農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋を築く女性たちの役割

 生産者の女性たちへのメッセージ

「世の中が悪くなると女は元気になります」

〜「食」で活躍する大消費地の女性たちからの期待〜

出席者
尾澤 和美さん  (生協理事)
増子 隆子さん  (NPO法人環境デザインセンター副理事長・
   自然食の健康食卓代表)
山本真理子さん  (有限会社タップス代表取締役)
(アイウエオ順)
司会 坂田 正通  (本紙論説委員)

 「世の中が悪くなると女が元気になる」と山本さん。世の中の悪化を数えれば、まずは地球環境の悪化だ。それと関わって「人間の健康や脳の働きがおかしくなっているが、そのもとに食生活の問題がある」と増子さん。「このままでは日本の風土に培われた“食と農”が継承できなくなる」と尾澤さん。3人は共通の危機意識を持って“元気な女”の取り組み課題を語った。生産者と消費者の架け橋となる活動をしている人たちだけに論点は、食の安全安心をはじめ食料の輸入問題や流通問題から地域おこしなどにも発展した。そして「今こそ女性が立ち上がらなくては」と強調した。ジャンヌダルク…そんな名前を挙げるまでもなく日本でも乱世に出現して男たちをリードした女性たちが歴史に名を残している。座談会は、そうした女性の再来を期待したいといったような熱っぽささえ感じさせたりもした。

◆地域づくりを進める

尾澤和美さん
尾澤和美さん
 ―― 最初に自己紹介を兼ねた「食と農」についてのコメントを一言ずつお聞かせ下さい。尾澤さんからどうぞ。

 尾澤 東京の南東部をエリアとする生協で、いろいろ勉強しながら活動しています。食のことだけでなく、福祉や環境など生活全般にわたることを地域住民とともに考えていく“まちづくり”も進めています。

 増子 私は循環型社会を目指して、地域づくりの活動をしています。最初は水処理問題に取り組みました。やがて食が危ないということで、日本人の食の柱はお米と大豆だと考え、安心でおいしい品質のものを作る所を探しました。しかし思わしい所が見つからないため、自分たちで作ろうと東京で生産グループを立ち上げて5年目です。
 「せたがや棚田倶楽部」というグループで、NPO法人の活動の一環として運営しています。
 農地は新潟県十日町市内(旧松代町)に確保し、無農薬の自然農法で米と大豆を作っています。現地の農家にも有機農業の採算性を検討しませんかと声をかけましたが、自然農法の価値をわかってくれる消費者がどこにいるのか、などといった疑問が出たため、今度は販売を考え、1年前には世田谷に「自然食の健康食卓」という名のお店を開きました。商品は米と大豆に加え、十日町の方が作った納豆や、私たちが現地で仕込んだおみそなどもそろえています。今年からは野菜も扱う計画です。

 山本 私は情報処理業が本業ですが、仕事の中で環境とか地方の自立とかJAなどとの関わりが増えてきました。しかし統計などから結論を導いて、その対策を提案するには実際にコトに当たってみないと、よくわからないという問題意識から、故郷の新潟・佐渡に関わって地域起こしに取り組みました。
 そして「佐渡ジャーナル」という新聞の発行を始め、また佐渡の特産品を直売する通信販売が主体の会社「ぜいごや」を設立しました。どちらも五年前からです。通信販売では東京に住む佐渡出身者に懐かしいふるさとの特産品を届けています。

 ―― みなさん大活躍をされているんですね。さて最初の論点ですが、この冬は寒波と豪雪がひどく、農作物の生育に被害をもたらし、物流にも響いて出荷できない農家は減収に悩み、一方で野菜や果物の価格高騰で消費者は困っています。尾澤さん、対策はいかがですか。

◆再生産できる価格を

 尾澤 そうですね。私どもの生協は山形のJAと提携し、登録した組合員は一年間そこのお米を購入し続ける約束をしていますが、93年の冷害を契機に基金を造成しています。それを一昨年の潮風害で取り崩し、あっという間になくなってしまいました。そのため組合員にカンパを呼びかけたりもしており、その他の対策もありますが、まだつかんでいません。

 ―― 価格変動を緩和するための基金ですか。

 尾澤 いいえ、本来安定した取り組みのための米の開発が目的ですが、生産者の再生産が困難な状況になったことで使いました。再生産ができる価格で作物を引き取るという考え方が基本です。産地からの買い付け量も前もって約束をするため組合員の購入申し込みが少ないとあわてる時があります。
 今年は組合員が、米に限らずいろんなものを山形からたくさん買うという申し込みをすることが一番の支援になるとして、そのための情報をたくさん出しています。長期契約というよりやはり信頼関係ですね。

 ―― 価格が高くなると、すぐ輸入物に走るとか、品薄の場合、スーパーはカット野菜の工夫をしたりしますが、輸入依存についてはどう思いますか。

 尾澤 世界の食料危機が予測されていますが、もっと具体的に中国の問題があります。さらに経済発展をして、食料の輸入大国になった場合、日本に回ってくるものがなくなるんじゃないかとも予想されます。もし、そんなことになったらどうするのか。手をこまねいていてよいのか、こわい感じです。為政者はどう考えているのでしょう。
 それから、今は寒波や大雪で野菜や果物の値段が高騰していますが、それまでは安かった。お米も安値です。大切な食料が、こんなに安くていいのかしらと心配になったりもしました。
 だって、余り安くなると、作る人がいなくなるんじゃないかと思います。すると大きな会社などが乗り出してきて、工場のようにして大量生産方式で食料製造を始めます。その“農法”はハイテクとかバイオとか遺伝子組み換えになると思います。
 一番こわいのは、それでよしとする人が増え、その方向でよいのだ、と思ってしまうことです。
 だから今行われている農業の価値を実感することが非常に重要だと考えます。
 そのためには消費者も農業体験の機会を持つことです。体を動かして土に触り、そのにおいをかぎ、五感を働かして食べ物を作る営みを実感することです。とにかく土を体験することです。
 生協活動の中で、そうした機会をもっと増やしていけたらいいなと考えております。

◆情報を阻害する流通

 ―― 農業生産をしている増子さんとしてはいかがですか。

 増子 農業は工業製品を造るのとは違うということを肝に銘じるべきですね。命を育むものを作っているのですから。しかし農業経営の採算性を考えると“命”の部分と引き換えに何かを失っていくことになるので、そこをどう踏まえるかですね。

 ―― 山本さん、どうぞ。

 山本 そうした問題に対するJAの役割をいえば、消費者にわかってもらい、協力を得ることです。そのためには正確に生産者側の情報を提供し、産地振興なども含めて、今後どうしていきたいのかを、本気で消費者と話し合う必要があります。

 尾澤 生産者と消費者の間にJAなどの流通があるから、お互いに直接顔が見えないのかどうか。生協のありがたいところは直接生産者の顔が見られることです。
 提携先のJAとともに交流会を開き、生産者は消費者の声を直接聞くことができます。
 私が最初に交流会に参加した時はリンゴ農家に行きました。生産現場を見た後の参加者の集まりで、私は「もっと小さなリンゴを作ってほしい」と要望しました。私はイギリスに行っていましたが、向こうのリンゴは小さくて1個1人分にぴったりです。ところが日本のは大きくて2人分あるため、1人で食べると半分は残ってしまうのです。
 ところが、それを聞いたリンゴ農家の女性はびっくりしたのです。それまでは「大きくないと売れないと思い込んでいた、まさか小さいのが欲しいなどというニーズがあるとは夢にも思わなかった」というのです。驚きながら「いい発言を聞いた」と喜ぶ農業女性を見て、こうした交流は必要だなとつくづく思いました。
 生産者と消費者の間には、流通の方々がいて「小粒のリンゴはだめだ」というと、生産者は、その立場からしか需要が見えなくなってしまうのだと思います。
 だから、どういう人を対象に、ものをつくるかを考えたほうがよいのだと思います。

 山本 ターゲットを絞って生産し、そして流通をどうするかを考える必要がありますね。

 ―― 流通が論点になりました。増子さん、どうぞ。

 増子 間に流通が入ると消費者の情報が生産者にうまく伝わらないという問題、それから流通コストが高いこと、この2つの問題をどうクリアするかです。消費者は「流通コストを食べている」といった感じもあります。
 だから私たちは直取引を進めています。直なら、見た目に悪いもの、不ぞろいのものを一つの箱に詰めてもOKですが、流通が入ると、今の話のように規格通りの大粒リンゴ以外は排除されます。流通をどうするか、それがネック、壁ですね。

◆社会不安の原因問う

増子隆子さん
増子隆子さん
 尾澤 だから地元で採れたものを地元で消費する地産地消がいわれているわけです。

 ―― 流通合理化が叫ばれてから久しいのですが、具体的に一つ一つの改善を進めるとなる大変です。では話題を先ほどの輸入問題とからめて安全安心のほうへ移したいと思います。

 増子 私たちは輸入品は扱いません。出所不明のものを扱わないというのが原点です。

 人間の体は食べ物で、でき上がっていると思います。また食が崩れるのは社会不安のもとといわれます。異常な事件が増えていますが、思いもよらぬ行動を起こす人はやはり脳に問題があるのではないでしょうか。
 食べ物に異物が入っていると脳細胞の情報を神経がきちんと伝達できないのではないかと思います。異物というのは本来の食べ物でないもの、つまり添加物や農薬や化学肥料などです。
 大本は食だと思います。食をまともにしないと老後も次世代も危ない。食は体をつくるだけでなく、家族のコミュニケーションなどにもつながります。
 だから「自然食の健康食卓」の店に置くものは栽培履歴の明確なものに限定しています。先ほど話に出た生産者と消費者の信頼関係がやはり大事ですね。

 ―― 近年の異常な犯罪と食と脳の関係などに話が及びました。では山本さん。

 山本 相手を理解することよりも自分の主張を先に立て、人の話を聞かない、成長していないというヒトが増えましたね。生物のヒトから人間へと成長していないのです。それが問題です。
 対策の方向としては、まず社会の最小単位である家庭で正しい食事をしていくことが第一ではないかと思います。
 それから私は農薬使用が一切だめだとは思いません。蓄積には個人差がありますからなるべく使わないほうがよいのですが、しかし人間は何百年も生きられませんから寿命のある限りを健康で暮らせればよいわけで、そのための蓄積許容量が定められています。
 また自分が食べるものとは別に、贈り物には見かけのよい高そうな商品を選びたい。そんな品物は農薬を使って作る必要があります。だから農薬は正しく使えばよいのだと思います。
 私は潔癖症な人たちの話には抵抗を感じます。また手をかけないと作れない無農薬のものを安くで欲しがることもおかしな話だと思います。

◆営農指導をきちんと

 ―― 生協の場合は農薬についていかがですか。

 尾澤 日本の気候では無農薬でやるのは大変だと思います。

 増子 いや、それほど大変じゃないんですよ。

 尾澤 でも大量に供給していくのは大変なことだと思う。

 山本 土から変えていかなくちゃいけないから大変ですよ。

 増子 土を変えるには時間がかかりますが、後は余り手をかけないでやっています。

 山本 そこでね。私はJAさんなんかに営農指導をきちんとすべきだといいたいのです。今、何をしなければいけないかということをきちんと把握して農家を教育すべき人たちや組織が、もっと営農指導を強化してほしいと思います。

 増子 農業者の土とのコミュニケーションがとても薄くなっています。

 山本 そうですね。

 増子 だから農薬にしても即効を求めてパッとまく感じですが、農薬も化学肥料も高いのですよ。だから農家の方はもう一度、農業経営の採算性を把握して、土とのコミュニケーションを取り戻していったほうがいいんじゃないかと思います。

 尾澤 農家には現状の枠組みを変えて危険を冒す気にはなかなかなれないというところがあるのだと思います。だから消費者は自分の要望や意見をもっと農家に知らせるべきだと思います。やはり農業に誇りを持ち、安全安心の目標を掲げてがんばっていらっしゃる農業者を見るとほんとにかっこいいと思います。

 ―― 増子さん。米や大豆を作るご気分はどうですか。

 増子 食べ物のことがわかってくるし、楽しいですよ。私たちの倶楽部は農業特区への参入で新潟県では第一号に認定された生産グループで構成員には母子づれや若い人、学生もいます。
 地元の方々は「みなさんは県の認定で市民権を得たのだから、どんどん農地を使って下さい」などといってくれます。

 ―― 農地というのは耕作放棄地ですか。

 増子 いえ休耕田や以前の葉たばこ畑などです。もう少し説明しますと、東京都内からボランティアで新潟へ稲作、大豆作に出向くわけで、参加は誰でも自由です。田植え、草取り、稲刈りと作業は年間何回かありますが、そのうちの1回だけの参加でもOKです。
 子どもを含めて少しでも農業体験をする人を増やしたいのです。また費用を安くするために自動車を乗り合いにするなどいろいろ工夫しています。
 収穫物は卸値程度で、それぞれが買い取りますが、自分が作った完全無農薬米を食べられるのがうれしいと一俵まるごとを買う人もいます。

 ―― ユニークな活動ですね。大豆の自給率向上にも貢献しているわけだし。

◆生態系を守っていく

 尾澤 農地の活用についていいますと、東京23区内で世田谷は畑の多いほうですが、それでも耕作地は一部分だけという感じです。だから遊休農地を農業体験園などに活用できないものかと思います。少しでも農業を体験すると、その人の食と農に対する意識はぐんと違ってきます。
 関連して世田谷では農地や緑地の生き物環境調査をやっていますが、大都会にも驚くほど生きものがいます。少ない個所もありますが、やはり昆虫の世界も農薬をどれだけ使っているかに影響されているのだと実感しました。虫の種類が多くても、益虫、害虫、天敵とそれぞれいてバランスがとれているのだとも感じました。

 山本 生態系が崩れると、化学肥料や農薬を使わないと商品ができなくなります。作物はできても、その作物が商品にはならないのですよ。
 だから化学肥料や農薬を使う。すると土がどんどん悪くなり、その手入れもしないから、害虫を食べる天敵や益虫がいなくなります。だから土は非常に大事です。改良すべきです。

 増子 土と水ですね。

 山本 それは、酸性雨がどんどん降ってきては困りますが、農業はとにかく土です。

 ―― 土壌や生態系について消費者教育も大事です。

 増子 だから私たちは「自然食の健康食卓」の店で、この商品は東京のグループが新潟へ行って、みんなで作ったお米と大豆ですと生産履歴をくわしく写真つきで紹介しています。

 ―― 佐渡の特産品販売のほうはどうですか。山本さん。

 山本 それがね。佐渡島は大消費地の首都圏と離れているから生鮮食料品の輸送には冷凍が必要です。だから加工品を作らないといけないのですが、まだ商品化されたものが少なくて苦労しています。例えば核家族に合わせたパッケージにするとかの工夫が進んでいないのです。

 ―― JAの対応は?

 山本 全国の地域起こしについて、会社運営も含めた一般論でいいますと、私たちは情報を分析して提供しますが、それにもとづいて自分がどうしたいかを考え、判断するのは事業主体です。何か新しいことをやろうといっても、その地域や組織が自立的によしやろうという意識にならなければだめです。

 ―― 内発的な変革の意欲が必要だというわけですね。

 山本 外部からの提案が非常によいと思っても、それをやって失敗したら責任をとらなくてはならないから行動に移さないという面も組織にはあります。
 一方、全国のJAの中には個人的に自腹を切って新しいアイデアを実行し、成功した人もいます。そういう人がいないと変わらないという面が組織にはありますから、そうした人をバックアップしていきたいと思います。

◆生きることが困難に

山本真理子さん
山本真理子さん
 ―― 事業組織の活性化について生協のほうはどうですか。

 尾澤 新しいことをやる時には、やはり仲間がいるかどうかを考えますね。同じ夢を見ることのできる人がいるかどうかです。一人で声を挙げても、人を動かすのはなかなか困難です。

 増子 しかし最初から仲間がいるわけではないから、まず声を挙げる必要があります。すると何か共通するものを感じる人たちが集まってきます。

 山本 こうしたいと最初に思った人が、たった一人でも、それをやることです。そうしないと変わらない。そういうパワーを持った女性が結構いるんですよ。

 ―― そういうやり方は男よりも女性のほうがやりやすい面があるのじゃないですか。

 山本 男性と女性は根本的に違います。女は命をつないでいきます。それが私たちの仕事です。

 ―― 男の仕事は?

 山本 男は女性に「お願いします」と頼んで、命の継承にちょっと力を貸してくれるだけです。だから立ち上がった女は、命を継承するために、本能的に立ち上がらなくてはいけないというDNAを持っているんです。
 とにかく、今のままいったら世の中だめになっちゃう、世界が危ない、私たち死んじゃう、命を継承していけなくなるといった危機感を女は本能的に感じているんです。それが行動になって表れてきています。
 今、女が元気だといわれるのは、そういうことだと思います。世の中が悪くなると女は元気になるんです。世の中が平和な時に、女は立ち上がりませんよ。男のいうことを聞いて寄りかかっていれば楽ですもの。今は地球的規模で生きることが困難になっています。危ない時です。

 ―― かつての戦争中も女性は元気だったという見方がありますが、現在の危機意識というのはどういうことですか。

 山本 目に見えないところで命の継続を困難にする事態が発生していることを敏感な女は第六感で感じているんです。だから何とかしなくちゃいけないと立ち上がっているんです。
 戦争中の話が出ましたが、私も同じような歴史的視点を持っています。だって戦争中は日本に男がいなかったのですから命の継続が非常に困難でした。

◆スローライフ推進を

 増子 現在の状況では、危ないものをいっぱい食べさせられたりして健康に生きられない危険がありますから、やはり自衛しなければいけない時です。

 ―― 平和、地球環境、健康と問題は多いですね。

 山本 寿命がある限り健康で生きたいですもんね。

 増子 健康を自分できちんと守っていけば医療費を心配しなくてもいいと思います。

 ―― 消費者家庭と農家の食事について健康的に違いがあると思いますか。

 増子 農家は、おばあちゃんが昔ながらの農法で作ったものを食べているかといえば、そうでなく、お嫁さんなどがスーパーで買ってきたものを食べる家が増えています。それで、おばあちゃんの作物が余ってくるので、私たちはそういう野菜を店へ送って下さいと頼んでいます。

 ―― どうして自家で作った野菜を食べないのですか。

 増子 泥がついているのはいやだとか何とかいってね。

 山本 いえ、自然農法で作った自然食は、スローライフに見合っていて、手をかけて料理しないと、おいしく食べられない、しかし若い人は手をかけたくなくて、レトルトで済ませたいからです。

 尾澤 半製品などを買って手早く済ませようとしますね。

 山本 だから最初からミートソースを作る人なんてほとんどいない。でき上がったハンバーグを買ってきてフライパンで焼くだけといった人が多いのです。

 尾澤 世の中で発信されているほとんどの情報が、そういうことをよしとして、また当然としています。だから、その中で育ってきて、レトルトなどの選択肢しかなかった若い主婦たちにとって、それが悪いこととは思いもよらないことなのです。彼女たちの母親もまた手をかけた料理を作らなかったのですから、そうじゃない方向に行くのはとても大変なことだと思います。
 一方で子育て中の若い母親とゆっくり話していると、食をおろそかにする風潮にやはり疑問を感じていたりもしています。

 ―― 昔は母親がみそ汁の具を刻む音で目を覚ましたなどという子どもの作文がよくありましたが。

 山本 いや、それは今でもやっていますよ。朝の台所仕事は。だけどみそ汁を飲まない人が増えましたね。

 増子 それはみそがおいしくなくなっているからです。一般的な市販のみそは、みそじゃない。熟成していない。最低でも1年間は熟成させないとだめですが、でも、そんなことをしていたら恐らく大量生産には合わない。資金が寝ちゃうから。

 山本 2週間くらいで出してしまうんでしょう。

 増子 だから私たちはもう一度ほんとうのおみその味を少しでも味わってほしいと、おみそ作りをはじめました。

◆共働き家庭の食生活

 ―― 昔の農家は自家で作った大豆でそれぞれみそも作っていました。しかし手がかかるためもろみだけは、みそ会社から買うようになり、その後はさらに、みそそのものを買うようになりました。そしてメーカーは防腐剤などを添加するようになったという経過があります。

 増子 昔のみそはそのままで十分にご飯のおかずになりました。みそをつけたおにぎりのおいしかったことも思い出します。今そうした味の復活に取り組んでいます。

 尾澤 私たちは今のおみそに慣れてしまって、ほんもののおみその味を説明されても実感がわきません。しかし生協運動の中でメーカーに半年熟成のものを注文し、その次には1年熟成のものを求めています。やはり市販のものと食べ比べてみると、はっきり味の違いがわかります。

 増子 みそには料理の隠し味に使うとか、いろんな使い道があるんですよ。

 山本 しかし、そうした料理を作らない、作れない人が増えているという問題があります。例えば子どもからアサツキの酢みそを作ってと注文されても作れない母親ばかりでしょ。みそを使った日本古来のおかずを作れない状況になっています。

 増子 それでね。健康食卓の店では売っている素材に即した簡単でおいしい食べ方を、たくさんおそうざいとして作って出して提案しています。そして麩とかね。日本の昔からある栄養価の高い食材を勧めています。

 ―― サラリーマン家庭では夫婦共働きだから、主婦は料理に手をかけないということが、ずっと前からいわれていますが。

 山本 共働きだから食をおろそかにしているなどといわれるとカチンときます。

 ―― 共働きと手抜きには余り関係がないのですか。

 尾澤 共働きだからどうのこうのといわれたくないので逆に一生懸命、食事に気を配っている人や、また子育てが終わったから食事は簡単に済ませているなどいろいろですね。傾向をひと括りにはできません。その中でも話をしてみると、きちんと食事を作るということが大切だと思っている人が結構います。
 とにかくライフスタイルが大きく変わり、世の中が便利になって、失われたものが多い。私たちの年代なら何が失われたかがわかりますが、後の世代はそれがわからないから、失われた大切なものを取り戻そうということにはなりません。だから私たちの年代がちゃんと伝えていかないといけないと思います。

◆伝統食がやはり一番

本紙論説委員 坂田正通
本紙論説委員 坂田正通
 増子 大切なものが失われた結果が体に出てくるんです。例えばアトピーです。また、いろんなアレルギーを持った子どもが増えてきましてね。孫の喜ぶ顔を見たいけど何を食べさせればよいのかと店に相談に来るおばあちゃんもいます。

 ―― そういう体質はやはり食事から来ているんですか。

 増子 それ以外にないと思います。食は体のもとだから。

 山本 母親の体も問題です。

 増子 そうです。母親の食べたものの蓄積が子どもにいっちゃうんですよ。

 ―― それは増子さんの主張する自然食で直りますか。

 増子 直りますよ。

 山本 すぐには無理ですね。

 増子 時間はかかりますが、的確にきちんとした食事に戻していくと、出ていた症状が引っ込むとかね。もちろん洗剤の問題とかもありますが、ベースは食にあるという感じです。

 尾澤 日本列島の風土の中で作られたものを2000年以上も食べ続けて日本人の体が作られたわけですから、急激な西欧化で子どもたちの身長が伸びたなどといっても根本的なところでは対応し切れていないだろうとよくいわれますね。だから、ご飯にみそ汁といった伝統食がやはり一番ではないでしょうか。私も以前はそうではなかったのですが、近年はご飯にみそ汁が元気の一番のもとです。

 ―― さて、今後は増税とか社会保険料の引き上げなどで国民負担が重くなり、家計が苦しくなります。その中で食費を削るような傾向も出てくるのではないでしょうか。

◆農協は変わったか?

 増子 病院へいけばカネも時間もかかります。医療費が必要にならない前に早い目に自分の体に投資をして食費にカネをかけ、健康を確保しておくべきですね。

 尾澤 若者の中には食費を削ってでも遊ぶカネがほしいという人もいますから、食べることの意味、その大切さを伝えていく必要があります。

 山本 食事に手間をかけることが大切です。例えばてんぷらでも衣をつけた半製品を買ってきて揚げると高くつきます。それよりも素材を買ってきて自分で小麦粉を練るところから始めれば安くてすむし、また味もよくなります。

 ―― では最後に、今進められている農業の構造改革やJA改革について、感想があればお聞かせ下さい。

 山本 世の中が変わってきているのに農協は以前と余り変わっていないように思います。

 増子 私は昔、農協が組織されていったころのほうがよかったのじゃないかと思います。例えば今は何か銀行さんのようになっちゃったりして。

 山本 そりゃ昔は事業環境などに対応する農協の価値がありましたから。今は価値が発揮されていないと思います。
 それから、農家については、減反や転作や産地助成など農業補助金の使い方が活きていませんね。補助金が出るからといってどこもかしこも同じようなものを作ったり、それも販売を考えないで、ただ作っているだけといった状況があります。
 しかし、それでは危ないと気がついて、地域を変えようとこつこつがんばっている人もいます。その人たちをネットワークでつないであげる必要があります。それをするのが農協だと思います。


座談会を終えて

 男社会は平和な時代、地球規模で世の中がおかしくなっている今、世直しを考え始めているのは女性である、女性は本能的に未来の危機を感じているという。3人は、東京在住で「食」を通じて行動されている女性ばかり。
 座談会の始る前に、お茶の代りに手抜きしてペットボトルの水を出したら、一人から「飲みません。ペットボトルは困ります」と拒否されてしまった。おーいお茶とも言えず緊張して司会した。
 増子さんは葉タバコ等の休耕田を借りて都市住民を農作業の楽しさに誘うグループリーダー。山本さんは、正しい情報を基に自分で考え、行動して自分も変われと主張、社会が変わったのに変わらないJA指導者への批判は厳しい。尾澤さんはイギリス帰りから生協理事10年間、環境がテーマで活動している。同じ緑でも東京と農村では色合いが違うという。お米と大豆を素材にする日本伝統食は命の源という点では共通認識になったとおもう。(坂田)

(2006.1.30)



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