農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくり −「農」と「共生」の世紀を実現するために−



図表でみる農林水産業の現状
瑞穂の国で落ち込む稲作
ニッポン農業、その危機的な状況

執筆者
[農業]清水徹朗、内田多喜生、平澤明彦、藤野信之
[水産業]出村雅晴 [林業]秋山孝臣


 日本の食料自給率は8年連続で40%のままだ。農業の構造改革によって自給率向上を図ろうと改革の加速化が叫ばれ、生産現場では新たな経営所得安定対策による支援対象になるため担い手づくりに取り組んできた。食料の安定供給に向け多くの農業者による農業生産が期待されるが、一方で国際化の進展、規制緩和などの影響で、この10年間の日本農業の地盤沈下は激しい。
 とくに日本農業と農村地域の背骨である稲作農業の衰退がデータには明確に現れている。豪州とのFTA交渉入りが決まるなか、今回は地域社会を支えてきた農業・水産業・林業がどういう状況になっているのかしっかりと見つめるため、農林中金総合研究所基礎研究部に分析してもらった。

コメ農家、10年間で81万戸減

◆農業  新たな経営安定対策導入と厳しい国際交渉
  食の安全と環境対策への関心も高まる

戦後農政の大転換

 1992年に発表された「新しい食料・農業・農村政策の方向(新政策)」において「経営感覚に優れた効率的・安定的な経営体」を育成するという方針が打ち出され、それに基づいて認定農業者制度(93年、農業経営基盤強化促進法)が設けられたが、その後、食料・農業・農村基本法(99年)を経て米政策改革が進められた。そして、今年(07年)4月より、農業構造のさらなる改革を目指して、一定規模以上の認定農業者(都府県は原則4ha以上)と集落営農(原則20ha以上)に限定した新しい品目横断的な経営安定対策が導入されることになった。今後、どの程度の農家数、経営面積がこの制度の対象となり、その結果、農業構造がどう変化していくかが注目される。

難航するWTO交渉とFTA交渉の進展

 WTO農業交渉は2000年1月より開始しすでに7年が経過しているが、ある程度の枠組みについては合意しているものの、具体的な保護削減の程度等において未だに合意に至っておらず、06年7月以降は交渉自体が中断している。今後、交渉に最大の影響力を有している米国において、米国議会が政府に与えている交渉権限(07年6月末で失効)を延長しないと、交渉はさらに長引く可能性があろう。
 WTO交渉が難航する中で、世界的にFTAを締結する動きが広がっており、日本も、これまでシンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピンとFTAを締結し、タイ、チリ、インドネシアと大筋合意している。さらに日本は、インド、スイス、豪州等とFTAを検討しているが、豪州とのFTAは牛肉、砂糖、米など日本農業の重要品目について豪州側から市場開放要求が出てくる可能性があるため、難しい交渉になる見込みである。

食品安全性への関心の高まりと環境対策の進展

 こうしたグローバル化の進展と構造政策の一方で、BSEに代表されるように消費者の食の安全性に対する関心が高まっており、農林水産省は、食品安全性対策のためリスク管理体制を強化し、食品産業と農業の連携強化に取り組んでいる。
 農業と環境問題との関係も重要になっており、今年4月から持続可能な農業・農村を目指して「農地・水・環境保全向上対策」という新たな制度が導入されることになった。また、石油価格高騰の中で世界的にエタノール等のバイオエネルギーの生産が拡大しているが、こうした新たな農産物需要の増大は農産物価格にも影響を与える見込みである。

◆農業構造 −高齢化の進行が深刻

農家戸数・農業就業人口の減少

 05年の総農家戸数は285万戸であり、10年前に比べ60万戸減少している。また、農家世帯員数(販売農家)は837万人(10年間で367万人減少)であり、農家世帯員に占める65歳以上の割合は31.6%に達している。(図1
 農業従事者(販売農家)は05年で556万人であり、10年前に比べて184万人減少した。農業従事者のうち主に農業を仕事としている農業就業人口は335万人で、10年間で79万人減少し、そのうち65歳以上の高齢者が58.2%に達している。(図2)昭和一桁世代の次世代の多くは農外に就業しており、定年帰農の動きが一部にみられるものの、今後も農家戸数と農業就業人口の減少が続く見込みである。

農地面積の減少と構造変化

 こうした状況は農地の維持・管理にも影響を与えており、05年の総農家の経営耕地面積は360万8千haで、10年前に比べ51万ha減少している。また、05年の耕作放棄地面積は38万6千haとなっており、これは10年前より14万2千ha多い。
 農業環境が厳しさを増すなかで農業経営の規模拡大ペースは遅く、05年において都府県の販売農家のうち経営耕地面積5ha以上の農家数は5万戸で、2000年に比べ7千戸の増加に留まっている。今後、昭和一桁世代のリタイアに対応して農地の受け皿づくりを組織的に進め、地域農業を面的に維持していく必要があろう。

膨らむミニマム・アクセス米の在庫
  生産量はピーク時の約6割

米の需給
 05年度における米の生産量は907万トンで、ピーク時(1967年、1445万トン)に比べ37%減少し、この間に作付面積はほぼ半減した。また、価格の低下もあり、05年の米の生産額(1.97兆円[推計])は、ピーク時(84年、3.93兆円)に比べ半減している。(図3
 ウルグアイラウンド合意の結果、日本はミニマム・アクセスとして米を毎年一定数量輸入しており、05年度における米の輸入量(98万トン)は消費量の10.2%に達している。ミニマム・アクセス米は国内の食用米需給への影響を避けるため一般の米流通から切り離されているが、その結果、在庫が累積しており、05年度末には在庫量は182万トンに達し、その処理が大きな課題になっている。(図4
稲作の生産構造
 05年における稲作農家戸数は196万戸であり、10年前(95年)に比べ81万戸減少している。作付面積10ha以上の稲作農家戸数は増加しているものの、それほど大幅な増加ではなく、米価低迷の中で多くの稲作農家は農業機械の更新を延期しており、作業を委託したり離農する動きが進んでいる。
 07年度から、新たに品目横断的な経営安定対策が導入され、また農業者・農業団体が「主体的」に生産調整を実施する新たな米需給調整システムが開始される。こうした制度変化への対応は当面する極めて重要な課題であり、その帰趨は水田農業や農協組織の将来に大きな影響を及ぼすであろう。
新しい経営安定対策に対応する麦・大豆生産
 05年における麦類(4麦計)の作付面積は26.8万ha、生産量は105.8万トン(うち8割が小麦)で、自給率は小麦14%、大麦・裸麦8%である。大豆も転作作物として振興され、05年の作付面積は13.4万ha、生産量は22.5万トンであるが、需要の約4分の3を占める油脂用大豆が全て輸入に依存しているため、大豆の自給率は5%に過ぎない。
 麦類、大豆は新しい経営安定対策の助成対象になっており、今後、この新制度の影響が麦類、大豆の生産にどう出てくるかが注目される。

飼料価格の高騰が懸念される畜産業
  安全性では消費者から評価

 日本の畜産、酪農は、戦後の経済成長に伴う畜産物需要の増大に対応して大きく成長したが、80年代後半以降、円高、輸入自由化等により輸入量が増加し、国内生産量は環境対策や後継者不足等により減少傾向にある。近年では、BSEや鳥インフルエンザの発生が輸入や国内生産に大きな影響を与えている。
 畜産物価格は、全体として低下傾向にある。また、米国におけるエタノール向け需要の増大等によって近年トウモロコシ価格が上昇傾向にあり、今後も中国の輸入増大等により飼料価格の上昇が見込まれるため、畜産経営は悪化する可能性があろう。
 消費者はより安全な畜産物を求めており、日本の畜産物市場は、今後、動物福祉(家畜飼育方法等)、環境配慮、飼料の内容まで考慮するような成熟したものに変化していくと考えられる。

牛肉
 BSEを巡る騒動の影響で牛肉の消費量と輸入量は大きく減少し、04年の牛肉消費量は2000年に比べ3割近く減少し、輸入量は約4割減少している。国産牛肉については、BSE発生後全頭検査体制を整備したため、需要が回復し価格も堅調に推移しているが、05年でも牛肉の輸入量は国内生産量を上回っており、牛肉の自給率は43%である。(図5
豚肉
 BSEや鳥インフルエンザの発生に伴う代替需要もあり、豚肉の需要量は増加を続けているが、輸入量が増加する中で国産生産量はやや減少傾向にあり、05年の自給率は50%に低下している。生産者の高齢化、環境対策費用の増大によって養豚農家戸数は減少しており(過去5年間で28%減少)、1戸当たりの飼養頭数は1233頭(06年)に増大している。(図6
鶏肉
 鶏肉需要は増大を続け輸入量も01年までは増加してきたが、中国、米国における鳥インフルエンザの発生により02年以降輸入量は減少に転じた。近年では、タイ、中国からは、焼き鳥、から揚げ等の鶏肉調製品の輸入が増大しており、冷凍鶏肉についてはブラジルが輸入量全体の9割を占めるに至っている。05年における鶏肉の自給率は67%である。(図7
牛乳・乳製品
 他の飲料との競合や少子高齢化によって飲用牛乳の消費量は減少傾向にあるが、乳製品需要は堅調である。その中でチーズの輸入量が増大しており、05年における牛乳の自給率は68%になっている。酪農家戸数は減少を続けており(過去5年間で17%減少)、1戸当たり平均飼養頭数は62頭(06年)に増大している。(図8

◆野菜、消費減の一方で輸入は増加
  果樹は産地強化が課題に

野菜
 04年における野菜の生産量は1234万トンであり、野菜消費量の減少、生産者の高齢化などにより野菜生産量は減少を続けている。その一方で輸入が増大しており(図9)、野菜の自給率は85年には95%であったが、05年では79%に低下している。野菜の輸入量は、暫定セーフガードの影響もあって02年には一時減少したが、その後生鮮野菜を中心に増加を続け、05年には290万トンに達した。輸入先は中国が全体の55.7%を占めている。野菜価格は、バブル崩壊後に続いたデフレ傾向や廉価な輸入品との競合で低下傾向にあり、野菜販売農家戸数は45万戸(2000年)で減少傾向にあるが、2ha以上の販売農家(2.7万戸)の作付面積の割合は43%になっている。
果実
 04年における果実の生産量は346万トンで近年減少を続けているが、その一方で、輸入量は円高、輸入自由化等により535万トンに増加しており、05年における果実の自給率は41%に低下している。生鮮果実の消費量は減少しているが、果汁消費量が伸びているため、果実の需要量は800万トン台ではほぼ横ばいである。なお、果実の価格は、野菜と同様の要因により低下傾向にある。果実販売農家戸数は33万戸(2000年)で減少傾向にあり、後継者不足、価格低迷等によりミカン、リンゴの結果樹面積は減少を続けている。こうしたなかで、農林水産省は05年に「果樹農業振興基本方針」を策定し産地強化の取組みを進めている。

水産業・林業の後継者づくりと再生も課題

◆水産業  水産資源の管理が大きなテーマ
  輸入では表面化した「買い負け」

 日本の漁業生産量は、資源状況の悪化や生産構造の脆弱化等から減少傾向にあり、05年の生産量は572万トンで、ピーク年(84年、1282万トン)の半分以下の水準になっている。(図10)水産資源は悪化しており、日本の排他的経済水域のみならず、公海域を含む水域における資源管理が大きな課題となっている。
 日本は、これまでこうした漁業生産の減少を輸入の拡大で補い、水産物消費量は横ばいで推移してきた。05年における水産物輸入は、数量で334万トン、金額で1兆67百億円であり、日本は世界最大の水産物輸入国となっている。しかし、BSEや鳥インフルエンザの発生、あるいは中国における水産物消費量の増大等により、世界的に水産物需要が高まっており、世界最大の輸入国である日本が「買い負ける」という、かつてなかった状況が現れている。
 この10年間(93年−03年)で漁業経営体数は19%減少し、漁業就業者も27%減少するなど、漁業生産の弱体化が進んでいる。
 05年の漁業就業者数は22万人であるが、男子就業者に占める60歳以上の割合は38%に達しており、近い将来漁業就業者が大きく減少することが懸念されている。
 さらに、ここ2年で約7割値上がりした燃油価格もコスト上昇要因となっており、漁業生産を取り巻く環境は厳しいものとなっている。
 開発途上国を中心とする世界的な人口増加が見込まれるなか国民への食料安定供給のため、適切に管理すれば再生産可能な水産資源は貴重であり、漁業生産体制の再構築が大きな課題になっている。

◆林業  産業としての林業は危機的
  温暖化対策から森林整備も急務

 戦後造林した人工林が伐期に達しているが、木材価格が低迷して林業経営は採算性が極度に悪化しており、林家の林業離れが進んで森林の施業放棄や荒廃が拡大している。日本の木材生産は長期にわたり減少が続いており、04年の生産量は1562万m3で木材自給率は19%に低下している。(図11
 バブル崩壊以降、住宅着工戸数は96年(164万戸)をピークに低迷を続けており、04年は119万戸であった。木材輸入量は95年までは増大してきたが、木材需要の減少に伴って96年以降輸入量は減少に転じ、04年の輸入量は74百万m3になっている(95年に比べて▲15百万m3)。木材価格は輸入材が価格決定力を持っているため、国内の需要動向にかかわらず木材価格は80年をピークに低下し続けている。
 林業生産活動の停滞等に伴って林業就業者数は減少を続けており、林業就業者のうち65歳以上が25%を占めている(04年)。
 また、林業所得の減少が続いており、04年における林家(所有森林面積20〜500ha層、平均所有面積87.4ha)の1戸あたり平均林業所得は42万円に過ぎず、このような林業所得では生計を維持することはできず、「産業」としての林業は危機的な状況にあるといえよう。

(2007.1.15)


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