農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 「第24回JA全国大会」記念特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために

改革の着実な成果実現のための組織、運動体として期待します

農水省・経営局長 橋博氏に聞く

聞き手:梶井功 東京農工大名誉教授

 農政の大転換を迎えてJAグループは今回の大会議案で「担い手の育成・支援」を大きく掲げた。新制度が実行に移され、改革の成果を着実に上げるにはこれまでの取り組み同様、今後も「組織、運動体としてのJAグループに大いに期待する」と橋局長。また、経済事業改革ではきちんと改革実践の中身とその成果を組合員レベルに説明するという意識改革も問われると指摘した。聞き手は梶井功東京農工大学名誉教授。


梶井功氏・橋博氏
梶井功氏・橋博氏

国内農業の体質強化と競争力強化をめざして

◆現場に理解が浸透し担い手づくり加速化

農水省・経営局長 橋博氏
農水省・経営局長 橋博氏

 ――9月1日から品目横断的経営安定対策の加入申請受け付けが始まりましたが、加入状況はいかがですか。

  各地の状況を聞いていると順調に始まっていると思います。加入件数そのものは、殺到している状況というわけではありませんが、今の加入申請は秋播き麦の収入減少影響緩和対策に加入する農家のみが必要なんですね。秋播き麦を作付けしない農家などの申請受付は年明け4月からです。
 また、今は農繁期でもありますし、それから個人で申請される方もいますが、農協でまとめて代理で加入申請をするということも当然ありますから、そういう意味では今は申請を地域でまとめている状況だと思います。

 ――とくに集落営農についてはどういう状況だとみていますか。

  この件については、これまで現場の実際の状況からきちんとした集落営農ができるのかどうか、あるいは既存の営農組織がうまく移行できるのかといった懸念もあったかと思いますが、今、急速に各地で立ち上げの具体的情報が発信されています。
 これは昨年の秋に大綱を決め、そのときから担い手育成運動の中で、集落営農についても生産現場に理解、浸透してきており、冬場にずっと議論してきたわけですね。そして6月に法律ができて7月には実施要綱も決まった。その間も国会で基本法以来の議論がなされ、情報発信が盛んになされてきたし、現場からのいろいろな質問や疑問もお返ししながらやってきたわけです。それがここにきて急速に実を結び始めたんだろうと思っています。

 ――先日公表された集落営農の実態調査は5月時点のものですが、それによると経営安定対策に加入申請する意向があるのは30%程度で20%はまだよく分からないということだったので、少し心配していたんですがね。

  結局、大綱段階では、集落営農も含めて基本的な要件などを示しても、じゃ経理の一元化とは具体的にどうすればいいのかなど本当に細かい要件や具体的な支援水準などは、予算規模も含めて7月の実施要綱の段階までかけてはっきりしたわけです。
 あの調査時点では意向が未定の組織が5割ほどあったと思いますが、今はそういう人たちも要件が決まったことで加入に向けて一気にいくぞ、という状況ではないかと思っています。

◆JAの危機意識が改革を促進

梶井功氏
梶井功氏

 ――JAのほうも第24回JA全国大会の議案のトップに担い手育成を掲げてかなり一生懸命取り組んでいて、とくに裏作麦については零細な農家も含めて100%が施策の対象になるようにとがんばっているようです。JAの動きについてはどう評価していますか。

  まずこの品目横断的経営安定対策を導入するにあたっては系統組織内でも相当の討議をして積み上げてきた上で、今度の全国大会でも担い手づくりを議案のトップにしたわけですね。
 これは現場の危機意識、農家だけではなく、現場で農家に接しているJAの人たちにとっても、今までと同じではやはり右肩下がりであって、何らかの転換をしなければならないということが見えてきたんだと思います。そういう意味でともかく新しい方向に動く。
 しかも農家、生産者の協同体として、本来主役である農家、生産者を統合して動かなければいけないというJAの立場からいえば、まず自らの課題だということは当然のことだと思います。生産者、農業経営者が自ら取り組むのは当然だけれども、その組合であるJAが何もしないということにはならないわけですから。この担い手育成をするということは、かなり早い段階できちんと決断をしてもらったと思っています。それで国だけではなく、都道府県や市町村といった行政の方たちとも方向性が一致したんだろうと思いますね。
 われわれとしては今回の全国大会のなかできちんと取り上げられたということは、この制度がきちんと成果をあげるためにも運動体、運動組織として本当に期待を大きくしているところです。

◆生産者への還元をめざすコスト縮減プラン

 ――ところでJAグループの大きな課題でもある経済事業改革に関連することとして、9月になってまとめられた食料供給コスト縮減のアクションプランがありますね。今回は農業生産の分野、とくに資材費の面が強調されています。確か日本の食料供給額の総額は80兆円で、そのなかで農産物の割合は輸入も含めて2割足らずですよね。国産だけでいえば16%程度ですから、コストを下げていこうというのであれば、むしろ加工や運送、あるいは食料産業のほうに課題が多いのではないかと感じていたんですが、これからはその分野にも手を広げるということですか。

  それはやるつもりですし、やらなければならないわけです。
 ただ、食料供給コストをマクロで捉えるのは結構大変だということがあります。どの部分をコストと見るのかはなかなか難しい。マージンとなると利潤の部分とコストの部分もあるわけですね。ですから、全体を定量的につかむ、たとえば80兆円のうちどれだけがコストかと言われるとなかなか難しいところもある。そこでわれわれはマクロで何兆円かのうちの2割を縮減するというよりも、今ある各段階別のコストを分野ごとに2割づつ下げていくことが重要じゃないかと考えています。
 ただし、農水省だけでは手が届かない問題、たとえば石油価格の問題ですとか、海上輸送の問題などは関係省庁ともよく調整しなければいけません。が、まずはできる分野で問題点を見ていきましょうということです。
 もう一点、コスト縮減は何のためにやるのかということが大きな話としてある。4月に新しい基本計画や新しい経営安定政策をふまえたうえで21世紀新農政2006というのをつくったわけです。そこでは国内農業の体質強化と国際競争力の強化という二本柱を打ち出しているわけですが、そのときに食料供給コストを下げて体質強化を図っていくことが重要ということになったわけです。
 その際、縮減されたコストは全部が全部価格に転嫁されるものではないということです。なぜかといえば価格は市場で決まるわけで、別にコストが動いたからといってそれで決まるわけではない。もちろんそれが末端の小売価格に転嫁されて消費者メリットになる部分もあるかもしれない。しかし、それを生産サイドに帰属させて、体質を強化させるということになるかもしれないし、新しく高品質のものを生み出すための積極的な利潤になるかもしれません。
 だから、コスト縮減といっても単なる価格引き下げといった単純な価格競争力の強化だけをめざしているものではない。縮減部分を生産者に還元してもらえば次の生産の高度化にも使っていける。そのためにも供給コスト縮減が必要だというのが前提です。

 梶井 コスト縮減に努めて利潤を生むというのはまさに経営者行動としては当然のことであって、そうした競争のなかで全体のコストが下がっていく。それが経済のメカニズムですが、当面、問題にしているのは、まだ個別経営でコスト縮減の余地があるんじゃないかという問題提起と受け取っていいんですか。

  経営体の努力としてできる部分もあるとは思いますが、そこまでの話ではなく、外的な部分ですね。たとえば、資材供給の分野、それから販売における効率化というところはやはりまだ改革が必要な部分があると思っているわけです。
 ほ場段階でのコスト縮減でいえば資材価格部分ですね。その資材価格は資材本体価格もありますが、資材の物流経費もあります。また、販売物の物流コストもかかる。この両面で農業団体が取り組むべき部分は相当あるだろうということです。

組合員への情報発信で信頼を


◆組織改革も重要な全農改革

 ――まさに経済事業改革の課題です。

  今回のコスト縮減問題は別の切り口からやりましたが、われわれはその前から農協の経済事業改革を、いかに生産者に還元できるか、いかに生産者と消費者とを結びつけていくか、という観点で進めてきたわけでそれがたまたま合致をしたということです。

 ――資材の物流コストの縮減に関しては、全農自体が直接的な物流に乗り出そうとするなどかなり進んでいるような印象を受けますがね。

  いちばんの論点というのは、36都府県の旧経済連が全農と合併し、全農の都府県本部になったわけですが、ひとつの法人として機能していたのかということです。そこに様々な問題、議論が出て昨年の段階で、今後とも実質的に全国一本化していくと結論を出して改善計画を策定しているわけですね。まさに組織、事業面ともども大改革の最中だと思っています。事業の改革は生産者にとっても大事ですが、それをきちんとやっていくためには組織も含めて改革していただく必要があると思います。

 ――確かに二段階制になっても全国本部が県本部の人事権ももっていないということを聞いて、そこは問題だなと思いました。

  それも含て全農は一応方向性は出していますから、われわれは評価しています。しかし、問題はそれをきちんとやることです。緒についたと思っていますが、まだ未実施の部分は早くやってもらう、それから着手した部分については当初の予定どおりきちんと仕上げてもらうことが非常に重要だと思います。
 ただ、JAの組合長さんにも申し上げたいのは、経済事業改革の成果を農家・生産者にきちんと示してほしいということです。こういうことをやってこういう成果が出た、ということをきちんと話をし、成果を提供するということがないと…。組織内部だけの議論ではだめです。系統改革というのは組織内部の改革である以上に意識を外に向けるということだと思います。それがまずは農家組合員、そして消費者にもということだと思いますね。

 ――まず組合員自身がこういうコスト縮減をやっているということを知らなければ話になりませんね。

  それをやらなければまた系統離れという議論にもなるわけです。

インタビューを終えて

 JA十和田市管内で一気に19集落営農組織が特定農業団体にとか、島根県斐川町では22の特定農業団体と2つの特定農業法人が誕生したといったニュースが、このところ相次いで日本農業新聞の1面トップを飾るニュースになった。第24回JA大会議案が「JAグループのビジョン実現のための取組み」のトップに据えた“担い手づくり支援を軸とした地域農業振興と安全・安心な農産物の提供”にすでに各JAが取り組んでおり、その成果があがりつつあるということなのであろう。大会議案のトップに“担い手づくり支援”を据えたことを含め、JA組織がこの問題を“まず自らの課題”と認識してきたその成果だと局長は高く評価していた。が、いうまでもなくこれからが本番だということは、JA関係者ひとしく認識していることであろう。更なる努力を局長ともども期待したい。
 経済事業改革に関連して局長は、改革の成果を“農家・生産者にきちんと発信して”いくことを求めていた。経済事業のみではない。大事な指摘と受け止める必要があろう。(梶井)

(2006.10.10)



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