農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくり −「農」と「共生」の世紀を実現するために−


2007年の農政の課題

梶井功 東京農工大学名誉教授



梶井功 東京農工大学名誉教授
 明けましておめでとうございます。
 とは書いたものの、おめでとうなどといっておられる状況ではない、というのが07年新年を迎えての私の率直な気持ちである。第1に昨年暮れになって突如クローズアップした豪州とのEPA交渉がどうなるかという問題がある。第2に行政自らが戦後農政の大転換と称する対象限定の経営安定対策、その一環でもあるJA主体の米の新需給調整が始まる。そして第3に、リース制営農を一般株式会社に認めることにした05年農業経営基盤強化促進法改正の効果もまた定かではないのに、またもや農地制度改革問題が浮上しそうだということがある。どれをとっても日本農業のあり方を大きく左右する、いや死命を制しかねない基本的かつ重大な問題ばかりである、07年は日本農業にとって大変な年になるのではないか。

◆注視すべき政府の対応―日豪EPA交渉

 豪州EPA問題は、05年4月から始まった問題だが、もともとは本年3月末までの2年をかけて政府間共同研究報告書をまとめることになっていた。それがWTO交渉が凍結状態に入ったこともあり、前倒しで昨年11月末にまとめられ、EPA協定締結交渉に入ることになったのである。それにはグローバル化を急ぐ財界の要請があったこと、いうまでもない。
 WTOでも輸出国グループの中心である豪州の要求は、FTAやEPAではむろん全面的な関税撤廃である。これまでに他の国と締結したFTAでは、アメリカに対し砂糖を譲っただけで、ほかはすべて例外なしの関税撤廃を実現してきており、日本との交渉でも当然のこととして例外なしの関税撤廃を求めている。
 その要求を受け入れたEPA協定が成立したとするなら、わが日本農業は深刻な打撃を受けることになる。自民党農林水産物貿易調査会の推定では、牛肉、乳製品、小麦、米等を中心とする農産物で1兆4000億円、地域経済・関連産業で1兆6000億円、計約3兆円もの国内生産減が生じ、食料自給率は10ポイントも低下するという。
 問題は対豪州のみにとどまらない。豪州に例外なき関税撤廃を認めることは、WTO交渉で米、乳製品等々センシィティブ品目の特別取扱いを主張してきたことと明らかに矛盾する。豪州農産物への関税撤廃は、直ちにアメリカ、カナダ等から同様の措置を求められることになり、日本農業の全面的崩壊につながりかねないことになろう。
 国会もこの交渉の重大性・危険性を危惧して、衆参両議院の農林水産委員会が、“米、小麦、牛肉、乳製品、砂糖などの農林水産物の重要品目が、除外または再協議の対象となるよう政府一体となって全力を挙げて交渉すること”“現在進行中のWTO交渉や、米国、カナダ等との間の農林水産物貿易に与える影響について十分留意すること”を求めている(引用の文章は衆院農水委決議)。北海道、青森などを始めとして各県議会も同様の決議を行い、重要品目除外、更には交渉入り反対の意志を表明している。
 政府も一応こうした決議にそって交渉に当たることを表明している。が、むろん安心はできない。“万一、わが国の重要品目の柔軟性について十分な配慮が得られないときは、…中断”(衆院農水委決議)するかどうか、注視しておく必要があろう。

◆新需給調整の成否と担い手づくり

 経営安定対策の加入申請者の秋まき麦作付計画面積が06年麦作付面積の9割になったと、申請締切直後の速報が伝えた。農政当局の当初の予測が7割ということだったことからいえば、JA等が進めた推進事業の一応の成果といっていいであろう。
 が、この成果は、これから始まる経営安定対策の展開がどうなるかを予測させる材料にはならないだろう。問題は、個別経営としては認定対象にはなれない農家の多数を組織して施策対象にしようという集落営農組織が、どれくらい適格組織経営体になれるかである。その手法としてJA全中が開催した「地域水田農業ビジョン全国大会」では“JAの出資法人を核とした担い手作り”が注目されたという。JA出資法人に“集落単位で…出資して農地の利用権設定を行い、法人の委託で麦、大豆を生産。法人に参加する集落や農家には、3年後の自立を目指す計画書の提出を求め”る方式である。“集落営農集団や農家が、現状では品目横断的な経営安定対策の要件を満たしていなくても、生産法人に参加すれば対策の交付金を受け取ることは可能だ。経営のノウハウを身につけた時に、「のれん分け」で独立する”(農業共済新聞06・12・20号)のだという。首尾よく「のれん分け」になるかどうか。問題の先送りの感もあるし、些か脱法気味とも思われるのであるが、こういう手法が注目されること自体、適格認定経営体づくりの困難性を示しているといえよう。
 その問題は、JA主体で実施することになる新需給調整の成否が関係して更に複雑化する。たとえば、年末に国が示した今年度の道府県別適正生産量によると、千葉県は06年生産確定量よりも1万2000トン増えているが、その千葉県の06年米作付は平年作換算7万7000トンの過剰作付だった。
 過剰作付分のペナルティとしての控除量を差引いてなお07年適正生産量は増えているのである。“売れる米づくり”をやれるなら、それはそれでいいということである。この数字を見て、生産調整達成に苦労した産地はどう考えるだろうか。JA主体の新需給調整に、JA主体だからこそ一層努力して達成に協力しなければということになるのか、自前で販路を開拓することに走るのか、産地は従来以上に割れるのではないか。後者の増は当然ながら適格認定対象の減となる。JA組織はこの難問をかかえながら、組織として選んだ候補者の参院選を闘わなければならない。大変な年になりそうである。

◆農地制度―実態から検証を

 農業生産法人としての株式会社の農業参入を認めた2000年度農地法改正法案可決の際、衆参両院は“農地の投機的取得等の懸念を払拭するため…農業生産法人の活動段階における報告・立入検査…法人の要件を欠いた場合における指導・あっせん・買収の措置を厳正に実施すること”という附帯決議を行っている(文章は衆院附帯決議)。が、改正から6年、“厳正に実施”されているのかどうか、“活動段階における報告”がどれだけ行われているかすら発表されていない。
 そして、特区に限って認めていたリース方式での一般株式会社の農業参入を全国化するための農業経営基盤強化促進法改正も05年に行われたばかりである。実施地区の指定が終わった市町村すらが3000市町村の2割にもならない状況なのに、またもや農地制度改革論議を農水省が始めたというのは、どういうことなのか。“厳正に実施”した結果問題ありと認識したというなら、“実施”状況をまず公表してもらいたいものである。また、一般株式会社参入容認地区について、かつては耕作放棄地問題などが“農業内部の対応では…解決できない”ところといっていたのに、今度は“地域の農業者だけでは…困難”なところだといい、しかも両方とも“考え方は”同じ”だといっていることなど、本当にそうなのかを実態に基づき究明した上で改革論議はやってほしい。

(2007.1.5)


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