農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくりと女性達の役割



◆消費者の気持は女の方が理解

 ――ところで、女性の自立ということも、JA女性部の大きなテーマですが、家族のなかで生産者としての自分の立場をどのように確保していますか。

 山下 私が味噌づくりを始めたきっかけは、もちろん、次世代に伝統を伝えたいという思いもありましたが、経済的に自立したかったからです。
 私たちの世代の農家の嫁は、収入に関しては非常に中途半端な立場にいます。ただ農業を一緒にやっているということでは、自分の小遣いも稼げない。では外で働いた方がよいのか、しかし今の農業をやる生活も大切にしたい。そこで思いついたのが、嫁ぎ先で味噌を作っていたことを活かしての、味噌づくりと販売でした。
 小林 わが家の場合は夫も農業をしているので、米麦では私はあくまで手伝いという立場です。手伝いですから暇な時間は作れますが、パートにでるほど時間があるわけではない。そこで、好きな花を思いっきり作りたいという昔からの夢を実現させようと思い、ハウスを建て花づくりを始めました。
 始めると家族だけでは手が回らなくなり、今はパートの人に手伝ってもらい経営しています。主婦の方が多いので勤務時間に幅を持たせたり、休暇を取りやすいように融通をきかせるなど働く環境を工夫しています。人件費を削り収益を上げるために家族労働だけでやろうという人もいますが、収入とのかねあいを考慮しつつも、自分たちが重労働につぶれてしまわないようにしたいと考えています。
 遠藤 わが家は家族協定は結んでいませんが、同じフレミズの仲間には土日のどちらかを休みにしたり、給料制にしたりするなど協定を結んでいる人もいます。働く時には、曖昧な部分があるともめる場合もあるので、しっかりと協定なり約束を交わした方が働きやすいと思います。
 山下 農家の嫁は今までは縁の下の力持ちの役割に甘んじていましたが、それではなかなか自立できません。もっと自分を主張して、自分の居場所を積極的に作るべきです。
 小林 女の人が生き生きと働いているところは伸びている。買い物をするのは多くが女だから、消費者の心を掴むのは男よりは女が向いていると思います。女だったら、自分が買うときの気持ちになってものが作れるし、売れるものが分かります。
 山下 状況が悪くなればなるほど、女は力を発揮することができる。決してへこたれない、打たれ強いのが女の強みではないでしょうか。
 小林 男は消費の傾向が良く分かっていないのでは。経営は女に任せれば上手くいくと思います。仕事も忙しいことを理由にせず、いつも改革する意識を持っていてほしいと思います。
 遠藤 先日JA内で、担い手と集落営農の件で話し合ったとき、なかなか話がまとまらないと聞きました。頑張っている人にすべてが集中し、大きな負担がかかるのではないかと、理解しているひとが多いからだと思います。もっと柔軟に女性の力も活用できるような地域ビジョンを描いていければと考えています。

◆経験や知識を次世代に伝え、女性部の活性化を

 ――いよいよ、農業経営にも女性の力が発揮されるときだと感じます。JA女性部の中でもフレッシュミズ活動の活性化に期待が寄せられていますね

 小林 花づくりの場合は、経営的にも上手くいっている農家が多く、周りはみんな後継者に恵まれ、若夫婦が後を継いでいます。しかし、女性部の活動にはお嫁さん世代ではなく親世代が出てくるようです。お嫁さんは働き盛りで時間がないのかもしれませんが、もっとお嫁さんを参加させフレミズの活動を応援してくれたらありがたいと思います。
 しかし、花きや園芸に比べ米麦はほとんど後継者がいません。後継者がいなければ活動どころではありませんが、後継者のいるところだけでもなんとかフレミズの活動を活性化させたいと願っています。今のままでは、広がりを持った活動や外に向かってのJAの情報発信など絵に描いた餅です。活動できる人がいるのに、もったいない話だと思います。
 山下 私もフレミズを含めた女性部の現状に、危機感を持っています。まだ農家特有の嫁と姑の問題があるのかなと疑って見たりしますが…。ミドル・エルダー層の先輩方の中には、フレッシュ層を応援してくれる方もあり、大変心強く感謝しています。
 ただ、育った時代や環境が違うので考え方のズレは当然出てきます。そこを認め合い理解し合わなければ、女性部の未来は明るくならないし、開けないと思います。
 遠藤 フレミズの会合では、「家庭がしっかりしているからここに来ることができる」との話がでます。だからこそ、視野を広げ学ぶことができる女性部活動は、私たちを人として農業人として成長させてくれる大切な機会であると考えています。
 山下 女性部は広い年齢層で構成されています。フレミズとしての活動など個別の活動はありますが、世代ごとに担う役割は違います。その役割をそれぞれが果たせば、全体として上手く機能し、女性部の活性化につながると思います。
 遠藤 フレミズが『料理教室』を開いた時、詳しく聞きたいことや分からないこと、家では姑にあらためては聞き難いことでも、その世代の他人であるミドル・エルダー層の方になら抵抗なく聞ける。
 女性部は、そのように世代をつなぐ役割も担っていると思います。

◆子育て世代の支援で、フレミズ活動への参加を

 遠藤 フレミズの活動がなかなか盛り上がらないのは、若いお母さんたちは忙しいため、優先順位で選ぶとかなり下の方になってしまうからだと思います。農家であるから顔もださなければならない、しかし子育てに時間を取られ活動する時間がない、というのが本音ではないでしょうか。フレミズの活動が子育てをしている母親の支援となるような活動であれば、子育て世代のお母さんももっと多く参加すると思います。
 小林 その通りだと思います。フレミズとして一生懸命動き廻れる元気な時期と、子育ての時期がどうしても重なってしまう。子どもが小学生ぐらいまでの小さいときは、親の存在が大きく、子どもの話を聞き、子どもに語りかけることが大事だと思います。そして、一緒にご飯を食べることの大切さを、よく考えてほしいですね。家庭の味が記憶に残るのもそのころですから。
 人生それぞれのステージで女性部としての活動に濃淡ができることはあるかも知れません。ですから、私のように子どもが手を離れた少し上の世代が、子育て世代のフレミズを支える。それを世代を継いでおこなうことが大切だと思います。女性部全体で、経験を生かし「食」や「農」について、JAらしい多様性を持った活動を行い、子育て世代のお母さんを積極的に支援してほしいと思います。

◆まず活動に参加し理解を深めてもらう

 ――若いお母さん世代のフレミズへの加入促進については、どうしたら良いでしょうか。

 小林 組織に加入させるという意識ではなく、組織の活動に参加させることが大切だと思います。地域の中でおこなっているJA主催の『料理教室』などに多くの人を参加させ、JAの活動を地域の人に理解してもらうことが求められているのではないでしょうか。
 山下 フレミズは女性部のなかの別組織ではなく、運動体だと考えています。フレミズ世代特有の問題や課題はあるとしても、女性部全体で対応できるようなことが必要かと思います。そうは言っても、フレミズは若いお母さんの集まりなので、子育てなどに関したテーマを決めて1人でも多くの人に興味を持ってもらうことが大切です。
 遠藤 企画する人自身が参加してみたいと思えるような活動を、フレミズの活動としておこなう、そのような取組みが大切だと思います。もし、自分が環境問題に興味を持ったとして、何か有意義な取組みをしようとしたとき、自分1人ではなくJAという全国的な広がりのある組織につながっているのは心強いし、大きな力を発揮できると思います。

◆男女共同参画では女の甘えは禁物

 ――JAが地域の中で輝くために、女性にはどのようなことが期待されていますか。

 山下 女性のJA運営への参画は、数字としては着実に進んでいます。これからは、数字ばかりでなく、実質としての参画が一層求められることになると思います。たとえば女性枠で理事になったとして、はたして自分の力でどれだけの仕事ができるのか。男社会と言われるJAのなかで、飾りではなく、真に実力の伴った女性理事が必要とされています。そうでないと、やっぱり女はダメだという、ある意味期待通りの評価につながってしまうと考えています。
 本当に共同参画をめざすなら女性だからという甘えは捨てるべきです。女性には厳しいようですが、今まで培われてきた意識を私たちが変えなければ、JAも変わらないと思います。
 遠藤 農業の現場では多くの女性が働いています。実態に合わせるなら、もっと多くの女性理事、女性経営者がいて当然だと思いますが、現実はそうはなっていません。残念なことです。男女共同参画というのは、女だからという甘えが許されない女に厳しいものだと私は理解しています。「女だから言わせて」というような形で私の意見を言うのではなく、私が言ったことがたまたま女の意見であったというような受け止め方をしてほしいと思います。

 ――最後に、これからの目標をお話いただけますか。

 山下 仕事だけでなく、いろいろなことに挑戦していきたいと思います。たとえ失敗してもまだやり直しのきく年齢だと思っています。多くの人の話を聞いて、自分がこれからなにをすれば良いのか参考にしたいと思って、今日はお2人の話を聞き、大変有意義でした。女性部の活動もあと10年ぐらいめげずに続けていく決意です。これからも自分の知識や経験を積み重ね、次の世代に伝えることができればと思っています。
 中学1年生の娘には「農業をしているときのお母さんと、外に出かけるときのお母さんの、別人かと思わせるほどのギャップが大好きだ」と、言われています。その娘が20歳になったときに、「農業をしているときの姿も含めて、生き生きしているお母さんが大好き」と言わせることが当面の目標です。
 小林 今の自分に点数を付けるとすると合格点だと思います。家事、子どもとの関係、農業などをしっかりおこない、人から文句を言われない自分をめざしています。しかし、頑張ってばかりではなく、温泉に行ってリラックスするなど自分への褒美も常に用意して時々息抜きをして、明日への活力を蓄えています。仕事では、男にできることは自分にもできると思って頑張っていますが、これからも健康で仕事ができればよいと思っています。
 遠藤 今の生活、自分を取り巻く環境に満足しています。周りの人からも時々声を掛けられ、励まされてます。間違いのない道を歩んできたのだと思っています。泥まみれ、糞まみれになることもありますが、農業は決して辛いだけではありません。楽しめる時間もつくれます。今の自分に何ができるか、常に自分に問いかけながら、家族と共に農業を続けていけたらと思っています。

 ――これからのご活躍を期待しています。ありがとうございました。

(2007.1.26)


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