農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JAグループの麦類事業の取り組み

播種前契約を計画的な栽培、防除、収穫に生かす
現地レポート JA佐城(佐賀県)

 3月に閣議決定された新基本計画では食料自給率45%を平成27年度に達成する目標を掲げた。食料自給率向上のために期待されているのが国産麦の生産だ。麦作では実需者のニーズにあった良質な麦づくりと栽培履歴記帳など安心・安全対策が一層重要になっている。また、麦は19年度から導入される品目横断的経営安定対策の対象品目であり、行政と一体となった地域での担い手づくりへの取り組みも課題になっている。今回は佐賀県のJA佐城を訪ね「売れる麦づくり」への取り組みを聞いた。 JA佐城

ポスター大の「売れる麦づくり暦」。右側が栽培管理記録の記入欄となっており切り取ってJAに提出する
ポスター大の「売れる麦づくり暦」。
右側が栽培管理記録の記入欄となっており切り取ってJAに提出する

◆麦作戸数は2400戸

 JA佐城は、平成13年に佐賀県の中南部の1市8町の7JAが合併して発足した。北部は標高1000メートルの天山の麓のみかん産地、南部は平坦な有明干拓地の米麦中心地帯までがJA管内となっている。農地面積は9130ヘクタールで組合員戸数は9200戸ある。
 麦は17年産で作付け面積6400ヘクタール、2400戸で生産した。大麦50%、小麦50%の作付け割合だ。麦の販売額は平年で約25億円となっている。
 地域では昭和50年代の麦作機械やほ場整備の推進で麦の増産が進んだが、近年では水田の団地化、品質向上などの取り組みに対する助成などによって麦作への取り組みがさらに盛んになってきた。
 なかでも平成12年からの、生産と需要のミスマッチを解消するための民間流通への移行、麦の本作化をめざすなかで麦種の転換なども進んできている。
 代表的なのが小麦のチクゴイズミで製粉会社からの要望で作付けが進んだ。それまでは地域全体でシロガネ小麦が中心だったが、この要望をきっかけに小麦の作付けがなく大麦だけだった地域にチクゴイズミの作付けをJAが推進。農家の理解を得て需要にあった麦の生産を進めてきている。
 ただ、課題はビール麦の生産。これはどの地域でも同じだがビール麦として販売できる検査規格が厳しいため、天候に恵まれないと評価が上がらない。
 「ビール麦として販売できるかどうかはとくに収穫期の天候によほど恵まれないと。検査で半分しか評価されないか、あるいは年によってはまったくだめだったということもある。これは毎年の大きな課題」と同JA営農販売部営農企画室の矢ケ部勝美室長は語る。

◆播種前契約で生産の体系化をはかる

麦の播種に向けて田の荒起しが始まっていた
麦の播種に向けて田の荒起しが始まっていた

 ビール用以外では焼酎原料などの大粒大麦として利用されるが、残念ながら販売価格は下がる。生産者にとては痛手だ。こうした不安定な面も麦作にはあるため作付け面積を地域全体で大麦、小麦の半分づつになるよう営農指導してきた。
 ただ、播種前契約については矢ケ部室長は「JAとして販売計画にもとづいた計画的な生産、営農指導が可能になった」とそのメリットを語る。
 播種前契約によってJAがどの生産者がどの品種をどれだけ作付けするのかが把握できる。また、麦種による播種時期についても集落、生産者ごとに指導できるし、収穫期も想定できる。
 さらに面積と反収から収穫量を考慮した共乾施設の荷受け体制の準備をあらかじめ組んでおくことも可能になったという。
 JA管内には13のカントリー・エレベーターと2つのライスセンターがある。共乾施設の受け入れ能力は平均して面積で400ヘクタール分。管内で生産される麦の受け入れには十分な能力を備えており、計画的な収穫、集荷ができる。
 「収穫は大麦の次が小麦となる。共乾施設ではそれを見込んで具体的に大麦の集荷、そして施設の清掃、小麦の集荷、とスケジュールを組むことが可能。営農指導担当と共乾施設関係担当者が協議して、その年の天候などによって収穫期を想定しながらスケジュールを考えている。共乾施設単位で一定のレールを敷いた栽培、防除、収穫、集荷を考えられるようになった」という。
 この制度ではもちろん播種前契約どおりの生産量が実需者から求められることは言うまでもない。
 「生産者のみなさんには、しっかり作れば売れるのだから生産量の達成を、と強調しています。売れる見通しがあるのだからがんばって作ってくださいというのがJAの指導の基本になりました」と話す。

◆DON対策など安全確保も課題

JA佐城の米麦共同乾燥施設
JA佐城の米麦共同乾燥施設

 こうした売れる麦づくりのために生産者に求められている課題のひとつに赤かび病のDON(デオキシニバレノール)対策がある。
 現在、DONの暫定基準値は1.1ppmと定めれており基準値を超えると食用として流通できないため適切な防除が必要だ。
 JAが農家に配布する麦づくり暦でも重点目標として赤かび病防除が強調されている。具体的には4月の出穂期、開花期に防除を行うことが重要だ。JAでもサンプリング調査を実施しておりこれまでのところ基準値を超える例はないが、農薬取締役法の改正などで農薬使用期限の変更などもあったため今後も適切な薬剤による適期防除に向けて生産者への周知が課題となっている。
 また、米や野菜などと同様に栽培履歴記帳にも取り組んでいる。JAが配布する栽培暦にほ場管理記録が記入できる欄を設けており、生産者は収穫前に切り取ってJAに提出する。JAはその記録を確認してから集荷する。これまでに例はないが、かりに栽培記録に不備があれば共乾施設では区分して集荷する体制をとっている。

◆集落営農を基本に生産力を維持

 小麦ではパン用小麦のニシノカオリの作付けにも一部で取り組んでいる。これも国産麦の消費拡大をめざした取り組みで国が開発した品種。県内のメーカーがパン用に使用して販売し、麦の地産地消を促進している。
 JA管内には生産組合が427あるがすべての生産組合に対して品目横断対策への転換に伴う担い手育成に向けた取り組みが重要になってきることをこれまでも座談会などで説明してきた。基本は全集落での集落営農集団づくりである。
 ただ、4ヘクタール以上の経営は9000戸のうち300戸にすぎず小規模農家から大規模農家まで多様な農家による体制で地域農業を維持していくことが基本と考えている。これまでに2000戸で耕作をしない農家が出てきたがいずれも利用権設定に取り組み大規模農家などが耕地面積を広げており耕作放棄が進む状況にはない。現在の多様な生産者によって耕地利用率は175%と高い水準を誇っている。農業機械、防除用無人ヘリコプターなどの設備の共同利用も集落で進んでおり生産性向上、コスト低下に取り組んできた。自給率向上のためにも麦の生産を増大させることが求められているなか地域実態にあった体制の支援も必要だ。
 「集落の今の力で麦生産を維持していくことがまず課題。安全、安心対策の負担問題、原産地表示問題など生産者を支援する政策課題はまだあるのではないか」と矢ケ部室長は話している。


播種前契約の一層の遵守を
JA全農米穀部麦類課 渡邉敏明課長

 国は、今後の麦政策について、16年5月に食糧部会の下に生産者団体、実需者等で構成する「麦政策検討小委員会」を設置し具体的検討を行い、本年10月には、最終とりまとめとして「今後の麦政策のあり方」が整理されました。そのなかで、民間流通制度のあり方として、「引続き需要に応じた良品質で生産性の高い麦の生産に取組むため、播種前契約の徹底を図る必要がある」と整理されています。
 また、この小委員会での検討経過のなかで、民間流通制度の仕組みの課題については、民間流通連絡協議会において検討することとし、本年4月、7月の民間流通連絡協議会で18年産民間流通の仕組みの変更と、19年産以降の民間流通制度の見直し方向を決定しました。
 民間流通の仕組みは、12年産の民間流通移行当初から播種前契約を基本としていますが、18年産民間流通の仕組みの変更では、作付面積を契約の基本事項に追加することなどにより、播種前契約の趣旨の徹底が求められています。
 さらに、19年産以降の民間流通制度の見直し方向では、現物取引の導入などにより、播種前契約されたものとそうでないものを明確に区分しようとする考え方の検討など、播種前契約の一層の厳格化と、需要に応じた生産が求められています。
 一方、本年10月に「経営所得安定対策等大綱」が決定され、そのなかで、品目横断的経営安定対策については、(1)施策の対象となる「担い手の基準」、(2)諸外国との生産格差を是正する対策(過去の生産実績にもとづく支払い、各年の生産量・品質にもとづく支払い)の仕組み、(3)収入所得変動緩和のための対策の仕組みなどが定められました。
 今後、19年産の制度導入時までに、施策の対象となる担い手の育成・確保する取組みを国・農業団体が一体となって強力に推進するとともに、制度の円滑な実施に向けた準備をすすめていくこととしています。
 このように麦に係る農政転換がすすめられているなか、麦は作れば売れるという状況ではなく、担い手の育成・確保、品質や生産性向上等を図りながら、「実需者ニーズに応える麦作り(売れる麦作り)」をすすめ、播種前契約を遵守していくことが非常に重要となっています。


(2005.11.16)



社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。