農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 全農特集・生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋に

座談会 その1

全農がめざすもの 消費者が期待するもの
一緒に商品開発する それを積上げることで提携を強化

出席者
浅田克己氏 コープこうべ組合長理事
宮下 弘氏 JA全農代表理事専務
田代洋一氏(司会) 横浜国立大学大学院教授

田代氏・宮下氏・浅田氏
田代氏・宮下氏・浅田氏
 兵庫県民の6割を組織し、県内食料品供給で約11%のシェアをもつコープこうべは、JA全農の直販事業との歴史も長く深い関係にある。そこで今回の特集にあたって、最近の消費者の動向と同生協の戦略、それに応える全農の考え方などを、浅田克己コープこうべ組合長と宮下弘全農専務に忌憚なく話し合ってもらった。司会は田代洋一横浜国大大学院教授。

一様ではない食のあり方 その需要実態に的確に応えること

◆同じ人でも平日と週末を使い分け 一様ではない消費行動

浅田克己氏

浅田克己氏(あさだ・かつみ)
昭和22年三重県生まれ。明治学院大学法学部卒。昭和45年灘神戸生活協同組合(現コープこうべ)入所、供給企画室・商品開発室・商品政策企画室の課長、部長を歴任、平成7年常任理事、11年常務理事、13年専務理事、16年組合長理事に就任。

 田代 コープこうべと全農の現在の取引きはどんなですか。
 
 浅田 全農との取引きは、園芸、畜産、鶏卵そしてお米などでおおよそ115億円くらいです。コープこうべの食品供給高は1950億円で、兵庫県全体の食品供給高は1兆9000億円程度ですから私どものシェアは約11%です。このように全農さんには大変貢献してもらっています。

 宮下 全農全国本部としての直販事業の販売高は、主要29社で1800億円ほどで、コープこうべさんはその中で5番目に大きな取引先です。生協と量販店の割合は半々くらいです。とくに生協の場合は、厳しい基準があって、取引きさせていただくためには、かなりシッカリした準備ができないと難しいですね。しかし、一度取引きが始まると協同組合としてシッカリしていますから、長くお付き合いしていただけますね。そういう意味で商売を通じて協同組合間提携をしていくことがベースだと思います。
 
  田代
 生産者と消費者を「安心で結ぶ」という全農の経営理念は素晴らしいものですが、一方で食の二極化ということもいわれ、安心と同時に良いものをより安く提供できるかも大事になっているのではないかと思います。そこで最近の消費者の購買行動についてお話しいただけますか。

 浅田 毎年2回、300名くらいの組合員さんに協力をしてもらって、1週間にわたって毎日のメニューで食材になにを使って単価はいくらだったかを記帳してもらっています。つい最近出た2005年秋のデータと2年前のものを比べると若干変化がでてきています。
 1つは、1食当たり単価がやや上がってきています。具体的には、平日が339円から405円に、週末が387円から445円になっています。どの層が上がったかというと、50歳台以上は、品質を見分ける目もあり要求が高いこともあって、常に1食当たり単価が高いんです。全体のバランスからいうと30歳台の世帯層が平均値を下げる形でしたが、いまはこの層の1食当たり単価が少し上がってきています。
 もう1つ際立っているのは、405円対445円というように、平日と週末の差がかなりくっきりでてきていることです。そして、週末だけではなく記念日とか家庭での記念日の1食当たり単価も上がってきています。
 同じライフステージの人が、週末と平日を使い分けていて、しかも少ない家族であってもテーブルを一緒に囲む機会がある家庭記念日があるときの食というように、食のあり方を一様にとらえられないということです。
 一方に安全で新鮮な高付加価値なものがあり、対極により安くがあるといわれますが、同じ人が買い分けているので、その需要の実態をちゃんと捉えているのかという問題があります。

 田代 もう少し具体的に言うとどういうことですか。

 浅田 野菜も果物もランク分けをちゃんとやらないと、いまのこの状況に応えられません。例えば今年は、ナスとかキュウリで価格訴求型の商品の売上げが増えました。しかしその一方で、果肉に対する評価が高いトマトも同時に伸びているんです。1日の平均来店組合員数は24〜25万人、多いときは28万人ですが、同じ人が使い分けて買われていくわけです。このマーチャンダイジングをちゃんとやらないといけないわけです。
 こういう傾向に最近の消費行動はあるということです。

 田代 ヒントの多いデータですね。

◆生産履歴記帳をベースに特色ある国産農畜産物を 

宮下 弘氏
宮下 弘氏(みやした・ひろし)
昭和22年生まれ。同志社大工学部卒。昭和45年入会、平成7年東京支所自動車燃料部長、8年東京支所総合室長、10年東京支所次長、11年大阪支所支所長、14年常務理事、17年代表理事専務。

浅田 もう1つの傾向は、国産志向です。私どもの農産品全体に占める輸入品の割合は、果物で29%、野菜で3.4%、農産品全体では12.8%です。国産品のウエイトが高くなってきています。国産志向になってきているのかと聞いてみると、まず、農産品でもっとも重要視される鮮度評価でみれば、国産品志向になって当たり前だという。もう1つは、トレーサビリティとかポジティブリスト制などの学習をしてきたことが背景にあって、安心の問題ですね。
 そして3つ目が、地産地消の考え方が高まってきていることです。意識的に自分たちが住んでいる地域などの農家の人たちが作ったものに切り替えるということです。これはフードマイレッジという考え方だけではなく、実質的に国産品の評価が高いという傾向がでてきていると思います。

 田代 一様なマーケットとしてとらえてはいけないし、食費はやや上位シフトの傾向にあり、そのなかで国産品志向が強くなってきているというお話で、ある意味では日本農業にとって希望のもてる話だと思います。しかし、同じ人がきめ細かく日によって使い分けているということは、一面的な供給では難しく、供給の幅を広げないといけないのかなという感じをうけましたが、宮下専務、全農サイドはどういう販売方法を考えていらっしゃるのか。あるいは産地にどういうメッセージをだしているのでしょうか。

 宮下 安全・安心はもう当たり前の話ですから、浅田組合長がお話になったような消費動向を踏まえて、どういう産地を提供できるのか、あるいはどういう産地を作っていくかですね。
 各産地では「生産履歴記帳運動」に取り組んでいる中で、これが当たり前のベースになってきていますから、もう1つ上で何をするかを考えないといけないとは思っています。ただし、すべてのことができるわけではありません。とくに野菜の場合、単価が安いですからユビキタスをつけるという話がありますけれど、そんなことをしていたらコストがかかり過ぎて意味がありません。
 肝心なことは履歴がキチンと分かっていて、いざというときに追いかけることができることです。そのベースの上に「全農安心システム」のような特色のある産地とか農畜産物を探し、ご要望に応じていくことが、私たちの仕事だと思います。

 田代 農協にもAコープチェーンがありますね。

 宮下 規模も小さいので一般量販店等の店舗と同じ方法では勝てませんから「精肉・生鮮野菜国産こだわり宣言」をし、精肉・生鮮野菜についてごく一部の例外品目を除いてすべて国産に変えました。しかし、売上げは落ちていません。東京の吉祥寺でも国産品しか扱わない「JA全農のお店」という店舗を直営で運営しています。国産品を買う層が必ずあるわけですから、そうした直営店舗で実験をしながら、どういうものが提案できるかを考えています。

◆「売ります」「買います」から、共に商品を作っていく関係に

 田代 全農からコープこうべへ供給している農産物は、共同購入向けが多いんですか。

 浅田 そうですね。これには理由があります。冷蔵・冷凍の集配センターを魚崎浜に04年に建てましたが、このセンター内に別ブースで全農の農産加工センターを設置してもらっています。つまり、向かい合う関係ではなく、一緒に仕事をしていくという関係です。
 共同購入は基本的に欠品できないので、単品集荷力があって安定供給できる欠品リスクの少ない取引先でなければいけないわけです。そうすると全農ということになるので、これから全農と生協とのこうした関係が増えてくると思いますね。
 共同購入では、3か月前に企画しないといけないので、いままでのように「これがこれだけ採れました、相場はこうです、どうしますか」という関係では成立しません。全農と現在のような関係をもつと、何が変わるかというと、年間52週の計画を先に組めるわけです。そして、3か月前に全農とメニューに合わせて、主力品の農産物を決めます。これがマーチャンダイジングなんですね。

 田代 農産品加工センターではどういう仕事を…。

 浅田 入荷した農産物を一度バラして検出してもらい、その上でトリミングもしてもらっています。数年前にレタスが不足したときには、本来、組合員には1個で供給していますが、台風などの被害で集荷ができなくて数が足りない時などは無理をお願いして半分にカットしてオーダー数をクリアしたこともありました。いままでの関係ではこういうことは成立しませんよね。

 田代 従来のような「売ります」「買います」ではなく、共に商品を作っていくという関係ですね。そこで宮下専務にお聞きしたいのですが、そういう関係に応えられる産地、応えられない産地があると思いますが、そういう産地探しとか産地作りについてはどうお考えですか。

 宮下 生協や量販店と協議するなかで「こういうものが欲しい」という要望があれば、まず産地を探します。なければ産地をつくることになります。それから「全農安心システム」のような履歴や生産基準がシッカリしているものを提案をしていく、というような作業をしていきます。
 一方で産地探しや産地づくりは、生協・量販店の要望と産地の要望をマッチさせていくことですから、時間もかかり、いろいろな方々から「全農はもう少し提案型の商売を」といわれます。それはご指摘の通りであり、さらに努力していかなければならないと思います。

◆販売にシッカリつなげる――全農の使命

 田代 提案型になるためには、「こういう農畜産物を供給できます」ということができなければいけないわけですが、それを可能にするのはなんですか。

 宮下 やはりこれからは担い手ではないでしょうか。

 田代 担い手という場合に、法人組織もあれば集落営農組織もありますし、また個別の担い手もいますが、どんなところが期待されてますか。

 宮下 いままで、私たちもJAも担い手の人たちに十分対応してこなかった面がありますから、まずJAと一緒に担い手のところに行って、ご意見やご要望を聞くことだと考え、その実践を始めています。また、全国女性協や全青協の人たちと懇談しお話を聞いていますし、私もいくつかJAに行かせてもらいましたが、担い手の方々が全農に期待するのは販売だと思いますね。生産資材については全量ではありませんが、それなりにご利用いただいています。販売で全農の価値がなければ担い手や法人の方々には意味がないわけです。リスクを負って例えば米をキチンと買ってくれということです。そういうことに1つずつ応えていくしかないだろうと私は思いますね。

 田代 「新生プラン」を読むと生産資材中心のように見えますが、全農に売ってもらえるという魅力がないと生産者もついてこないということですね。

 宮下 販売にしっかりつながるかどうかが、われわれの使命ですし、販売がなくなったら全農という組織が存在する意味がありませんからね。

◆産直がなければできないマーチャンダイジング

 田代 先ほど、平日と週末・祭日での消費行動が違うというご指摘がありましたが、それに対するきめ細かな対応・工夫についておうかがいします。

 浅田 今年1年、組織内ではSPI(ストア・プレイス・イノベーション=店舗売場改革)という取組みをしています。これには2つあって、1つは、もっと絞り込んでいくというイノベーションです。もう1つは、農水産物には旬があるので、この旬の部分では逆に選択肢を広げていくというものです。売場には限りがありますから、玉石混淆の売場になっては具合が悪いので、玉は残して石は取り除き、玉の部分については選択肢を広げていこうということです。
 ここには2つの選択肢があって、1つはサイズです。いま神戸市の1世帯当たり人数は2.3人です。ここに従来通りのサイズのものを出しても「私の買うサイズがない」ということになってしまいます。だから私どもの店では、メークイーンをバラで売っていますし、ミニトマトもバラで売っています。そうでないとマーケットインできないんです。もちろんパックしたものもあるわけで、サイズの選択幅をとっているわけです。
 もう1つは、グレードです。このサイズとグレードの幅を重点商品についてはつくっていくということです。この方向で全体を見直そうとしています。
 そして、その中で価格対応がでてくるわけです。せっかく汗を流して作ってきたり、創造してきた価値を、価格だけの対応にしていくのは大変にもったいない話です。実際にバラのものも袋入りでボリュームのあるものも十分に需要してもらえるわけです。これはメニューによるので、マーケットをキチンと押さえ込めれば経済価値が出せるので、価格訴求が必要なものはそうします。

 田代 それは選別の段階でできるのではなくて、産地の段階からやっていくわけですか。

 浅田 こういうことを実現するためには、産直というルートがない限り実現できません。
 仕入れの中心は市場もあれば市場外もあります。しかし、グレードの高いところでは「フードプラン」による開発もありますが、もう1つ産直というものがなければマーチャンダイジングできません。

 田代 そういう期待にどう応えるかですね。

 宮下 各生協の方と話すんですが、日本の果物は大きくて素晴らしいものですね。ですが例えば高齢者の方とかはリンゴは一度には食べられませんよね。

 田代 そうですね。我が家でも切って何度かに分けて食べていますね。

 宮下 生協のトップの方々からは、日本の農業技術があればもう少し小型のものが作れるのではといわれます。私もそう思います。一度、そういう実験をして、誰でも飛びつけるというものを作らないと果物の消費は伸びないのではないかと危惧しますね。

 田代 いま加工品のウエイトが高くなっているのに、日本の生産者は生鮮品を作っていかないと生活をしていけないという問題があると思いますが、大きくて見栄えがいいメロンではなく、小粒でも単価がでて生産者も引き合うというようなことが必要だと思いますね。
(「座談会 その2」へ続く)

(2006.11.15)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。