農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 農業倉庫火災盗難予防月間スタート (17年12月15日〜18年2月15日)

点検は災害防止の出発点

よりいっそうの保管管理体制の強化を
現地ルポ JA豊栄(新潟県)


  日本人の主食である米を巡る状況は厳しいものがあるが、農業倉庫はそうした米の販売・流通の重要拠点だ。そして、米の検査が民営化され・販売・流通が自由化されたいま、自主保管管理体制の充実・強化は、組合員に対して責任をもつということも含めて、倉庫業者としてのJAの責務だといえる。
 さらに、米も一般食品と同様に安全安心は当たり前という品質管理が求められ、倉庫における「保管履歴」の開示も求められる時代になってきている。こうしたことから火災盗難はもとより品質管理に細心の注意をはらわなければ、産地として選ばれない時代でもあるといえる。
 JAグループでは毎年この時期に「農業倉庫火災盗難予防月間」運動を実施しているが、この運動の重要性が一段と重くなってきているといえる。そこで今年は、米どころの新潟県で低温倉庫を建設したJA豊栄に取材し、いま何をしなければいけないのかを考えてみることにした。

JA豊栄低温農業倉庫
JA豊栄低温農業倉庫

良質米の品質を安定的に保持するために

◆JAオリジナル肥料でうまい米づくり

和田正良営農経済部長
和田正良営農経済部長

 新潟県北部、阿賀野川の河口に近い右岸に位置する旧豊栄市(現在は合併して新潟市)がJA豊栄の管内だ。阿賀野川水系の豊富な水と新潟平野の肥沃な土壌によってコシヒカリを主体とする高品質・良食味米が生産されている。また、北部の海岸沿い砂丘地帯では園芸栽培も盛んで、ニンジン・ネギ・ナスが生産されている。施設園芸は、春トマト・メロン・トルコギキョウなどが県下トップクラスの生産量をあげている。
 JAの販売事業実績によると3分の2が米で23億5000万円強(16年度)、次いで野菜が8億3500万円、たばこ2億円強、花き・球根約1億4000万円となっている。
 米の作付けはコシヒカリが7割近く占めているが、最近はこしいぶきの作付けが増えてきているという。JAでは、消費サイドのニーズに応えた食味向上に向けてJAオリジナル肥料の「うん米有機化成肥料」の施用を推進している。「うん米」は「うんまい」と読み、「旨い」という意味の地元の言葉を製品名につけたのだと和田正良営農経済部長。また、減農薬栽培にも取り組み、環境保全型農業を推進している。
 生産・販売される米の主力は「JA米」で、種子更新や栽培記録の記帳を徹底し、食味が良くて安全・安心な米づくりを進めている。販売は全農新潟県本部を通じての系統販売が主体だが、減農薬栽培米などでは契約栽培が一部行なわれているという。

◆農業倉庫を集約し低温倉庫を建設

 こうした米を集荷・保管する施設としては1つのカントリーエレベーター(CE)と9つの農業倉庫があったが、今年9月にJA豊栄低温農業倉庫が完成したのを機に、老朽化し使い勝手の悪い農業倉庫を廃止して集約化した。現在は、1つのCEと6農業倉庫で収容保管できる体制となっている。17年産米の集荷販売計画は12万5000俵でほどよい倉庫管理となる。
 低温倉庫の建設は、JR豊栄駅前にあった2万6000俵(60kg)を収容できる農業倉庫が、都市開発の駅前買収計画に協力して旧豊栄市に売却したこと。また、老朽倉庫を廃止したことで、17年産米の集荷販売計画量を基準に考えると収容力が不足することから、かねてから農業倉庫用地として取得していた土地に、5万俵収容保管できる低温倉庫を建設することにしたものだ。
 建設にあたっては、作業の省力化・効率化をはかるために、保管方法を従来からの手積みによるはい積みから、フォークリフトによるシートパレット積み保管方法にした。

◆広い検査場(下屋)、2つに分けた倉庫で効率化

17年産米がきれいにはい積された倉庫内部
17年産米がきれいにはい積された倉庫内部

 実際にJA豊栄低温倉庫を訪れると、もう1棟同じ規模の倉庫が建てられるのではという広いスペースが広がっており、集荷時や出荷時に営農車や大型トラックが何台来てもまったく問題がないと思えた。
 そして何より驚いたことは、検査場(下屋)が広いことだ。検査場の入り口のシャッターから低温倉庫の気密防熱扉まで14mもあるのだ。10トンクラスのトラックが入ってしまう長さがあり、出荷時に積み込み動線が短くできる省力・効率的な設計になっている。
 ここを訪れたのは11月上旬で米の集荷・検査は終わっていたが、大豆の検査が行なわれていた(大豆は検査後に別の倉庫に移動し保管される)。これだけの広さがあれば検査もかなりやりやすいのではないだろうか。
 低温倉庫は、2つの独立した倉庫となっており、間仕切りの壁に気密防熱扉を設置している。訪れたときは集荷・検査後、間もない時期なのでどちらも満杯の状態だったが、いずれ出荷されどちらか一方で収容保管できる量になれば、一方に集約し、もう一方は空にすることでエアコンや加湿調整機を停めることができる省エネ・省コスト設計になっている。また、フォークリフトにはバッテリー式を採用しており環境対策も万全だ。

◆受入品種を絞りコンタミ問題に対応

 最近は、卸や小売側から異品種の混入(コンタミ)について言われることが多いので、その対策も兼ねてこの低温倉庫にはコシヒカリしか入れないことにしていると和田部長。CEで集荷する米には4品種9区分があるが、コンタミ問題への対策として、品種別荷受・保管を徹底している。こうした着実な努力を怠ると思わぬクレームが持ち込まれ、JAだけではなく生産者にも負担をかけることになるので要注意だといえる。
 いまは集荷直後で余裕はないが、3月を過ぎれば多くの米が出荷されるので、その時期にはCEで籾摺りされた米をここに移し保管する予定にしている。CEと連動して良質米の品質を安定して保持できるのも低温倉庫の大きなメリットだといえる。

◆食糧事務所OBを講師に 保管・検査の研修会

月間ポスター
月間ポスター

 肝心の火災盗難対策だが、低温倉庫入り口の扉脇に消火栓を設置するとともに、電気関係とネズミ駆除については専門業者と契約し万全を期している。また、各本・支店に倉庫担当者を置き、入出庫がない時期であっても温度管理や湿度管理も兼ねて、1日1回は必ず巡回点検することにしている。鍵の管理も必ず本店・支店で行なうようにしている。
 米の検査が完全に民間に移行する。JA豊栄には5人の民間検査員(職員)がいるが、米の収穫が始まる時期が来ると、食糧事務所のOBを講師に、米の管理・検査についての研修会を必ず行なっている。そして、集荷・検査が始まる前にはパートも含めてミーティングを行い、火災盗難だけではなく品質などでの事故が起きないように周知徹底している。
 売れる米づくりや安全安心で良食味の米づくりということで、種子更新や栽培履歴の記帳、減農薬や土づくりなどに関心が集まるが、収穫された米は消費側に渡るまで農業倉庫に保管される。この最後の段階でキチンと管理され、収穫時の品質を保持したり、火災や盗難事故を防がなければ、それまでの組合員の努力はすべて無駄になってしまう。
 そういう意味でも、農業倉庫における保管・管理を徹底することが求められており、JA豊栄では、その責任の重さを担当者だけではなく、経営のトップを含めてシッカリと認識し、対応されていたことを取材を通じて強く感じた。


(2005.12.19)



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