農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 絆の強化と仲間づくりで活きいきとした地域づくりを

レインボー体操で元気な毎日を
適度な運動は足腰を強め長生きの秘訣


 歩く速度が遅くなったり、視野が狭くなったり、聴覚が衰えたりなど運動能力や身体機能の低下は、高齢者の交通事故の大きな原因となっている。こうした高齢者を交通事故から守ろうとJA共済連が考案したのが「交通安全レインボー体操」だ。
 レインボー体操は、JA共済が昭和59年にJA女性部の方々の健康増進(心と体)のために、安全で楽しく続けることができる運動として開発した。心臓に負担をかけず、優しい動きで全身に血液を送ることができ、健康増進だけでなく、生活習慣病や要介護の予防などのいろいろな分野でも活用されている。今回新たに高齢者の交通事故の要因のひとつである加齢に伴う姿勢の悪化からおこる視野狭窄や運動能力の低下を和らげ、かつ改善することを目的に「交通安全レインボー体操」を開発した。敏捷性や判断力を高める手指の運動、歩行能力を高める足の運動、視界を広げ視力低下を予防する目の運動などなど、多くは椅子に腰掛けたままでもできる適度な運動プログラムとなっている。もちろん交通事故防止に役立つだけではなく、生活習慣病や要介護の予防にも活用できる。
 今回は、高齢者が元気に長生きするための秘訣とこうしたレインボー体操など適度な運動をどう生活に取り入れていけばいいのかなど、東京都老人総合研究所青蜊K利研究室長(運動科学研究グループ)にお話を伺った。

高齢者の交通事故防止にも貢献

◆横断歩道を渡りきれない高齢者

青蜊K利 室長
東京都老人総合研究所
運動科学研究グループ
青蜊K利 室長

 昨年の交通事故死亡者のうち65歳以上の割合は過去最高の42.6%に達した。高齢になると、歩くことなど運動能力が低下し、姿勢も前かがみになったりして視野も狭くなる。また、聴覚も落ちて周囲の音が聞こえにくくもなる。こうしたことが交通事故につながる。高齢者でも車の運転をする人は多いが、運動能力の低下はハンドルやブレーキ操作の遅れなどにつながり事故を起こしてしまうことになりかねない。
 こうした高齢者の交通事故で青蜴コ長が重視するのが「歩く速度」だ。図1に示したように高齢者の歩行テストの結果から分かったのは、年齢が上がると歩行速度が落ちて、横断歩道を青信号のうちに渡りきれない人が増えるという。自分では渡り切れるはずと思っていても、いつのまにか歩行能力が落ちていて危うく事故に遭いかけたということもあるのでは。また、高齢者のいる家族にとっても歩行速度が最近極端に落ちたな、と感じるようなら十分注意しなければならないだろう。
 実は、歩く能力というのは高齢者にとって交通事故を防ぐだけではないとても重要な能力だということが最近の研究で分かってきた。

図1歩く速さと死亡率(上)、高齢者の歩行速度(下)
図1

◆歩く速度が遅いと死亡率が高まる

 青蜴コ長は高齢者を対象に「歩く速さ」を基準にして身体能力などとの関係を調査している。(図2参照)
 4年間の追跡調査の結果分かったことは、歩く速度が遅いほど生活機能(自立度)の低下の程度が大きいということだ。また、転倒の発生率も歩く速度が遅いほど高まることが分かった。
 「寝たきり」の原因は、脳卒中などの脳血管障害がいちばん多いが、骨折・転倒も約12%(第3位)を占める。寝たきりの予防のためにも歩く速さは重要なポイントだということをこの結果は示している。
 そしてさらにショッキングなのが、歩く速さは死亡率にも関連するということだ。
 図1のように4年間の調査で歩く速さが速い人の死亡率は数%にとどまったの対し、歩く速さが遅いとされた人の死亡率は15%を超えたという結果が出ている。
 では、加齢とともに一度落ちてしまった筋力はもとに戻らないのだろうか。
 「いいえ、運動すれば身体機能も回復してきますし、筋力もついてきます。適度な運動は何歳になっても大切です」と青蜴コ長は話す。
 確かに若いころにくらべれば筋力はどの人でも、程度の差はあれ落ちる。とくに若い頃は短距離走で一気にダッシュするような短距離型の筋線維も太く多い。それが次第に落ちていくのだが、姿勢保持や歩行などに使う長距離型の筋線維は残っている。それをきちんと使えば筋線維が丈夫になって筋力はもどってくるという。
 青蜴コ長によると研究では加齢にともなう筋肉量の減り方は足にくらべて腕のほうが少ないという。つまり、腕の筋肉は普段の生活のなかで十分に使っているから、そこそこ維持されていることになる。一方、足はやはり意識的に使う必要があるということだろう。
 「加齢とともに腕も足も筋肉量は落ちます。ただし、腕の落ち方と同じ程度に足の筋肉量も維持できればいい。そのためにも運動を生活に取り入れることが大切です」。

図2歩く速さと転倒の発生(左上)、歩く速さと生活機能の低下(右上)、寝たきりの原因(下)
図2

◆運動で生き生き元気な生活を

レインボー体操は座ったままでもできる運動がほとんど
レインボー体操は座ったままでもできる運動がほとんど

 ところで、「運動」に対して私たちはどう考えているだろうか。血圧が高い、コレステロールが高いなどいわゆる生活習慣病の改善や予防のために「一日○万歩を歩く」といった運動に取り組んでいる人は多い。確かに運動にはそうした生活習慣病の改善、予防効果や体力増強などの効果があることは確かめられている。レインボー体操も有効だ。
 しかし、青蜴コ長は「体力の向上などは運動の効果のひとつの側面であって、本来の目的とは、運動をうまく生活に取り入れることによってどれだけ日々の身体活動が活発になったか、だと私は考えています」と話す。
 青蜴コ長は、身体活動計という日常の活動レベルを記録する装置を数百人に24時間着けてもらい、5年間の記録をとって、人間の身体活動の特徴を分析している。
 その結果、運動をしていてもそれが日常生活全体の改善につながっていない例も多いことが分かった。たとえば、うつ病と診断された患者の記録からは、外出して運動しなければという気持ちから夕方に犬の散歩はするが、それ以外はほとんど身体活動をせずずっと横になっているという例もあった。つまり、運動をしてもそれが生活にプラスになっていないことになる。「高齢者や低体力者の場合、運動によって疲れてしまって生活を活発にすることにつながらないケースがしばしばあります。むしろ運動の弊害といっていい」。
 疲れてしまって、外に出ない、人に接しないということになればまさに元気な生活とはいえないだろう。日常生活のなかに取り入れられた適度な運動が大切だということになる。

◆生活のリズムを取り戻すことが目的

 また、研究では人の身体活動の特性ということも分かってきた。
 たとえば、雨の日は確実に歩数が落ちる。家に閉じこもっているうつ病の患者は一日の歩数は4000歩程度。それを下回るとうつになりやすいという関係も分かった。生活にメリハリがなくなり睡眠障害などの原因にもなるという。
 このように気象条件によっては確実に身体活動は落ちることから、たとえば雪に閉ざされた冬の期間こそ、意識的にレインボー体操をするということが有効だという。
 一方、季節のよい春や秋は知らず知らずのうちに十分な運動をしていることもわかってきた。ただし、夏になって気温が上がると冬と同じように活動量は落ちる。これらのリズムは体温調節のため人間に限らず動物は自然に行っていることだという。
 こうしたことを考えるとどうしても身体活動が少なくなりがちな冬や夏などに意識的に運動を取り入れることは大事だ。
 「しかし、身体活動の十分な春や秋は無理して運動をすることもありません。運動を生活に取り入れようというと“一年間続けなければ”といった強迫観念を持ってしまいがちですが、それがかえって三日坊主のもと。一年を通じて身体活動を維持することが大切だと考えればいいのです」。

◆夕方の運動でぐっすり眠る

 季節や天候が身体活動に影響するほか、一日のうちでもリズムがある。
 朝起きてから次第に身体活動は活発になり、お昼頃にピークを迎え、その後、活動が緩慢な時間を迎える。これはだれでも持っているリズムで、午後、少し眠くなったりぼーっとしたりするものだ。実はこの時間帯に交通事故に遭うことも多いという。高齢者は要注意だ。
 その後、夕方になると身体活動は再び活発になる。青蜴コ長は「軽い運動をするならこの時間帯」だという。理由は体温がより上がることによって夜よく眠れるというリズムを作り出すことができるからだ。入浴するとぐっすり眠れるというのと同じだ。
 夜よく眠れないという人の身体活動を調べるとよく眠れるという人にくらべて、一日の活動量(すなわち体温)の変化の幅が狭いという。夜中に頻繁にトイレに行きあまり眠れないと、よく眠った人にくらべて昼間は活動量が落ちる。こうした生活パターンを放置しておけばうつや睡眠障害などにもつながるという。
 そもそも高齢者は一日の活動量の変化幅が狭くなりがちで、メリハリのない生活になりやすいという。つまり、活動量を上げるべきときには上げ、下げるべきときにはしっかりさげる、というパターンを取り戻すことが大切。そのために適度な運動を、ということになる。
 青蜴コ長は「レインボー体操は血行がよくなり日常生活にプラスになる体操。大勢で集まってやればコミュニケーションや社会参加にもつながる。JAの役職員に期待したいのは、家に閉じこもりがちなお年寄りをいろいろなイベントに呼んで身体活動を活発にしてもらうきっかけをつくること。とにかく一歩外へ、です。そのイベントの場でレインボー体操を教えていけばさらに運動を生活に取り入れることになると思います」と話している。交通事故予防と健康長寿のためにもレインボー体操の普及が期待される。
(参考:青蜊K利監修「高齢者の運動ハンドブック」大修館書店刊)

(2006.5.26)

 



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