農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JA全農畜産事業 安全・安心な畜産物の生産基盤拡大と販売事業の強化

国産畜産物で価値ある豊かな食を提供する

JA全農ミートフーズ(株)岩佐肇三社長に聞く

◆素材から食肉加工まで総合販売機能を

岩佐肇三社長

この9月1日から、JA全農ミートフーズ(株)が本格的に始動した。同社は、JA全農の中央、近畿、中京、九州の4畜産センターが行っていた食肉販売事業の全面的な事業移管を受けるとともに、食肉加工事業などを展開していた全農ミート(株)と合併し、牛・豚肉について、素材から加工までを一気通貫できる総合的な機能をもった食肉販売会社となった。
 同社は経営理念として、
1.JAグループの一員として食肉販売を通じて消費者と国内畜産農家の懸け橋になり、畜産経営の維持・発展に貢献する
2.消費者に「安全・安心」で「価値ある豊かな食」を提供する
の2つを掲げており、それの実現に大きな期待が寄せられている。
 現在の食肉販売事業の環境は、消費者ニーズが多様化していることや生肉家計消費が長期的にみれば漸減傾向にあることもあって、大量につくり大量に売るというマスプロセールが難しくなっており、全体的に厳しい状況にある。なかでも流通の最前線である小売業界は激しい競合状態にあり、その影響で卸売業も苦戦を強いられているといえる。
 そうした中で、新たな出発をした同社が、事業を発展させていくためにはどのようにしていくのか。

◆消費者・生産者から“必要とされる会社”

 岩佐肇三社長は、食肉産業でいままでにない革命的なことをできるかというとそれは難しいことであり、むしろ製造や営業などの基本的な技術などベーシックな部分をさらに強化して、多様化するニーズに応えることで、「基本的にはお客様に評価される会社を目指していく。そのために、生肉など素材から食肉加工品販売までできる総合食肉販売企業として機能を強化していかなければならない」と考えている。
 素材販売については、全農の各センターが、全国の主要産地と消費側をつなぐ強いパイプを築き成果をあげてきた。しかし、多くの主婦が自ら仕事を持ち働いている今日、食の利便性を求めるニーズは高くなっている。生肉であっても、ステーキ用とかしゃぶしゃぶ用、あるいは酢豚用にと用途別にカット小分けされ、その調理に使うタレやソースを付けて包装されて店頭に並べられている。
 あるいは、買って帰り電子レンジなどで加熱すればすぐに食べられる状態まで加工された利便性・簡便性に優れた商品が求められる時代だともいえる。
 「価値ある豊かな食」を提供していくためには、そうした機能も強化していかなければならない。実際に調味付け商品は、オーストラリア産など低価格なものが多い。国産素材では、価格で競争することは難しく、利便性の高い商品を大量にしかも安価に提供することには限界がある。
 岩佐社長は「国産の安全で安心な食品にこだわった戦略でいかざるををえない。そして、生協とかAコープや、その価値観を認識できる量販店と取引きをし、コツコツと地道に積み上げていくことで、事業の道を太くしていきたい」という。
 現実に「○○県産のこういうこだわりをもった肉」だといって売ると、けっこう買ってくれる消費者は多いという。そのことで量販店などから「そういうニーズもあるのだ」と評価されてきているという。
 そして「結果として、そういう価値観を共有できるところから“必要とされる”会社になれば、生産者からも評価されることになる」のではないだろうかという。

◆ニーズに応える商品開発にも力を

 そして、旧全農ミートでは、国産素材によるハム・ソーセージや焼き物、豚の味噌漬け、水餃子など、商品の幅を広げ、着実にそのシェアを拡大してきた。「そうしたものを加速度的にどう増やしていくか」がこれからの課題だとも。
 若年世代では安価なものを量的に求める傾向が強いが、一方では団塊世代のように量はそれほどいらないので、多少価格が高くても質が良くおいしいものを求めるニーズもある。国産素材を使う同社の場合、価格で勝負することは難しいが、安全・安心でおいしいものを求めるニーズに応える商品開発がこれからのポイントとなる。そのため、若手社員を中心にした事業開発部門も設置し力を入れていくことにしている。

◆現場から組織的に改善していく人材育成

 もう一つ岩佐社長が重要な課題として考えていることがある。
 それは「事業のベーシックな部分で一番大事なのは、製造現場と営業現場である。したがって実際に製造や営業をオペレーションしている人たちが、組織として現場から改善していくような会社にしなければいけない」ということだ。
 そういう意味で「人材育成」がもっとも重要なことだと考えているという。
 素材を売っていた全農の畜産センターと加工した商品を生協や量販店に販売していた全農ミートとでは、事業の仕方や文化が違うともいえる。しかし、別の見方をすれば、新会社は全農と全農ミート双方ががいままで培ってきたノウハウを引き継ぐ会社である。それをいかに有効に活用していくかが重要だといえる。岩佐社長は新会社は北は岩手から南の鹿児島まで事業拠点をもっているのだから「それぞれから入ってくる情報量は相当なものだ。それをいかに敏感にとらえ、共通認識をもっていけるかどうか」だという。
 新会社はスタートしたばかりであり、岩佐社長もいうように「認知されるには時間がかかる」だろうが、地道な努力の積み重ねによって消費者はもとより、畜産農家からも高く評価される存在になることは間違いないだろう。

(2006.9.28)



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