農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 日本の食料が危ない

食料自給率を考える(2)

日本と世界各国の穀物自給率比較

 諸外国をみると、先進国や人口の大きな国の多くは高い自給率を実現している。また西欧諸国には、戦後の農業政策により自給率の引き上げを実現した国が多い。それに対して日本は先進国でありかつ1億人以上の人口を有するにもかかわらず、穀物自給率は20%台と異例に低い。そこで以下では、世界各国との比較により日本の自給率の低さの要因を整理してみよう。なおここで用いる穀物自給率(重量ベース)は計算が容易であるため、途上国を含む世界各国の比較に用いられる指標である。


◆人口と自給率に相関関係――異例な国、ニッポン

 世界各国の穀物自給率と人口を対比してみると(図1)、人口の大きな国ほど自給率は高く、自給傾向が強い。とくに人口1億人以上の国は、日本を除きいずれも自給率が高い。一桁小さな人口1千万人以上の国の中でみても、日本の自給率は最低クラスにある。日本の輸入依存は異例のものであることがよくわかる。
 ここでは詳細な説明を割愛するが、人口の大きな国における高い穀物自給率は、輸送コストや競争力によるものではなく、むしろ国際市場の供給力などからくる食料安全保障上の必要性によるものとみられる。そうしたことから、諸外国と比べて日本の輸入依存は相対的にリスクが高いものと考えられる。

◆耕地面積と所得水準も影響
  農業保護で自給率高める西欧

 しかしその一方、人口以外の面をみると、日本には穀物自給率を押し下げる要因がそろっている。
 世界各国間における穀物自給率の較差は、人口1人当たりの耕地面積と所得水準に強く影響されている。まず、人口1人当たりでみた耕地の豊富な国ほど自給率は高い。また、そうした較差は人口1人当たりでみた所得水準の高い国々ほど大きい傾向にある(図2)。さらに、高所得国では農業保護により比較的高い自給率を実現しているものの、耕地の豊富さによる自給率の較差は高所得国の間でもそのまま維持されている。日本は耕地が少なくかつ高所得であるため、穀物自給率が低いとみることができる。
 日本の人口一人当たり耕地面積(0.04ha)は穀物の殆どを輸入に依存している国々の水準(0.03ha未満)を若干上回る程度であり、土地資源の制約が厳しい。高い所得水準も考慮すると、日本はいわば限界的な穀物生産国であるといえよう。他方、西欧の高所得国の多くは人口一人当たり耕地が日本より数倍以上豊富であり、農業保護により高い自給率を実現している。
 さらに日本農業は水田稲作が中心であるため、経済成長に伴う食生活の変化(米の消費減少、飼料作物の需要増加)に十分対応できず、約4割におよぶ米の生産調整をしながら大量の飼料を輸入している。これも自給率を押し下げている大きな要因である。近隣の韓国や台湾も日本と同様の状況にある。
 これらの条件により、日本は飼料作物など土地利用型農業の競争力が弱く、かつ国内需要を賄うには全体の耕地面積も不足している。
 このように、日本の穀物自給率の低さは耕地面積、所得水準、水田稲作によって規定されている面が大きいと考えられる。

◆日本の輸入依存は小国と同じ

 さらに世界各国の人口と一人当たり耕地面積を対比してみると(図3)、日本のおかれた状況がよくわかる。
 日本の人口1人当たり耕地面積は、人口1千万人以上の国の中で最も小さい。日本を除けば、人口1人当たりの耕地が乏しく輸入依存度の高い国は、人口の少ない小国がほとんどであり、都市国家、砂漠、島嶼国など穀物生産に適さない国が多い。
 このように日本は人口の大きな国としては例外的に耕地の希少な国である。このような条件のもとで経済成長が進んだ結果、農業の競争力低下や需要増大といった上記のメカニズムにより、異例に低い穀物自給率が実現したとみることができる。日本の現状は、あたかも小国のような輸入依存と表現できよう。

◆取り組み次第で向上は可能

 全体としてみれば日本の耕地面積は不足しているため、穀物など農産物の輸入は必要である。しかし世界的に異例な輸入依存の現状からみて、これ以上の自給率低下はできる限り避けるべきであろう。自給率が耕地面積や所得の影響を強く受けるとはいっても、それだけで全てが決まるわけではない。EUやスイスの例からも、取り組み次第で自給率の向上は可能であることがわかる。ただしWTOなど国際的枠組みや担い手不足、政府の財政状態悪化のもとで日本の選択肢の幅が狭くなっていることも事実である。日本では耕地が希少で地形も複雑であることから、土地利用型農業の生産性向上には限界があり、環境保全型農業などによる差別化と適切な農業保護が必要とされる。また国内の農業生産基盤、特に農地を維持していくことが重要である。ホールクロップサイレージのように水稲の他用途利用ができれば水田を維持、活用できる。また草地の利用も飼料自給率を高める効果がある。

強まる少数輸出国と多数輸入国への二極化
―世界の食料需給動向―

 次に、おもな食料である小麦、米、トウモロコシ、大豆、家禽肉(鶏肉など)、豚肉、牛肉、魚介の8品目について世界の概況を紹介する。

◆穀物の国際貿易量は15%

 世界の穀物生産量は約20億トン、うち2分の1は食用、3分の1強は家畜の飼料に使われる。生産量の約95%は3大穀物(小麦、米、トウモロコシ)が占めている。これら3品目の生産量はいずれも同程度であり、小麦と米はおもに食用とされるのに対して、トウモロコシは6割程度が飼料に用いられる。また、家畜の飼料としてはトウモロコシなどの穀物のほか、蛋白質を多く含む大豆(の搾油かす)が重要である。さらに最近では、アメリカで燃料エタノール向けのトウモロコシ需要が増加している。
 穀物生産量のうち国際貿易で取引されているのは15%前後である。この割合は品目によって異なり、小麦で2割程度、トウモロコシで1割以上、それに対して米では5%未満と小さい。そのため小麦やトウモロコシと比べて米の国際貿易規模は小さい。
【穀物・大豆】
 主要な食料の生産(2005年、以下同じ)は土地資源の豊富な国と人口の多い国に集中している。とくに基礎的な食料である穀物については人口大国である中国とインド、そしてアメリカの生産量が突出している。種類別にみると、トウモロコシは中国とアメリカで世界の約6割、同じく米は中国とインドで約5割、小麦は中国とインドで約3割を生産している。大豆は一部の国に生産の大部分が集中しており、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンの3カ国で世界の約8割を生産している。
 おもな穀物生産国の種類別内訳をみると(世界地図(1)中の円グラフ参照)、東南アジアの国々では米、同じく南北アメリカ(カナダを除く)ではトウモロコシと大豆、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアでは小麦の生産が多くなっている。中国とインドでは、米が最大の割合を占めるものの、広大な国土の多様な気候条件を反映して、小麦やトウモロコシ(中国のみ)の割合も高い。
【肉・魚介】
 世界各国の肉生産量(世界地図(2)中の円グラフの大きさ)をみると、上位3カ国(中国、アメリカ、ブラジル)が特に大きい。種類別には、世界の家禽肉の約5割、豚肉の約6割、および牛肉の約4割はいずれもこれら3カ国で生産している。中でも中国の豚肉生産量は世界の約5割を占める。また魚介の生産量も、FAOの統計によれば中国が突出している。主要な魚介の生産国は肉類のそれとはかなり異なっている。
 これら上位国における肉生産量の種類別内訳をみると、中国では豚肉が3分の2近くを占めるのに対して、アメリカとブラジルでは家禽肉が最大で2分の1近くを占め、それに次いで牛肉が多い。また中国とインドでは、魚介の生産量が肉類に匹敵する規模となっている。

◆輸出入の要因は何か?

 各品目について国別の輸出入量(2004年、以下同じ)を比較すると、全体として輸出は少数の国に集中しているのに対して、輸入は比較的多くの国に分散している。そのなかで日本は唯一、各種品目で共通の主要な輸入国となっている。(図a図b
 各国における国際貿易量を決定するのは人口1人当たり消費水準、自給率(または人口1人当たり生産量)、人口である。そのうち人口を除く前二者はかなりの程度、耕地の豊富さと所得水準に依存している。
 前述のとおり一人当たり所得水準の高い国々ほど、耕地の豊富さに応じた穀物自給率の較差が大きい。つまり、輸出国と輸入国に分かれて特化が進んでいる。こうした較差は穀物をおもな飼料とする畜産物の貿易にも反映される。また、人口の大きな国ほど穀物自給率は高い傾向にあるものの、輸入を行う場合には、その絶対量は大きなものとなる可能性がある。

◆3大穀物、4カ国で7〜8割生産

 3大穀物および大豆の輸出は、おもに人口1人当たりでみた土地資源の豊富な少数の国(アメリカ、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ)に集中している。これらの品目についてはいずれも上位4カ国の輸出量が全体の7〜8割を占める。特に大豆やトウモロコシについては、アメリカなど上位2カ国で7割以上を占めている。ただし米の輸出国は主要な産地であるアジアに偏っている。
 肉の輸出国には、これら飼料作物の輸出国に加えて、飼料作物を多量に輸入して加工畜産を行いその産物を輸出するという、いわば加工貿易を行っている国(オランダなど)もある。魚介の主要輸出国は他の品目のそれとはかなり異なっている。また、家禽以外の肉類と魚介の輸出は、穀物に比べて上位国への集中が少ない。

◆急増する中国の大豆輸入

 食料の輸入は人口1人当たりでみた耕地が少なく、所得水準が高く、人口の多い国に集中する傾向にある。その中でも日本や中国の輸入が目立つ。集中度の比較的高い飼料作物についてみると、日本のトウモロコシ輸入は世界の約2割、中国の大豆輸入は世界の約4割を占める。中国は飼料穀物をほぼ自給し、高蛋白質の飼料である大豆を輸入に依存している。中国の大豆輸入量は1990年代半ばから急増しており、農畜産物の輸入としては世界最大である。それに次ぐ世界第二位は日本のトウモロコシ輸入である。
 肉類についてみると、豚肉は日本、家禽肉はロシア、牛肉はアメリカの輸入量が最大であり、いずれも世界の1割以上となっている。なおアメリカは2003年まで輸入に匹敵する量の牛肉を輸出(当時世界第2位)していたが、BSE発生後に輸出が急減したため、2004年以降は大幅な純輸入国となった。
 さらに魚介については、輸入第1位の中国や第3位のアメリカのように、輸出・輸入ともにシェアの高い国が多数あるため単純には比較できない。純輸入量(輸入量―輸出量)の上位3カ国は順番に日本、中国、アメリカである。
 8品目それぞれの輸入国を比較すると、日本は米以外の全ての品目で第3位以内の主要な輸入国となっている。このように主要な食料品目の多くを大量に輸入している国は、日本以外にない。
 また3大穀物、大豆、家禽肉の輸入はいずれも、輸出と比べれば上位国への集中が弱く、多くの国に分散している。とくに小麦と米ではそうした傾向が顕著である。

◆おもな2国間貿易の現状

 世界の食料貿易の流れを把握するには、輸出国、輸入国を別々にみるのではなく、二国間の貿易をみる必要がある。魚介を除く各品目の二国間貿易(2003年、以下同じ)について、特に貿易量の大きなものをみると以下のとおりである。(世界地図(1)(2)参照)
小麦についてはアルゼンチンからブラジルへの輸出が最大である。ブラジルは前記のとおり飼料作物と肉類の輸出国であるが、その一方でこのように大量の小麦を輸入している。
米についてはインドからバングラデシュへの輸出が最大であるが、他の穀物や大豆に比べて量は少ない。
トウモロコシについてはアメリカから日本への輸出が最大である。これは農畜産物の2国間貿易量のうちでも世界最大である。トウモロコシの第2位は中国から韓国への輸出である。
大豆については上位3位までを主要生産国(アメリカ、ブラジル、アルゼンチン)から中国への輸出が占めている。
牛肉についてはアメリカの輸出入が上位を占める(概ねBSE発生以前、前述のとおり)。アメリカはおもにオーストラリア、カナダ、ニュージーランドから比較的安価な牛肉を輸入し、日本、メキシコ、韓国へ比較的高価な牛肉を輸出していた。
家禽肉貿易についてはアメリカからロシア、香港へ、次いでタイから日本への輸出が多い。
豚肉についてはカナダからアメリカへ、次いでブラジルからロシアへの輸出が多い。
 また、日本の輸入先は全体としてアメリカに集中している。家禽肉以外はいずれもアメリカが最大の輸入先であり、輸入量に占めるアメリカの割合はトウモロコシで約9割、大豆で約8割、小麦と牛肉で約2分の1である。アメリカの輸出の世界シェアと比較して、日本の輸入先はアメリカに偏っている。それに対して家禽肉の輸入先はアジアおよび主要輸出国に分散している。アメリカ以外のおもな輸入先は、オーストラリア(小麦、牛肉)、カナダ(小麦、豚肉)、ブラジル(大豆、家禽肉)、中国(トウモロコシ、家禽肉)、タイ(家禽肉)、デンマーク(豚肉)などである。

◆アジアで高まる穀物需要

 今後、中長期的には世界食料の需給両面について、さまざまな変化が予想される。
 まず需要面では、今後、途上国の経済成長が進むとともに、かつての日本と概ね同じ方向で食生活の変化が予想される。まず雑穀から米と小麦へ、その次の段階では畜産物へと食料消費が高度化する。同時に植物油などの消費も増加する。畜産はトウモロコシ、大豆などの飼料を大量に必要とするため、全体として穀物や油糧作物の需要は拡大していく。こうした変化の速さは経済成長のテンポに依存している。人口成長も需要を増加させるが、世界の人口成長は世界的にかつての予想より早く鈍化しつつある。また世界的な高齢化は畜産物の消費抑制につながる。さらに石油価格や環境規制の動向によってはエタノールやバイオディーゼルといったエネルギー向け需要の影響が強まるであろう。
 アジアでは、米の1人当たり消費量が減退へ向かう国が次第に増えていくであろう。またアジアには人口一人当たりの耕地が少ない国が多いため、経済成長とともに穀物など土地利用型作物を中心とする農業の競争力低下が進むとみられる。飼料作物の増産には耕地の絶対量が不足する国もでてこよう。需要変化、競争力低下、および人口の大きさにより、アジアでは穀物や大豆の輸入が大幅に増加していくであろう。これまで飼料穀物を概ね自給してきた中国も、近い将来にトウモロコシの純輸入国に転じるとの見方がある。所得の高い国では、加工畜産から畜産物輸入へのシフトがさらに進む可能性もある。
 次に供給面では、おもに作物の単位面積当たり収量や家畜の飼料効率といった技術の向上が問題となる。大規模な農地拡大の余地はブラジルのセラード地帯など一部に限られている。1961年以来、世界の人口が2倍に増加したのに対して穀物生産は2.5倍、肉の生産は3.7倍に拡大した。この拡大は技術進歩によるところが大きい。しかしそのペースがどの程度維持されるかは、技術的限界だけでなく資源環境制約にもかかっている。水資源の利用効率、原油などのエネルギー需給動向、気候変動、集約的農畜産業による環境負荷など様々な問題がある。
 世界における食料需給の地理的な分布も次第に変化しつつある。OECDとFAOによる2015年までの予測によれば、主要な食料の生産、消費、輸出、輸入において、途上国や移行経済国のシェア拡大が続くという。穀物輸入の増加はおもにアフリカ、メキシコ、その他ラテンアメリカ、中国、中東、その他アジアで発生すると見込まれている。また従来の主要穀物輸出国に加えて、小麦ではウクライナとカザフスタン、粗粒穀物ではウクライナと東欧の台頭が進むと予測している。

◆輸入依存はいつまで可能か?
  ―農業生産基盤の維持が重要

 すでに見てきたように、日本は1億人以上の人口を有しながら食料を大幅に輸入に依存し、多くの品目で主要な輸入国となっている。このような異例の輸入依存を今後も安定的に維持することはできるのであろうか。
 これまで日本の輸入依存を支えてきた要因は、経済成長と高い所得水準による購買力、世界的な需給の緩和傾向、おもな調達先であるアメリカとの戦後における緊密な二国間関係、といったものであろう。
 しかしこうした前提条件の一部は次第に成立しなくなる可能性がある。日本の経済成長の鈍化と新たな成長国の台頭は、日本の購買力の相対的な低下をもたらすであろう。また、日本以外に大きな買い手が増えることによって食料輸入をめぐる利害関係はより複雑となっていく。さらに長期的には、日本の経済力衰退や気候変動のリスクもある。
 このような将来の不確実性を考慮すれば、現状の食料輸入依存が永続的に可能であるとは言い切れない。もちろん一方では安定的に輸入を確保するための協調に努めるべきであるが、それとともに国内ではこれまで蓄積してきた農業生産基盤を何らかの形で維持していく必要があろう。 (平澤明彦)

(2006.10.16)



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