農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくり −「農」と「共生」の世紀を実現するために−


座談会 その1

米国農業の光と影
実態は厳しいアメリカの家族農業
農業生産と農地維持に手厚い補助金

出席者
鈴木 昭雄 JA東西しらかわ代表理事組合長
鈴木 宣弘 東京大学大学院教授
佐藤加寿子 秋田県立大学アグリビジネス学科准教授


 農政改革をめざす日本では、そのあるべき姿を規模拡大した効率的な農業経営像に求めた議論が多い。それは米国の大規模な農業を念頭に置いたものだろう。もちろん多くの人が土地条件の違いから米国レベルでの同じような大規模経営は無理だと考えているだろう。しかし、規模拡大による効率的な経営という考え方自体、「米国型」を視野に入れているといえる。
 では、米国農業はいったい本当に効率的で安定的で、そして消費者からも支持されているのだろうか。福島県のJA東西しらかわの鈴木昭雄組合長は40年ほど前に米国で農業実習をして以来、現地の農家などをしばしば訪問している。今回は鈴木組合長の経験をもとに米国農業や国際交渉など研究テーマにしている東京大学の鈴木宣弘教授と、秋田県立大学の佐藤加寿子准教授に米国農業から学ぶべきこと、そして日本農業がめざすべき今後の方向などについて話し合ってもらった。


◆40年前と変わらない売り上げ ―国際競争力とは何か?

すずき・あきお
すずき・あきお
1947年福島県生まれ。日本高等国民学校専攻科卒。67年米国農業実習より帰国後、就農。96年塙町農協代表理事組合長。2001年JA東西しらかわ代表理事専務。05年5月代表理事組合長就任。

 鈴木(宣) 今日は米国農業の光と陰というテーマで議論していきたいと思います。米国農業の光の部分、陰の部分、そしてそこから得られる日本への示唆について率直なご意見をいただければと思います。
 鈴木組合長はかつて米国で農業研修をされたそうですね。まずその経験をお聞かせください。

 鈴木(昭) 40年ほど前に農業実習生として1年ほど米国でお世話になりました。私の派遣先の農家は、当時でも農地面積が約300haもあり、売り上げが年間5万ドルでした。1ドル360円時代ですから日本円で1800万円ぐらいだったということです。アイオワ州の典型的な家族農業で、トウモロコシを中心に大豆、麦の輪作形態と、肉牛を70〜80頭肥育していました。ちなみに私の父の経営は当時売り上げ年37万円でした。
 ところが数年前に訪問してみると、驚いたことに総売り上げは当時とまったく同じ5万ドルで変わっていないというんです。今のレートではせいぜい550万円程度ですね。しかも、農地面積は同じ。奥さんがパートで働いて収入を補っているという状況でした。
 一方、この40年間の私の農業経営を振り返ってみると、今は年間6000万円ぐらいの売り上げはあるわけです。畜産経営をしているという事情もありますが、経営耕地規模は当時と変わっていません。
 米国にはセンサスによると約190万の農場があるそうですが、年間売り上げ1万ドル以下が80万から90万農場ある。10万ドル以下でいえば、実に180万農場です。
 ですから、12、13万の農場だけが10万ドル以上の売り上げだということですから、売り上げだけをみると、私はもっとも競争力があるといわれてきた米国にも負けないのか、と。こういう考え方ってあるのかな、と自分でもびっくりましたね。

 鈴木(宣) 米国の農業は非常に競争力があるといわれるけれども、しかし、売り上げは40年前と変わらないままだというわけですか。佐藤先生はどんな状況だと見ていますか。

◆大規模酪農経営でも収支は赤字 ―政府の補てんで経営成立

すずき・のぶひろ
すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒後、農林水産省、九州大学教授を経て現職。日本学術会議連携会員。

 佐藤 私が見ているのは、中西部のウィスコンシン州の酪農経営と、カリフォルニア州の大規模酪農ですが、酪農の場合、搾乳頭数規模が小さいときは飼料を自家生産しその余剰分は穀物市場に出すという経営をしますし、一方、搾乳頭数規模が大きな経営になると飼料生産はせず搾乳に特化してしまうので簡単な比較はできません。
 ただ、たとえば、2002年に400頭経営の酪農で生乳販売額が160万ドルというデータがあります。1頭あたり4000ドル。日本円で40万円足らずということになりますね。しかし、この農場の純収益はこの年、赤字でした。乳価はこの年低迷しておりキロ35円でした。

 鈴木(昭) そうすると1頭あたり40万円を売り上げるには平均で1万kg搾乳することになりますね。それは相当優秀な酪農家ですよ。一日あたり平均30kgの搾乳になりますが、干乳期間を考えると1日、40〜50kg搾乳しなければならないことになりますから。
 これは地域のモデル農場ではないでしょうか。佐藤先生のデータではおそらくモデル農場でも赤字だということですね。中堅の、普通の農場はそこまではいかず、平均で6000kg程度でしょう。そのレベルであっても日本ではかなりいい酪農家だと思います。

 鈴木(宣) 少し米国の酪農経営の動向について申し上げておきますと、一部で非常に優秀でしかも3000頭、4000頭という大規模な経営が増えています。それも北東部の伝統的な家族農業地帯だったウィスコンシン州やイリノイ州、ニューヨーク州でも、カリフォルニア州のようなメガファームで1日3回、24時間搾乳というスタイルを実現しているという傾向があります。
 もともと北東部では移民労働力を使っていなかったためカリフォルニアのような真似はできなかったし、それはしたくないというのが伝統的な考え方だった。それが数年前から変わってきたということです。
 一方で、代替農業といいますか、オルタナティブ・ファーミングという言葉がありますが、小頭数で放牧を取り入れゆったりと生活を楽しむスタイルも出ています。ウエイ・オブ・ライフ、これは自分の生き方だという農業ですね。このほうがコストが下がりますから。こういう経営と大規模経営と両極端の非常にスタイルの違う経営が伸びているという印象を受けます。
 一方、米国農業の収益性については九州大学の磯田先生の報告によると、アーカンソー州のコメ農家では1エーカー(約0.4ha)あたりの粗収益は348ドルですが、生産費が642ドルと完全な赤字です。ところが政府からの支払いの合計が477ドルもありまして粗収益よりも多い。
 小麦については、粗収益の合計が12万7000ドルという非常に優秀だといわれる経営についてのデータがありますが、やはりコストが14万5000ドルでこれも赤字になっているんですね。

 鈴木(昭) つまり、ほとんどの農家の所得の4分の1は補助金だと思うんですが。

 鈴木(宣) そうですね。この大規模な小麦経営の場合でも、政府から6万ドルの支払いがあってやっと黒字になっています。
 鈴木組合長が指摘されたようにそもそも非常に多くの経営で収益が少ない。しかも大規模経営で収益があるようにみえる農家でも実はコストがかさんでいて赤字。政府の補助金でなんとか成り立っているということです。これは米国の農業は強いというのか、弱いというのか深刻な問題を投げかけているような気がします。

◆経済成長と農産物の競争力は相反する ―輸出力は本当にあるのか?

さとう・かずこ
さとう・かずこ
1967年福岡県生まれ。九州大学農学部卒後、九州大学助手を経て、2006年11月より現職。

 鈴木(昭) 一般には米国農業というのは世界で最大の強みを持った農業だと思いがちですが、実態を思い返してみると日本の農業とほとんど変わりがないと。日本の農家がだいたい280万人ぐらいですか、そのなかで5ha以上の規模は10〜15%程度ですね。この人たちの所得が500万円から600万円で、あとはほとんどが100万円以下の副業的農家ですが、実は日本農業の大部分であることを考えると、米国の農家構成と似ているなと思いますね。
 こういうことから私は、いったい国際競争力とは何なんだ、と思うわけです。
 要は所得が低ければ低いほど国際競争力は強い、当然ですが。だから経済成長と農業、食料生産の国際競争力というのはまったく相反するものではないか。経済成長が進めば進むほど実は農業の国際競争力は弱まる、と。
 これは現在の中国にもいえるし、40年前の日本の農業にもいえることです。
 先日、中国に行きましたが、生産基盤も生産技術も実は日本のほうがはるかに上です。それなのに10分の1のコストで日本に入ってくる。これはいったい何かといえば賃金の格差以外に何もないですね。

 佐藤 中国からの輸入野菜などは日本の商社もからんで大規模開発をしていますが、それなりの技術をこちらから持っていって、中国の安い労働力と組み合わせるという方法ですね。米国もそうですが。

 鈴木(昭) まさに農業者の農業ではなくて、企業農業ですね。その企業農業だけがクローズアップされていますが、グローバル化というのはこういう企業農業のためのグローバル基準のことをいっているだけではないかと思います。

◆移民労働に依存する経営増加 ―大規模化で崩れる伝統的農業

 佐藤 最近、米国では不法移民の取り締まりを強化しているようです。それで非常に打撃を受けているのがアグリビジネスで、なかでも狙いうちされたのが世界第2位の大手ミートパッカーのスイフト社です。1300人ほどが昨年末に逮捕されたようで工場の営業を縮小するなどの影響も出そうだということです。
 しかし、米国では一方で2007年の農業法改正とあいまって、農業分野で移民労働を使い易くする法改正も提案されているというニュースもありました。

 鈴木(宣) 米国でも米国人の労賃は高いかもしれないが、移民労働力を使うことによってコストを安く抑えるということが背景にあるわけですね。
 そして日本に比べれば米国の農産物はかなり安く、だから輸出できるわけですが、しかし、その価格ではコスト割れしていて米国農家の経営は成り立っていない。その分を後で補てんせざるを得ないということです。実質的な輸出補助金だというのはまさにこの構造のことです。

 鈴木(昭) 私が米国で農業実習していたころからすでに米国の農業は不法移民の労働力を武器として成り立っていたようです。
 当時も移民局の飛行機が農場に近づいて来るとみんな逃げると聞きました。作業を止めて畑から逃げる。そうすると地上にいたパトカーが追いかけてつかまえる。逃げなきゃわからないのにと私の友人は言ってましたが、結局、そこまで知識もないということのようでした。そんなことがしょっちゅう行われていたという歴史ですからね。

 佐藤 6年ほど前ですが、似た話をワシントン州で聞いたことがあります。州立大学が農場へ調査に行くのに公用車を使うと労働者が逃げるので、自家用車で行け、と。

 鈴木(宣) そういう現場のリアルな話を聞くと、米国における家族農業経営とは何なのか、と思いますね。

 鈴木(昭) 私の経験では、いわゆるわれわれがイメージする家族経営はドイツ系の移民家族に多かったような印象を持っています。ドイツ系の、ゲルマン系の人たちが成功している率が高いかなと。この人たちは移民労働力を使っておらず非常に勤勉です。朝の4時から夜の11時まで働いていました。何しろ300haも500haも耕して播種して除草して収穫するわけですからね。これは半端な働き方ではできないです。もちろんシーズンによって違いますが。

 佐藤 米国の研究者の研究では、カトリック系とプロテスタント系では農場の相続の仕方、経営の移譲の仕方が違うということも報告されているようです。
 プロテスタント系の家族ではビジネスライクに親子間の売買で経営を譲っていくのに対して、カトリック系ではどちからといえば日本的な、少しづつ子どもたちに経営を移譲していくという形態をとっているため、家族経営が存続しやすく強靱性につながっているんじゃないかということです。
 それから中西部のウィスコンシン州では酪農を家族経営できる頭数は150頭ぐらいが限界だと思います。親子や兄弟でですね。
 それより大規模の300頭以上になってくると雇用労働を使っていますが、それが1000頭規模になると今度は親族経営になるようですね。ひとつの農場ではなく300頭程度の農場を地域にかたまって持っていて、この農場は育成用、ここは搾乳牛というように。カリフォルニアの大規模農場とは構造が違っているようです。

 鈴木(宣) お2人から紹介してもらった例は米国の家族経営の例だとは思いますが、300haだとか150頭だとか、日本でいう小さな経営というイメージとは違いますよね。もっと普通の農家もあると思いますが。

「成功?とんでもない。おまえは何度もこの国に来てるが、
オレは日本への旅費なんてない(米国農家の声)」

◆小規模農家は農外収入に依存

 鈴木(昭) 300ha経営というのは農業実習生を受け入れるぐらいですからモデル経営ですし、酪農でも150頭経営を家族で実現しているのはやはりモデルでしょう。ですから、酪農でいえば大部分が30頭、40頭ではなかったかと思いますね。

 佐藤 それは今でもそうです。ただし、その規模だと奥さんは必ず農外収入を得るために働いていますね。

 鈴木(昭)しかし、40年前には奥さんが外で働かなくてもやっていけたんです。

 佐藤 確かに今では、たとえばミネソタ州の首都ミネアポリスから2時間ほどの農業地帯では廃墟となった農場が累々と続いています。コンクリートのタワーサイロがある、でも人はいない。

 鈴木(昭) 100エーカー前後の農場がどんどん売りに出されているでしょう。米国の農業はどうも実態を知れば知るほど苦しんでいるのではないかということです。
 じゃあ、どうして農業をやるのかと思うわけですが、私が実習していた農場主はアイオワ州立大学を首席で卒業していました。首席で卒業した人がなんで農業をやるの、と聞いたら、米国では首席で卒業したものが農業をやるんであって、大学に残って研究者になるようなのは5番以下の人間だという。だから、農業生産することは非常に大事でそれが使命なんだということを強調していました。それは当時は、米国の農業はよかった時だったということではないかと思います。

 鈴木(宣) 廃墟になった農場は私もよく見かけますが、農業大国というイメージは実際に中に入ってみると感じられないですね。

 鈴木(昭) 実習時代に米国で知り合った農家を数年前訪ねていくと、牛を170〜180頭飼っているので、おまえはいいなぁ、こんな大規模に経営ができて、成功したじゃないかと言ったんですが、とんでもない、おまえのほうが上だよ、といわれました。その証拠におまえは2回も3回も米国に来ているじゃないか、おれは日本に行こうと思ったってそんな旅費はないよ、というわけです。彼も優秀な人でやはりアイオワ州立大を卒業してますが、そういうことを切々と語っていましたね。
(「座談会 その2」へ続く)

(2007.1.16)


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