農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 日本の食料が危ない

食料自給率を考える(3)

拡大するバイオエネルギーと食料需要との競合

◆ 急拡大するバイオエネルギー

 原油価格が高騰する中で、近年、生物資源を原料として利用するバイオエネルギーが注目を集めている。既に米国では、生産したトウモロコシの14%が燃料用エタノールに使用されており、ブラジル、EU、インドなどでもバイオエネルギーの生産が急速に増大している。
 日本でも、今年3月に農林水産省を中心に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し、バイオエネルギーの活用に向けた取り組みが本格化しつつある。

◆バイオエネルギーが注目されている理由

 バイオマスとは、生物由来の資源(石油等の化石資源を除く)のことであり、「再生可能」というところに最大の特徴がある。農産物・木材の廃棄物(廃材、糞尿、食品廃棄物、廃油、廃棄された紙等)や稲わらなどがバイオマス資源として期待されているが、従来食用に生産されていたトウモロコシやサトウキビなども、有力なバイオマス資源として注目を浴びている。
 バイオエネルギーとは、こうしたバイオマスを原料とするエネルギーのことであり、代表的なものとして、(1)エタノール(トウモロコシ、サトウキビが原料)、(2)バイオディーゼル(大豆、ナタネ、ヒマワリが原料)、(3)木質バイオマス(木質ペレット等)、がある。
 近年、こうしたバイオエネルギーが注目されている背景は、以下の通りである。
 1.石油資源の枯渇が懸念されるなかで、バイオエネルギーは再生可能な代替エネルギーとして有望視されている。
 2. 大気中のCO2の増加により地球温暖化が進み、CO2排出量の削減が大きな課題になっているが、バイオエネルギーは植物が吸収したCO2を排出するため、化石燃料と異なり大気中のCO2を増加させない。
 3. 過剰生産によって農産物価格が低迷するなかで、農産物のバイオエネルギーとしての新たな需要拡大によって農産物価格が上昇することが期待されている。
 4. バイオエネルギー産業という新たな産業が形成され、雇用創出の効果がある。

◆米国におけるエタノール生産の拡大

 日本の食料供給にとって特に重要なのは、米国におけるエタノール生産の増大である。 米国では、エネルギー安全保障、トウモロコシの需要拡大、汚染対策等の理由から、90年代後半よりトウモロコシからのエタノール生産が増大しており、05年のエタノール生産量は5年前に比べて2.4倍に増大した。
 エタノール生産に向けられたトウモロコシは05年では全体の需要量の14%に達しているが、今後もエタノール生産はさらに増大する見込みであり、米国農務省は、10年後の2015年には、エタノール向けのトウモロコシ需要は現在のほぼ2倍の74百万トン(生産量の23%)に達し輸出量を上回ると予測している。
 日本は米国から畜産飼料やでんぷん原料として大量のトウモロコシを輸入しており、こうしたエタノール生産の増大はトウモロコシ価格の上昇をもたらし、日本の畜産業にも影響を与える可能性が高い。

米国におけるエタノール向けトウモロコシ需要の推移

◆強まる農業とエネルギーの関係

 農業は植物の光合成能力を利用して太陽エネルギーを固定している産業であり、その意味で他の産業とは本質的に異なる性質を有している。農業とエネルギーの関係を整理すると、以下の3つの面がある。
 1. 農業生産による石油消費:農業生産そのものが、農業機械の燃料、農薬・化学肥料の原料などに多くの石油を使用しており、石油資源の動向は農業生産にも影響を与えるであろう。
 2. 地球温暖化の農業への影響:CO2の増大による地球温暖化は、作物の栽培時期や栽培地域の変化、渇水・干ばつの多発などをもたらし、農業生産に大きな影響を与える見込みである。
 3. エネルギー資源生産としての農業:従来の食料や繊維原料を生産する農業とは異なる農業の新しい側面であり、今後、この部分の重要性が増していく。
 このように、農業とエネルギーは密接な関係にあるが、バイオエネルギー生産の発展によって農業とエネルギーの関係は新たな局面を迎えたということができ、食料安全保障という観点からもバイオエネルギーの動向を注視していく必要があろう。 (清水徹朗)

(2006.10.17)



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