農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋を築くために(2)

シリーズ どっこい生きてる日本の農人(5)−2

農地を守ることがこの村で生きること

条件不利地で集落営農を組織化
福島県・(有)グリーンファーム 小林安郎 代表


◆標高400メートル超す豪雪地帯

 福島県の奥会津地方、昭和村は標高400〜1400メートルの中山間地域だ。農地は750メートルの地点まである。年平均気温は9度で冬は豪雪に閉ざされる。
 その昭和村に、大雪警報のなか隣りの田島町からタクシーで峠越えするのは、やはり無謀だったか。強風で雪が舞い上がり視界が真白になるホワイトアウトにときどき遭いながら、(有)グリーンファームの事務所にたどりつくと、「いやあ、最高の日に来たねえ」と代表取締役の小林安郎さんが、笑いながら出迎えてくれた。
 平成11年に設立された(有)グリーンファームは17年度は水稲36ヘクタール、水田転作20ヘクタールの受託を含めて経営している。村内の水田面積は320ヘクタールだから、その5分の1近くを占めていることになる。
 村内の人口は1600人ほどで50年前にくらべて3分の1になった。高齢化率は52.5%で県内1位、農業者に限った高齢化率は70%を超えている。
 「夫婦二人だけの世帯が増えた。どっちかが病気にでもなれば米づくりはできないという不安から、だれかに任せたいという家が多いのが実態」だという。
 同社の社訓は「豊かな自然、豊かな大地を未来へ」。「何としても農地を荒らさない仕組みづくり」(小林さん)に取り組んでいる。

(有)グリーンファーム 小林安郎 代表

◆受託組織づくりから法人へ

 小林さんは昭和44年に旧昭和村農協(現、JA会津みどり)職員になって以来、長く営農課で仕事をしてきたが、人口減少が進むなか、大きな課題は担い手づくりだった。
 昭和62年、ライスセンターの竣工を機に、23人の農家に声をかけ村で初めての農作業受託組合を組織した。すでに高齢化が進み作業を部分的に委託したいという農家も増えていたことから、中核農家を中心にした生産体制を考えたのである。
 しかし、ソバ以外になかなか転作作物がない地域で生産調整は強化され、今後の米づくりにみな不安を感じた。新たに投資してまでも…、と同意は得られず組織化は断念したという。
 その一方、農家からはもう部分委託ではなく全面的に米づくりを任せたいという声も出てくる事態になっていったのである。平成4年、昭和村農協は東北地方で初めての農業経営受委託事業を始める。組合員から農地を預かって生産し、収入から経費を引いた残りをすべて還元する。農協の経営という点では収支トントンの事業だが、営農課の仕事のひとつになった。29戸、7ヘクタールの利用権設定が行われてスタートする。これが現在の農地利用集積への始まりとなった。
 農協による受託事業は7年には当初の倍の15ヘクタールを超える。営農課の仕事は当然ほかにもあって受託面積は20ヘクタールが限界だろうと見込まれた。ただし、委託したいという農家は増えつづけることも明らかだったことから、10年のJA合併を機に新たな法人組織づくりをめざす。
 その中心になるのは、営農課長の小林さんしかいない、というのはすでに衆目の一致するところだった。
 「ただ、ここは銘柄米地帯ではないし、反収も8.5俵ほど。標高の高い田んぼでは冷害のリスクもある。どう試算しても水田経営では逆立ちしても黒字はでない」。
 そこで小林さんが考えたのがJAの利用事業を新しくつくる法人へ移行することだった。ライスセンター、育苗センターの運営、無人防除ヘリなどの利用事業が加われば「何とかいける」という試算が出た。
 こうして11年に、JAも出資した農業法人、(有)グリーンファームが設立され、小林さんは代表取締役になった。JAと事業利用契約を結び、農機のリース取得、農産物販売の委託、購買利用など関係は密接だ。また、村から冬の仕事として除雪作業も受託する事にし、経営の安定を考えた。

◆集落営農で活気も生まれる

 一方、各集落での農用地利用改善組合の設立も進められる。集落内の農地利用を集約して担い手の農業を支える仕組みづくりである。
 まず小林さんの住む中向地区でグリーンファームの設立とほぼ同時に話し合いが進んだ。この地区は36戸の集落で農地は合わせて23ヘクタール。協議の結果、利用権を設定して、いったん農地保有合理化法人の県農業開発公社に預け、担い手を中心に集積するように委託する計画を立てることに合意。グリーンファームは中向地区の特定農用地利用規程で担い手として位置づけられ、8へクタールの経営と6ヘクタールの作業受託を行うこととなった。
 農用地利用改善組合で過半の農地を集積する担い手として位置づけられたことから、特定農業生産法人として認定された。
 中向地区の人々には老朽化した集会所を新築して新しい交流の場としたいという希望があったが、農地集積促進のために得た助成金の一部をグリーンファームが建設基金として集落に還元するなどの取り組みから、それを実現。今では高齢者が郷土料理の講習会を開いたり、そこを拠点とした話し合いから国道をフラワーロードにしようという女性たちの運動も生まれてきた。
 また、米づくりではけい畔管理などが可能な人には作業を任せ労賃を支払うという仕組みもつくっている。
 「集落全員で花を植えるなど新たな交流活動も出てきた。集落全体で農業を考えるなかから意識も変わり活気が出てきたと思う」と小林さんは話す。

◆地域への貢献と新たな作物づくり

 農用地利用改善組合は10の行政区のうち7地域で設立されている。設立が進んだのは農地を委託したいという場合に、グリーンファームとしても効率的利用の点から3へクタール程度の団地化を要件にしているからでもある。まずはそれぞれの集落でどう農地を守るかという協議があり、そのうえで任せる部分があれば任せるというのを基本にしている。「集落で農地を守ることが基本。われわれから自分たちで受けますよとPRすることはないです」。
 それでも委託面積がこれだけ増えるのは集落の力が弱くなっているからだろう。そのため農作業受託だけなく地域の力だけではできない部分も補完してきた。たとえば、水害で泥に埋まった水路の復旧の応援や、収穫した米を学校給食や福祉施設に寄贈してもいる。同社は公的な施設を利用するという性格もあることから、14年に村も出資した第3セクターとなったが、地域への貢献も積極的だ。
 村も耕作放棄を防ぐため15年度から「一斉耕起の日」を設けて住民参加で耕起や草刈りなどを行っているがグリーンファームもトラクターを出して応援してきた。「国道から見える農地では遊休地はなんとかゼロになった」という。
 小林さんは営農課長時代の昭和59年にカスミソウの産地化に取り組んだ。当時、たばこ農家が作付け品種変更にともなって生産をやめたいという人が続出したことから、普及センターとも連携してカスミソウを導入した。夏場の冷涼な気候でつくる良質なカスミソウは評価が高く年5億5000万円の産地に育てた実績もある。
 ただ、村全体の粗生産額は8億5000万円だから、水田農業の面では米に代わるものがないことが大きな課題だ。
 積雪期間は90日にもなり、これまで誰も作付けしたことがない小麦づくりにも転作対応で取り組んでいる。菌床シイタケの栽培や今年からは会津地鶏育ても手がけ、地域の温泉施設や民宿などに提供している。
 これらは経営を考えてのことでもあるが、地域の人々にグリーンファームが先頭に立って農業を引っ張っているという明るさを発信したいという思いもあっての取り組みだ。
 「農地が荒れてなくなった集落が山間部に2つある。田んぼがなくなれば人は住めない。農業を生業としている以上、この環境を荒廃させず持続させることがわれわれの仕事の大前提です」。
 最終的には一村一農場としての運営も課題になるという小林さんのリーダーシップに村の期待は高い。

(2006.1.11)



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