農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋を築くために(2)

 揺れ動く農村 流れに抗する地域


今こそ、農村から新たな豊かさの時代を創る

現地ルポ(3)
熊本県玉名郡三加和町「夢ランド十町」



手づくり看板の前で 夢ランド十町の主な役員さん
手づくり看板の前で 夢ランド十町の主な役員さん

みんなが主役のムラづくり  住民総意の運動でムラが変わる

目標の第1番目は「農業でもうけよう」
目標の第1番目は「農業でもうけよう」

◆「地域力」を維持・向上させる一里一夢運動

 「ダメと言わない考え方とできないと思わずに行動する」。そして「できる人が、できることを、できる時に、ムリなく楽しく活動しているのが夢ランド十町です」。
 発足前から現在までの活動を要領よくまとめたパワーポイントを操作しながら、交互に説明してくれる副会長の荒木美智代さんと広報部長の池上久美子さん、そしてちびっこ夢ランド部員の岡本尋子さん。その後ろには会長の池田弘昭さん、前会長(現・参与)の池上誠一さんと副会長の松尾憲成さん(町の職員で後述するふるさとパートナー)の男性陣。説明は「女性の元気は、ムラの元気」という、とにかく明るくて元気あふれる女性陣。男性陣は必要なときは口を開くが、穏かな笑顔で聞いている。
 ここの活動は多岐にわたり内容も豊富なのでそのすべてを紹介する余裕がないのでいくつかのポイントに絞ることにしよう。
 熊本県三加和町は、日本マラソンの父として知られる故金栗四三翁の生地で、県北西部、福岡県との県境に位置する過疎地域の指定を受けている町だ。菊池川の上流である和仁川・十町川・岩村川の3本の川沿いに集落と耕地が分布し、人口は6000人弱。農家は865戸で全世帯の半数を占めている(2000年農林業センサス)が農家所得は県平均の8割程度だという。
 夢ランド十町は、熊本県三加和町が人口減少と高齢化、とくに若年層を中心とする生産年齢層の減少から低下する「地域力を維持し向上」させるために打ち出した「里づくり運動〜一里一夢(ひとさとひとゆめ)運動」のトップバッターとして発足した。

◆誰でも自由に発言できるワークショップ手法を導入

 町の「里づくり運動」は、住民の自主的・主体的な自治組織をつくるために、「住民自らが地域の課題を整理し、将来像や夢を描き、協力して行動しながら、その実現をめざす」。そのために26の行政区(集落の集まり)を公民館を中心にする面識集団である8つの里に再編。各地域に住む町の職員は「住民であり、行政マンである」ということで「ふるさとパートナー」として活動をサポートすることにした。前に触れた松尾さんはその一人ということになる。
 これはユニークだと思ったことがある。一般的には農業関連部署がこうした運動を担当するケースが多いが、三加和町でこの運動を担当する部署は企画観光課で、小山暁課長も高木洋一郎課長補佐も公民館など社会教育に携わってきた職員だということだ。
 この運動は平成7年から始まるが、8〜9年には20歳代から70歳代までの各年齢階層から無作為抽出した住民1000名を対象にしたアンケート調査を実施(回収率89%)。町長がその結果を各地区を巡回して報告し、里づくり運動への参加を呼びかけた。そして十町を里づくり運動のモデル地区に設定し、誰でもが自由に意見をだせるようにということでワークショップを開催した。「少ない地区で6回、多い地区では10回ものワークショップが開催された」(小山課長)。
 ワークショップでは、女性が積極的に発言したという。女性とくに主婦は生活に密着しているだけではなく、「町外・県外の出身者も多いので、出身地とこの町との比較ができるなど、この町で生まれ育った男性とは異なる視点をもっているので、その発言は重視された」と高木さん。いままでは、長老的な存在の人の意見や考えで動くことが多かったが、「ワークショップを取り入れたことで女性や若い人が里づくりの担い手になった」。そして高齢者が女性たちを支援するようになったとも。

◆集落ごとの「夢談義」で5つの将来像と目標を

 そして平成10年4月に3行政区・6集落で構成される十町地区で里づくり運動のトップバッターとして「夢ランド十町」を設立する。十町地区はこの当時、総世帯数197戸総人口694人。うち農家は115戸(専業31戸)だった。農業は、良質米産地として評価される米を中心に、イチゴ・ナスの施設栽培、タケノコ・ミョウガなどの季節野菜、ミカン・クリなどの果樹との複合経営がされているが、米と施設栽培以外は品目数72もある少量多品目生産が特徴だといえるだろう。
 十町地区では9年から各集落ごとにワークショップによる意見交換会「夢談義」を行い、集落の現状を見直し、将来の夢を語り合いながらムラづくりの方向性を模索する。各集落ごとに集約された「夢」は、設立総会で披露された。
 夢ランド十町のキャッチフレーズは「みんなが主役のむらづくり」。将来像は、(1)安らぎのあるムラ、(2)美しいムラ、(3)豊かさのあるムラ、(4)楽しいムラ、(5)皆が主役のムラ、の5つとした。そして目標として、(1)農業でもうけよう!(2)十町を知らせよう!(3)道路を安全にしよう!(4)花いっぱいをすすめよう!(5)川をきれいにしよう! の5つを掲げ、行政に依存するだけではない住民総意の自主的な新しいムラづくり運動が始まった。

水質保全のためにアクリルたわしを製作・配布
水質保全のためにアクリルたわしを製作・配布

◆役員の半分は女性相互扶助精神が背景に

 会の役員は集落の枠にとらわれず30歳代40歳代が中心となり、半数は女性が占め、文字通り男女共同参画を実現したのも十町の大きな特色だといえる(他の地区は男性2・女性1の割合だという)。高木さんの話だと、十町の人たちは寄り合いや行事などに夫婦同伴で出てくる人が多いという。また、3つの行政区の区長や議員は会の顧問として必要に応じて出席してアドバイスを行なうことにした。
 設立当初は、産業開発部・企画交流部・生活環境部・自然環境部・広報部の5部会と中十町地区、橋上地区、坂本地区、下平地区、猿懸・山口地区の5支部でスタートしたが、現在は、企画産業部、環境部、広報部と子どもたちを対象にした「ちびっこ夢ランド部」の4部会に整理した。
 十町地区の場合には、行政が里づくり運動を提唱する以前からボランティア活動が行なわれており、それが里づくりの基礎となっている。その活動は、地区の子どもたちが通学する緑小学校ミニバスケット部が平成元年から4連続で全国大会に出場。県内外から合同練習に集まる子どもたちを地区が中心になって迎えた。これをきっかけにして地区の母親同士の交流が始まり、地区をあげて子どもたちを迎えてくれたことへの感謝と「お返しの気持ち」から、母子で地区の清掃や高齢者に弁当をつくって届けるなどの活動が始められる。それに父親たちも加わるようになり地区全体の活動に広がり「行政の支援を求めて待っているだけではだめだ。力を合わせ、自分たちにできることから始めよう」という共同意識が生まれてきていた。
 その背景には、農作業や集落での共同活動である「もやい」や「手間替え」といった相互扶助の精神に裏打ちされた地元への誇りや愛があったといえる。

◆多彩で豊かな活動を展開

 夢ランド十町の活動は多岐にわたっているが、その主なものを5つの目標に即して箇条書き的に並べると次のようになる。
▽農業でもうけよう
 農産物直売の推進や加工品開発、農業生産組織の設立をめざして、講演会などを開催して検討を深める。
 各種イベントに、十町の農産物や加工品を出品し、十町のPRと同時に、消費者の意見・感想を活動に反映する。
▽十町を知らせる
 各集落の入り口に看板を設置したり名所旧跡案内板の設置に取り組む。各集落では男性が看板をつくり、女性がそこに絵などを描いたという。
 活動状況を紹介する広報誌を発行。誌面は子どもや高齢者にも親しめるよう写真などを多く使い分かりやすいような工夫がされている。
▽花をいっぱいにしよう、川をきれいにしよう
 コスモスなど季節の花を植栽する“花いっぱい運動”を展開。各集落の看板の周囲にはいつも季節の花が咲き誇っている。
 アクリルたわしを製作・配布して家庭でできる水質保全への啓発活動を展開。
▽道路を安全にしよう
 カーブミラー清掃と道路危険箇所の点検を続けている。
 通学路での交通指導の実施。

◆希望と夢が膨らみどうにもとまらない

 こうした活動を支えているのが「女性の発想は、夢と希望で膨らむばかり。どう〜にもとまらない」という女性パワーだ。農産物や加工品の値段決めやバザーなどの食材選びには女性の家計感覚が活かされ、出品物は毎回、完売するという。また地区に伝わる郷土料理や農産加工品を受け継ぎ次世代に伝えるために高齢者からの聞き取りを行い、十町の味噌づくりやレシピづくりにも取り組んでいる。そうした活動の裏方を男性陣が努め、共同作業が積極的に進められている。
 こうした活動が評価され、平成14年度豊かなむらづくり表彰事業で総理大臣賞を受賞した。
 また、ちびっこ夢ランド部では、空き家を借りてお年寄りによる読み聞かせを行なったり、イチゴ狩りや七夕飾りなどの活動を月1回行なっている。十町の子どもたちにとって、「地元のおじいちゃん・おばあちゃんたちがお友だち」という関係が築かれてきているという。
 十町を中心にした里づくり運動は元気な女性陣を先頭に順調に進んでいるようにみえる。しかし、大きな課題もある。それは18年3月に菊水町と合併が決まっており「和水(なごみ)町」になることだ。合併した後で現在のような行政との関係が維持できるのかどうか。この関係が変わったときにどういう方向で進むのかだ。どのような形になろうと、ここまで進んできたパワーが衰えることはないだろうが…。

(2006.1.16)



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