農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 絆の強化と仲間づくりで活きいきとした地域づくりを

自動車共済バージョンアップキャンペーンで
人傷特約が大幅にアップ
現地ルポ JAいなべ (三重県)

 JA共済事業を取り巻く状況は年々厳しくなってきているといえる。長期共済の減少傾向が続くなかで、その収益性の悪化も懸念されている。そうしたなか、JA共済事業の収益性を確保するために、長期共済だけではなく自動車共済にも力をいれ、人身傷害保障特約などの中途付加を全職員による一斉推進を行い成果をあげている三重県のJAいなべ(みえいなべ農協)に取材した。

◆優れた保障・サービスを利用者は選択する

 自動車共済の加入者が万一事故を起こしたときに、人身傷害保障特約(以下、人傷特約)や車両保障特約(車限定)(以下、車両特約)などの付帯契約がないと「十分な対応ができないために、クレームになることがあります。クレームが発生していると、口コミでそのことが広まり、自動車共済の新規契約が進まなくなってしまいます」。そうした事態を起こさないためには「契約内容をシッカリした中身にしてもらって、万全な備えをしてもらうことが大事です」と、JAいなべの門脇孝金融共済部長と川添涼衛金融共済部共済保全課長。
 JA共済連のアンケート調査でも、自動車共済・保険に加入するときにもっとも重視するのは、「商品内容やサービス」だと約66%の人が答えているように、優れた保障内容の提案が、自動車共済を推進する大きなポイントだといえる。

◆長期共済中心の時代は終った

 JAいなべは、昭和63年に三重県北部の伊勢治田・北勢町・員弁・大安町・藤原町・東員の6JAが合併して誕生した広域JAだ。背後には鈴鹿山系があり、JA管内のほとんどは純農村地帯だが、名古屋や四日市に近いこともあって工場の進出やベッドタウン化も進み、中山間地の支店から都市型支店まで、地域特性は多様化してきている。
 地域の農業は米麦と畜産が中心だが、青果物や茶、菌茸類と多彩だ。三重県は全体的に共済事業に力を入れているJAが多いが、いなべ地区は合併前から「共済推進のウェイトは高かった」と近藤吉男代表理事理事長。
 これまでの共済事業の中心は長期共済だったが、全国的にどこでもいえるように、満期を迎える共済が高水準で推移していることや共済・保険ニーズが多様化していることもあって、保有契約高は年々減少傾向にある。また、自動車共済でも民間損保の進出が著しく競合が激化し、JAのシェアが侵食されてきている。
 そうしたなかで、共済事業の収益性を確保するためには、「いままでのように、長期共済中心にやっていればいいという時代ではない。長期共済だけではなく、短期共済にも力を入れたい」(近藤理事長)ということで、具体的な推進方策が検討された。
 そのときに考えられたのが「いままでと同じ発想をしていていいのか。まったく新しい発想で考える必要があるのではないか」ということだった。JAの自動車共済のシェアは、地域No.1の20%前後あり、契約件数はほぼ「ピークにあり」それを維持してきているといえた。そうしたなかで、従来と同じ発想で新規契約の獲得というような全体的な推進でいいのだろうか。実際に、新規の見積りを提出しても後のフォローが十分でなかったり、他社からの切替えも思うようには進まなかったという。

◆既契約者に提供できるものはすべて契約してもらう

 そして、冒頭で門脇部長と川添課長がいったように、万一事故が起きたときに、人傷特約など万全な備えをしていないとクレームになったりするケースもある。つまり、加入者はJA自動車共済が持っているアイテムに100%加入しているわけではないからだ。JA共済連の調査でも、人傷特約や対物無制限割合は主要損保が60%台なのに対して、JA共済は24.1%、43%と低く、事故時の保障が不十分な状態にあり、「契約者に安心してカーライフを送っていただくためにも、今後さらなる保障充実に努めていく必要がある」(月刊「JA共済」・05年11月号)と指摘している。
 そこで、提供できるものはすべて契約してもらうことはできないか。「既契約者をもっと深掘り」することで「万全な備え」をしてもらい、「JA共済に入っていて良かった」という安心と信頼をもってもらう。そのことが口コミで地域に伝わっていくことで、ゆくゆくは新規契約につながっていくのではないかということになり、「自動車共済バージョンアップキャンペーン」を16年度から開始する。

◆全職員で中途付加を一斉推進する

 このキャンペーンは、1週間程度の一斉推進重点期間を設定し、JAの全職員が既契約者の自宅を訪問し、人傷特約の中途付加のメリットを説明し、契約してもらうというものだ。自動車共済の中途付加だけで一斉推進をするのは、全国的に見ても珍しいといえる。
 LAや共済窓口担当者以外の職員は、「もともと全員でやるというのが伝統」で、一斉推進に慣れているとはいえ「共済の素人」だから、事前に事故の事例を使用した過失割合に関する説明やきめ細かな話法など、内容を絞り込んだ研修を行い、全員がキチンと説明できるようにした。
 推進する中途付加は、16年度は車両特約と人傷特約だったが、17年度は人傷特約だけを対象とすることにした。本来ならば、掛金も高く保障内容も充実している車両特約にしたいところだが、とりあえずは既契約者に興味をもってもらいやすく、勧めやすい人傷特約に絞ったということだ。絞り込むことで、共済は素人の職員でも説明がしやすいこともあると川添課長。
 また、自動車共済の継続率が96%ということと、等級が高い契約者が多いのでその分、掛金が安くすむこともあった。だから、契約が終期を迎える前に説明に行き理解してもらえれば、多少掛金が上がっても自動的に継続につながるのではないかという読みもあったという。

◆パターン化された提案書で素人でも説明できる

「提案書」の表紙(左)と「計算見直し書」(右)
「提案書」の表紙(左)と「計算見直し書」(右)

 推進対象は、▽高い等級の契約▽継続から半年前後の契約▽人傷特約未付帯の軽自動車▽同一世帯の他車両で人傷特約が付帯されていない契約などの指標で選定。その一人ひとりについて、共済端末から契約データをエクセルなどを使って加工したJAオリジナルの中途付加計算書「自動車共済保障見直し(バージョンアップ)計算例」を添付した「見直しご提案書」を作成する。
 「見直し計算書」は図のように左側に、共済端末から取り出された現在の契約内容が表示され、右側に推進担当者が計算した人傷特約を付帯した場合の共済金額と中途付加掛金額が手書きされている。これに、人傷特約の内容を説明したチラシ、重要事項説明書などを綴じたのが「ご提案書」となる。
 全国的にみてもユニークなバージョンアップ(中途付加)一斉推進によって、初年度の16年度(17年2月1日〜3月31日)は、人傷特約387件、車両118件、合計505件という素晴らしい成果をあげた。そして、17年度(17年10月6日〜31日)は、人傷特約だけに絞った結果、中途付加は638件、継続時の148件をあわせると786件と前年を大きく上回る成果をあげることができた。

◆一番の成果は職員の意識が変わったこと

 こうした数字上の成果も大きいが一番の成果は「職員の意識の変化だ」と近藤理事長はいう。従来の画一的な新規契約獲得という推進ではなく、自動車共済の中途付加に絞り込むことで、共済は素人の職員でも具体的な目標を立てることができ、実際に目に見える成果があがったことで「やればできる」「何をすればお客さんに喜んでもらえるか」ということを真剣に考えるようになったということだ。
 それはいままで「影の存在」だった窓口担当者の意識も変えたといえる。そのことで、LAと窓口担当者などとの連携が、以前にも増して密になり、自動車共済の中途付加だけではなく、新規獲得や継続時の付加契約など、その波及効果が生まれてきているともいう。
 具体的に、17年度1年間の実績をみると、人傷特約が前年度より1304件、車両が173件、合わせて1477件増えている。そのうち、窓口で行われることが多い契約更新時の契約が688件もあることでも窓口担当者が積極的に人傷特約を推進していることが分かる。

◆大きく伸びた人傷特約付帯率

JA主催の「冬の展示会」でも自動車共済をアピール
JA主催の「冬の展示会」でも自動車共済をアピール

 この結果、16年3月末には、20.4%だった人傷特約付帯率は、今年3月末には59.7%(JA計算)と60%間近までに伸長してきている。JA共済連三重県本部のデータによると、県内JAの人傷特約付帯率のこの1年間の伸長率は平均で5.14%だが、JAいなべのそれは17.47%と唯一2桁台の伸びを見せている。
 また、自動車共済の新規契約も件数では前年をやや下回ったが、中途付加が伸びたので掛金は102%と前年を上回る実績をあげた。
 こうした一斉推進を中心とした取り組みだけではなく、JAが主催する「冬の展示会」(昨年11月26〜27日)でも「共済コーナー」(写真)を設置し、ドライバーの適性を診断するドライバー診断、こども共済クイズ大会や自賠責共済などの加入状況に関するアンケートを実施するなど、積極的にJA全体で自動車共済に取り組む姿勢をアピールしている。

◆将来的には短期共済担当LAの設置も

 JAでは従来、LAは信用・共済の複合だったが、18年度から共済専任体制にすることにした。そしてLAの人数も14名から17名に増員し、共済事業の体制をより強化した。そして将来的には、2名程度の短期共済担当LAの設置も考えているという。短期共済だけでは採算面で難しい面もあるが、長期共済が減少傾向にあり収益性の悪化が懸念されるので、LAでも長期・短期の担当を置き、それぞれの専門性を発揮することが求められるようになると考えているからだ。
 このLAを中心にした恒常推進と同時に、対象を絞り込んだ中途付加の一斉推進も今後も続けていくことにしている。人傷特約のように対象を絞り込み「ワンパターン化した推進は一斉推進が効果的だから」だ。18年度は、一斉推進のテーマを車両特約に絞っていく計画だ。
 JAの共済事業を取り巻く環境は、日に日に厳しくなってきているといえる。そのなかで、現状を維持するだけではなく、将来を見据えていま何をするべきなのかということを多くのJAでは考えているのではないだろうか。
 地域の特性やJAを取り巻く環境はJAごとに異なっており、その答えは一つではないだろうが、長期共済だけに頼らず、1家に数台はある自動車に注目し、その保障を充実させる中途付加を推進することで「JA共済に入って良かった」といわれ、利用者からの信頼を獲得しようとするJAいなべの取り組みは、大いに参考になるのではないだろうか。

JAいなべ の概況
(17年度末)
正組合員数7348人、准組合員数5042人
▽貯金908億円
▽貸出金132億円
▽長期共済保有契約高5050億円
(うち生命共済は2806億円、建更共済は2244億円)
▽購買事業取扱高29億円
▽販売事業取扱高19億円
(2006.5.22)



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