農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 カントリーエレベーター品質事故防止強化月間(8月15日〜10月15日)スタート

CEを核にした「一町一農場」で
高品質良質米を消費者に
現地ルポ JA福光(富山県)

「一町一農場」の生産拠点ライスコンビナート。今年産米から5基のCEが稼働する
「一町一農場」の生産拠点ライスコンビナート。今年産米から5基のCEが稼働する

  今年も出来秋を迎え、米づくりの生産・販売の拠点であるカントリーエレベーター(CE)が活躍する時期がやってきた。年間を通して食味や品質が均質な米を安定的に供給することを求めている実需者のニーズや、収穫したときの品質を保って販売して欲しいという生産者の希望に応えるために、品質事故の防止はCEの責務だといえる。毎年95%以上の1等米を産出する「一町一農場」というこの地域にあった地域農業振興策で注目される富山県のJA福光のライスコンビナートに取材し、売れる米づくりとCEにおける品質管理について聞いた。

◆地域全体を一つの農場のように運営・機能させる

JA福光

 JA福光の管内である南砺市福光地域は、富山県の西南端に位置し、東西11.1km、南北27.5kmと南北に長い地形で、南西の石川県との県境には、大門山を主峰とする標高1000m以上の医王連山が分水嶺をなし、小矢部川および諸支流が地域を北上する段丘平野と沖積平野が展開している。そしてこの地域は、基盤整備された農用地の90%以上が水田という典型的な稲作地帯で、JA福光の販売事業の85%強を米が占めている。
 JA福光の農業の特色を一言でいえば、「一町一農場」(地域農場システムづくり)ということになる。「一町一農場」とは、厳しい農業情勢のなかでの生き残り戦略として、目的意識を共有した地域の連携によって、あたかも地域全体が一つの農場のように運営・機能させ、消費動向にあった農産物を地域の特性を活かし、「受注生産的かつ効率的な生産・販売」に「自然環境と調和した暮らしやすい理想郷を築く」ことを融合させた独自の地域農業システムのことだ。

◆集落営農組織を核に良質米を生産

 それをもう少し具体的にみてみると、一つは後に詳しく見るが、4基9000トン規模のCEを核とするライスコンビナート(生産拠点基地)の整備がされていること。二つ目は、水稲作付品種の統一で施設の有効活用と良質米(ふくみつ安心米〈JA米〉)の計画生産・流通の取り組みがすすんでいること。三つ目が、「生産調整の限りない100%達成」、団地化率86%など、生産調整の大規模団地と組織生産体制への取り組みがある。
 そしてこの地域の大きな特色である集落営農(法人化・協業化)への誘導がある。各地区で協業型営農組織や法人組織がつくられており、CE利用の7割(面積比率)がこうした集落営農組織などの担い手となっている。とくに集落営農組織の比率が高く、全体の54%を占めている。
 斉田一除専務は「中山間地域を抱えているところでは、集落営農でやらなければ成り立たない」と考え、早くから組織化に取り組んできたのだという。山田幹夫営農部長も「荒廃から守っていくには、一町一農場しかない」と言い切る。
 この集落営農組織を中心に生産されている「ふくみつ安心米」は、米どころ・富山県のなかでも良質米として消費地から高く評価されている。

◆米ぬかなどを使い徹底した土づくりに取り組む

 そうした評価を受けるのは、良食味生産に向けた100%の種子更新による水稲共同育苗施設における健苗生産と、CEの籾殻を活用した耕畜連携による完熟堆肥や土づくり資材の積極的な活用による土づくりにあるといえる。
 土づくりについてその要領を見ると、ケイ酸質資材の施用は当然だが、米ぬかを使っているのが大きな特徴だといえる。米ぬかを使うと食味値が良くなるのだという。しかし「3年以上続けないと効果はない」。続けることで「食味のバラつきがなくなる」と斉田専務は、継続することの大事さを強調した。
 こうした土づくりを徹底し継続するとともに、12年産米から、土壌別、地帯別の生産者単位の品質調査を実施し、品質の安定と生産力のボトムアップに努めてきている。このデータは毎年3000件にのぼり、いままでデータを積み上げてきているわけで、栽培技術管理改善対策に活用され、きめ細かな栽培管理指導に結びついてきている。
 また、消費者ニーズに応えた米づくりをはかりさらなるグレードアップをめざして地域内に「作柄診断ほ場」を設置し、リアルタイムに作柄や生育概況など地域データの効果的な技術対策情報を発信していることも忘れてはならないだろう。

◆常に95%以上が1等米高い生産者全体のレベル

 こうした努力が数字として表れている一つの例が1等米比率だ。17年産米の富山県内の1等米比率は80%だが、福光のそれは97.9%と県内の水準を大きく上回っている。しかもこれは単年度だけのことではなく、ほとんど例年95%以上の比率を示している。例外は天候不順で全国的に不作だった14年産米のときだが、それでも88.6%(富山県52.9%)という高い比率を示している。
 こうした結果をみると、JA管内の生産者全体のレベルが高いことがうかがわれる。突出した生産者がいるだけでは、米の品質にバラつきが出て、けっしてこのような高い数字は生まれないからだ。
 山田部長は「いまはCEのサイロごとの品質が評価される時代だから、入ってくる米の品質が揃っていないと売れない」。だから営農段階から徹底して指導しているのだという。
 しかしなかにはJAの栽培基準と異なる栽培をする農家もある。そうした人の米はCEでは荷受せず、別扱いで集荷処理保管されるので、栽培基準が異なる米が混入することはない。

◆5基目のCEを新設し18年産米から稼動

 こうして作られた米を受け入れ、乾燥調製し保管して今摺り米として出荷する生産拠点がライスコンビナートだ。
 現在ここにはF1からF4まで4基のCEがあり、管内作付面積の70%を処理できる9000トンの能力がある。4CE間はコンベヤーで連結されており、連携による荷受・貯蔵・籾摺り・出荷の効率化がはかられるようになっている。だからライスコンビナートなのだ。
 しかし、17年産米の場合、9000トンの能力を超えて荷受けされ(稼働率101%)、一部の米の処理を近隣のJAに委託しなければならなかったという。ローテーションの関係から稼働率を80〜85%にしないと、「いつか事故につながる」ことから2000トンの処理能力をもつF5CEを増設し、18年産米から稼動させることにしている。
 F4と新設のF5には冷却装置をつけ、早く穀温を下げ食味が落ちないようにしている。これも販売戦略の一つだと斉田専務。

◆ほ場審査と荷受前自主検査で品質を管理

 CEの運営は、「福光ライスコンビナート運営委員会」がJA本部のほか各支所単位に設置され、播種前と夏の収穫前に開催され、当年産の運営方針・運営具体策などを決定している。それにもとづいて、生産から刈取り、荷受まで一貫した計画を座談会などで話し合い決定。計画ができたらそれに沿った運営が整然と実行されている。
 その基本は、1日100haの荷受を何が起きても徹底して守ることだし、それが事故を防ぐと山田部長。
 CE品質事故を防止する最良の方法は何かという問いに、斉田専務は「CEの段階でどんなに品質管理しても、入ってきたときの品質以上にはならない。品質管理はCEの責任のようにいわれるが、入ってくるものが悪ければ品質は落ちるのだから、そういうものは絶対に入れない」ことだという。
 JA福光では、営農指導員が技術指導をするだけではなく、乾燥調製をし販売するまで責任があるという基本的な考え方で取り組んでいるので、品質管理も営農指導の責任だとしている。
 そのために営農指導員は担当するほ場を審査しCEに入れるかどうかを決める。その上で荷受時の検査で問題がなければ受け入れるなど、ほ場審査とホッパーに入れる水際での自主検査で水分や品質のチェックをいかに抜かりなく行い、一定の品質以上の米だけを荷受するかが基本となる。
 自主検査では品質に応じてA、B、Cに区分し、サイロを分けるなど品質管理を徹底している。
 そして、雨天などで刈り取りが遅れても、CEの処理能力である、1日100haの荷受をキチンと守り、過剰荷受は絶対にしないことだという。オーバーする場合には、営農部長の判断で荷受をストップするとともに、計画を修正した場合には、新聞折込で速やかに生産者に周知徹底している。それでも天候が悪くなると荷受するかどうかで「喧嘩腰になりますよ」と山田部長は笑う。

◆オペレーターは専門職として雇用技術・知識を蓄積

 荷受した後は、営農指導員やCEのオペレーターが責任をもって管理するから間違いはないと言い切る。
 JA福光では、CEのオペレーターは専門職として雇用するので、一般職のように他の部署に配置転換されることがない。そのため専門的な知識や技術がキチンと蓄積され継承されいるので、安心して任せられるということなのだろう。

◆新鮮で美味しい米を食べられる「う米蔵」

CEで保管する米を今摺り米で提供する「う米蔵」
CEで保管する米を今摺り米で提供する「う米蔵」

 CEの入口に「う米蔵」(うまいぞう)という看板があるお店がある。中に入るとCEと接する壁際に精米機が設置されている。専用カードを差し込むと必要な量の米が今摺りされてでてくる。つまり、農家の飯米や自家用米もすべてCEに入れてもらい、必要なときに新鮮で美味しい今摺り米を食べてくださいということだ。
 自家用米もとりあえずCEへと推進しているJAはあるが、「う米蔵」と親しみやすい抜群なネーミングをして、いつでも今摺り米を食べられるところは少ないのではないだろうか。もちろん一般消費者も利用することができるシステムもある。
 あえて強調しなかったが、生産履歴の記帳はJAの栽培基準以外で栽培する人も含めて100%実施されており、サイロにどこの地域の米がはいっているかなどもすべて分かるように管理されている。

◆修理費と原油高騰が悩み

 いまの悩みは、昭和44〜45年から稼動しているCEもあり、減価償却が減った分、修理費がかかることだという。これは全国的に共通する悩みだといえる。
 もう一つは、利用率を高めてくれているので、米価が低迷しており利用料金を「下方修正して欲しい」という要望があるが、灯油が高騰しているので下げることができないことだ。
 いずれも単位JAだけでは解決できにくい悩みであり、どうしようもないといえるかもしれない。
 農業とくに米をめぐる状況は厳しい。そうしたなかで「大きな施設をみんなで利用管理して低コストに結びつける。CEを核とした“一町一農場”で地域農業を振興していく」JA福光のあり方は、これからも注目されるにちがいない。

(2006.8.7)

 



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