農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 待ったなし! 担い手づくり「夏の陣」に全力を

JA出資生産法人を立ち上げ担い手育成を加速化
現場レポート JAえちご上越 (新潟県)

下真砂地区の農事組合法人「福橋」のみなさん
下真砂地区の農事組合法人「福橋」のみなさん
JAえちご上越

 平成19年産からの新たな経営安定対策に向けて、JAグループは関係機関と一体となった体制づくりのもと、今年に入ってからは担い手の明確化に向けて集落での合意形成に取り組んできた。とくに集落営農の組織化に力を入れ、できる限り多くの生産者が担い手と位置づけられるよう全力を上げている。秋口からは新たな経営安定対策への加入申請が始まることから、地域での担い手づくりは「待ったなし」の時期になっている。また、集落営農を法人、特定農業団体として組織化するとともに、営農計画の策定、農地・農作業の集積など、「担い手づくり夏の陣」として取り組みの強化が求められている。今回は、JA出資の農業生産法人を設立し、集落営農の組織化を加速化させようとしているJAえちご上越の実践をレポートする。


集落営農の法人化例も続々

◆JA職員のOBも活躍

上越市役所内にある「担い手育成支援センター」
上越市役所内にある
「担い手育成支援センター」

JAえちご上越管内の水稲作付け面積(17年産)は約1万3400ヘクタール。生産目標数量115万俵(60kg)のうち、JAには約64%、74万俵近くの出荷があった。
 生産者戸数は、約1万2900戸あるが、5ヘクタール以上の生産者戸数は300戸。作付け面積に占める割合は26.2%で生産者数では2.3%に過ぎない。一部の地域では認定農業者、法人などへの農地利用集積率が50%を超えているが、20%以下の地域もある。新たな経営安定対策の導入が決まって以来、同JAでも担い手づくりと担い手への農地利用集積が課題となっている。
 実態を把握するため昨年11月に農家組合長を対象に実施したアンケート結果では、「集落には個別経営で規模拡大する意向のある後継者はいない」という回答が約7割を占めた。また、離農者や規模縮小者が出た場合、「農地を耕作できず、耕作放棄になる可能性が高い」との回答が6割程度となった。一方、今後の方向としては「集落営農の組織化を考えたい」との回答が8割を超えた。具体的な回答は「集落の法人化」と「既存の受託組織を活用して経理の一元化をはかりたい」などだ。
 同JAでは、こうした集落の意向を支援するため、17年度に市、普及センター、JAが一体となりそれぞれから職員を派遣する「担い手育成支援センター」を設置、今年4月、上越市役所内に事務所を開設した。スタッフは12名で、JA職員のOBもいる。集落で合意を形成するには、地域の実情を理解しているOBの力が大きいという。
 一方、JAは4つの「営農センター」を担い手育成支援の業務に特化した。具体的には、各営農センターの仕事を水田作に特化した地域営農指導体制とすること。管内にはもちろん畜産や園芸もあるが、それらの営農指導機能は本店に集約。現場に近い営農センターを、地域の水田農業改革を後押しする場として思い切って重点化したのである。
 JAには今後、担い手専任部署やスタッフが求められるが「水田作に特化した営農指導体制そのものが、担い手育成体制であり、担い手専任部署でもある、と私たちは考えています」と営農生活部の古川敏雄部長は話す。

◆17年度に 13の法人化を実現

「龍水みなみがた」の代表上野さん(左)、塚田さん(右)、中央は支援センターの保倉一敏コーディネーター
「龍水みなみがた」の代表上野さん(左)、 塚田さん(右)、中央は支援センターの保倉一敏コーディネーター

 JA管内には17年度以前に法人化を実現した組織が23法人ある。さらに「支援センター」が立ち上がった17年度中に13法人が立ち上がった。
 そのひとつ、下真砂地区の農事組合法人・福橋は昨年4月に設立された。2集落あわせて20戸のうち17戸が参加した。実は、同地区では10年前に1ヘクタール区画へのほ場整備が完成。副理事長の太田美夫さんによると、それ以来、「集落1農場」の発想で農地利用を進めようと集落に呼びかけ、転作にも団地化して取り組んできた。集落が共同して農業を行ってきた経験があったため、今回、法人化の話はスムーズにまとまったという。今年も米を14.5ヘクタール、大豆を6ヘクタール作付けしているが話し合いで計画をつくり、農作業には全員が参加している。作業のスケジュール、時間などを太田さんらが決め、作業時間に応じて時間給を支払う。取材で訪れた日は大豆の培土作業をしていた。(写真上)
 南方集落に今年3月に設立されたのは、農事組合法人・龍水みなみがた。37戸の集落で農地面積は32ヘクタールあるが、このうち稲作農家15戸が参加して立ち上げた。代表の上野信市さんによると、一戸1ヘクタール程度の規模で将来はどうするのか、という話は以前から集落の集まりでも出ていたという。
 今回の新たな政策の導入を機に、上野さんたちが中心になって、集落営農を検討する委員会を設置した。委員の構成は年齢のバランスを考えたほか、各戸によって自己完結的な農業としているか、一部を作業委託しているのか、など営農パターンが違うことにも配慮して選び、合意が得られるようにした。
 当初は、集落営農組織の要件となった20ヘクタール規模で組織化をめざしたが、面積がまとまらず、合意のできた農家で法人化をめざす方向に切り替えたという。
 「支援センター」のスタッフがアドバイスにあたり、法人化のための書類作成、経営収支試算のための資料提供などを行ってきた。理事の一人、塚田浩一郎さんは「法人化する以上、いい経営をすることが大事。自分たちのやろうしている農業について支援センターに相談にのってもらいながら、細かい数字まで出して検証した。個別経営と比較して所得が増えるということをきちんと数字で示さなければ、仲間も納得してくれません」と話す。
 定款には「農林業」と定め、米、大豆のほかにシイタケ原木や、薪ストーブ用の木材伐りだしなど荒れていた里山にみんなで入る作業もした。山菜も採って直売所で販売した。
 「これまで考えてもみなかった仕事も増えた。困った、困ったではなく、集まればアイデアも出る。みんなで農業をやるという共通認識が大事だと実感しています」。

行政と一体の 担い手支援センター で950集落をバックアップ

◆経営を学び「のれん分け」めざす

 また、龍水みなみがたの設立によって、これまでできなかった大豆生産の団地化も実現した。生産は既存の受託組織に任せているが、受託組織にとっても効率的な農地利用ができるというメリットが生まれた。既存の組織と連携することで、地域全体として効率的な営農が可能になる点も組織化が大切なことを示している。
 今後は集落内での一層の農地集積を課題としている。他の集落の生産者に委託している農地もあるが、他集落での農地利用集積が進めば、そうした受委託も解消され南方集落自身で耕作する農地として活用もできる。上野さんたちはJAの農地利用調整機能に期待する。
 JA管内には18年度中に特定農業団体か、法人をめざすとしている集落は75ある。
 実は950もある集落のうち、ここで紹介した2つの集落のように農地面積が20ヘクタールを超えているのは150に過ぎない。つまり、残りの800集落では現在の担い手要件を集落営農でクリアするには、4ヘクタール以上の法人となる以外にない。しかし、いきなり法人化というのはなかなか合意が得られない実態にある。
 そこでJAが打ち出したのがJA出資の農業生産法人の設立だ。6月の総代会で承認を受け8月にも設立する。
 計画では直営と受託を合わせて5ヘクタール程度。しかし、目的はその経営を成り立たせることだけにあるのではなく、集落単位でJA出資法人からの作業を受けてもらい、多くの農家に参加してもらうことにある。
 まず農家単位でJAの各営農センターを通じて、農地利用と農作業の委託申し込みをしてもらう。その後、JAの農地保有合理化事業で農地・農作業の再配分を行う。
 それをさらにJA出資法人に委託し、その法人の構成員として集落で農業を行うという仕組みを考えているのだ。
 「申し込みはどれだけあってもいい」と古川部長。今、集落への説明の真っ最中だが、この仕組みに参加する農家の数次第では、JA出資法人として営農する面積は何千ヘクタールという単位になる可能性もある。
 さらに、その先は参加した集落に自らの力で法人化をめざしてもらうという構想だ。
 「つまり、JA出資法人を法人経営の勉強、経験の場として考えてもらう。まずは経理などは不得意でしょうから、それは出資法人が担い、参加農家は当面は生産を担う。その後に独立を考える。いわばのれん分けです」。
 また、古川部長がこの仕組みで期待するのは、集落の横の連携ができること。JA出資法人による計画的な生産が始まれば、集落どうしの連携も必要になる。その結果、独立する際には集落を超えて規模拡大した法人となる可能性もある、そうなれば担い手要件も当然クリアできる、とこの仕掛けに期待する。
 「一人でも多く農業に参加してほしい、を基本に参加者が増えるよう全力をあげたい」と古川部長は力を込める。

JAとしての徹底した支援策の明確化が重要
JA全中・営農総合対策課・生部誠治 課長

 農政改革関連法案の成立で永続的な支援の仕組みが確保されたもと、品目横断的経営安定対策に向けた担い手づくりの取り組みは「待ったなし」である。「地域農業の将来方向は地域自らが決定するものであり、JAを含めた関係機関は一体となって、それを指導・支援していく」ことが改めて問われるなか、JAえちご上越における実践は非常に示唆に富む。
 レポートでは詳細は触れられていないが、集落ビジョンの決定にあたり、集落での徹底した話し合いを実施している。それも集落の現状を「数値化」することで、イメージアップを容易にしている。
 また、地域の担い手について、「認定農業者」「集落営農組織」「小規模農業者」は対立するものではなく、「共生する」との考えに基づき集落ビジョンが作られている。
 そして、関係機関とのワンフロア化をJAのOBもメンバーに加えて実現する一方、JAでは担い手育成業務に特化した営農センターを拠点に、JA農地保有合理化事業を活用した担い手育成・確保対策の徹底した対応がとられている。この結果JA管内各地域では、特定農業団体や法人がどんどん誕生している。
 特筆すべきは、JAとしての具体的な担い手支援策をメニュー化〈15種類〉していること。レポートが紹介している「JA出資農業生産法人の立ち上げ」のほか、「直接販売支援」や「利用料・料金への配慮」などを明確に打ち出している。特に、JA出資農業生産法人の立ち上げの先には、「のれん分け」の形で担い手育成の加速化をはかるという斬新な仕掛けが組まれている。
 担い手づくりの先には、担い手の経営安定(改善)をはかる支援の取り組みも非常に重要である。具体的な対応策の検討に少なからずの地域が悩んでいるなか、当JAの取り組みは具体的であるがゆえ、大いに参考になるのではなかろうか。

(2006.7.5)

 



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