その点でJAささかみが販売交流課というおそらく全国でもまずない部署をJAにつくったことが注目されます。この背景から聞かせていただけますか。

 渡邉 今までは営農指導課が旧首都圏コープ事業連合(パルシステム)との交流活動を担ってきました。交流は昭和53年から始まりましたが最近では大変大きな事業になって年間3000万円ほどの予算が動くまでになったし、年5回の交流ツアーで2000人もの人たちが都会から来るようになっています。
 ここまで大きくなってくると営農指導も大事なんですが、われれわれの販売は交流があるから販売ができるわけですから、もうはっきりと分けたほうが仕事がやりやすくなるだろうと今年の4月から組織を改めました。

 今村 もうひとつ交流のために農協が中心になってNPOも立ち上げていますがこれは?

 渡邉 NPOは「食農ネットささかみ」といいますがこれも村と生協とで平成16年に立ち上げました。
 交流事業は規模があまりにも大きくなってくると、農協内部だけでは動きが鈍くなってしまう。そこで具体的に生協のみなさんと実際の交流活動をどうするのか、産地側での段取りといったことをすべてNPOが行うことにすればフットワークも軽くなるし、広がりも出るということから設立したんです。

◆理解を得るには「産地」の匂いが大切

石塚課長

石塚課長

 石塚 産地が減農薬栽培や有機栽培などにいくら取り組んでいても、消費者から理解していただかなければ、継続的な農業というのはできないですね。そのためには産地に来てもらって見聞きすることによって笹神という産地がインプットされる。私たちがいくら東京に出かけていって説明しても現地で交流しなければ、ニュアンスというか、匂い、これは絶対に分からない。ここが大事なんですよ。
 価値観を共有するような運動を展開しないと継続販売や有機栽培の拡大もできない。それには単に農協の事業としてではなく消費者とNPOを立ち上げて、環境を守る産地の取り組みを支援してもらうということにしたわけです。
 この交流事業のコストとして生協の組合員さんには農産物を1%高く買ってもらっていて、米でいえば5キロ2000円なら20円ですね。そして生産者にも60kg30円を出してもらっています。

 今村 価値観をどう共有するかが交流事業のポイントですね。メダカやトンボがたくさんいても、写真では本当の姿は分かりませんからね。今日も案内してもらいましたが、田んぼのあぜで実際に説明を受ければなるほどということになる。その姿に触れることに教育としての意味があるんです。

◆価値観の共有から生産者も元気に

今村名誉教授

今村名誉教授

 渡邉 それに農家自体も消費者のみなさんが何を考えているのか、何を欲しているのか、だんだん分かってくる。
 今400人ほどの農家が減農薬栽培をしていますが、たとえばここに来たお母さんが、子どもがアトピーでそれを治すためにとにかく食べるものぐらいは安全なものを子どもに食べさせたい、と話したことが生産者の頭にインプットされていますから、ここで除草剤を1回まけば本当は楽なんだけど消費者の顔を思い出すと絶対に安全なものを作ろうという気持ちが芽生えてくる。交流というのはこういうことなんだなということがみんなに実感されてきています。

◆たい肥センターが地域農業の核に

 今村 たい肥センターの立ち上げも平成3年と早かったですね。

 石塚 当時の五十嵐組合長はやはり足腰の強い地域農業にしていくにはたい肥センターをつくらなければだめだという考えをもっていました。その発想があったところに、ふるさと創生資金の1億円の話が出てきた。それを村長はたい肥センターにつぎ込むという判断をしたんです。

 渡邉 笹神にも商工会、観光協会もありますから、使い道にはいろいろ議論があった。しかし、この村の基幹産業は農業だ、農業のなかでも米づくりがわれわれの第一の産業だという理解が得られた。

 石塚 それまですでに10年以上交流事業をやっていたわけですが、ただそれは農協と生協だけの取り組みでした。だから、農協の役員のなかにももっと取り組みを広げるには行政も巻き込んで運動を広げていかなければという考えがあった。実はその前に村が「ゆうきの里ささかみ」宣言をしたんです。その宣言によって行政もわれわれの交流事業に加わっていたからこそ、たい肥センターの建設も実現したということです。

 今村 全国的には何か箱物をたくさんつくって今では持てあましている地域も多い。そういうなかでまさに先見の明があったと思います。さらに最近では農協と生協が出資して会社をつくり豆腐の製造販売をしていますね。

 石塚 生産調整面積が3割を超えてここでは200ヘクタールまで大豆栽培が増えました。しかし、将来は転作助成金がだんだん維持されなくなるだろうと見通していたときに、生協から笹神は水もきれいだから豆腐を作ってみないかと持ちかけられた。
 私たち産地側としては播種、中耕培土、乾燥調製などの施設に投資してきたのに、ある日突然、転作助成金がなくなれば大豆が作れなくなる可能性もある。だから継続するために何が必要かということを考えた場合、第一次農産物だけを売るのではなく、加工することによってこちらから価格条件などの提示もできるし、雇用の創出もできると。しかも生協からの提案という条件もあった。
 ただ、単に産地側の売れるだろうという思いでつくっては結局稼働率も悪くなって運営できないというケースをわれわれも見てきました。その轍を踏みたくないと生協と議論していくなかで、農協だけが運営するのではなくて、生協なども出資した株式会社ささかみを立ち上げたんです。
 ですから、消費者と生産者が話し合って交流して、いろいろな話を聞いていくと生産者に自信と誇りと責任が出てくるわけですよ。これが27年間取り組んできたことの成果だと思います。
 生産者も最初は私などが説得しなければ交流の場に出てこないような状態でしたが、今では回覧文書を回すだけで120人、130人と顔を出すようになってきました。これがいちばんうれしい。

◆歴史と生産者の思いが詰まった食を届ける

 今村 交流活動と言っても別の言い方をすればこれは商品開発委員会だと思います。その商品というのもただの米としての商品ではないよ、ということですね。そこに物語、歴史、文化、さまざまなものが詰まっているということですね。

 渡邉 パルシステムの組合員さんは85万人ということですから、それだけの購買層をわれわれが抱えているわけでこの村の2000ヘクタールではまったく足りないぐらいの量です。一方でJA合併について研究会が立ち上がっていて協議しているわけですが、われわれがこれまで取り組んできたことについては近隣のJAもこれを基本にして販売、交流活動をしていきたいという考え方です。
 問題は、今われわれがやっていることを拡大したときに、これまでとできるだけ差が生まれないようなかたちで広げていけるか、です。そこは強い意志でステップを踏みながら広げていくことだと思っています。

 石塚 農協も生協も組織がお互いに大きくなるかもしれませんが、やはりもともとあった小さな運動からもう一度取り組みはじめるということをしないといけない。商品に中身がないと結局は扱う量が多いというだけで消費者に訴えることになる。どうやってわれわれの物語を訴えていくかということにものすごいエネルギーを注がなくてはならないと思います。

 今村 今後の活躍を期待します。

 

(2005.10.18)



社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。