農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために

提言

食と農を結ぶための組織・事業基盤強化を

北海道大学大学院農学研究院教授 坂下明彦
はじめに

 第24回目となるJA全国大会が目前にせまっている。6月に出された組織協議案は、さほど大きな修正を経ずに最終案となったようだ。前回2003年は、農水省の「農協のあり方についての研究会」の報告書が出て、素案が大幅に差し替えされたのとは対照的である。逆に言うと、この3年間農協系統は大いに汗をかかされ、今大会ではやや長期的な視点で議案を準備する「余裕」が出たのかもしれない。議案の印象は、農協攻撃の中で農協のレーゾンデートルを「地域貢献」におきつつ、系統事業方式の転換の視点は経営におかれ、その枠内で単位農協に事業のオリジナリティをせまるといったところである。
 すでに、雑誌などでも議案についての特集記事が組まれており、新たな論点を提示するのは難しいが、それらも参照しつつ、私なりのコメントをしてみたい。

JAの「地域貢献」どう具体化するか

◆単位農協の経営問題と組織再編の方向
  合併から垂直統合へ

坂下明彦氏
さかした・あきひこ
1954年北海道生まれ。1984年北海道大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得。同年同大助手、1990年同助教授を経て、2003年同教授。農学博士。近著に『北海道農業の構造変動と地帯構成』(共著・北大出版会、2006年)、『中国野菜企業の輸出戦略』(共編著・筑波書房、2006年)がある。

 農協改革は、そもそも1996年の金融改革が端緒となり、農協合併と中金・信連統合政策から、JAバンク構想(22回大会)、経済事業改革(23回大会)へと波及していく。起点となっているのが金融機関の不良債権問題であり、金融組織の統合から経営改善(破綻処理)へ、さらに不採算部門である経済事業の改革というのがこの流れの本質である。
 ただし、23回大会が直面していた大問題は、全農問題ではなく、合併した広域農協の経営問題にあった(比嘉政浩「第23回JA全国大会決議の取り組み状況と今後のJA改革の方向」『農業と経済』2005・7)。1県1農協のかたちで再合併しなければ、農協はもたないのではないかとさえ囁かれていた。この要因のひとつが、本所−基幹支所−支所−出張所という農協内4段階制にあり、集落、旧村、旧農協という各レベルの組織の維持コストがふくらんでいたのである。急速に進展した農協合併の内実であり、智恵でもある。しかし、経営危機のもとではこうした「体制」の維持は困難となり、支所統合が進められた。他方、経営危機に対する常套手段は管理経費の削減、特に人件費削減である。これらは、支所統合と対応しつつ、経済連(全農県本部)との機能分担を行うことで、そのスリム化を図るものであった。「拠点型事業」であるAコープやSSの分社化である。その前提として部門別損益管理の徹底がある。これにより、単位農協の経営危機は最悪の状況を脱したかにみえる。
 今回の議案では、支所統合については、2004年7月の「JAグループ全体でとりくむJAの支所・支店体制再構築指針」が前提となっているようであるが、その基準は場所別・部門別損益管理によるとされる。
 「支店半減時代」となる可能性も指摘されている(増田佳昭「経済事業改革の評価と課題」『農業と経済』2006・8)。
 単位農協の合併については、後に述べる農協と連合会の機能分担の見直しに重点がおかれるようになり、超広域JA構想である1県1農協構想に対しても否定的なニュアンスが漂っている。当初の議案では「JA・連合組織間の機能分担見直しが進んでおり、JA合併によるJAの大規模化以外の方途で機能強化・効率化を果たしている事例が見られる」(p・103)との記述がある。最終議案では削除されているところをみると、完全な路線変更に至っていないようである。強調されているのは、小規模で財務基盤が脆弱な農協の合併(ないし事業譲渡)を2008年3月という期限を切って実施することであり、組織再編から事業改革に早期に重点を移そうという姿勢が現れている。小規模農協の強制的合併は農協によるビジョン策定という今大会の目玉の思想とはおよそ相容れないものである。

◆全農改革と「農協・連合会の機能分担見直し」
  消えた「自己完結」

 ちょうど1年ほど前の本紙に「農協批判と農協経済事業改革」について書いたことがある。農水省経済事業改革チーム「経済事業のあり方の検討方向について」(中間論点整理、2005・7)が出た後である。この整理では、経済事業組織のあり方については、全農1本化か縮小3段階化(県連ないしブロック連)かの両論併記であったが、「全農は全購連の復活を想起させる機能強化をはかっている。農水省の全農改革の方向が県本部のブロック統合化を意図するものであれば、県本部の縮小再編を意図する全農との利害は一致する」と書いた。その後の動きはこの予想を覆すものではなかった。
 全農は、昨年末に「改善計画」を農水省に提出し、これを「新生プラン」に格上げして実施をはかっており、議案にも盛り込まれている。その5か年計画の内容は、大胆なリストラと合理化であり、主なものをあげれば、全農本体・子会社の職員5000名の削減(160億円)、広域物流拡大によるコスト削減(160億円)、米の流通コスト削減と園芸部門の手数料見直し、生産資材価格の引き下げなどである。人件費削減相当額は、次項で述べる「担い手」対策に充てるとされる。
 こうした経費削減とその還元にも増して注目されるのは、第1が米の販売事業方式の大転換である。東日本と西日本にそれぞれ米穀販売センターを設立し、それに対応してパールライス会社も東西2社に統合し、両者の一元的な販売戦略のもとにおく。これにより、県本部の機能は空洞化することになるのである(青柳斉「全農改革の特徴と問題点」『農業と経済』2006・8)。これと同様に、他の事業においても全農本部による部門別事業本部制が取られることになり、全農本体は再編された系列子会社とともにブロック別子会社を事業別に統合することになるのである。また、県域の子会社についても事業別管理体制に包括されることになる。このように、全農の「全購連化」が一気に進展を見せたといってよい。
 こうしたなかで、連合会と単位農協との関係も大きな変化をみせる。それは系統組織整備のなかで強調された単位農協の「自己完結性」の否定と「農協・連合組織間の機能分担の見直し」である。これには「検討する」という限定がついているが、購買事業ではすでに実施されているAコープやSSのレギュラーチェーン化、配送機能の全農等による受託、畜産農家に対する連合組織(素案では全農子会社)の直接対応などである。ここで注目されるのは、信用事業、すなわちJAバンクによる「複数の事業方式の提示と選択」であり、農協が従来通り信用事業を行うケースと連合組織へ一部リスクを移転し、窓口業務を行うケースが提示されている。これには、賛否両論があるようであるが、代理店化が進めば農協はテナント業になって総合性が保障されないという問題は当然発生するであろう(小松康信「金融事業改革の評価と課題」『農業と経済』2006・8)。信用事業については、この議論以前に、現在も存続している3段階制の評価が必要になってくるはずである。いずれにしても、農協の「自己完結性」とは何かを、農水省経済事業改革チームが「提起」した整促体制の問題も含め、改めて議論する必要がある。

◆農協の基盤をどこに求めるか
  「No.1宣言」のために

 やや事業論に傾斜したコメントとなったが、最後に農協の組織・事業基盤の問題について触れてみたい。
 まず、指摘しておかなければならないのは、品目横断的経営安定対策への対応として、「政策対象となる担い手」への支援の重点化が明記されたことである。むろん、ここで対象とされる集落営農や法人などの大規模農家への支援を強めることは、農協の事業推進上も欠かせないことではある。しかしながら、集落営農そのものが「見なし認定」であり、多数の兼業・高齢農家対策を対置しない農協方針は、自らの組織・事業基盤を突き崩すことに他ならない。北海道においてさえ、「中山間地域問題」抜きで今後を語れなくなっている状況にあるのである。
 つぎに、組織、事業基盤の脆弱化への対応についてである。ここでは、打って変わって女性、後継者や多様な地域住民の組合員化、理事登用、組合員組織の再編・活性化、教育・広報活動が羅列的に述べられている。支所統合に対する対応や様々な住民要求などへの対応などの具体策はなく、かつての「地域協同組合化」路線の域を出るものではない。そのことから、今回の大会の目玉である「地域貢献」との関係もみえてこない。
 農業生産は「担い手」で、組織・地域は「その他」という区分では、「食と農を結ぶ」関係は構築することができない。それは、連合会と農協との関係においても同様であり、主要事業は連合会が効率的手腕を発揮し(事業の担い手)、単位農協は収益を確保できる事業のみという補完の位置づけとなれば、農協のビジョンもNo.1はおろか、「その他」となってしまう危険性が高いと言わざるを得ない。

(2006.10.11)



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