農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋を築くために(2)

シリーズ どっこい生きてる日本の農人(5)−3

生産者の目線で考え、相手にとっての
ベストパートナーに

千葉県・JA富里市 仲野隆三 常務


◆産直事業は生活部が担当

JA富里市 仲野常務

 千葉県北部の中央、ほとんど起伏のない北総台地に位置するJA富里市は、スイカ、ニンジン、ダイコンなど大型野菜産地として知られている。と同時に、JAの経済事業改革が焦眉の課題されているなかで、従来の無条件委託方式による市場流通から脱却して、消費者・実需者のニーズに応えた多様な販売方法を開発したことで注目されているJAでもある。
 JA富里市では「組合員の営農を支える“換金作物の生産・販売”でどれだけ自分たちの農協が役割を担ってくれるのか。農協の原点はそこにある。農協は組合員とともにいまの営農・販売事業をつくり上げてきた経験がある。だから組合員が自分たちの農協として支えてくれている」のだと思うと仲野隆三常務は語る。だからこそ多様な販売形態が生み出され確立されてきたといえる。
 JA富里市の農産物流通形態(図)をみると、さまざまな形態の流通販売チャンネルを開発してきていることが分かる。この図をみてまず気がつくことは、産直事業を生活部が担当していることだ。それは「営農部が販売のすべてを担当していては新しい発想がだせない」からだと仲野常務はいう。そして「信用事業の担当者がやった方が違った視点から新しい発想がでるかもしれない」とも。生活部と営農部が農産物販売をすることで「互いに競い合い、どちらも伸びている」という。

農産物流通形態と取り組み

◆地域の食をつかさどるセンターが産直事業

 産直事業の取引先に学校給食と養護施設がある。これについて仲野常務はこう語る。
 市場法の改正もあり、地方市場は衰退してきている。地元の市場から食材を調達している学校給食や養護施設、病院などは、例えば成田市の公設市場がなくなれば、松戸や柏の市場に行くか、築地の仲卸から調達することになるが、コストは高くなる。そうした「地方の食」や「弱者を誰が担うのか」。それは「地元のJAの仕事」であり、産直センターが担えばいい。学校給食でも病院でも、あらゆる食材をできれば1カ所から調達した方がコストを抑えることができる。だから野菜類だけではなく、必要とされる魚や乾物、調味料などについてもJAが調達して納品するようにすればいい。魚などは漁協と提携すればいいし、野菜類の場合には、端境期には近隣の農家やJAと提携するなど、「エリアを狭くしない」でJA域とか行政の境界を超えてもいいとも考えている。
 産直事業には、地元飲食業を加えた「業務需要」のほかにも、産直店舗を中心とする「家庭需要」や異業種やJA間提携などの「提携需要」があり、「地域の食をつかさどるセンター」が産直事業だというのがJA富里市の考え方だ。
 地元の家庭用需要に応える産直店舗はJA本店前に次いで2号店を開設したが、2号店の近くに安売りで有名な食品スーパーがオープンし影響が懸念された。しかし影響を受けたのはオープンの3日間だけだった。10km範囲に食品スーパーが9店舗あるが、地元で採れた旬の野菜の新鮮さが消費者に理解され、年間4億円を販売。地元消費者にしっかり根をおろしている。

◆外食・中食のニーズにきめ細かく対応

 営農部が担当する販売・流通はどうだろうか。
 ここでの特徴を一言でいえば「契約栽培」とin−Shop(イン・ショップ)のような「直販」ということになる。それに付け加えれば「PC」(パッケージセンター)の有効活用だ。そして、農産物やその加工による商品開発や提案をする仕掛人がJA富里市だといえる。現在、JA販売事業の3分の1強が契約と直販になっている。
 イン・ショップは現在、30店舗で展開し、約120人の部会員で年間60品目ほど生産している。鮮度がよく安心な地場野菜として好評で、野菜の市況価格が下がっても影響を受けることがないという。
 契約では、食の外部化が進み家庭で調理して食べられる食事は5割を切る時代になった、それにどう対応するのかが、JAグループの大きな課題となっている。JA富里市では、そこにチャレンジしている。例えば、ニンジンでは市場の規格ではBC品であっても外食や中食では使えるので、使いやすいように不要部分を切り落として洗い10kgで網袋に入れている。集荷センターにはそうしたニンジンが、市場出荷される段ボール詰とともに積まれている。皮まで含めて食材のすべてを使い切るという外食用では二度洗いして出荷するなど、きめ細かく実需者のニーズに合わせた供給がなされている。

◆加工で販売チャンスを広げる時代

 契約で仲野常務が重視するのは加工だ。BC品のニンジンはジュース原料としても出荷されているが、現在はそれ専門の生産者集団も組織されている。生鮮野菜は、収穫後3〜4日経てば葉物ならしおれるなどして商品価値がなくなる。それまでに売れなければ廃棄されることになる。そうしたものを漬物などに加工して、「地方産品=土産として販売することを考える時代だ」と仲野常務。野菜類だけではなく、日本ではあまり消費されない豚のモモ肉を生ハムに加工するなど、加工分野の可能性は大きい。
 加工まで考えることで、生産者が販売できるチャンスが広がる時代だが、JAにはいままでそういう起業家を生む風土がなかった。これからは「JAがその種をまかなければいけない」とも。JA富里市では行政や商工会と提携して「ふるさと産品育成協議会」を立ち上げ、地元産酒米による日本酒や焼酎など「農産物加工ふるさと産品」を販売している。
 JA富里市に視察にくる人から「富里は首都圏に近くて地の利がいいから…」とよくいわれる。仲野常務は、それを認めつつも「遠隔地こそ、加工で付加価値をつけるべきではないか」という。いままでの事業だけにこだわらず、新たな発想で事業の開発に取り組むことが、これからのJAの販売事業にとって大事だということだろう。

◆実需者ニーズに応え、他産地とも提携するPC

 PCもJA富里市にとっては重要な販売拠点施設だ。ここでは他産地との提携した事業も展開している。量販店などでは主要野菜は年間供給することが求められるが、富里だけでは当然だがむりがある。そのときに、量販店は富里の端境期に九州などの産地から調達するが、日々の需給に合わせて小分け・パックして供給することができにくいし、それをすれば無駄も多くなりコストもかかる。そこで九州からJA富里市のPCに持ってきて、日々の需給に合わせて小分け・パックして納品するという事業が行なわれている。
 委託(市場流通)は販売の大半を占めているが、無条件委託販売ではなく「すべて実需者を決めての販売」だ。市場の機能を活用した「商物分離」だ。

◆どうやって知恵を絞って売るのか

 これまで大雑把にJA富里市の農産物販売をみてきた。JA富里市は大きなJAではないが生産者の規模や年齢はさまざまで、それぞれの営農形態に合わせた販売が可能な仕組みがJAによって提案されていることが一番大きな特徴だといえる。生産者は、JAから提案されたさまざまな販売形態のなかから自分にあった方法を選択することができる。それはJAが常に「生産者と同じ目線で」事業を考えてきたからできたことだといえるだろう。
 そして「マーケットは動いている」。衰退するものに力を入れても事業は伸びない。その動きを的確につかみ、それにあわせた方法を模索してきた結果が、無条件委託方式から脱却した多様で創造的な事業を開発し実を結んできている。
 JA富里市が供給している企業は、量販店、生協、外食・中食産業、加工・原料企業など幅広いが、それぞれの需要形態に合わせて供給している。
 さらに、提案があれば、野菜だけではなく畜産物でも穀類でも富里で栽培が可能なものはすべて取り組む姿勢を取引先に対して打ち出している。
 JAの仕事は「どうしたら相手にとってベストパートナーになれるか」であり、「どうやって知恵を絞って売るか」だと仲野常務。ベストパートナーとなる相手は、量販店や外食などの取引先だけではない。地方市場が衰退するなかでその役割を産直センターが担うことで、地域の住民とともに生きることも含まれているのだ。

(2006.1.11)



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